Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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発明品

 朝、大学の門の前で、久しぶりに亜美に会った。最近何やら研究に没頭していたようで、2週間程姿を見せなかった亜美。研究は終わったのかな? 話しかけようとして、でも、ちょっとためらう。なぜなら、亜美の恰好、とてつもなく怪しかったのだ。なんて言うのかな……少し前に、眼鏡みたいに顔に掛ける小型テレビって、あったよね。ヘッドマウントディスプレイ、ってやつ。今もあるんだろうけど、それのバカでっかいのを装着してる。それだけならまだしも、亜美、門をくぐる人を指差し。何かブツブツ言っているのだ。その言ってることが、またおかしい。

 

「大根……バカ貝……腐女子……ピーマン……台湾バナナ……」

 

 ……なんだ? 最近流行りのあだ名芸ってヤツか? 人に悪口あだ名つけるやつ。テレビなら許されるけど、現実でやると問題だぞ。案の定、言われた人たちは露骨に不機嫌な顔で亜美を睨んでいる。でも、亜美の方はそんなことには全く気付いてないのか、あるいは気付いていても気にしていないのか、とにかく、その怪しい行動をやめる気配は無い。しょうがない。あたしは亜美に近づき、声をかけた。

 

「ちょっと亜美、何やってるの」

 

 すると亜美、あたしを指差し。

 

「ブタ」

 

 ……誰がブタだ。誰が。

 

「……ん? なんだ、結衣じゃん。久しぶり」亜美は顔につけた機械を取り、にっこりと笑った。

 

「久しぶりじゃないわよ。さっきから見てたら、何失礼なこと言いまくってるのよ。あたしがブタ?……まあ、確かに、ここんとこ少し体重が増えてきてるけども……」

 

「……何の話?」

 

「何の話って、今、亜美が言ったんじゃない。あたしに向かって、ブタって。他にも、バカ貝とか、台湾バナナとか。みんな、すごく怖い顔してたよ?」

 

「ああ、あれ?」亜美、けらけらと笑う。そして、装置を見せ。「違うわよ。悪口とかじゃなくて、これ。装置の実験」

 

 装置? 人の悪口を言う装置だろうか?

 

「これはね、まあ簡単に言えば、胃のペプシンやガストリン、十二指腸のトリプシン、小腸の粘膜上皮に粘膜固有層に粘膜筋板、大腸の難消化性成分、直腸のペニシリンやアドレナリンを分析する装置なの。分析にはこの機械からアジャラカモクレンやキュウライスやテケレッツのパーを発生させて、それを体内に生成されるイングリモングリやスケコに絡めて――」

 

 ……まあ、いつものことではあるが、亜美の説明はさっぱり判らない。放っておいたらその後も数時間単位で喋り続けそうだったので。

 

「うん。よく判ったわ。で、結局何なの?」

 

「要するに、昨日食べたものが判る装置よ」

 

 ……なら最初からそう言えばいいだろう。なんであんな難しい説明をするかな。理名ならともかく、あたしに判るわけないじゃんか。

 

 ま、それはいいとして。

 

 昨日食べたものが判る装置? 変なものを作ったな。

 

 確かにあたし、昨日のおかずはトンカツだった。なるほど。それでブタか。

 

「苦労したのよ? とくに、このパイポのシューリンガン、それと、シューリンガンからグーリンダイ、グーリンダイからポンポコピーのポンポコナのチョーキューメイのチョースケへ変換するのが難しくてね――」

 

 得意げに話す亜美。また長くなりそうだな。

 

「それは判ったから、で、その装置、何の役に立つの?」

 

 と、あたしが訊くと。

 

「え? これ、何かの役に立つの?」亜美、きょとんとした顔。

 

 ……あたしが訊いてるんだ。あたしが。

 

 要するに。

 

 そのペプシンだかトリプシンだかをジュゲムだかアッチョンブリケだかで分析する仕組みを思い付いたから、役に立つかどうかはさておいて、とりあえず作ってみたということだろう。いかにも亜美らしい。結果よりも過程が全てなのだろう。

 

「そう。ま、せいぜいひっぱたかれないように気をつけて実験してちょうだい」

 

 あたしがそう言っても、亜美は「なんでひっぱたかれるの?」という表情。ちっとも判っていないようだ。

 

 まあいいや。あたしは亜美に先に行ってると告げ、ロビーに向かった。亜美はまた装置をつけると、「インディカ米……イナゴ……ウシガエル……」などと、みんなを指差しつつ、ブツブツつぶやき始めた。ひっぱたかれるならまだマシだな。刺されなきゃいいけど。

 

 ロビーに入ると、いつもの通り理名がいた。あたしは定番の紙コップのコーヒーを買い、理名の前の席に座る。

 

「おはよ、理名。見た? 校門のところの亜美。なんか、昨日食べたものが判るって機械の実験してた。あたし、ブタって言われて、悪口を言われたのかと思ったよ」

 

「ええ、見たわ。あたしもサルの脳みそって言われたよ」

 

 何食ってんだ、この娘は。

 

 その後、しばらく理名と、サルの脳みそは何料理かについて話す。やがて亜美がやってきた。装置の実験は大成功だったらしい。けど、やっぱり何の役に立つかは考えていないようだ。と、言うより、すでにその装置には興味が無くなってしまったらしく、来週から始まるドラマの主演俳優のことについて熱く語り始めた。いつものおしゃべりタイム。そうこうしているうちに講義の時間になったので、あたしたちは席を立った。

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 そう言えば……。

 

 さっき亜美、腐女子とか言ってなかったか?

 

 腐女子。やおいとかボーイズラブとかを好む女性、もしくは、単にオタクの女性のことを意味するネット用語だ。

 

 …………。

 

 気のせいだろう、きっと。あたしはそのことは深く考えず、そのまま授業に向かった。

 

 

 

(都市伝説「つまらない能力」より)

 

 

 

 

 

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