Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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うるう年

「ところでさ。ちょっと相談があるんだけど……」

 

 高校の昼休み。お弁当を食べ終えた後、奈々が声を改める。相談? 何だろう? あたしと恵梨香、顔を見合わせる。勉強のことではないだろう。奈々は成績優秀というほどでもないけれど、あたしや恵梨香よりは、はるかにテストでいい点を取っている。となると、やっぱりアレだろう。

 

「何? 水嶋先輩にデートでも誘われた?」イジワルな顔で奈々を見る恵梨香。

 

「バ……バカ!! そんなわけないでしょ!!」顔を真っ赤にし、教室中に響くほどの大きな声で否定する奈々。

 

「違うの? なんだ、つまんないな。じゃあ、何?」急に興味が無くなった顔の恵梨香。

 

「あ、えっと……まあ、水嶋先輩に関する相談ってのは合ってるんだけど」

 

「何々? 何でも訊いて」恵梨香、再び生き返る。忙しいヤツだ。

 

「あのね、もうすぐ水嶋先輩の誕生日なんだけど……どういうものをプレゼントすればいいと思う?」

 

 へえ。水嶋先輩の誕生か。ちなみに今日は2月22日。先輩って、早生まれなんだ。

 

「水嶋先輩に誕生日プレゼントねぇ」考え込む恵梨香。「それは難しい問題だね」

 

 確かにそれは言える。先輩はとにかくバスケ一筋で、それ以外のことにはあまり興味が無いような人だ。プレゼントという行為が先輩には合わない気がする。先日のバレンタインもたくさんチョコを貰ってたみたいだけど、なんだか迷惑そうだった。ちなみに、恵梨香もでっかいハート形のチョコレートを「あたしだと思って食べてください!」と言って渡し、露骨にイヤがられていた。

 

「まあ、バスケに関するものをプレゼントするのが妥当だとは思うけど」あたしはとりあえずあたりさわりのないことを言っておく。

 

 うーん、と、唸る2人。まあ、そのくらいのことは奈々も判っているだろう。要は、何をプレゼントするかだ。

 

「何か、先輩が日頃欲しがってる物ってないの? 何か、聞いてない?」と、恵梨香。奈々は、今でも毎朝公園での自主練習を欠かさず、水嶋先輩と一緒になることも多いらしい。

 

「わかんない。あんまり自分のこと話さないからね、先輩」

 

「だろうね。うーむ。なかなか攻略しがいのある男だわ」

 

 何だよ攻略って。ゲームじゃないんだから。

 

「ま、あまり大げさなものはやめておいた方がいいだろうね。恵梨香みたいに撃沈するのがオチだよ」あたしは言った。

 

「どういう意味よ? あたしのプレゼントは、先輩のハートを射止めてるに決まってるでしょ?」

 

「どこがよ。あんな迷惑そうな顔した先輩、あたし、初めて見たよ」あたしは笑う。

 

「だね。『あたしだと思って食べてください!』ってセリフも、よく考えたら全然意味わかんないし」奈々も笑った。

 

「うっさいわね。いいでしょ? 別に。要は物じゃなく、ハートよ、ハート」と、恵梨香。言ってることはまともだ。

 

「だね。とりあえず、リストバンドとか、タオルとか、そういう小物でいいんじゃない? 後は、奈々の気持ちだよ」あたしも恵梨香に同意する。

 

「うーん。そうだね。判った。そうする」

 

 奈々は笑顔で答えた。

 

「ところで、先輩の誕生日って、何日なの?」あたしは訊いた。

 

「それがさ、2月29日なんだって」と、奈々。

 

「え? うるう年生まれなの?」

 

「そうみたい」

 

「でも、今年は平年だよね? その場合、誕生日はどうなるの?」あたしは恵梨香を見る。さあ? と首をかしげた。

 

「あ、それは調べたから大丈夫。日本の法律では、誕生した日の前日の24時が過ぎた時点で、歳を取ることになってるの。だから、2月28日の24時で先輩は17歳になるわけだから、誕生日は3月1日なんだって」すらすらと答える奈々。さすがにこういうところはぬかりなく調べてある。

 

「へぇ。4年に1度歳取るわけじゃないんだね」と、恵梨香。

 

 当たり前だろ。それだと先輩はまだ4歳じゃないか。

 

「でもさ。うるう年って、何なんだろうね?」恵梨香は続ける。「普通、1年は365日でしょ? なのに、4年に1度、1日増えて366日になる。それって、大丈夫なの? 4年に1度の1日とはいえ、積み重ねれば、結構な日数になるじゃない。そのうち、夏と冬がひっくり返ったりしないのかな?」

 

 ……言われてみたらそうだな。4年に1日と言うことは、単純計算で720年で半年ひっくり返ることになる。ま、あたしの人生には関係ないだろうけど、その辺、どうなんだろう?

 

「そんなわけないでしょうが」呆れる奈々。「それは全くの逆。うるう年を入れないと、夏と冬がひっくり返ってしまうの」

 

「へえ、知らなかった」

 

「ちなみに、うるう年って、4年に1度だと思われてるけど、それも違うのよ」

 

「え? そうなの?」あたしと恵梨香、目を丸くする。

 

「うん。4年に1度のうるう年を制定したのは、ユリウス暦っていう、古い暦なの。このユリウス暦では、1年の平均は365.25日だと考えられていた。だから、4で割り切れる年だけ1日増えるんだけど、その後の研究により、1年の平均は365.2422日であることが判ったの。ユリウス暦だと、1000年で約8日の誤差が生じることになる。そこで使われるようになったのが、現在世界各国で用いられているグレゴリオ暦。この暦では、4で割り切れる年はうるう年になるっていうのはユリウス暦と同じなんだけど、その中でも例外があって、100で割り切れる年は、うるう年にはならないの。でも、その中にもさらに例外があって、400で割り切れる年は、うるう年になるの」

 

 つまり、えーっと……2000年はうるう年だけど、2100年はうるう年じゃないってことか。なんだか複雑だな。ま、なんにしてもあたしの人生にには関係なさそうだけど。

 

「ちなみに日本でこのグレゴリオ暦が採用されたのは明治5年。それまでの太陰太陽暦を廃止して、明治5年の12月3日を、明治6年1月1日に設定したの。だから、明治5年の12月3日から31日までは、存在しない日付なのよ」

 

 そうだったんだ。勉強になるな。

 

「ま、別にどうでもいいけど」

 

 恵梨香、ミもフタも無いことを言う。がっくりと肩を落とす奈々。

 

「どうでもいいってことは無いでしょうが」あたしはすかさずフォローを入れる「確かに、それが生きていくうえで何の役に立つのかは疑問だけど、『全ての人間は生まれながらにして知ることを欲する』って、アリストテレスも言ってるでしょ? つまり、知ることは、生きることなんだよ」

 

「結衣、微妙にフォローになってないよ」

 

「う……そうかな? えーっと、じゃあ。そう! これは奈々が水嶋先輩のことを想って必死で調べたことなんだよ。つまり、水嶋先輩に対する奈々の愛の結晶ってことなの」

 

「ババババババカ! そそそそんなんじゃないって!! たまたま知ってただけ!!」

 

 真っ赤になって否定する奈々。なんだか可愛くて、あたしと恵梨香は2人で笑った。

 

 

 

 

 

 

 その後、奈々は水嶋先輩にリストバンドをプレゼントしたようだ。ちょうどそれまで使ってたものが古くなっていて、すごく喜んでもらえたらしい。ちなみに、奈々も密かに同じものを買い、こっそり使っている。何ともほほえましい限りだね。うんうん。

 

 なお、恵梨香は「水嶋先輩LOVE♪」とプリントされたピンク色のオリジナルユニフォームをプレゼントし、これまた大いにイヤがられた。

 

 あの娘、いったい何がやりたいんだろ……。

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

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