Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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千羽鶴

 体調不良で梓が緊急入院した――そう知らせてくれたのは、梓本人でも、梓の家族でも、明奈でもなく、朝のワイドショーの芸能ニュースコーナーだった。

 

 梓は中学時代の友達である。高校卒業後、女優を目指し上京。小さな劇団に属し、アルバイトをしながら細々と舞台劇の公演などをしていたが、ある日突然、大手テレビ局の月曜9時のドラマの準ヒロインに大抜擢。その初々しい演技が注目され人気が爆発。今やドラマやCMに引っ張りだこの、超売れっ子女優だ。

 

 たまたま用事で東京に行くことになっていたあたしは、さっそく梓のお見舞いに行った。

 

 

 

 

 

 

「まあ、大したことが無くて、ホント、良かったよ」あたしはベッドに座る梓にそう言った。

 

「テレビとか、大袈裟なんだよね。あたしもあの報道見て、ひょっとして死ぬんじゃないかと思ったもん。ま、単なる過労だよ。一応、明日手術することになってるけど、よっぽどのヘボ医者でも失敗しないような簡単な手術なんだって」

 

 それを聞いて、心底ほっとする。

 

 今、テレビのワイドショーでは、連日梓の話題で持ちきりだ。容体は不明だの、緊急手術が行われただの、復帰は絶望的だの、一時危篤状態に陥っただの、集中治療室に移され面会謝絶だの、本当は自殺を図ったのではないかだの、いろいろ言っていたけれど、実際面会した梓は、ケロッとしてあたしを迎えてくれた。マスコミなんていい加減のものだな。

 

「しかし、ホントすごいね、この病院」

 

 病室内で、あたしはため息とともにそう言った。

 

 梓が入院しているのは、難しい手術を何度も成功させ、その都度ニュースなどで取り上げられる、日本でもトップレベルの医療が受けられる都内の大学病院だ。その入院棟は、15階建ての高層ビルで、堀北にある病院とのあまりの規模の違いに驚かされた。院内の売店は小さなスーパーマーケット並みの広さだし、その隣には、世界中にチェーン展開する大手コーヒーショップが入っている。他にも、レストランやフラワーショップ、理髪店に図書館まであり、もはや病院というよりは高級ホテルだ。その最上階のひと部屋が、梓の病室だ。当然ながら個室なのだけど、その広さたるや、下手な大部屋よりもはるかに広い。ホテルで言えば高級スイートルーム。その1日の部屋代を聞いてひっくり返りそうになった。1人暮らしをしている明奈のアパートの家賃2ヶ月分に相当する額である。明奈のアパートは、古くて狭くて交通の便も悪い、家賃の安さだけが取り柄のアパートだけど、それでも2ヶ月分となれば、一般庶民にすれば大金だ。それを1日で消費するような部屋に入院するとは、さすがは今やCM契約20社以上の人気女優だ。

 

 広い部屋の中には、所狭しとお見舞いの品が並べられていた。定番の花やフルーツ、お菓子はもちろん、雑誌や本、ぬいぐるみなど、山のように積みあがっている。

 

「あんなもの、貰っても迷惑なだけだよ」梓は辟易とした表情でそう言った。「花とか綺麗だけど、毎日お水を変えたりなんなりで手入れが大変だし。あたしは病人だよ? そんな余裕ないっての。フルーツとかも、なんで毎回、かごいっぱいにして持ってくるかね。こっちは食事制限があるからほとんど食べられないのに。お菓子なんかなおさらだよ。生菓子だと日持ちしないから、もう最悪」

 

 山のように積みあがったお菓子の箱を見て毒づく。その大半はイチゴ大福だ。梓の公式プロフィールの好きな食べ物の欄に「イチゴ大福」とあるのがその理由だろう。しかし、梓とは長い付き合いではあるが、イチゴ大福を食べているところなど見たことがない。訊くと、「好きな食べ物にメンチカツなんて書けないと、事務所に言われたから」だそうだ。

 

 梓の毒は続く。「――本や雑誌は暇つぶしにはなるけど、当たりハズレが激しいから微妙だしね。ファッション雑誌とかレディスコミックとかなら、まだいいんだけど、あたしがトルストイとかドストエフスキーなんて読むように見える? あんな文字だらけの本読むくらいなら、退屈してた方が何倍もマシ。ぬいぐるみとかマジ最悪。何の役にも立たないよね。この前お茶こぼしたとき、タオル代わりに使ってやろうかと思ったわ。何考えてこんなもの贈ってくるんだか」

 

「そりゃあ、趣味の欄に『読書』と『テディベア集め』と書けば、そうなるのが当然だと思うけどな」

 

「あんなもの真に受けないでほしいよ。仮にホントだとしても、こんなに次から次へと贈られて来たら、そりゃイヤにもなるでしょ。あ、そのイチゴ大福、食べていいよ。賞味期限今日までだし。あたし、手術が終わるまで何も食べちゃいけないって言われてるし」

 

 そう言われ、あたしは遠慮なく頂くことにした。東京の有名老舗和菓子店の高級イチゴ大福だ。梓にとっては邪魔なだけのものでも、あたしにとってはめったに食べられない超高級おやつだ。ひと口頬張ると、あんこの甘みとイチゴの酸味が見事なハーモニーを奏でていた。

 

「……超美味しいじゃん。こんな美味しいものに文句言ったら、罰が当たるよ?」

 

「ああ、いいのいいの。どうせお見舞いなんて形だけ。心のこもってるものなんて、全然ないんだから。どこの誰だかわからない人のも多いしね」梓は両手を広げてそう言った。

 

 お見舞いの品のほとんどには、梓がCMをしている会社や、レギュラー番組を持っているテレビ局、共演した俳優さんや監督さんの名前などが書かれてある。つまり、郵送や宅配で贈られてきたものばかりなのだ。実際にお見舞いに来る人などほとんどいないらしい。

 

「その点、結衣はさすがだね。あたしのこと、ホントにわかってくれてるって感じ」

 

 梓、あたしのお見舞いの品を抱きしめて頬ずりする。

 

「まあ、選んだのは明奈だけどね」少し照れて答える。

 

 梓へのお見舞い品に何がいいか判らなくて、明奈に相談したところ、即答で「PSPとFFの最新作」という答えが返ってきた。今、巷で人気の携帯ゲーム機とゲームソフトである。それは明奈の欲しいものだろ、というツッコミを入れたくなったが、「そんなもの、あたしはとっくに持ってるっての。いいからだまされたと思って持って行ってみて」という言葉を信じて、明奈と折半で買ってきたのだけど、これが大当たり。

 

「あたし、このFF超やりたかったんだけよね。でも、最近は仕事が忙しくて、ゲームとかやる時間、全然時間が無かったんだ。ホント、ありがと」子供のように目を輝かせる梓。明奈ほどではないけれど、梓も割とゲームマニアで、中学生のころはよくゲームの話をしてたっけ。

 

 ここ最近の梓の人気ぶりは異常だ。テレビで見かけない日などない。ゲームで遊ぶ暇など、当然無かっただろう。それが一転、入院生活ともなれば、もてあますほどの時間がある。まさしくゲームをするにはうってつけだ。明奈がそこまで見抜いていたとしたら大したものだ。ほんの少しだけ見直しておこう。

 

「梓にそこまで喜んでもらえたら、お世辞でも嬉しいよ」あたしは梓に言った。

 

「お世辞じゃないって。今回もらったお見舞いの中では、2番目に嬉しいよ」

 

「……って、1番じゃないんだ」

 

「そうだね、1番じゃないね」いたずらっぽく笑う梓。そんなこと、ハッキリ言うかな。

 

 ま、こういうことを言えるのがあたしと梓の仲だ。あたしたちは2人で笑い合った。

 

「1番は、これかな」

 

 梓は枕元にかけられてある千羽鶴を眺めてそう言った。

 

 それは、虹色のグラデーションが見事な千羽鶴だった。上から、赤、オレンジ、黄、緑、青、紺、紫、と、きちんと色がそろえられていて、思わずため息が出てしまうほどの美しい色合いだ。あたしがこの部屋に入ってきたとき、数あるお見舞いの品の中でも、一番目を引いたのがこの千羽鶴だった。もちろん、手を抜いて50羽とか100羽とか小規模で済ませたものではない、正真正銘の千羽鶴である。

 

「これね、あたしが前に所属していた劇団のみんなが折ってくれたものなんだ」なつかしさをかみしめるような表情の梓。

 

 梓が今所属しているのは、大物俳優や実力派歌手、大人気の若手お笑い芸人などが多数所属している超有名な大手事務所だ。売れっ子になってから移籍したもので、それまでは、メンバーが10人くらいの小さな劇団で、細々と活動していたらしい。

 

「あのころは、ホント、楽しかったな。別に今の事務所がイヤって訳じゃないんだけどね。何て言うのかな……今は、絆が薄い、って感じがするの。同じ事務所の人同士でも話をすることなんかほとんど無いし。テレビなんかでは一見仲良くしてるように見えても、実際は、みんなそんなものなの。うわべだけの付き合いなんだよね。形だけのお見舞いの品が、すべてを語ってるよ。でも、劇団の人は違うの。あの頃は、みんなで励ましあって、お芝居を完成させて、公演して……ホント、みんなでひとつになって頑張ってたな、って、思えるの。あたし、突然劇団やめて、みんなに迷惑かけたはずなのに、あたしのためにこんな千羽鶴折ってくれて……ホント、嬉しかった」

 

 いつの間にか。

 

 梓の目には涙が浮かんでいた。

 

「……あ、ごめん、変なこと言って。もちろん、このPSPも超うれしいよ、うん」梓は涙を隠すように顔をそむけた。

 

 一見華やかに見える芸能界。でも、楽しいことばかりでは、当然ない。テレビには映らない裏側では、梓もそれなりに苦労しているのだろう。

 

 プルプル。電話が鳴った。梓のケータイだ。

 

「ちょっとゴメンね」梓、ケータイを開く。あたしは、気にしないで、とジェスチャーで伝えた。梓はあたしに背を向け、ケータイに出た。

 

 あたしは、千羽鶴を見つめた。

 

 あたしのお見舞いの品が1番じゃなかったのは残念だけど、ま、それも当然かな。お金を出せばいくらでも買えるゲーム機と、ひとつひとつ丁寧に心をこめて折られた千羽の鶴とじゃ、重みが違いすぎる。この折鶴1羽1羽に、梓に元気になってほしいという思いが込められているのだ。そこまで思ってくれる人がいる梓が羨ましい。

 

 ……ん?

 

 ふと、梓のベッドの下を見ると。

 

 折鶴が2羽、床に落ちていた。

 

 千羽鶴のものだろう。何かの拍子にちぎれてしまったのかもしれない。

 

 うーん。困ったな。

 

 考えすぎかもしれないけど、なんか縁起悪いような。

 

 梓の手術は明日だ。よほどのヘボ医者でもまず失敗しない簡単な手術だそうだから、心配ないと思うけど、梓の回復を祈って折られた鶴が床に落ちてるってのは、どう考えても良くない。

 

 梓はまだ電話してるな。よし。

 

 あたしは梓に気づかれないように2羽の鶴を拾い、そっと、ポケットに入れた。

 

 同時に、パチン、とケータイを閉じる梓。「ゴメンね、事務所の社長から。退院後の仕事のこと」

 

「まだ手術も終わってないのに、もう退院後の仕事の話をしてるの?」

 

「そう。もう、入院してるときくらい勘弁してほしいよ」梓は、ぽいっと、布団の上にケータイを投げた。梓も大変だな。

 

 トントン。ノックの音に続き、ガチャリとドアが開く。入ってきたのは、黒縁のめがねに黒のスーツの女性。梓のマネージャーさんだ。

 

「宮崎さん、お時間なので、そろそろ……」申し訳なさそうな口調でそう言った。時計を見ると、お見舞いに来てから30分経っている。病室に入る前、マネージャーさんから、「面会時間は30分でお願いします」と言われていたのを思い出した。

 

「えー、まだいいじゃん。せっかく堀北から来てくれたんだよ?」駄々っ子のように足をバタバタさせる梓。

 

「これから手術前の検査とか、説明とかあるんだから、ムリを言わないの」これまた駄々っ子をなだめるような口調のマネージャーさん。

 

 あたしももっとお喋りしてたかったけど、手術の前日じゃ、あまり長居しても迷惑だろう。「しょうがないよ。じゃ、あたし帰るね」

 

 荷物を持って席を立った。

 

「んー。残念」と、梓

 

「手術、頑張ってね」

 

「うん。終わったら、メールするよ。結衣も、気を付けてね。明奈にもよろしく」

 

「ん。じゃあね」

 

「うん、ホント、今日はありがとう」

 

 お互い手を振り、そして、あたしは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 さて。

 

 1階のロビーに戻ったあたしは、さっき拾った2羽の折鶴を取り出した。

 

 なんとなく持ってきてしまったものの、これ、どうしようか?

 

 縁起が悪いとはいえ、梓の昔の仲間が、心をこめて折ったものだ。まさか捨てるわけにもいかない。

 

 そういえば、千羽鶴って、退院した後、どうするんだろ?

 

 もちろん家に持って帰って飾るという人もいるだろうけど、所詮は紙でできたものだ。飾っておくにも限界がある。特製のケースに入れて保管することもできるけれど、結構なスペースとお金がかかりそうだから、普通の人はそこまでしないだろう。と、なると、やはり処分するしかない。でも、単に燃えるごみとして出すのは、あまりにも気が引ける。心霊写真とかと同じで、お寺とか神社とかに持っていけば、お焚き上げとかしてくれるのかな? わかんないけど、ま、いいや。処分の仕方は帰ってネットで調べよう。とりあえず梓が退院するまでは部屋に飾っておけばいいか。

 

 …………。

 

 あらら。さっきあわててポケットに入れたから、折鶴、ちょっとぐしゃぐしゃになってる。折り直した方がよさそうだ。あたしはロビーの適当なベンチに座ると、鶴を折り直すため、広げた。

 

 そして。

 

「――――」

 

 言葉を失う。

 

 折鶴の裏。白い紙の部分に。

 

 文字が、書かれてあった。

 

 赤い文字――血を思わせるような、黒ずんだ赤で。

 

 

 

 ――死ね。

 

 

 

 そう、書かれてあった。

 

 2羽ともに。

 

 それも、ひとつではない。

 

 心臓が、ドクン、と、大きく脈打つ。

 

 

 

 死ね。

 

 死ね。

 

 死ね死ね。

 

 死ね死ね死ね。

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――。

 

 

 

 広げられた2枚の紙には、びっしりと、隙間ひとつなく、「死ね」という文字が、書き連ねられてあったのだ。

 

 

 

 ――――。

 

 あたしは、折り紙をくしゃくしゃに丸め。

 

 そして、ごみ箱に捨てた。

 

 ふう、と、大きく息を吐き、心を落ち着かせる。

 

 ……まあ、梓がいるのは芸能界だ。デビュー間もないあの娘がいきなり月9ドラマで脚光を浴び、各局引っ張りだこの人気者になれば、一部、それを快く思わない人がいて当然。嫉妬のあまりこういう嫌がらせをされるのも、別に珍しい話じゃないのかもしれない。ほら。マンガやドラマとかでもよくあるじゃん。靴の中にガビョウを入れられたりとか、衣装がずたずたに引き裂かれてたりとか。そう、これは天才女優の宿命。演技の神様が梓に与えた試練なのよ。こういう嫌がらせを乗り越えてこそ、梓は真の大女優になるんだよね。うん。

 

 無理やり自分にそう言い聞かせ、あたしは病院を後にした。

 

 

 

 

 

 

 しかし――。

 

 

 

 これはそんな単純なことではないと、あたしは後になって気が付いた。

 

 千羽の鶴の内2羽が落ちた。その2羽には、血のような赤い文字で、びっしりと「死ね」と書かれてあった。

 

 はたして、「死ね」と書かれてあった鶴は、2羽だけだったのだろうか?

 

 そんな訳はない。それは、あまりにも不自然だ。

 

 たとえば、くじ引きがあるとする。

 

 箱の中に、2個当たりと、998個のはずれがあったとして。

 

 これを2回続けて引いて、2回とも当たる確率は、いったいどれくらいなのだろう?

 

 計算すると、49万9500分の1だった。

 

 それはもはや、奇跡に等しい。

 

 つまり。

 

 千羽の鶴の中に、「死ね」と書かれた鶴が2羽だった場合、ピンポイントでその2羽が落ちるのは、これと同じ確率なのだ。

 

 こんなことが、そう簡単に起こるはずがない。

 

 しかし、現実に、落ちていた2羽には、「死ね」と書かれてあった。

 

 これが、49万9500分の1で起こった出来事だ、と考えるよりも。

 

 もっとずっと、現実的な考え方がある。

 

 だがそれは、ある意味では、49万9500分の1よりもありえないことであり、あってほしくないことなのだが。

 

 もしも。

 

 あの千羽の鶴全てに。

 

「死ね」と、書かれてあったとしたら?

 

 …………。

 

 考えたくはない。

 

 しかし、そう考える方が自然なのだ。

 

 そう、あの千羽鶴には。

 

 1羽1羽。

 

 余すことなく。

 

 全ての鶴に。

 

 びっしりと。

 

 血のような、赤い文字で。

 

「死ね」と、書かれてあったのだ。

 

 どの鶴が落ちたとしても、その中には必ず、「死ね」と書かれてあるのだ。

 

 そのことに気づいたとき、あたしは、恐ろしくて震えが止まらなかった。

 

 鶴を千羽折るというのは、言うまでもなく、大変な労力を要する。いい加減な気持ちで出来ることではない。

 

 なのに。

 

 1枚1枚、すべての折り紙に「死ね」という文字を隙間なく書いて、それで鶴を千羽折ったのだとすれば。

 

 もはやそれは、単なる嫌がらせなどではない。

 

 呪いだ。

 

 深い憎しみで文字を書き。

 

 本気で死ぬことを望み。

 

 1羽1羽、折り上げたのだ。

 

 あの鶴は、梓の回復を願って折られたものではない。

 

 不幸を願って折られたものなのだ。

 

 もちろん、この考えも、不自然な点はある。

 

 あの千羽鶴は、梓が昔所属していた劇団の仲間が折ったものだと言っていた。

 

 もしすべての鶴に「死ね」と書かれてあったのだとしたら。

 

 その文字は、劇団の人全員が書いたことになる。

 

 梓は、昔の仲間全員から、呪われたことになる。

 

 …………。

 

 霊感体質のあたしが言うのもなんだが、もちろん、呪いなんて非科学的なものだ。そんなもので、人が死ぬわけはない。そう思う。

 

 でも、数日後、テレビのワイドショーで報じられた梓の退院後の記者会見で、記者の質問に応じる梓の顔色は、何故だろう? 入院していたときよりも、ずっと悪くなったように思えた――。

 

 

 

(「意味が判ると怖い話・千羽鶴」より)

 

 

 

 

 

 

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