Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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星に願いを

 ピンポーン。チャイムが鳴る。奈々だろう。時計を見ると、3時30分。さすが奈々、時間ぴったりだ。

 

「じゃあ、お母さん、行って来るね」あたしは上着を羽織り、そう告げた。

 

「うん。これ、持って行きなさい」

 

 と、お母さんが渡してくれたのは、たっぷりの使い捨てカイロと魔法瓶だ。中身はコーヒーらしい。

 

「うわあ。助かる。ありがとう、お母さん。ゴメンね、こんな早くに付き合わせちゃって」

 

「いいのよ。それより、本当に気をつけなさいよ?」

 

「判ってる。じゃね」

 

 玄関を開けると、分厚いジャケットにフカフカのマフラー、ニット帽、イヤーマフラーという完全防寒装備の奈々。さらに、肩には大きなバッグ。

 

「おはよ、奈々。うわ。やっぱ寒いねぇ」冷たい外気に思わずぶるっと震える。今日は11月18日、しかも、3時というのは午前である。寒いのは当然。

 

「ちゃんと温かくした? 風邪ひいちゃうよ?」奈々が言う。

 

「大丈夫。めちゃくちゃ着こんできたから。あ、カイロあげるよ」早速お母さんから貰った使い捨てカイロを1個あげる。「じゃあ、行こうか」

 

 玄関を閉め、あたしたちは小走りで駆けだした。外は真っ暗だ。まだ新聞配達の人かパン屋さんくらいしか起きてないだろう。

 

 なんでこんな早くに出かけるのかと言うと、原因は、昨日の中学校の教室での、明奈の突然の提案。

 

「明日の朝、みんなで獅子座流星群身に行こうよ。今年は33年ぶりの極大期らしいから、すごいみたいだよ?」

 

 長い付き合いだけど、明奈が天体観測に興味があるなんて話は聞いたことが無い。多分、テレビで見てミーハー的に行きたいと言ってるだけだろう。ま、いつものことだ。言い出したら聞かないし、いつもの「○○に幽霊が出るみたいだから、行ってみようよ」とかよりははるかにまともな提案なので、あたしたちは付き合うことにした。

 

「でもさ、あの娘、起きられるのかな?」

 

 心配げに奈々が言う。確かに、それが最大の難関だ。普段明奈は、朝、いつも始業ぎりぎりに教室に駆け込んでくる。「低血圧だから朝は弱いのよ」が口癖。言い出しっぺの本人が来ないんじゃ、話にならない。

 

 という心配をよそに、集合場所の中学校の校門前に行くと、すでに明奈は来ていた。

 

「おはよ、結衣、奈々。遅いよ。ずっと待ってたんだからね」寒くてたまらない、というふうに両腕をさすりながら言った。

 

「別に遅くないでしょ? 早めに来たくらいだもん」腕時計を見ると、3時50分だ。集合時刻より10分も早い。「明奈、何時に来たの?」

 

「うーんと、もう1時間くらい待ってるかな?」

 

「早すぎるでしょ、それ。でも、いつも時間にルーズなあんたにしては感心だわ。よく起きられたね」

 

「ううん。起きたんじゃないの。寝てないのよ」

 

「はぁ?」

 

「だって、寝たら絶対起きられないもん。夜更かしは得意中の得意だから、この方が確実でしょ?」

 

「いや、確かにそうだけど、今日もこの後学校だよ? 寝なくて大丈夫?」

 

「平気平気。授業中寝るから」

 

 ……そんなことだろうと思った。まあ、明奈は徹夜しようがしまいが、ほとんど授業中は寝てるから、あまり問題はないだろう。

 

「ところで1人? 美沙子と亜弥は?」奈々が訊く。

 

「2人とも来ないみたいだよ。美沙子は『睡眠を削ってまで見たいとは思わない』、亜弥は、『受験に獅子座流星群は出ないと思うし、もし出ても本で読んでるから、直接見なくても大体判る』だってさ」

 

 ナルホドね。いかにもあの2人らしい理由だ。ま、しょうがない。平日のこんな時間に付き合えという方が無茶だ。今日は3人で行こう。

 

 流星群の観測には街灯などの明かりが無い場所が最適らしい。この辺りで真っ先に思いつくのが街はずれの河原だけど、今年の獅子座流星群は33年ぶりの極大期ということで、たくさんの天文マニアが場所取りをしているそうだ。そこで思いついた穴場がここ、あたしたちの通う中学校。かなり広い上に、夜は校内のほとんどの明かりが消されるので、真っ暗だ。当然こんな時間だから全ての門は閉められ、入ることはできないけれど、そこはあたしたち、何度も夜中に旧校舎に忍び込んだりしてる問題児グループ。秘密の抜け道を通り、簡単に校庭への侵入に成功した。

 

「うわあ。結構綺麗だね」

 

 校庭で空を見上げ、奈々が感嘆の息を漏らした。空にはきらきらと星が輝いている。まさしく満天の星空。手を伸ばせが届く……と言うのは大げさだけどでも、それくらい綺麗だ。今までまじまじと星空を見上げたことなんて無かったから、この堀北でもこんなに綺麗に見えるとは知らなかった。

 

「で、どの方向で見れるの?」あたしは明奈に訊く。

 

「え? さあ。知らないよ」あたしに訊かないでよ、という顔の明奈。

 

「知らないよ、じゃなくてさ。あんたが言い出したんでしょうが。それくらい調べて来なさいよ」呆れるあたし。

 

「まあ、そんなことだろうと思って、あたしが調べてきたから、安心して」奈々が笑った。「この時間獅子座は南東の方角に見えるんだけど、別にその方角に限らず、流星は空全体で見られるんだって。だから、特に方角にはこだわらず、とにかく広く観測した方がいいみたいよ。肉眼でも十分に見えるから、天体望遠鏡とかもいらないんだってさ」

 

「さすが奈々さん。じゃあ、さっそく観測開始!」明奈が言った。

 

「あ、ちょっと待って」奈々、肩のバッグを下ろし、中をごそごそ。取り出したのは、大きなレジャーシートと毛布が2枚。「ずっと見上げてると首が痛くなるから、寝転がるといいんだって」

 

 うわお。なんて気が利く娘だ。本来なら言い出しっぺの明奈がすべきことなのに。感心感心。

 

 あたしたちはレジャーシートを広げると、その上に、3人で2枚の毛布にぐるぐるに包まり、お母さんから貰ったカイロも全部使って、ごろんと寝転がった。うーん。さすがにここまでやると、そんなに寒くないぞ。奈々とお母さんに感謝だね。

 

 で、観測開始。

 

 キラン。

 

 お? 早速来た。ちょうど真上、右から左へ一瞬横切る光。

 

「見た? 今の?」興奮気味の口調で言う。

 

「うん。見た見た。うわ。あたし、流れ星見るのって、実は初めてかも」奈々も嬉しそう。

 

「え? 見えなかったよ。どこどこ」と、明奈。今さら探しても遅い。

 

 その数分後、キラン。またもや横切る光。

 

「やった、今度はあたしも見えたよ」明奈が言う。

 

「ええ、あたし、見逃しちゃった。どこ?」今度は奈々が見逃したようだ。

 

 なんだかワクワクするな。その後も空を見つめる。

 

「うお? 今の見た? ものすごくおっきいのが飛んで行ったよ。あれ、絶対UFOだよね」明奈が旧校舎の方角を指して言う。あたしと奈々、その方向を見るけど、もう何も無い。

 

「またまた、UFOだなんて、そんなわけないでしょ」あたしは笑った。明奈のことだ。大げさに言ってるに違いない。

 

「ホントだって。絶対普通の流れ星じゃなかったもん。下から上に行ったんだよ? しかも、消えるときにピカって光ったんだよ?」

 

「よく知らないけど、別に上から下に流れるとは限らないんじゃない? 宇宙だもん」

 

「そんなことないって。あれは絶対UFO!」

 

 そう言うと明奈、また見つけてやるぞ、という顔で、じっと旧校舎上の空を見る。ま、そっとしておいてあげよう。

 

 何気なく奈々を見ると。

 

 キラン。流星が流れた瞬間、何か早口で呟いた。

 

「奈々、まさか、願い事を3回言おうとしてる?」

 

「へ!? い……いけなかった?」うろたえる姿がかわいい。

 

「ううん。別にいけないことはないけど、奈々、ロマンティストだね」にんまりと笑う。「で、何をお願いしたの?」

 

「ん? 大したことじゃないよ。みんなが幸せに暮らせますようにって」

 

 うわお。涙が出そうだ。あたし、そういう純粋な気持ち、いつの間にかどこかに忘れてきたな。しみじみ。

 

「何? 奈々、北斗七星のそばに輝く小さな星が見えたって?」純粋さの欠片も無い明奈。

 

「何で奈々が死ぬ運命なのよ。違うわよ。流れ星の言い伝えよ」

 

「ああ。あれね。流れ星は、人が死ぬ知らせ、ってやつ」

 

 ダメだコイツ。マンガの読みすぎだ。放っておこう。

 

 その後も、数分おきに流れる星。ときには消える間際、爆発するみたいに強く光る星もあって、あたしたちはそのたびに歓声を上げていた。

 

 でも、1時間もすると。

 

「……案外大したことないね」あたしが注いだコーヒーを飲みながら、明奈が言った。

 

 またこの娘はテンションを下げることを言う……とは思わなかった。実は、あたしも同感だったのだ。流れ星は数分おきに1個、というペースなのだ。最初はそれでもすごいと思ったけど、さすがに見慣れてきたし、テンポの悪さに退屈してしまう。流星群と言うくらいだから、もっとこう、空一面の流れ星を期待してたのに。

 

「みんなのテンションを下げたらいけないから言わなかったんだけどね」奈々が申し訳なさそうに言う。「夜のニュースで言ってたの。今回の流星群のピークは、日本時間で昨日のお昼から夕方くらいだったんだって。予想より、半日近く早かったらしいよ」

 

「えー。そうなんだ。残念」がっかりする明奈とあたし。

 

「ゴメン。もっと早く言えば良かったね」

 

「ううん。そんなことないよ。結構楽しかったし」あたしは慌ててフォロー。別に奈々が悪いわけではない。

 

「そうだね。UFOも見れたし」と、明奈。

 

 UFOではないと思うけど、まあいいだろう。

 

「どうする? 1度帰ろうか?」明奈が言う。予定ではこのまま朝を迎えて登校するつもりだった。

 

 時計を見ると、5時ちょっとすぎ。今から帰れば、2時間くらいは眠れるな。

 

「じゃあ、そうしようか」

 

「そうだね」

 

 みんな賛成したので、あたしたちは一旦解散することにした。秘密の抜け道を通り、学校の外に出る。

 

 と。

 

 けたたましいサイレンを鳴らし、目の前を、パトカーが猛スピードで駆け抜けた。

 

「何だろう? 何かあったのかな?」不安げに言う奈々。

 

「暴走族でも出たんじゃない?」明奈が答える。

 

「怖いなぁ。明奈、1人で大丈夫? 送って行こうか?」あたしは言った。

 

「んー。いいよ。もう朝だし、あたしの家の周りじゃ、散歩してるおじいちゃんやおばあちゃんが多いから、そんなに人通りも少なくないでしょ。走って帰るから、大丈夫」

 

「そう? じゃあ、気をつけてね」

 

「うん。ありがと。じゃね」

 

 あたしたちは明奈と別れた。

 

 その帰り道。

 

「……ホント、何かあったのかな?」あたしも不安げに言う。

 

 少し歩いただけで、パトカーと救急車にすれ違う。もう5台目だ。みんな、狂ったようにサイレンを鳴らし、同じ方向へ向かって走っていく。イヤな予感がしたので、あたしたちは急ぎ足で帰宅した。幸い何事も無く家に帰りつき、念のため明奈の家に電話してみたけど、明奈も別に何事もなかった。

 

 その後、ひと眠りしたあたしは、朝ごはんを食べながら何気なく見ていた朝のニュースで、何が起こったのか知った。

 

 堀北の街はずれの河原で、早朝4時30分ごろ、通り魔が出たそうなのだ。

 

 通り魔は、サバイバルナイフのようなもので、流星群を観測していた人たちに次々と斬りかかり、逃走したという。もし、あたしたちが流星群の観測場所に河原を選んでいたらと思うと、背筋が凍りつく思いだった。

 

 この事件は、死者14人、負傷者20人の大惨事となった。

 

 あたしは、ふと、明奈の言ったことを思い出した。

 

 

 

 ――流れ星は、人が死ぬ知らせ。

 

 

 

 奈々は、この日見えた流星の数を数えていた。15個だったらしい。1個多い。

 

 明奈が言ったことは単なる迷信だ。気にする方がどうかしているけれど。

 

 この1個の誤差には、何か意味があるのだろうか?

 

 奈々が数え間違えたのか、あるいは、警察が把握していない死体がもう1つあるのか、それは判らない。

 

 なお、犯人は捕まっていない。

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

 

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