Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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最終回

「……と、言うわけで、『赤ちゃんが乗ってます』ってマークは、事故に遭ったときに、周りに赤ちゃんを優先して救出してほしいと知らせるために貼ってるんじゃないかと思うの」あたしはハンバーガーを食べるのも忘れ、昨日思ったことを熱心に説明する。

 

「ふーん。それはなかなか面白い説だね」亜美は感心したような顔でポテトを頬張った。

 

「うーん。まあ、説としては面白いけど、でも、そんなのは貼ってる本人次第でしょ。結衣の友達が言うように、赤ちゃんが産まれたことをみんなに知らせたくて貼ってる人もいるんじゃない?」理名は相変わらず現実的なことを言う。

 

 今日は大学終了後、理名も亜美も時間が空いていたので、いつものように近くのハンバーガーショップで井戸端会議。すでに5時間近く居座り続け、スマイル¥0の店員さんもさすがに迷惑そうな視線を向けているような気がしないでもないけれど、そんなのに動じるあたしたちではない。

 

「そう言えば、知ってる? 一時期、ハンバーガーがすごく安かったときがあったじゃない? ハンバーガー80円、チーズバーガー100円とか。59円のときもあったでしょ? あれ、経費削減のために、ハンバーグにミミズの肉を混ぜてたらしいよ?」

 

 ああ。自分で言ってて気分が悪くなってきた。まさか、このハンバーガーにも……?

 

「そんなわけないでしょうが」呆れる理名。「ミミズがいくらすると思ってるの? 100グラム千円近いわよ?」

 

「え!? そんなにするの? ブランド牛並みに高いじゃん」

 

「当然でしょ。ミミズはああ見えて栄養豊富なの。それに、砂を抜いたりなんなりで、手間がかかるんだから。海外産の牛肉の方がよっぽど安いわよ」

 

「そうだね」と、亜美も同意する。「でもあたし、その噂が出回った理由、判るな。以前あたし、ハンバーガーショップでバイトしてたんだけどね。ミンチのこと『ミミズ』って呼ぶの。業界用語ってやつかな。ほら。ミンチが機械から出てくるときの様子が、なんとなくミミズが這ってるように見えるでしょ? 多分、それが発端になったんじゃないかな」

 

 へえ、それは知らなかった。

 

「じゃあ、フライドチキン用に鶏を品種改良して、4本足にしたっていうのは?」

 

「それも同じよ。そんなもの開発するより、普通の鶏を育てた方がよっぽど安上がり」

 

 と、理名は答えたけれど。

 

「4本足の鶏……? 面白そうね……」

 

 なんか亜美の目つきが変わったぞ? ヤバい。ホントに作る気じゃないだろうな。この娘ならやりかねない。

 

「冗談冗談! ねえ理名、なんか面白い話無いの?」理名に話を振る。

 

「うーんそうねぇ……あ、そうだ。昔さ、あたしの友達に、真希って娘がいたの。その娘、なぜかみんなから、スケコって呼ばれてたんだ。不思議なのよね。名前にも苗字にもスケなんてついていないのに、なんでスケコなんてあだ名になったのか。友達に訊いてみたんだけど、誰も知らないの。ある日、どうしてもその理由が知りたいと思ったあたしは、直接真希本人に訊いてみたの。『あなたはなんで、真希って名前なのに、スケコって呼ばれてるの?』って。そしたら、真希はこう答えた。『あたしが小学1年の頃、学校の裏にある山に遠足に行ったの。遠足って、おやつは300円以内って決められてたんだけど、そのときあたし、10円オーバーしてたんだよね。そしたら先生が――』」

 

 

 

 

 

 

 ――――。

 

 突然。

 

 あたしの周りから、全てが消えた。

 

 理名も。

 

 亜美も。

 

 他の客も、店員も。

 

 テーブルも椅子も、ハンバーガーもポテトも、建物も、公園も、大学も。

 

 堀北の街も、全て、消えた。

 

 残されたのは、無限に続く漆黒と、あたしだけ。

 

 何?

 

 どうなったの?

 

 みんな、どこに行ったの?

 

 何であたし1人なの!?

 

 誰かいないの!? ねぇ!! 誰か!!

 

 

 

 

 

 

 ――――。

 

 その瞬間。

 

 闇が取り払われ、再び世界が構築される。

 

 堀北の街が現れ。

 

 校舎が現れ。

 

 教室が現れ、机と椅子が現れ、そして、恵梨香が現れた。

 

「――それにしても、結衣が宿題忘れるなんて、珍しいよね。あと10分よ。間に合いそう?」隣の席の恵梨香が言った。

 

 あれ? あたし、理名と亜美と一緒にいなかったけ? いつの間に高校の教室に来たんだろう?

 

「どうしたの、結衣? いきなりボーっとしちゃって」恵梨香が顔を覗き込む。

 

 あ、そうか。思い出した。あたし、英語の宿題をうっかり忘れちゃって、慌てて恵梨香のノートを写してるところだったっけ。って、あと10分? マズイ! 急がないと! あたしは慌ててシャーペンを走らせる。しまった、間違えた。消しゴム消しゴム。机の上を見回すけど、無い。どこに置いたっけ? 探してるヒマはない。

 

「ゴメン恵梨香。消しゴム貸して」

 

 隣の席に手を伸ばし、恵梨香の筆箱から消しゴムを取る。

 

「ああ! 何すんのよ!」

 

 と、なぜか焦って消しゴムを取り返そうとする恵梨香。いいでしょ、消しゴムくらい。あたしは構わず間違えた部分を消す。

 

「あーあ。やっちゃった……」がっかりする恵梨香。

 

「何よ、大げさな。そんなに良い消しゴムなの?」と、消しゴムを見ると……なんだ? 緑のペンで何か書かれてあるな。ケースから取り出すと、そこには、なぜか水嶋先輩の名前が。

 

「なんであんたの消しゴムに水嶋先輩の名前が書いてあるのよ。まさか、泥棒したの?」

 

「違うに決まってるでしょ。おまじないよ。おまじない。緑色のペンで消しゴムに名前を書いて、誰にも見られずに1人で使いきれば、その人と両想いになれるの。あーあ。結衣が使ったから、また最初からやり直しだよ」

 

 なんだ。そういうことか。いい歳してよくやるよ。あたしもそういうことをした経験があるけど、それは小学生の頃だ。リップクリームにつまようじで好きな人の名前を彫って、自分1人で使い切る、とか、好きな人の写真を用意して、ピンクのペンでハート型に囲む、とか、手に好きな人の名前を書いて、その上から絆創膏を貼り、1週間そのままで過ごす、なんてのもあった。懐かしいな。

 

 ……って、そんな場合じゃない! 宿題宿題! あたしはスピードを上げる。

 

「おはよー、みんな」

 

 奈々が教室に入ってきた。彼女は毎朝バスケ部の朝連で、あたしとは別々に登校している。

 

「おはよ、奈々」あたしと恵梨香はあいさつを返す。

 

 と、奈々の手に絆創膏が。

 

 まさか、これは?

 

 あたしと恵梨香は顔を見合わせ、にんまりと笑う。

 

「何よ、2人とも。気持ち悪い」席に着く奈々。この娘、昔からロマンティストだったからな。多分、あの下には水嶋先輩の名前が書かれてあるんだろう。ふふ。恵梨香がやると気持ち悪いけど、奈々がやるとかわいく思えるから不思議だ。

 

 …………。

 

 だから! そんな場合じゃないっての!

 

 猛スピードで恵梨香のノートを書き写すけど、無情にも鳴り響くチャイム。ああ、間に合わなかった――。

 

 

 

 

 

 

 ――――。

 

 また、突然。

 

 世界が消えた。

 

 奈々が消え、恵梨香が消え、教室が消え、校舎が消え、堀北の街が消える。

 

 残されたのは、あたしと、そして、漆黒の世界。

 

 これは……何?

 

 一体、何が起こってるの?

 

 

 

 

 

 

 ――――。

 

 再び世界が構築される。

 

 堀北の街が現れ、校舎が現れ、教室が現れ、机と椅子が現れ、そして、奈々と明菜と美沙子が現れた。

 

「――そのとき、医者は言ったの。『あなたの内臓は半分焼けてしまっています。日焼けサロンに通いすぎたのが原因でしょう。元に戻すのは不可能です。ウェルダンのステーキを、レアに戻すことはできませんから』って」明奈は、低い不気味な声でそう言った。

 

「うわあ。日焼けサロンって怖いね。気をつけなきゃ」奈々、明奈のウソ臭い話を本気にしている様子。

 

「だね。何事もほどほどが一番だね」美沙子も信じてしまったようだ。

 

 ……って、あれ? あたし、高校の教室にいなかったっけ? なんで中学校にいるんだろ? えーっと……。

 

「ん? どうしたの、結衣?」明奈があたしの顔を覗き込む。

 

「あ……ううん。何でも無い。それより、あたしも似たような話聞いたことがあるよ。ある女性が、冬、お風呂に入ってたの。古いアパートの旧式のお風呂でね、その女性は、寒いから追い焚きしながら入っていたらしいの。でもそのとき、不幸にもその女性は、心臓麻痺にかかり、そのまま亡くなってしまった。さらに不幸なことに、1人暮らしだったから発見が遅れた。1週間後、発見された女性は、肉が崩れ、骨だけになっていた。お風呂には、1週間かけてよく煮こまれた、人肉のシチューがあったそうよ――」

 

 

 

 

 

 

 ――――。

 

 また、消える世界。

 

 奈々も明奈も美沙子も、いなくなる。暗闇に、あたし1人。

 

 でも。

 

 それも一瞬だ。すぐに新たな世界が構築される。

 

 

 

 

 

 

「――もう、岡部君も石塚君もヒドイよね。掃除、全部あたしたちに押し付けちゃうんだから」

 

 奈々ちゃんは机を元に戻しながら、2人の男子に対して不満を言った。

 

「だよね。今度あたし、あの2人にビシっと言ってやるから」と、明奈ちゃん。こういうときの明奈ちゃんは心強い。あたしたちと違って、男子にも負けない。

 

 ……って、あれ? あたし、いつの間に小学校に来たんだろう? 確か、中学校の教室にいたはずなのに。

 

「ん? 結衣ちゃん、どうかした?」奈々ちゃんが不思議そうな顔で見ていた。

 

「あ、ううん。何でも無い。それより、早く終わらせて、帰ろ」

 

「うん!」

 

 奈々ちゃんは机を元に戻し、明奈ちゃんは窓で黒板消しをはたく。あたしは、ゴミを捨ててこようかな。

 

 と――。

 

「赤い服はいりませんか……青い服はいりませんか……」

 

 廊下から、不気味な声がした。お婆さんの声だ。ものすごく低い、魔女みたいな声。

 

「……な、何?」奈々ちゃんも明奈ちゃんも、思わず廊下を見る。

 

 窓に、お婆さんの姿が映った。すりガラスだから、影しか見えない。

 

 なんでお婆さんが学校にいるんだろう? しかも、服を売ってる? すごく怖い声で。

 

「赤い服はいりませんか……青い服はいりませんか……」

 

 そのお婆さんは、あたしたちの教室の前で立ち止まった。

 

「赤い服はいりませんか……青い服はいりませんか……」

 

 繰り返す。

 

 奈々ちゃんが怖がって、あたしに抱きついてきた。あたしも怖い。いったい何なの? あのお婆さんは。

 

「赤い服はいりませんか……青い服はいりませんか……」

 

 と、明奈ちゃんが。

 

「じゃあ、赤い服……ください」

 

 そう言った瞬間――。

 

 ガシャーン! ガラスを破り、お婆さんが教室の中に入って来た!

 

 その手には、すっごく大きな包丁が握られている!

 

 お婆さんは、そのまま明奈ちゃんに襲いかかる! あんなので斬られたら、たくさんの血が出ちゃうよ――。

 

 

 

 

 

 

 また、世界が消えた。

 

 これは、何なのだろう。テレビのチャンネルをザッピングしているような、そんな感じ。

 

 また、新しい世界が構築されるのだろうか?

 

 ……いや。

 

 何か聞こえる。

 

 何だろう? 耳を澄ます。

 

 声は、次第にはっきりと聞こえるようになる。

 

 でも、あたしの周りには誰もいない。存在するのは、闇ばかりだ。

 

 

 

 

 

 

「――あら、奈々ちゃん、明奈ちゃん、いらっしゃい」

 

 この声は――お母さんだ。奈々と明奈が遊びに来たの?

 

「おばさん、こんにちは。これ、お花です」

 

 これは奈々の声だ。お花? なんだろう。

 

「あら、いつも悪いわね。ありがとう」

 

 お母さんは花を受け取ったようだ。それを花瓶に挿すような音が聞こえる。

 

「結衣、どうですか? 調子良さそうですか?」

 

 明奈の声だ。調子? あたし、病気なのだろうか。そんな気はしないけど。

 

「ええ。最近はずっと調子いいみたい。見て。なんだか、笑ってるように見えるでしょ? きっと、楽しい夢を見てるのね」

 

 ――夢?

 

 あたしが、夢を見ている?

 

 何を――何を言ってるの? お母さん。

 

「あれから、もうすぐ15年ですか……早いですね」

 

 明奈が言った。15年? あれから? 何のことなの!?

 

「ええ。結衣があの事故に遭ったのが、小学2年の夏。あのとき、私がショッピングモールに連れてさえ行かなければ……」

 

 事故? 小2の夏? ショッピングモール?

 

 そんなこともあった気がする。

 

 そうだ。

 

 お母さんと一緒に、駅前にできた大きなショッピングセンターに出かけたんだ。でも、その前の交差点で、おじさんが車にはねられて――。

 

 ――え?

 

 今、お母さん、あたしが事故に遭った、って言わなかった?

 

 ……な、何バカなこと言ってんだろ。あたし、事故になんてあってないよ。うん。

 

「あれ以来、ずっと眠ったままなんですよね――」

 

 奈々の声。眠ったまま?

 

「もう、2度と目を覚ますことはないって、お医者さんは言ってるの」

 

 お母さんの声。2度と目を覚まさない?

 

「夢を見てるのか……どんな夢見てるんだろ?」

 

 明奈の声。夢を見ている?

 

「きっと、奈々ちゃんや明奈ちゃんと、楽しく遊んでいる夢ね」

 

「だと嬉しいな」

 

「うん。きっとそうだよ」

 

 

 

 

 

 

 そして――。

 

 声は、聞こえなくなった。

 

 事故……ずっと眠ったまま……夢を見ている……。

 

 ――――。

 

 何言ってるんだろ、みんな。バカバカしい。あたし、ここにいるよ。起きてる。目を開けてる。ちゃんと生きてるもん。夢なんて見ていない。ううん。きっと、今の声が夢ね。そうよ。そうに決まってる。

 

 再び、世界が構築された。

 

「あ、結衣! 聞いてよ! この前さ、奈々の部屋に泊まったんだよ、そしたらさ、ベッドの下に斧を持った男の人が――」

 

 そう。あたしは、ちゃんと生きている。

 

 この世界で。

 

 奈々と、明奈と、美沙子と、梓と、亜弥と、恵梨香と、理名と、亜美と、一緒に。

 

 あたしは、みんなと一緒に生きてるんだ。

 

 あたしは、1人じゃない。

 

 1人なんかじゃ――ない。

 

 

 

 

 

 

「あら? 結衣。泣いてるわ。どうしたのかしら」

 

「ホントだ。何か悲しい夢でも見てるのかな」

 

「かもしれないね――」

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

「――っていう終わり方にしようと思うんだけど、どう?」

 

 明奈、特性ボロネーゼをおいしそうに頬張りながら言った。

 

「いや、どう? と言われてもねぇ」あたしは、何と答えていいか判らず、とりあえずトマトチーズハンバーグをひと口パクリ。

 

 今、あたしと明奈は近所のファミレスにいる。明奈、何を思ったのか、突然小説を書き始めたと言うのだ。あたしみたいな霊感体質の女の子が主人公で、名前もズバリ、結衣。次々と怪現象に巻き込まれ、それを解決していくのだけど、実は主人公は子供のころ事故に遭っていて、命は助かったけど、植物状態。今まで見てきたものは全て夢だった――という終わり方にしようと言うのである。

 

「あれ? いいと思ったんだけど、何かおかしい?」

 

「うーん。まず、さんざん話を引っぱっておいて、そんなバッドエンドはないでしょ? それに、今までのは全部夢でした、じゃ、みんな納得しないんじゃない? 色々伏線張ったけど、結局まとめきれず、夢オチにしてうやむやに終わらせた、って、思われるよ?」

 

「そうかなぁ。いいと思ったんだけど」

 

「ダメよ。そんなんじゃ」

 

「じゃあ、こういうのはどう? ある日、結衣は商店街の福引で、ハワイ旅行を当てるの。で、飛行機に乗って旅立つんだけど、途中事故に遭い、飛行機は海に墜落。結衣は、ユイキリになって、海に帰っていくの」

 

「……何? ユイキリって」

 

「天草の一種よ。トリノアシとも呼ばれてるわね。寒天の原料になる海藻なんだけど、知らない?」

 

「知らんわ。てか、なんであたしが海に帰るのよ。意味が判らん。それ以前に、あたしを殺さないでよ」

 

「じゃあさ、これはどう? 結衣は、ネコタクシーに乗ってるシーンのときには、実はもう死んでるの。その証拠に――」

 

「だから、あたしを殺すなっつーに」

 

 ああ。もうこの娘にはついて行けん。なんだよネコタクシーって? まったく。ま、どうせ小説を書く、なんて言うのも気まぐれだろう。明日には忘れているに違いない。はあ。しょうがないな。

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 一応言っとくけど、まだ続くからね。

 

 

 

 

 

 

(都市伝説「ドラ○もんの最終回」「サ○エさんの最終回」「トト○の都市伝説」より)

 

 

 

 

 

 

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