Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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言霊

 堀北西高での生活は、超運動音痴の奈々が、廊下でバスケ部のエース・水嶋先輩とぶつかって一目惚れし、バスケ部に入部するという、波乱の展開で幕を開けた。堀北西の女子バスケ部は、インターハイの出場経験のある男子バスケ部ほど有名ではないけれど、それでも地方予選で毎年ベスト4を争っており、全国大会出場も十分に狙える強豪だそうだ。

 

 そんな強豪部に無謀にも入部した奈々。練習に付いていけず、すぐに根を上げると思っていたんだけど、意外にも根性を発揮し、6月初旬の今でも頑張っている。ちなみに、恵梨香は水嶋先輩狙いで男子バスケ部のマネージャーを志望したけど、3日ほどで辞めてしまった。なんでも、恵梨香のようなミーハー的にマネージャーになりたがる女子が多いそうで、そういう人は早々に弾かれてしまうらしい。あたしはというと、結局やりたい部活は見つけられず、恵梨香と2人で帰宅部である。

 

 奈々は、毎朝4時に起き、5時半には公園で自主的に練習をしている。周りのみんなは中学時代にそこそこ名の知られた選手ばかりで、奈々のようなまったくのバスケ初心者(しかも運痴)は皆無だった。みんなに付いていくためには人並み以上の練習が必要であることを心得ているようで、毎日朝の部活前にも練習を欠かせない。

 

「……に、しても、こんなに朝早くなんて。ホント、ご苦労様だね」あたしは年頃の乙女にあるまじき大きなあくびをする。

 

「だね。たまには付き合ってあげようと思ったけど、あたしはもう勘弁かな」恵梨香も大あくび。

 

 駅近くにあるこの堀北中央公園は、市内で最も大きな公園で、バスケのゴールが設置されてある数少ない場所だ。今、奈々はシュートの練習をしている。レイアップシュートという、ゴールに向かって走り、ゴール下でジャンプして、リングにボールを置くような形のシュートだ。バスケのシュートの中では最も成功率が高い(要するに、もっとも簡単な)シュートらしい。しかし、奈々はさっきから何十本と打ってるけど、1本たりとも入らない。

 

「うーん、難しいなぁ」またまたシュートを外し、ボールを持ってスタート位置に戻る奈々。

 

「そんなに難しいのかな? ときどきテレビで見かけるけど、外してる所なんか見たこと無いよ?」恵梨香、奈々の胸をえぐることを言う。

 

「そ……そりゃそうでしょ。テレビで見るバスケの人って、プロか、プロ級の人たちでしょ? 奈々とはレベルが違いすぎるよ。そんな人たちと比較しちゃ、可哀想だよ」あたしは慌ててフォローを入れる。

 

「そうかなぁ? ちょっとボール貸してみて」奈々からボールを受け取る恵梨香。あまりサマになってないドリブルでゴールに向かい、そして、ジャンプと同時にシュートを放つ。

 

 ぱさり。

 

 ボールは、見事にリングをくぐり抜けた。

 

「あら、入っちゃった。やっぱ簡単じゃん」

 

 恵梨香の言葉に、さらに落ち込む奈々。

 

「ま……まあ、恵梨香は特別だよ。ほら、あたしたちより全然運動神経いいし」

 

 フォローを入れるも、あまり説得力はない。確かに恵梨香はあたしたちより運動神経はいいけれど、それでもせいぜい人並だ。特に優れているというほどでもないと思う。

 

「ま、そうだね。あたしって、やっぱ天才だからね」調子に乗る恵梨香。もう2度と、コイツを朝連には誘うまい。

 

「うーん。あたし、毎日本読んで勉強してるんだけどなぁ」恵梨香からボールを受け取る奈々。

 

「そうなんだ。じゃあ、その本どおりにやれば、きっとできるよ。頑張って」励ますあたし。

 

「うん。頑張る」笑顔で答え、再びゴールを見つめる奈々。「レイアップシュート。別名、庶民のシュート。コツは、膝で柔らかく飛んで、ボールを置いてくる感じ」

 

 ……この娘、いったい何の本を読んで勉強してるんだろう? 大丈夫かな? もしかしたら奈々は、サッカーは地平線の彼方にあるゴールを目指すもので、高校野球は不良グループがやるもので、テニスは無我の境地の奥に3つの扉がある、とか思ってないだろうか?

 

 まあいいや。レイアップシュートの別名はともかく、膝で柔らかく飛んで、ボールを置いてくる感じ、というのは、多分間違っていないだろう。後は、その通りやれるかどうかだ。

 

 ゴールに向かってドリブル。ジャンプし、シュートを放つ奈々。ここまでは、さっきの恵梨香よりはサマになっている。いちおう2ヶ月はバスケ部で猛練習しただけのことはある。でも。

 

 がこん。

 

 ボールは、無情にもリングに嫌われ、弾かれた。

 

「あーん、もうイヤ」泣きそうになる奈々。

 

「大丈夫だよ! 奈々なら、きっとできるから! 頑張って!」さらに励ます。そう言えば、小学校のときもこんなことがあったな。たしか、鉄棒の逆上がりだ。クラスで奈々だけができなくて、放課後、2人で練習したんだよね。あのときは、あたしは逆上がりができたからアドバイスしてあげられたんだけど、今回は、あたしにアドバイスはムリだ。励ますくらいしできかない。うーん。誰か、バスケのうまい人がいればいいんだけど。

 

 なんて思ったときだった。

 

「ドリブルとシュートのフォームは悪くないよ。それでも入らないのなら、後は気持ちの問題かな」

 

 透き通るような声。振り返ると、すらっと長身のイケメン。瞬間、奈々は顔を真っ赤にして固まる。

 

「あ……水嶋先輩! お早うございます!」さっきまで大あくびを繰り返していた恵梨香、急にスイッチが入る。「先輩も、朝連ですか?」

 

「うん。まあ、たまにだけどね、よくここで練習するんだ」さわやかに笑う。うーん。これは、奈々や恵梨香でなくても、胸をキュンとさせられるな。

 

「君、日高だったよね?」と、水嶋先輩は奈々を見た。うわお。奈々、名前を覚えてもらってるよ。まあ、バスケ部は男女で合同練習することも少なくないそうだけど、奈々みたいな才能の無い……もとい、初心者の名前を覚えていてくれるなんて、これはひょっとして?

 

 などというあたしの勝手な妄想は放っておかれ、水嶋先輩は奈々にアドバイスする。「日高、ひょっとして、シュートを打つ前から『どうせ入らないだろうな』とか思ってないかな?」

 

「え……あ……はい。そうかもしれません」

 

「それじゃあダメだよ。自分はできる。そう信じてないと、できるものもできなくなる。『このシュートは必ず入る』そう自分に言い聞かせて、シュートを打つんだ。そうすれば、必ずうまく行くよ。言葉には、不思議な力があるからね」

 

 ナルホド。言霊、というやつかな。しかし、聞いてるだけで恥ずかしくなってくるようなクサイセリフだけど、水嶋先輩が言うとカッコいいから不思議だ。

 

「判りました。やってみます」

 

 奈々、スタート位置に戻る。ボールに祈りを込めるようなポーズ。

 

「あたしならできる……あたしならできる……」

 

 呪文のように繰り返し、そして。

 

 ゴールに向かって走り、ジャンプ。

 

 ――入れ!

 

 あたしも祈った。すると。

 

 ぱさり。

 

 奈々の放ったボールは、見事に、丸いリングの間をくぐりぬけた。

 

「やったぁ!!」あたしと恵梨香、手を取って喜ぶ。奈々は信じられないという表情で、リングをくぐりぬけたボールを見ていた。

 

 水嶋先輩はにっこりと笑い。「おめでとう。じゃあ、今の感じを忘れないうちに、もう1回」

 

「はい!」

 

 ボールを拾った奈々は、またスタート位置に戻る。「あたしならできる……あたしならできる……」呪文を唱え、ゴールに向かって走り、シュート。ぱさり。見事に入った。嬉しそうに笑う、奈々と水嶋先輩。

 

 …………。

 

「あ、奈々。あたしたち、ちょっと買い物に行ってくるね」あたしは、奈々と水嶋先輩に向かって言った。

 

「はぁ? 買い物? 何で?」目を丸くする恵梨香。

 

「……いいから。行くよ」無理矢理恵梨香を引っぱる。

 

「え、ちょっと。結衣……?」

 

 戸惑う奈々を置いて、あたしたちは公園を後にした。もちろん、もう戻ってくるつもりなどない。

 

「あーあ。せっかく水嶋先輩といっしょに練習できるチャンスだったのに」不満そうな恵梨香。

 

「あんたが何の練習するって言うのよ? 部外者は引っ込むのが礼儀よ」

 

「しょうがないな。ま、奈々には後で何かおごってもらおうかな」

 

「だね」

 

 うーん。奈々、青春を謳歌してるって感じだね。ちょっとうらやましい。

 

 まあ、頑張ってね、奈々! うん。

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

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