「…………」
「…………」
「……何なのよ明奈、このタイトルは」
「何なのって、見た通りよ。『明奈の都市伝説ファイル・ファイナルシーズン』の、シーズン2。前シーズンが大好評だったみたいから」
「……そんな話は聞いてないけどね。まあ、どうせ終わるとは思ってなかったから、いいけど」
「そーそー。人間諦めが肝心よ。では、はりきってどうぞ」
第1話・死ねばよかったのに
「――それにしても、5のボスは、ホントに影が薄かったわね。どんな奴だったか、どんな攻撃を仕掛けて来たか、全く記憶にないんだけど。名前すら思い出せないわ」
「だよね。まあ、4のボスのインパクトが強すぎたわよね。あいつは中盤からひっきりなしに主人公側に絡んできたし、何より、恋人を人間達に殺されて、しかもそれが部下の差し金で、敵なのに憎み切れなくなる展開なのが大きいわよね」
梓と明奈、さっきからずっと、ゲームの話に花を咲かせている。かれこれ30分は続いているだろうか。これが休日ののんびり雑談タイムなら別にいいのだけど、今日は、大事な期末テストの前日。3人力を合わせて勉強しようと、あたしの部屋に集まったのだから、ゲームの話をしている場合ではない。
「ちょっと2人とも、いい加減真面目に勉強しなよ。そんな話するためにわざわざ集まったんじゃないでしょ?」
あたしが注意しても、明奈、悪びれた様子も無く、「そんな堅いこと言わないの。息抜きよ、息抜き」と、ひらひらと手を振った。
「そうそう。焦って勉強しても、頭に入らないじゃん? 自分のペースで、ゆっくりやらないと」梓も明奈と同じ。2人とも、全く勉強する意思が無い。
「自分のペースでやるも何も、来てから何ひとつやってないでしょうが。勉強する気が無いなら、帰ってよ」キッ! っと睨む。
明奈と梓、おお恐、という表情で肩をすくめると、しょうがない、という感じで、参考書とノートを開いた。
「えーっと、『3y+6x-2=0について、変化の割合を求めなさい。また、yの増加量が6 のときのx の増加量を求めなさい』。これ、何言ってんの?」
「何々? 『1人1人を大切にし、ともに助け合って生きていく社会のことを何というか?』。えーっと、建前社会?」
「フムフム。『冷たい空気と暖かい空気が同じ勢力でぶつかり合ってできる前線を何というか?』。これは簡単。特捜最前線ね」
……ダメだコイツら。真面目に勉強する気が無い。てか、なんで勉強するのに、この3人で集まったのだろう? あたしらの中学仲良しグループ内で、ぶっちぎりで勉強ができない3人じゃないか。まさしく烏合の衆。あーあ。亜弥でも誘えば良かったな。まあ、ぶっちぎりベスト1の亜弥に、あたしらの勉強に付き合ってもらうのも悪いけどね。
「よし! 勉強終わり! これで明日も完璧ね」
パタン、とノートを閉じ、明奈が宣言する。終わりも何も、まだ10分ほどしか経っていない。
「あたしも終了! 後は運を天に任すのみよ」
梓も参考書を閉じた。
「あんたら……ホント、落第しても知らないからね」呆れるしかないあたし。
「大丈夫大丈夫。所詮義務教育何だから。全教科0点取ったって、落第なんかしないって」
明奈の言葉に、梓もうんうんと頷く。そういう問題ではなかろうに。
「ところでさ、明奈」梓、視線を明奈に向ける「最近何か無いの? 怖い話」
明奈、とたんに目を輝かせる。
「うーん、あるけど……聞きたい?」声のトーンを下げ、不気味にそう言った。
ああ、始まってしまった。こうなったら最後、もはや何を言ってもムダだろう。勉強は諦めた方が良さそうだ。
「何々? 話して」梓も目を輝かせる。
「いいけど――これ、本当に怖いよ。心臓が凍りつくくらいに……」
明奈は不気味に微笑んだ。その笑顔に、不吉な物を感じる。
明奈、どこに情報網があるのか、いつも新しい怪談話を仕入れてくる。中にはホントに怖いものも多い。その明奈が、ここまでもったいぶるなんて、相当なものに違いない。
「……いいよ。話して」梓が促す。
「いいけど、後悔しないでね」
梓が身を乗り出す。あたしもシャーペンを置いた。
「これは、あたしのおじさんが体験した話。ある夜、市川での仕事を終えたおじさんは、堀北に向かって車を走らせていた。市川から堀北に帰るには、普通、海沿いの道を使うんだけど、そのときおじさんはすごく疲れていて、早く家に帰りたかったのか、近道である山道を使ったの。そこは道幅が狭く、街灯もほとんど無いから夜は真っ暗。おまけに山だから急カーブが連続してるところもあって、結構危険。気をつけて運転しないといけないんだけど、その日のおじさんは、かなり仕事の疲れがたまっていたんだろうね。少し、ウトウトし始めたの。そのとき、目の前に、白いドレスを着た女の人が立っていた。危ない! おじさんは目を覚まし、ブレーキを踏んだ。でも、車は止まらない。だめだ、ぶつかる! おじさんは目を閉じた。ドン! という衝撃が伝わってくる――はずだった。でも、何も伝わって来ない。やがて車は止まった。おじさんは恐る恐る目を開け、車から飛び出し、後ろを見た。そこには、車にはねられた女の人が倒れているはずだった。でも、誰もいない。道端にも、車の下にも、どこをどう探しても、誰もいなかったの。車を調べても、何かにぶつかった様子は無い。でも、確かに女の人がいたはず。まさか、さっきの女の人は幽霊!? おじさんの背中を冷たいものが走った。慌ててその場から立ち去ろうと車に乗った。そして車の前に広がる光景を見て、おじさんは、別の恐怖に襲われることになる――」
明奈は、そこで大きく息を吐き出した。
ああ、この話、知ってる。「死ねばよかったのに」っていう、有名なヤツだ。車の前は崖で、あのまま走っていたら転落していた。あの幽霊は助けてくれたんだ、と思って感謝したとき、「死ねばよかったのに」という女の声が聞こえてくるんだ。助けてくれたと思ってた幽霊が、実は殺そうとしていたっていうギャップが秀逸な名作なんだよね。
明奈は話を続ける。「目の前は、目もくらむような断崖絶壁だったの。そこでおじさんは気付いた。居眠り運転をしていた自分。あのまま進んでいたら、自分は間違いなく、崖下に転落していただろう。そうか。あの幽霊は、俺を助けてくれたんだ。ありがとう。おじさんは、心の中でお礼を言った。そのとき――」
ゴクリ。あたしと梓は息を飲んだ。
「――そのとき、どこからともなく、女の声が聞こえて来た。『か……勘違いしないでよね! 別に、あんたのことを助けたわけじゃないんだから! 車が壊れたら、もったいないって思っただけ。あんたなんか、死ねばよかったのに!!』と……」
…………。
ツンデレは、幽霊界をも席巻しているのだろうか……。
第2話・死ねばよかったのに
「――それにしても、4のあの神官キャラには参ったわね。何でもかんでも即死魔法即死魔法、で。ラスボスにまで即死魔法をかける始末だもんね。ラスボスに即死魔法が効いたら、軽く事件だよね」
「そうね。でも、あの即死魔法の連発があればこその4でしょ。現に、最近何度か4はリメイクされたけど、全ての作品で、彼の即死魔法連発は残ってる。やっぱり、根強いファンがいるのよ」
梓と明奈、さっきからずっと、ゲームの話に花を咲かせている。かれこれ3時間は続いているだろうか。これが休日ののんびり雑談タイムなら別にいいのだけど、今日は、大事な期末テストの前日。3人力を合わせて勉強しようと、あたしの部屋に集まったのだから、ゲームの話をしている場合ではない。
「ちょっと2人とも、いい加減真面目に勉強しなよ。そんな話するためにわざわざ集まったんじゃないでしょ?」
あたしが注意しても、明奈、悪びれた様子も無く、「そんな堅いこと言わないの。息抜きよ、息抜き」と、ひらひらと手を振った。
「そうそう。焦って勉強しても、頭に入らないじゃん? 自分のペースで、ゆっくりやらないと」梓も明奈と同じ。2人とも、全く勉強する意思が無い。
「自分のペースでやるも何も、来てから何ひとつやってないでしょうが。勉強する気が無いなら、帰ってよ」キッ! っと睨む。
明奈と梓、おお恐、という表情で肩をすくめると、しょうがない、という感じで、参考書とノートを開いた。
「えーっと、『生のカツオと削り節の価格を調べたところ、カツオは1kg1000円、削り節は5g入り5パック260円でした。削り節1kgの価格は、いくらになりますか? また、カツオ1kgの何倍の価格でしょうか?』。んなもんスーパーの店員に聞けっての」
「何々? 『ともえさんたちのグループは、ある地域の米作りについて調べました。この地域が、他の地域と比べて米作りがさかんなことを説明するためには、どのような資料が必要ですか?』。うーん、パソコンがあればいいんじゃない?」
「フムフム。『友達とシーソーに乗ったら、友達の方が重くてなかなかつりあいません。つりあうようにするには、どうすればいいでしょう?』。簡単よ。自分と釣り合わないような友達は、縁を切るのが一番」
……ダメだコイツら。真面目に勉強する気が無い。てか、なんで勉強するのに、この3人で集まったのだろう? あたしらの中学仲良しグループ内で、ぶっちぎりで勉強ができない3人じゃないか。まさしく烏合の衆。あーあ。亜弥でも誘えば良かったな。まあ、ぶっちぎりベスト1の亜弥に、あたしらの勉強に付き合ってもらうのも悪いけどね。
「よし! 勉強終わり! これで明日も完璧ね」
パタン、とノートを閉じ、明奈が宣言する。終わりも何も、まだ10分ほどしか経っていない。
「あたしも終了! 後は運を天に任すのみよ」
梓も参考書を閉じた。
「あんたら……ホント、落第しても知らないからね」呆れるしかないあたし。
「大丈夫大丈夫。所詮義務教育何だから。全教科0点取ったって、落第なんかしないって」
明奈の言葉に、梓もうんうんと頷く。そういう問題ではなかろうに。
「ところでさ、明奈」梓、視線を明奈に向ける「最近何か無いの? 怖い話」
明奈、とたんに目を輝かせる。
「うーん、あるけど……聞きたい?」声のトーンを下げ、不気味にそう言った。
ああ、始まってしまった。こうなったら最後、もはや何を言ってもムダだろう。勉強は諦めた方が良さそうだ。
「何々? 話して」梓も目を輝かせる。
「いいけど――これ、本当に怖いよ。心臓が凍りつくくらいに……」
明奈は不気味に微笑んだ。その笑顔に、不吉な物を感じる。
明奈、どこに情報網があるのか、いつも新しい怪談話を仕入れてくる。中にはホントに怖いものも多い。その明奈が、ここまでもったいぶるなんて、相当なものに違いない。
「……いいよ。話して」梓が促す。
「いいけど、後悔しないでね」
梓が身を乗り出す。あたしもシャーペンを置いた。
「これは、あたしのおじさんが体験した話。ある夜、市川での仕事を終えたおじさんは、堀北に向かって車を走らせていた。市川から堀北に帰るには、普通、海沿いの道を使うんだけど、そのときおじさんはすごく疲れていて、早く家に帰りたかったのか、近道である山道を使ったの。そこは道幅が狭く、街灯もほとんど無いから夜は真っ暗。おまけに山だから急カーブが連続してるところもあって、結構危険。気をつけて運転しないといけないんだけど、その日のおじさんは、かなり仕事の疲れがたまっていたんだろうね。少し、ウトウトし始めたの。そのとき、目の前に、白いドレスを着た女の人が立っていた。危ない! おじさんは目を覚まし、ブレーキを踏んだ。でも、車は止まらない。だめだ、ぶつかる! おじさんは目を閉じた。ドン! という衝撃が伝わってくる――はずだった。でも、何も伝わって来ない。やがて車は止まった。おじさんは恐る恐る目を開け、車から飛び出し、後ろを見た。そこには、車にはねられた女の人が倒れているはずだった。でも、誰もいない。道端にも、車の下にも、どこをどう探しても、誰もいなかったの。車を調べても、何かにぶつかった様子は無い。でも、確かに女の人がいたはず。まさか、さっきの女の人は幽霊!? おじさんの背中を冷たいものが走った。慌ててその場から立ち去ろうと車に乗った。そして車の前に広がる光景を見て、おじさんは、別の恐怖に襲われることになる――」
明奈は、そこで大きく息を吐き出した。
ああ、この話、知ってる。「死ねばよかったのに」っていう、有名なヤツだ。車の前は崖で、あのまま走っていたら転落していた。あの幽霊は助けてくれたんだ、と思って感謝したとき、「死ねばよかったのに」という女の声が聞こえてくるんだ。助けてくれたと思ってた幽霊が、実は殺そうとしていたっていうギャップが秀逸な名作なんだよね。
明奈は話を続ける。「目の前は、目もくらむような断崖絶壁だったの。そこでおじさんは気付いた。居眠り運転をしていた自分。あのまま進んでいたら、自分は間違いなく、崖下に転落していただろう。そうか。あの幽霊は、俺を助けてくれたんだ。ありがとう。おじさんは、心の中でお礼を言った。そのとき、どこからともなく、女の声が聞こえて来た。『次からは、気をつけてね……』と。おじさんはもう1度幽霊に感謝すると、安全運転で家に帰った。そして、家に着いてから、そのことを奥さんに話したの。今日、危うくがけ下に落ちて死ぬところだったけど、白いドレスを着た女の幽霊に助けられた、って。すると――」
ゴクリ。あたしと梓は息を飲んだ。
「――奥さんは、聞こえるか聞こえないかの微かな声で、こうつぶやいたの。『死ねばよかったのに……』と……」
…………。
インターネットの検索サイトに『夫』と入力すると、予測入力で『死んでほしい』と表示されると言う……。世の中、怖いな……。
第3話・死ねばよかったのに
「――ねえ、知ってる? 1の復活の呪文が、未来を予言していた、って話」
「もちろんよ。『どらくえは ねとげになつて つまらない あうと』だよね。他にも『えふえふは どらくえよりも おもしろい まじさ』とか『どらくえす りいせえぶでえ たがきえた きつい』とかもあるみたいよ」
梓と明奈、さっきからずっと、ゲームの話に花を咲かせている。かれこれ3日は続いているだろうか。これが休日ののんびり雑談タイムなら別にいいのだけど、今日は、大事な期末テストの前日。3人力を合わせて勉強しようと、あたしの部屋に集まったのだから、ゲームの話をしている場合ではない。
「ちょっと2人とも、いい加減真面目に勉強しなよ。そんな話するためにわざわざ集まったんじゃないでしょ?」
あたしが注意しても、明奈、悪びれた様子も無く、「そんな堅いこと言わないの。息抜きよ、息抜き」と、ひらひらと手を振った。
「そうそう。焦って勉強しても、頭に入らないじゃん? 自分のペースで、ゆっくりやらないと」梓も明奈と同じ。2人とも、全く勉強する意思が無い。
「自分のペースでやるも何も、来てから何ひとつやってないでしょうが。勉強する気が無いなら、帰ってよ」キッ! っと睨む。
明奈と梓、おお恐、という表情で肩をすくめると、しょうがない、という感じで、参考書とノートを開いた。
「えーっと。『スーパーの野菜売り場にはたくさんの野菜が並んでいます。それぞれの野菜は、いくつあるのかな? ニンジン、1皿に4本ずつ、6皿。キャベツ、1皿に1個ずつ、5皿。きゅうり、1皿に6本ずつ、9皿』。だから、そんなのスーパーの店員に聞けっての」
「何々? 『次のひらがなを漢字に直しなさい。ははのちじん』。えーっと、母の恥人、と」
「フムフム。『植物は、葉と茎と、もうひとつ、何からできているでしょう?』。これは簡単。優しさね」
……ダメだコイツら。真面目に勉強する気が無い。てか、なんで勉強するのに、この3人で集まったのだろう? あたしらの中学仲良しグループ内で、ぶっちぎりで勉強ができない3人じゃないか。まさしく烏合の衆。あーあ。亜弥でも誘えば良かったな。まあ、ぶっちぎりベスト1の亜弥に、あたしらの勉強に付き合ってもらうのも悪いけどね。
「よし! 勉強終わり! これで明日も完璧ね」
パタン、とノートを閉じ、明奈が宣言する。終わりも何も、まだ10分ほどしか経っていない。
「あたしも終了! 後は運を天に任すのみよ」
梓も参考書を閉じた。
「あんたら……ホント、落第しても知らないからね」呆れるしかないあたし。
「大丈夫大丈夫。所詮義務教育何だから。全教科0点取ったって、落第なんかしないって」
明奈の言葉に、梓もうんうんと頷く。そういう問題ではなかろうに。
「ところでさ、明奈」梓、視線を明奈に向ける「最近何か無いの? 怖い話」
明奈、とたんに目を輝かせる。
「うーん、あるけど……聞きたい?」声のトーンを下げ、不気味にそう言った。
ああ、始まってしまった。こうなったら最後、もはや何を言ってもムダだろう。勉強は諦めた方が良さそうだ。
「何々? 話して」梓も目を輝かせる。
「いいけど――これ、本当に怖いよ。心臓が凍りつくくらいに……」
明奈は不気味に微笑んだ。その笑顔に、不吉な物を感じる。
明奈、どこに情報網があるのか、いつも新しい怪談話を仕入れてくる。中にはホントに怖いものも多い。その明奈が、ここまでもったいぶるなんて、相当なものに違いない。
「……いいよ。話して」梓が促す。
「いいけど、後悔しないでね」
梓が身を乗り出す。あたしもシャーペンを置いた。
「これは、あたしと、親戚のおじさんが体験した話。ある夜、市川まで遊びに行ったあたしとおじさんは、堀北に向かって、愛車のシーマを走らせていた。市川から堀北に帰るには、普通、海沿いの道を使うんだけど、そのときおじさんはすごく疲れていて、早く家に帰りたかったのか、近道である山道を使ったの。そこは道幅が狭く、街灯もほとんど無いから夜は真っ暗。おまけに山だから急カーブが連続してるところもあって、結構危険。気をつけて運転しないといけないんだけど、その日のおじさんは、かなり仕事の疲れがたまっていたんだろうね。少し、ウトウトし始めたの。そのとき、目の前に、白いドレスを着た女の人が立っていた。危ない! あたしが叫ぶと、おじさんは目を覚まし、ブレーキを踏んだ。でも、車は止まらない。だめだ、ぶつかる! あたしとおじさんは目を閉じた。ドン! という衝撃が伝わってくる――はずだった。でも、何も伝わって来ない。やがて車は止まった。あたしとおじさんは恐る恐る目を開け、2人で車から飛び出し、後ろを見た。そこには、車にはねられた女の人が倒れているはずだった。でも、誰もいない。道端にも、車の下にも、どこをどう探しても、誰もいなかったの。車を調べても、何かにぶつかった様子は無い。でも、確かに女の人がいたはず。まさか、さっきの女の人は幽霊!? あたしの背中を冷たいものが走った。おじさんも青ざめてた。その場から立ち去ろうと、慌てて車に乗った。そして車の前に広がる光景を見て、あたしたちは別の恐怖に襲われることになる――」
明奈は、そこで大きく息を吐き出した。
ああ、この話、知ってる。「死ねばよかったのに」っていう、有名なヤツだ。車の前は崖で、あのまま走っていたら転落していた。あの幽霊は助けてくれたんだ、と思って感謝したとき、「死ねばよかったのに」という女の声が聞こえてくるんだ。助けてくれたと思ってた幽霊が、実は殺そうとしていたっていうギャップが秀逸な名作なんだよね。
明奈は話を続ける「目の前は、目もくらむような断崖絶壁だったの。そこであたしは気付いた。居眠り運転をしていたおじさん。あのまま進んでいたら、あたしたちは間違いなく、崖下に転落していただろう。そうか。あの幽霊は、あたしたちを助けてくれたんだ。ありがとう。あたしとおじさんは、心の中でお礼を言った。そのとき、どこからともなく、女の声が聞こえて来た。『危ないわよ。ちゃんと前を見て運転しなさい』と。あたしは、おじさんに代わって、幽霊に謝った」
ゴクリ。あたしと梓は息を飲んだ。
「――あたしは幽霊に謝った。『車がシーマだけに、どうもシーマせん』なんてね」
…………。
コイツ、死ねばよかったのに……。
(ツンデ霊「死ねばよかったのに」、定番の恐い話をさらに恐くする「死ねばよかったのに」、および作者オリジナル)