Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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女神と鬼神 #4

 ――女神ディアナの役が、未来!? さとみでも、梓でもなくて!?

 

 ホワイトボードに貼られた配役表を見て、あたしは言葉を失った。

 

 未来も、信じられないといった表情で、ただじっと配役表を見つめている。2年生で主演獲得。本来ならば快挙と言っていい。でも、喜びよりも戸惑いの方がはるかに勝っているのだろう。それは未来だけでなくあたし自身も同じだし、そして、部員全員がそうなのだ。だから、みんな遠巻きに未来を見ているだけで、誰も声をかけて来ない。

 

 ガラガラ。勢いよく部室のドアが開いて、「ごめーん、遅くなっちゃった!」と、緊迫した部室内の空気に不釣り合いな明るい声で入ってきたのは梓だった。「お? 配役もう発表されたんだ。どれどれ……」

 

 ホワイトボードの配役表を見る梓。真っ先に目に入るのは、やはり『女神ディアナ――島本未来』の文字である。

 

「え!? 未来がディアナ!?」

 

 一段と大きな声を上げる梓。そのままあたしたちと同じように言葉を失う……と思ったら。

 

「やったじゃん未来! ディアナ役だよ! おめでとう!」

 

 未来の肩をバンバン叩き、まるで自分のことのように喜んだ。

 

「あ……あの、梓先輩……じゃなくて、部長……」消え入るような声で、未来が梓を見る。

 

「あ、ゴメン。痛かった?」梓、肩を叩くのをやめた。

 

「いえ、そうじゃなくて……その……これ、何かの間違いですよね?」配役表を指さす未来。

 

「ん? 何で?」

 

「だって! ありえないじゃないですか! あたしがディアナなんて、どう考えてもおかしいです! って言うか、ムリです!! 絶対絶対、ムリです!!」ほとんど叫んでいる未来。

 

「部長。あたしもそう思いますよ」

 

 愛梨だった。未来と同じ2年生で、いつもさとみと一緒に行動している、腰巾着みたいな娘だ。「未来がディアナで、さとみ先輩が鬼神ミネルヴァだなんて、どう考えてもおかしいです」

 

「へぇ。さとみ、ミネルヴァなんだ」どこかとぼけたような口調の梓。1度配役表を確認し、そして、さとみの方を見る。「いいじゃん。さとみがミネルヴァ。合ってると思うよ。おめでとう」

 

 梓の言葉にさとみは応えず、ただ、鋭い視線を未来に向けているだけだった。

 

「納得できません」

 

 さとみの心中を代弁するように、愛梨が言った。

 

「納得って、何が?」

 

「さとみ先輩がミネルヴァ役で、未来がディアナ役なのが、です。どういうことなのか説明してください」まっすぐに梓を見つめ、はっきりとした口調の愛梨。

 

「いや、配役決めるのはあたしじゃなく、顧問の先生だから、あたしに説明しろって言われても困るんだけどね」愛梨から視線を外し、とぼけたような口調の梓。

 

 その、軽くあしらっているような態度が気に入らなかったのか、愛梨は。

 

「そもそも、配役も貰えないような人が部長をやっているのも、あたしは納得できません」

 

 攻撃の矛先を、梓に向けた。

 

 ……って、え!? 梓が配役を貰っていない!?

 

 驚いて、配役表を見る。

 

 さっきはディアナ役未来、ミネルヴァ役さとみという配役に目を奪われて、梓のことがすっかり頭から飛んでいたけれど。

 

 縦書きの配役表を、右から順番に見て行く。左に行くほど役は小さくなる。最後まで見たけど、確かに梓の名前は無かった。

 

 梓を見る。愛梨に言われたことなど気にした風もなく、肩をすくめ、そして。

 

「まあ、それを決めるのも先生だから、あたしに言われても、何も答えられないよ」

 

 やっぱりとぼけたような口調。

 

 愛梨の顔が歪んだ。明らかに怒りを感じている。

 

「だったら、あなたは何のための部長なんですか!」

 

 その怒りを、言葉に乗せる。今にも殴りかかってきそうな勢いだ。

 

 しかし。

 

「愛梨!!」

 

 さとみの声が、部室内に響き渡った。

 

 その声で、愛梨は大きく息を吐き、落ち着きを取り戻す。

 

「……もういいわ。行くよ」さとみが言った。

 

「さとみ先輩、でも――」

 

 何か言いかけた愛梨の言葉を。

 

「行くよ!」

 

 さとみの怒声が遮る。

 

 愛梨は、「わ……わかりました」と、力なく返事し、そして、梓と未来を睨みつけると、さとみと一緒に部室を出て行こうとする。

 

「あ。稽古は1時間後に始めるから、それまでには戻って来てね」

 

 外に遊びに行く子供に夕飯の時間を伝える母親のような口調で、梓は2人に言った。2人は、その言葉に。

 

 ばん!

 

 壊れるんじゃないかと思うほど勢いよくドアを閉めて応えた。

 

「――やれやれ。あの娘にも困ったもんね」

 

 あまり困ってないような表情で、梓は言った。「あの娘」というのが、愛梨のことなのか、さとみのことなのかは判らない。

 

 ――そんなことより!

 

「梓!! これ、どういうこと!!」

 

 あたしは、さっきのさとみにも負けないほどの大声を出す。

 

「うわ、びっくりした」ビクッ、っと、大袈裟に驚く梓。「なんだ、結衣か。いたんだ」

 

「いたわよ! それより、梓の配役が無いって、どういうことよ!?」

 

「ああ、それね。あたしはいつもの通り、ディアナの代役」

 

「え? 代役?」

 

「そ。だから、今までと同じ、結衣と一緒に雑用係ってところ。今年もよろしくね」梓、ウインクをする。

 

 いや、雑用って、梓、一応部長でしょ? それが代役? 事実上の裏方?

 

「それだ! それですよ!!」

 

 またまた部室中に響く大声を上げたのは、今度は未来だ。あたしと梓、2人してビクッとなる。

 

「……今度は何?」呆れ声の梓。

 

「これ、先生が書き間違えたんですよ! 本当は梓部長がディアナ役で、あたしが代役なんです! いえ、あたしなんかがディアナの代役、っていうのも恐れ多いですけど、でも、あたしが主演っていうより、全然現実的です!!」

 

 両手をブンブン振り回し、早口で言う未来。なるほど。確かにそれならあたしも納得がいく。さとみや愛梨も、ディアナをやらせてもらえなかったのは不満があるかもしれないが、それが部長の梓なら、納得するしかないだろう。

 

 でも。

 

「ううん。間違いじゃないよ。だって、ディアナの代役は、あたしが直接先生に頼んだんだもん」

 

 すました顔で、梓はそう言った。

 

 ……は? 梓自身が代役を希望したってこと? 梓、部長だよ? 代役って、確かに重要だけど、本役の人に何もなければ、本番では裏方の雑用。あたしみたいな、部員が足りない時だけの助っ人でも務まるような仕事だよ? それを部長が進んでやるなんて、何と言うか、部長の威厳にかかわらないだろうか?

 

「うーん。まあ、これでも一応、あたしなりに一生懸命考えて出した結論だから」

 

「――どういうこと?」

 

「簡単に言うと、あたしと美智子先輩は、違うのよ」

 

 相変わらずあっけらかんとした表情で、梓は言った。

 

 まあ、言わんとしていることは、なんとなく判る。

 

 美智子先輩はしっかり者で、いかにも「リーダー」という感じの人だった。

 

 対して梓は、(普段明奈と一緒にいることが多いからあまり目立たないけど)かなりちゃらんぽらんな性格だ。美智子先輩とは正反対。正直あたしも、何で梓が部長に選ばれたのか、よく判らない。

 

「……なんか今、すごく失礼なこと考えてるでしょ?」

 

 ぎくっ。何で判ったんだろう? 超能力者か?

 

「結衣は考えてることがすぐに顔に出るのよ。まあ、それはいいんだけど。つまり、あたしって、美智子先輩みたいに器用なタイプじゃないから、役を貰いながらみんなをまとめるなんて、絶対無理だと思うの。でも、だからと言って、部長の仕事を投げ出すのも、なんか負けを認めるみたいでイヤだったの。だったら話は簡単。役を貰わなきゃいいのよ。ディアナの代役なら去年1年間やってきたから、それほど気合を入れて練習しなくても大丈夫だしね。これで、部長の仕事に専念できるってわけよ」

 

 うーん。梓は梓なりに、考えての結論なんだな。

 

「ま、そういうわけだから、その配役表に間違いはないから。ディアナ役は未来。期待してるからね。頑張ってよ」

 

 梓はもう1度未来の肩を叩くと、今度は部員みんなを見て。

 

「と、いうわけだから、春のお披露目会はこの配役で行きます。じゃあ、練習開始は2時から。もちろん、それまでに準備運動とかは終わらせておいてね。じゃあ、解散!」

 

 ぱん、と手を叩き、とりあえず一旦お開きになった。みんな、あまり納得していない表情だ。部室を出て行く人もいれば、部屋の隅でお弁当を食べたり、早くも軽い練習を始める人もいる。

 

「じゃ、あたしもご飯食べてくるから」

 

 梓は右手を上げて部室から出て行った。

 

「……なんか、大変なことになったね」未来に向かって言う。

 

「大変なんてもんじゃないですよ……どうしましょう……」すっかり顔から血の気が引いている未来。去年の秋の大会の出番前よりも、さらにひどい顔だ。役が決まっただけでこのありさまでは、これから練習し、本番を迎えるころには、すでに昇天しているかもしれない。

 

「ま、とりあえずご飯でも食べようか。未来は、お弁当?」

 

「はい……」

 

「じゃ、行こうか」

 

 2人で部室を出る。部員がいるところじゃ落ち着かないだろうから、お弁当はあたしの教室で食べることにした。幸いクラスのみんなはすでに下校していて、誰もいなかった。あたしたちはお弁当を広げる。

 

 しーん。

 

 広い教室にあたしと未来の2人きり。開け放たれた窓から吹き込む春のさわやかな風が、ますます寂しさを引き立たせる。いかんいかん。こんなんじゃダメだ。あたしはムリに明るい口調で、「お? 未来のハンバーグ、おいしそうだね。いただき!」「あたしのお母さんの肉じゃが、超絶品だから、食べてみて!」「そう言えば、新しい月9ドラマって、今日からだっけ? 来週? どっちにしても、楽しみだね」などと話しかけてみるものの、未来から返って来るのは「はい……」「ええ……」「そうですね……」と、生返事ばかり。箸も全然進んでいない。非常に重苦しい空気が教室内に漂い続ける。ええい。こんな時になぜ明奈はいない。普段騒がしいヤツって、こういう肝心な時にいないよな。まったく、使えないヤツだ。

 

 結局未来はお弁当にはほとんど手を付けなかった。1時40分になったので、そろそろ準備をしなくちゃいけない。あたしたちはお弁当を片付けると、更衣室へ向かった。相変わらず未来の顔色は悪く、足取りは重い。敗戦色濃厚な激戦地に出向く士気の低い新兵みたいだ。

 

「――まあ、そう深く考えないで。楽に行こうよ、楽に」更衣室に入る。演劇部の更衣室は結構広い。入口から見て左右の壁に沿ってロッカーが並べられており、中央にも、部屋を2つに分けるようにロッカーが並んでいる。明らかに部員の人数よりもロッカーの方が多いけど、おかげで助っ人部員であるあたしも使わせてもらっている。入って正面の一番奥があたし、その3つ手前が未来のロッカーだ。

 

「お披露目公演までは、まだ3週間もあるんだし、そのお披露目公演だって、予行演習みたいのもんじゃん。本番の演劇大会までは、まだ半年くらいあるんだよ? 大丈夫。今から一生懸命練習すれば、ちゃんと未来にも主演が務まるって」

 

「そんな簡単のことじゃないですよ」未来、覇気のない声。「『ディアナとミネルヴァ』のディアナ役ですよ? 伝統ある堀北中学演劇部の、最も栄誉ある役なんですよ? 堀中演劇部は、もう何年も秋の大会の優勝から遠ざかっているんです。今年こそ優勝しないといけないのに、それなのに主演があたしなんですよ? あの涼子先輩が主演を務めても優勝できなかったのに、あたしなんか主演にして、優勝できるわけないじゃないですか!」

 

 徐々に声が大きくなる未来。元気が出てきたのは結構だけど、言ってる内容は負のオーラ全開だ。

 

「……やっぱりあたしにはムリです。あたし、辞退します!」

 

「え? 辞退? そんな。やってもないのにあきらめちゃダメだよ」

 

「いえ。どうせ辞めるのなら、早い方がいいです。あたし、今から先生に言って、配役、変えてもらいます!」

 

 そう言って、未来は更衣室を出ようとする。

 

 と、その時。

 

 ダン!! と、雷でも落ちたかのような大きな音が室内に響き渡った。あたしと未来は、驚いてビクっと震える。誰かが勢いよくロッカーを閉めたようだ。部屋の真ん中のロッカーが揺れている。誰もいないと思っていたけど、向こう側に誰かいたようだ。

 

 コツコツ、と、足音が響き。

 

 そして、無言で部屋を出て行ったのは――さとみだった。

 

 何も言わなかったけれど、部屋を出る時、矢のような突き刺さる視線を未来に向けていた。

 

「……どうしよう……さとみ先輩、すごく怒ってますよ……あたしなんかがディアナ役を横取りしたから……」震える声の未来。

 

「横取りなんて、そんな言い方しないの。配役したのは先生なんだから、あんなヤツ気にしないで、堂々と演じればいいのよ。ね?」

 

 あたしは尻込みする未来に発破をかけ、何とか辞退だけは思いとどまらせた。そして、2人で部室へと向かった。

 

 ガラガラ、と、横開きの扉を開ける。みんなの視線が、一斉に未来に注がれる。1時50分。練習開始まであと10分。部員はすでに全員集まっているようだ。のそのそと着替えていたから、あたしたちが最後になってしまったようだ。

 

「……一番最後に来るなんて、今年の主演さんは、随分と余裕があるみたいね」

 

 イヤミったらしい口調で言ったのは愛梨だった。さとみの隣で準備運動をしている。さとみはイスに座ってシューズのひもを結んでいる。

 

「あ……その……スミマセン」

 

 未来は頭を下げた。さとみは一瞬だけ未来を睨んだけど、すぐに視線をシューズに戻した。愛梨は「フン」と鼻を鳴らし、準備運動を続けた。

 

「……あんなの、気にしない気にしない。頑張って、未来。あなたなら、きっとできるから!」

 

 両手で拳を握って応援のポーズをするけれど、未来は「はい……」と、相変わらず覇気のない声で返事をしただけで、そのままのろのろと準備運動を始めた。

 

「はーい。じゃあ、練習始めまーす。みんな集まってー」

 

 2時になり、部長の梓が言った。今年度初の練習だから、部長から今年の目標や心構えなんか話すのかと思ったら、何にも無しでそのまま練習開始となった。まあ、梓らしいといえば梓らしいけれど、ホントにあの娘が部長で大丈夫なのかな?

 

「じゃあ、結衣。悪いけど、いつも通り、小道具やセットの補修、よろしくね」梓は部室の隅に置いてある小道具を見て言う。「ゴメンね。今年はまだ1年生の入部希望者がいなくてね。明奈も逃亡しちゃったし、あたしも一応部長だから、みんなの練習を見ないといけないし。1人にさせちゃうけど、お願いね。手の空いてる人には、なるべく手伝わせるから」

 

「うーん。ま、あたし1人でも大丈夫じゃないかな? これ、去年とは全然違って、すごくきれいだよ? 直さなくてもいいくらいじゃない?」

 

 あたしは木や石壁のセット、剣や鎧などの小道具、ドレスなどの衣装にさっと目を通した。去年の春のお披露目会の時、この小道具たちは見るも無残にボロボロな姿だったけど、今年は見違えるほど綺麗だ。手を入れるところなんてほとんど無いように見える。

 

「未来が、いつもチェックしてるからね」

 

「未来が?」

 

「うん。小道具とかって、大会が終われば適当に倉庫に放り込まれて、そのまま春まで放置されちゃうんだけど、未来が時間を見つけては、倉庫の中を整理して、お手入れもしてるみたいなの。それだけじゃなく、部室や更衣室の掃除も進んでするし、演技の方も、基礎体力作りや発声練習を毎日欠かさずやってる。ホント、あたしみたいないい加減なヤツが部長やってるのが申し訳ないくらいに、真面目だよ、あの娘」

 

「へえ。さすが未来だね」

 

「後は、もうちょっと自信を持ってくれれば、言うことないんだけどね」

 

 ため息をつくようにそう言うと、梓は「じゃ、よろしく」と手を振り、みんなの所に戻った。

 

 よし。じゃあ、あたしも自分の仕事に取り掛かりますか。

 

 とは言え、小道具の状態は本当に良好で、手を入れるところなんてほとんどない。ちょっとしたほころびや、破れているところをちょいちょいと直していくだけだ。全く手間がかからない作業なので、作業しながらも部員たちの練習の方を見る。

 

 みんなは、物語のシーン1、女神ディアナと主神ベルンが出会うシーンの練習をしていた。

 

 台本にはセリフと役者の動きが書かれている。まずはじめに動きを確認し、問題なければ、次にセリフを入れて動いてみる。気付いた点は、演じる人も見ている人も遠慮なく意見し、場合によってはその場で脚本の変更もある。それを何度も何度も繰り返し、みんなが納得するまで続けるのだ。

 

 3度、シーン1を通しで練習したところで、梓が言う。「うーん。未来はもっと、全体的にセリフに感情を込めた方がいいわね。あと、動きも硬いから、もっと自然に演技できるようにね。じゃあ、シーン1はこれくらいで、次のシーンに行こうか」

 

「ちょっと、冗談でしょ?」口を挟んだのはさとみだ。「幼稚園のお遊戯会じゃないんだから、もっとちゃんとしたレベルにしてもらわないと困るんだけど? まさか、あんなヘタクソな演技で満足するの?」

 

 むっかー。幼稚園のお遊戯会だって? あたしのことじゃないけど、いや、未来のことだからこそ、腹が立つ。確かに今の未来は緊張してガチガチだから、満足な演技ができてないけど、何もあんな言い方しなくてもいいじゃないか。未来、しゅんと肩を落としてしまう。

 

「うーん。別に今ので満足したわけじゃないけど、だからって、このシーンばかり練習しててもしょうがないでしょ? シーンはたくさんあるし、練習期間は短いし」あっさりした口調で答える梓。

 

「あたしたちは優勝を目指しているんです」さとみに代わって愛梨が言う。「部長がそんな甘い考えでは困ります」

 

「……だってさ。未来、どうする?」

 

「……あ……えっと……」顔を伏せ、言い籠る未来。さとみがイライラしているのが伝わってくる。

 

「……もう1度、やらせてください」未来は、絞り出すようにそう言った。

 

「そう。判ったわ。じゃあ、もう1度最初から行きましょう!」

 

 梓の言葉で、役者は最初の位置に戻る。梓が手を叩き、演技スタート。しかし、未来の演技はあまり変わらない。最後まで通したけれど、さとみも愛梨も納得せず、また最初から。それを何度も何度も繰り返す。まるで姑の嫁イビリのようだ。ついに10回目。それでもさとみたちは納得せず、ついに未来は。

 

「……梓部長……やっぱり、あたしにディアナなんて無理ですよ……」

 

 泣きそうな顔で言った。でも、それも仕方がない。これじゃあまるでイジメだ。弱音の1つも吐きたくなるだろう。

 

 ふう、と、梓は大きく息を吐いた。でも、笑顔で未来に声をかける。「そんな気を落とさないで。誰だって最初からうまくできるわけじゃないよ。まだまだ時間はたっぷりあるんだから。とりあえず、休憩しようか?」

 

 梓の言葉を聞いて、愛梨は大袈裟にため息をついた。「部長、休憩も何も、あたしたち、まだ何にもやってないんですけど?」

 

「まあ、そうカリカリしないの。未来だって、一生懸命やってるんだし」

 

 相変わらず軽い感じの口調の梓に対し、愛梨の顔にはあからさまな不快感が浮かぶ。

 

「――もういいわ」

 

 さとみがそう言って、部室を出て行こうとする。

 

「ちょっと、どこ行くの?」と、梓。

 

「そのヘタクソに合わせてたら、いつまでたっても稽古できやしない。先生に言って、体育館を使わせてもらうわ。あたしたちはそっちで稽古してるから、せめて小学生の学芸会のレベルになったら、呼んでちょうだい」

 

 そう言って、さとみは部室を出て行った。愛梨と、他の部員たちも続く。

 

「しょうがないなぁ。サボらないで、ホントにちゃんと練習しなさいよ!」梓は部屋を出て行く部員たちの背中に向かって言った。

 

 残ったのは、未来と梓とあたしの3人だ。

 

「スミマセン、部長……あたしのせいで、みんなバラバラですね……」力ない口調の未来。

 

「そんなことないって。ただみんな、お披露目会まで時間が無いから、この時期はどうしてもピリピリしちゃうのよ。気にしない気にしない。それに、さっきも言ったけど、お披露目会は予行演習みたいなもんなんだから。気楽にやろうよ、気楽に」

 

「そうだよ。あんなヤツの言うことなんて、気にすることないよ!」あたしも未来を励ます。「未来の演技、だんだん良くなってきてると思うよ。大丈夫! 元気出して!」

 

「そう……ですかね……ありがとうございます、結衣先輩」未来は笑顔を浮かべた。でも、いつもの天真爛漫な笑顔と違い、弱々しくしく、今にも消えそうな笑顔だった。

 

「ちょっと、トイレ、行ってきます」

 

 未来は、とぼとぼと歩いて部室を出て行った。あたしと梓は、顔を見合わせ、そして、一緒に溜息をついた。

 

「あの娘、大丈夫かな?」あたしは言った。

 

「うーん。まあ、ちょっとやそっとのことではへこたれない娘なのは確かだよ」心強い梓の言葉。

 

「そう、だよね」

 

 心配だけど、今は梓の言葉を信じよう。

 

「それにしても、さとみって、ホントにイヤなヤツだよね」あたしは、憎々しげに言った。さっきのあの態度――いや、それまでの態度も全部だけど――本当に、思い出しただけでも腹が立つ。「未来にディアナ役を取られたくらいで、あんなにふてくされて、あんな嫌がらせしなくてもいいじゃない。あれじゃ、まるでイジメだよ」

 

 と、あたしがそう言うと。

 

 梓の眉間に、一瞬、皺が寄った。

 

 ――ような気がした。

 

 気のせいだったのか、梓はいつもの笑顔で。

 

「そう? あたしは、さとみの気持ちは判らないことはないんだけど?」

 

「……何? あんた、さとみの味方なの?」

 

「んー。あたしは別に、誰かの味方ってわけではないよ。あたしは部長だから、部員全員の味方かな?」

 

 なんだかはぐらかすような口調だな。まあ、いつもの調子と言えばそうなんだけど。

 

 ガラガラ、と、ドアが開いて、未来が戻ってきた。

 

「よし! じゃあ、練習再開しようか? 主神ベルン役は、結衣、お願いね!」

 

「は!? あたし!? あたしに演技なんて、ムリに決まってるでしょ!? 冗談やめてよ!」

 

「しょうがないでしょ? 誰もいなくなったんだし、あたしは未来の演技指導しないといけないし。いいじゃん。さっきから結衣、全然手を動かしてなかったでしょ? ちゃんと見てるんだからね?」

 

「いや、それは、小道具の状態が思いのほか良いから、あんまりやることが無くて」

 

「だったら、いいじゃん。大丈夫。ちゃんとした演技なんて期待はしてないから。ただ、未来と一緒と合わせて台本読んでくれるだけでいいから」

 

「そんなこと言われても……ほら! 未来だって、あたしみたいな素人じゃ、演技しづらいだろうし、ねぇ?」

 

 未来を見る。すると。

 

「結衣先輩……あたし、結衣先輩がベルン役やってくれるなら、頑張れそうな気がします!」

 

 死人みたいな表情はどこへやら。目をキラキラ輝かせて、祈るようなポーズであたしを見る。

 

 クッ……さっきまでの落ち込んでいた未来から一転、この子供のような純粋な視線。これは、断りづらいぞ。

 

 ……仕方がない。

 

「ん……まあ、セリフを読むくらいなら、いいけど……」

 

 しぶしぶOKすると。

 

「ホントですか!? やったあぁ!!」

 

 未来は、子供みたいにぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。

 

 その姿を見て。

 

 初めて会った時の未来を、思い出した。

 

 3年前の、ちょうど今頃だ。小学校6年生の春。駅前の、堀北中央公園。未来と明奈とあたしとで、ナースエンジェルごっこをした、あの日。

 

 あの日の未来と、同じ笑顔。

 

 ――――。

 

「よし! じゃあ、最初のシーンから行くよ! えーっと、シーン1。森の中、女神ディアナと主神ベルンの出会いのシーン!」

 

 あたしは、自分を奮い立たせるように大声を出し、そして、位置に着いた。

 

「はい! よろしくお願いします! 結衣先輩!!」未来も位置に着く。

 

「よし、じゃあ、スタート!」

 

 ぱん! と、梓が手を叩き、稽古が始まった。

 

 

 

「――ソ……ソナタニハ、レイガシタイ。ナニカ、ノゾミハアルカ」

 

 どうだ!? 今のは完璧な演技だろ?

 

「……先輩、宇宙人が地球を訪ねてきたんじゃないんですから、もっとセリフに感情を込めてくれないと困ります」未来、ため息をつく。

 

「そうだね。このシーンは、ベルンがディアナの優しさに触れ、惹かれるきっかけになるシーンだから、主神の威厳の中にも、温かみを感じるような口調で言ってもらわないと」

 

 威厳の中にも温かみを感じる……か。難しいな。あたしは梓の助言を台本にメモする。

 

「……てか、何であたしの演技指導になってんのよ。未来のための稽古でしょ。未来の」

 

「あー。まあ、そうなんだけど、あまりにも結衣の演技がヘタだったから、つい」ペロ、っと舌を出す梓。

 

「そうですね。いくら助っ人でも、もう少し演技のレベルを上げてくれないと、あたしも気分が乗りません」

 

 イジワルな口調で言う未来。クソ……幼稚園のお遊戯会レベルが偉そうに。

 

「そんなこと言うんだったら、あたし帰る。あーあ。あたしもFF8、やりたかったんだよねぇ」

 

「あーごめんごめん。ちゃんとマジメにやるから」慌てて止める梓。フン。あたしのありがたみを思い知ったか。「未来もちゃんとやりなさい。ほら、『正宗で大根を切る』って、言うでしょ? 名女優は、相手がどんなにヘタな演技をしても、文句を言わず、自分にできる最高のパフォーマンスをすればいいの」

 

「ナルホド……判りました!」梓の助言を律儀にメモする未来。

 

 ……てか、真にウケるなよ。今のことわざは、全然意味が違うと思うぞ。

 

「じゃあ、もう1回行くよ」

 

 梓がそう言うので、あたしは仕方なく元の位置に戻る。

 

「今度は止めないからね。はい、スタート!」ぱん! と手を叩く梓。

 

「ソ……ソナタニハ、レイガシタイ。ナニカ、ノゾミハアルカ」

 

「そ、そんな! めっそうもございませんです。あたし、一応医者ですから、当然のことをしたまでで。だから、お礼なんてもう、その言葉だけで十分ですよ、はい」

 

 あたしの最高の演技に、未来は、まあまあの演技で応えた。

 

 と、まあそんな感じでのびのびと稽古をしていたら、あっという間に時間は過ぎて。

 

「げ……もうこんな時間?」と、梓が言った時には、すでに下校時間を10分ほど過ぎていた。「……あの娘たち、ちゃんと稽古してたかな? ゴメン、今日の稽古はこれで終わりにするね。お疲れさん。あたし、さとみたちの様子見てくる」

 

「はい、お疲れ様でした!」ぺこり、と頭を下げる未来。

 

 ふう。やっと終わったか。あっという間といえばあっという間だったけど、長いといえば長すぎる1日だった。なんせ、あたしの記念すべき女優デビューの日だったからな。楽しかったけど、疲れたよ、ホントに。もう2度とゴメンだ。

 

「あ、結衣、ちょっと、いい?」

 

 部室を出て行こうとした梓が手招きをする。なんだろ? あたしが梓のそばに行くと、梓は声を潜め。

 

「……今日は、ホントにアリガトね。で、悪いんだけどさ、明日からも、未来の稽古に付き合ってあげてよ」

 

「えー? ヤだよ。あたし、ホント演技とかムリだし。未来も、あたしなんかより部のみんなと練習した方が、絶対上達するって」

 

「まあ、そうなんだけどね……でも、結衣も気づいたでしょ? 未来の演技、みんなと稽古してた時と比べて、格段に良くなってる」

 

 ……確かに、それは思った。さとみたちがいなくなり、プレッシャーから解放されたからか、のびのびと演技ができていた。

 

「もちろん、おいおい部のみんなと一緒に稽古しないといけないけど、しばらくは、ね? 未来のために」

 

 そう言われると、断るわけにもいかなくなる。

 

「判った。でも、ほんとに少しだけだからね?」

 

「ありがと。じゃあ、よろしくね」

 

 梓はウインクをして、部室を出て行った。

 

 …………。

 

「よし。じゃあ、未来、帰ろうか?」

 

「あ、いえ。あたしはもう少し、残って稽古しています」

 

「え? でも、もう下校時間過ぎてるよ?」

 

「この時期は、少しくらい下校時間を過ぎても、先生も大目に見てくれますから、大丈夫です」

 

 そう言えば、去年もそうだったな。涼子先輩や美智子部長とか、みんなが帰った後も残って練習してたっけ。

 

「結衣先輩は、先に帰ってください。今日は本当に、ありがとうございました」

 

 未来は笑顔でそう言うと、再び台本を広げ、シーン1の初期位置に立った。

 

 そして、見えない主神ベルンを相手に、稽古を始めた。

 

 …………。

 

「未来。あたしも付き合うよ」あたしも台本を広げた。

 

「え? いいですよ! 遅くなると申し訳ないんで、結衣先輩は、気にせず帰ってください!」

 

「大丈夫大丈夫! お母さんには、部活だって言ってるし。あたし、今まで部活とかやったことないから、お母さん喜んでたの。だから、少しくらい遅くなっても大丈夫。よし。じゃあ、最初から行こうか!」

 

「はい!」

 

 未来は元気満点の笑顔で返事をする。あたしたちは、その日は遅くまで部室に残り、稽古を続けた――。

 

 

 

 

 

 

 で。

 

 3日ほど、そんな感じで、あたしたち3人と、その他の部員たちに分かれての稽古が続いた。

 

 最終シーンまで一通りの稽古を終え、未来の演技は、初日と比べると飛躍的に良くなった。梓がその旨をさとみたちに伝えると、しぶしぶ、という感じではあったが、他の部員たちも部室に戻って来た。

 

 4日目。久々に部員全員そろっての稽古ということで、未来はやっぱり緊張しており、3人で稽古した時のようなのびのびとした演技には程遠かったけれど、それでも初日に比べると、安心して見ていられる。

 

 もっとも、それでは納得しない人もいる。言うまでもなく、さとみだ。

 

「違う! ここはディアナがミネルヴァに対して初めて感情を爆発させるシーンなの! まだお互いのことをよく知らないんだから、もっと突き放すような言い方でやりなさい!」

 

「仲間が殺されて何そんな冷静なしゃべり方してるの! もっと感情を乱しなさい!」

 

「何? 今のは!? ここはミネルヴァだけでなく、ディアナの心の葛藤も表現しないといけないの! セリフが無いからって、ボーっと立ってないで、ちゃんと演技しなさい!」

 

 と、まあ、あたしに一体何を言っているのかさっぱりわからない、どう聞いても単なる言いがかりのようなことで怒声を飛ばし、その都度未来は頭を下げる。そして、そのシーンは最初から。それが他の部員に対しても同じような態度ならまだ良いのだけど、完全に未来だけをターゲットにしているから始末が悪い。

 

「まあまあ、そうカッカしないの。未来の演技、だいぶ良くなってるわよ」

 

 と、梓は一応フォローはするものの、積極的にさとみを止めようとはしない。理由を訊くと、「言ってることは間違ってないから」と答えた。確かにそうなのかもしれないけど、それにしたって他に言い方とかあるだろうに。みんなの前で1人槍玉にあげられる未来の姿は、見ていて本当にかわいそうだった。

 

 下校時間となり、みんなが帰った後も、未来は残って稽古を続ける。この時期演劇部は多少下校時刻を過ぎても黙認されてはいるけど、それもせいぜい30分から1時間くらいだ。そんなわずかな時間ですら惜しみ、稽古に励む未来の姿は、本当に健気だ。あたしと梓は、毎日未来の稽古に、最後まで付き合った。

 

 稽古が始まって1週間。その日、あたしはお母さんからお使いを頼まれていた。お母さんはフリーライターの仕事をしており、その原稿のデータが入ったフロッピーディスクを、出版社に届けてほしいとのことだ。部活があるからと一応渋っては見たものの、「お母さんはどうしても外せない用事があるし、この原稿を届けないと、夏までご飯が食べられないの」と言われると、むげに断るわけにもいかない。なので、しょうがなく引き受けた。

 

 原稿を届けるタイムリミットは夜9時とのことなので、部活は途中までは参加できた。梓たちに理由を説明し、途中で抜けさせてもらう。

 

 お母さんからは、「原稿ができるのは昼過ぎ」と言われていたので、厄介なことに、1度家に帰らなければならない。ダッシュで家まで帰り、キッチンのテーブルの上に置かれてあるフロッピーディスクを手に取り、自転車で堀北駅へ。駅前のショッピングセンターの裏側にある雑居ビルに、出版社のオフィスがある。地方のタウン情報誌などを扱う小さな出版社だ。受付のお姉さんに要件を話し、フロッピーディスクを渡してお使い終了。時計を見ると、8時ちょっと過ぎ。部活はすでに終わっている。未来の延長練習にも間に合いそうもない。まあ、仕方がないか。どうせ演劇素人のあたしがいても何の役にも立たないしね。あ、そうだ。昨日梓から、小道具とかの買い出しを頼まれたっけ。急ぎじゃないから別に今日じゃなくてもいいんだけど、せっかく駅前まで来たから買って帰ろう。あたしは雑居ビルを出て、ショッピングモールへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 買い物は無事終了。時計を見ると、9時過ぎだ。ちょっとのんびりしすぎたかな。今から帰ると門限ギリギリだけど、まあ、今日はお母さんに頼まれたお使いの結果だ。怒られたりはしないだろう、うん。あたしはショッピングモールを出て、自転車に乗った。駅前には堀北中央公園がある。家に帰るにはその中を通るのが近道だ。

 

 公園に入り、しばらく自転車を漕いだところで。

 

「――ミネルヴァ……あなたは、あの人たちの命、生活、人生を護るために、今まで戦ってきたんでしょう?」

 

 どこかで聞いたことのあるセリフが聞こえてきた。

 

 ……ん? 今のって、まさか。

 

 ブレーキをかけ、辺りを見回す。……いた。噴水のそば。外灯の下で、女神ディアナが鬼神ミネルヴァを説得する、物語のクライマックスシーンを、1人演じている女の子。

 

「未来?」声をかける。

 

「あれ? 結衣先輩? こんなところで、何してるんですか?」演技を中断し、笑顔でこちらを向く未来。

 

「それはこっちのセリフだよ。あんたこそ、こんなところで何してんの?」

 

「もちろん、稽古です」

 

 当然のように答えたけど、中学2年の女子が夜の公園で1人演技の稽古というのは、いくらなんでも危なくないだろうか?

 

「あ、それは大丈夫です。すぐ近くに、交番がありますから」

 

 公園の出入り口を指さす未来。道路を渡ってすぐの所に、確かに交番があり、お巡りさんもいる。駅前だからパトロールで無人になることも無さそうだ。

 

 でも、それにしたってこんなところで練習しなくても、と思ってしまう。

 

「仕方ないですよ。さすがにもう学校は使えませんし、家だと、叫ぶシーンとかは近所迷惑になりますし」

 

「まあ、そうかもしれないけど。いつもここで練習してるの?」

 

「はい。大体1時くらいまでやってます」

 

 1時? 日付変わってるじゃん。よく親に怒られないな。てか、この娘、朝練も出てるんじゃないのか? 1時まで練習して、朝練にも出るんじゃ、睡眠時間って3時間くらいだぞ?

 

「あたしなんかがディアナの役をやるんです。それくらい稽古しないと、見に来てくれる人に失礼じゃないですか」

 

 当たり前のように、そう言った。

 

 …………。

 

 この娘は、本当に……。

 

 あたしは、自転車を降り、スタンドを立てた。「よし! 今日はあたしも付き合うよ!」

 

「ええ!? いえ、そんな、悪いですよ! 遅くなると、結衣先輩、お母様に怒られちゃいます!」

 

「大丈夫大丈夫! あたし、ミネルヴァ役やるね。台本借りるよ」

 

 外灯の下に置いてあった未来の台本を手に取る。えっと、今のシーンはかなり後半だ。ぱらぱらとページをめくる。

 

 と、そこには。

 

『ディアナがミネルヴァに初めて感情を爆発させるシーン。お互いのことをよく知らないので、突き放すような言い方で』

 

『仲間が殺された感情をセリフに乗せる』

 

『ディアナの心の葛藤を表現。セリフが無くても演技をする』

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 と。

 

 ほとんどすべてのページに、赤や青のペンで、びっしりと、細かく、注意事項が書き込まれていた。

 

 それも、ディアナのセリフだけではない。

 

 ミネルヴァのセリフ、ベルンのセリフ、メイドクレイアのセリフ、正妻エリザのセリフ、果ては、ほんの一言しかない端役のセリフにまで、感情の込め方、動き、セリフに無い心情、その他、稽古中に梓やさとみや他の部員が言ったこと、その全てが、台本内に書き込まれていた。

 

 じっと、未来の台本を見つめる。

 

 この台本は。

 

 未来の、努力の結晶だ。

 

 まだ、稽古が始まって1週間しかたっていないけれど。

 

 この台本には、未来の努力が詰まって、とてつもなく、重い。

 

「……ちょっと、結衣先輩? なんで泣いてるんですか!?」

 

 慌てた口調で未来が言って、あたしは、自分が涙を流していることに気が付いた。

 

「……何でもない」

 

 涙をぬぐう。

 

 あたしは今、心の底から理解した。

 

 なぜ、未来がディアナに選ばれたかを。

 

 未来こそ、ディアナにふさわしいのだ。

 

 ――あたしはディアナに向いていない。

 

 あなたはそう言うけれど。

 

 それは、断じて違う。

 

 こんなにも努力しているあなたが。

 

 ディアナにふさわしくないなんてことが、あるわけがない。

 

 確かに、あなたはプレッシャーに弱い。少しの緊張で自分の本来の演技ができなくなる。その演技も、涼子先輩やさとみに比べたら、まだまだ未熟だ。

 

 でも。

 

 それを補って有り余るものを、あなたは持っているのだ。

 

 堀北中学演劇部員の誰にも負けないものを、あなたは持っているのだ。

 

 そのことを、証明しなければいけない。

 

 1週間後のお披露目公演で、必ず、証明する。

 

 未来、あなたこそ、女神ディアナにふさわしい――そのことを、証明しよう。

 

「よし! さあ、練習始めるよ! 今夜は、あたしもとことん付き合うから! 目いっぱい練習して、さとみたちを見返してやろうね!!」

 

 大声で、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 その後、あたしは未来の稽古に最後まで付き合い、家に帰ったのは、夜中の1時を大きく過ぎた時間だった。当然、お母さんにはものすごく怒られたけど、それくらいは何ともない。

 

 

 

 

 

 

 そして、さらに2週間が過ぎ――。

 

 ゴールデンウィーク初日。ついに、堀北中学演劇部、春のお披露目会の日がやってきた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「セリフを変える? 今からですか?」

 

 体育館の舞台裏、公演まであと15分ほどの時間。舞台のセットを準備するあたしと梓は、未来の声で手を止めた。振り返ると、さとみと愛梨が、未来に何か言っていた。

 

 ――今、セリフを変える、って言ったような。

 

 イヤな予感がした。あたしは、準備を中断して未来の下に駆け寄り、声をかけた。「未来、どうかした?」

 

「あ、結衣先輩――」不安に震える瞳を向ける未来。「さとみ先輩が、台本のセリフを変えたい、って……」

 

 ……やっぱり。

 

 きっ、っと、さとみに鋭い視線を送る。さとみは、「何?」と言わんばかりに顎を上げ、あたしの視線を受け止めた。

 

「何で今更そんなこと言いだすの? 開演までもう10分くらいなのよ? いまさら変更なんて、ムリに決まってるでしょう?」あたしは未来を庇うように前に出て、さとみを睨みつけたまま言った。

 

「開演10分前だろうと、開演した後だろうと、良くなるならいつでもセリフは変更するわ。それがこの部のやり方」さとみの視線は、あたしを飛び越え、後ろの未来に注がれる。「堀中演劇部の主演でしょ? そのくらい、できるわよね?」

 

「え……はい……判りました……」

 

 未来は自信なさ気にそう言った。

 

 判っている。これは、プレッシャーに弱い未来に対する嫌がらせだ。開演前にこんなことを言われたら、未来は緊張して、また稽古初日のように、本来の演技ができない状態になりかねない。

 

 しかし。

 

 そんなことをして、一体何になると言うんだ。

 

 演劇部は、全員団結して、秋の大会での優勝を目指しているんじゃないのか? ここで主演の未来が何か失敗し、今日のお披露目会が失敗なんてことになったら、それは演劇部にとって大きな躓きだ。そんなことで優勝が狙えるのだろうか? それとも、主演を未来に取られたら、秋の大会なんて、もうどうでもいいのだろうか? 去年の涼子先輩との約束は、もうどうでもいいのだろうか?

 

 去年の涼子先輩との約束――T.A.D.の夢を託されたさとみ。

 

 T.A.D.True Actress Diana.『ディアナとミネルヴァ』の演劇で秋の大会に優勝した時、主役のディアナを演じていた人に、与えられる称号。

 

 確かに、T.A.D.の称号を得るには、ディアナ役を演じなければならない。鬼神ミネルヴァを演じている限り、T.A.D.には、決してなれないのだ。

 

 でも、涼子先輩との約束は、そういう意味では無いはずだ。

 

 こんな嫌がらせをして、仮に未来がディアナ役を辞退し、さとみがディアナに選ばれ、それで優勝できたとして、果たして涼子先輩が喜ぶだろうか?

 

「未来、そんなこと、やる必要ないよ」あたしは、未来に向かってそう言った。そして、未来の代わりにさとみを睨みつける。「台本は変えないわ。今まで練習した通りにやる。いいわね」 

 

 あたしがそう言うと、隣の愛梨がため息をついた。「部外者は黙っててください。これは、演劇部の問題なんで」

 

 むっかー。何かといえば部外者部外者と言いやがって。確かにあたしはただの助っ人だけど、間違ってることを間違ってると言って何が悪い。ああ、いくら温厚なあたしでも、さすがに限界があるぞ。

 

「はいはい。そこまでそこまで」ぱんぱんと手を叩きながら、梓が間に入った。「結衣、準備が遅れてるよ。開演まであと10分もないんだから、手を止めないで」

 

「そんなこと言っても、さとみたちが――」

 

 言いかけたあたしを制し、梓はさとみを見る。「話は大体聞いてたわ。確かにあなたの言う通り、良くなるならいつでもセリフを変更する、それが堀中演劇部のやり方。でもね、セリフをいじって、例えそれで良くなったとしても、今日はまだお披露目会。大会とは違うわ。あまりメリットは無いでしょ? それよりも、セリフをいじることによって悪くなってしまう方が心配。今日、そんなリスクを冒す必要はないわ。セリフを変えたいのなら、今日の公演が終わってから聞くわ」

 

 堂々とした口調で、そう言った。

 

 しばらく梓と睨み合うような格好になったさとみだけど、すぐに視線を外し、「判ったわ」と小さく言って、そして、背を向けた。愛梨がその後について行く

 

「ああ、それと、愛梨」梓が呼び止める。「確かに結衣は、大会直前だけ手伝ってもらってる助っ人で、正式な部員じゃないけど、結衣が裏方の仕事をやってくれるから、部員みんな演技に集中できるの。あたしたち演劇部には欠かせない存在よ。2度と部外者なんて言わないで」

 

 ちょっと怖い声で、そう言った。

 

 愛梨は、振り返らずに去って行った。

 

 ……おお。なんか、初めて梓の部長らしいところを見た気がするぞ。

 

「……何よ、その目は? あたしだって言う時は言うのよ?」

 

「あは。そうだね。ありがと、梓」

 

「……お礼を言うのはこっちだよ。ホント、結衣がいてくれて助かってるよ。さあ、準備準備」

 

 おっと。そうだった。時間が無い。急ごう。

 

「と、いうわけだから、未来、あたしたち、行くね。大丈夫。あの2人の言うことなんて、気にしないで。ちゃんと集中して、自分の演技をやればいいんだよ」

 

 笑顔でそう言ってあげたけど、未来は。

 

「……はい」

 

 と、元気のない声で頷いただけだった。大丈夫かな? 心配だけど、今は開演の準備をしなきゃ。

 

 あたしは、未来を心配しつつも開演の準備を急いで済ませた。そして5分前になり。

 

「はーい。みんな集合!」

 

 梓がみんなを呼ぶ。準備運動や最後のセリフの読み合わせをしていた部員たちが、全員集まる。

 

 開演前恒例の、部長からの言葉だ。さて、梓はこの大役をどうこなすのか。

 

 緊張した面持ちで、部員たちは梓の言葉を待つ。

 

 梓は、コホン、と、咳払いをして。

 

「えー。あたしが今から、美智子先輩みたいに何か良いことを言うと思ったら、大間違いです」

 

 胸を張って、そう言った。

 

 ……って、なんじゃそら。今年最初の舞台を前に、そんなことを言う演劇部部長がどこにいる。

 

 部員みんな、目を丸くして驚いている。ああ。やっぱこの娘、部長に向いてないんじゃないか?

 

 と、思っていたら。

 

 部員たちの間から、クスクスと笑い声が上がった。

 

 その笑い声を聞いて、梓もにっこりと笑う。「まあ、今日は大会じゃないし、余計なことは考えず、のびのびと演技をして、舞台を楽しみましょう。あたしからはそれだけ。じゃあ、頑張って!」

 

 梓の言葉に、部員たちは笑いながらも「はい!」と、大きな声で返事を返した。緊張感のないスピーチだったけど、部員の緊張は確実にほぐれた。これはこれで、梓らしくていい。

 

 でも。

 

 笑ってない部員も、いた。

 

 さとみと、愛梨と。

 

 そして、未来だ。

 

 あたしの胸を、言い知れぬ不安が覆う。嫌な予感がする。

 

 しかし。

 

 舞台の幕は、上がった――。

 

 

 

 

 

 

 序盤は、順調に進んだ。

 

 森の中でのディアナとベルンの出会いのシーン。お城で正妻エリザに謁見するシーン。ディアナの部屋でクレイアと対面するシーン……と、演技も、セット変更も、何の問題も無く進んだ。

 

 未来は、初めこそかなりの緊張をしていたものの、ミスをすることはなく、演技が進むごとに、硬さも徐々に取れて行った。

 

 そして、序盤の見どころ。ディアナとミネルヴァが初めて感情をぶつけて対立するシーン。国を護るために仲間を見捨てたミネルヴァに、ディアナが怒りをぶつける。

 

「随分立派なのね、国を護るって。あなたみたいに、心も持たない冷たい人に、護ってほしくなんかないわ!」

 

 ディアナ役の未来の声がホール内に響く。このシーンは、何度も練習をした。国を護るために戦う、という意味をまだ知らないディアナの、考えの甘さを表現しなければならないそうだ。うん。うまく表現できたと思う。

 

 それに対し、いつもはクールなミネルヴァが、初めて感情を乱す。

 

「あなたに私の何が判るの!!」叫ぶさとみ。

 

 ふと。

 

 開演前の、イヤな予感がよみがえる。

 

 さとみ、まさか、梓の言うことを無視して、アドリブを入れたりしないよね?

 

 序盤の重要シーンだ。本来ならアドリブを入れたりするようなところではないけれど。

 

 でも、さとみの目的が、作品を良くしようとするのではなく、単に未来に対して嫌がらせをしたいのならば、こういうシーンにアドリブを入れるのは、効果的ではないだろうか? 

 

 ……いや、いくらなんでもそれは無い。そう思う。そう思いたい。お願い! 台本通りのセリフを言って! 祈る。

 

 さとみは。

 

「私はあなたとは違う! あなたみたいに同情したり慰めたりできれば、そりゃあ気が楽でしょうけどね、そんなんじゃ、国は護れないのよ!!」

 

 台本と同じセリフを、未来にも負けない大声で叫んだ。

 

 ……ふう。大きく息を吐くあたし。気付かない間に、息を止めていたようだ。

 

 その後も台本通り演技は進み、そのシーンは終了となった。良かった。やはりさとみも、部長命令に逆らってまでアドリブを入れたりはしないだろう。きっと、この後も大丈夫だ。

 

 おっと、ボーっとしてる場合じゃない。セットを変えないと。あたしと梓は暗転した舞台に出て行った。

 

 中盤のシーンも、何の問題もなく順調に進む。メイドのクレイアがディアナを裏切り、ミネルヴァが捕まえる。ここでも2人の対立シーンはあるけれど、さとみがアドリブを入れることはなかった。さとみが、未来に対してただ嫌がらせをしたいだけ、なんて、あたしの考えすぎだったかな。そう思った。

 

 でも。

 

 物語の終盤で、その事件は起こった。

 

 それは、終盤最大の見せ場――つまり、物語最大の見せ場だ。ディアナとミネルヴァ、最後の対立シーン。より多くの民の命を救うために、少数の民の命を見捨てることもやむ得ない、と考えるミネルヴァ。当然ディアナは反発し、そして、諭す。

 

「ミネルヴァ……あなたは、あの人たちの命、生活、人生を護るために、今まで戦ってきたんでしょう? あなたの言っていることは、あの人たちからそれらすべてを奪ってしまうということなの! それが国を護ること? 違うでしょう!! お願いよ、ミネルヴァ。国を護るという、本当の意味を思い出して!」

 

 ディアナの言葉に対し、ミネルヴァは。

 

「……あなたには、敵わないわね。判ったわ。一緒に、戦いましょう」

 

 そう笑顔で応えた。

 

 この瞬間、長かった2人の対立は終わり。

 

 物語は、エンディングへと向かう。

 

 良かった。さとみは、ここでもアドリブをしなかった。後のシーンは、もう大丈夫だろう。

 

 そう、胸をなでおろした時だった。

 

 舞台上では、喜びのあまり、ディアナがミネルヴァに抱きつくのだけれど。

 

 未来、あまりに感情が入りすぎたのだろうか。かなりの勢いで、さとみに飛びついた。

 

 よろけるさとみ。

 

 ぐき――。

 

 そんな音が聞こえてきそうなほど、さとみの右足首が、おかしな方向に曲がった。

 

 そして、2人はそのまま派手に転んでしまう。

 

 客席から、笑い声が上がる。

 

 それは、転んでしまった2人に対する嘲笑ではなく、そういうシーンだと思われたからだった。もちろん、抱き合った2人が転ぶなんて、台本には無い。でも、これはこれでディアナのそそっかしさを表していて、不自然さは無かった。そのまま続けても、問題は無かった。

 

 しかし――。

 

「すみません! 大丈夫ですか!?」

 

 未来が、思わず言ってしまった。

 

 それは、女神ディアナが、鬼神ミネルヴァに対して言った言葉ではなく。

 

 未来が、先輩であるさとみに対して言った言葉だった。

 

 このような場合、ディアナなら、「ゴメンゴメン、大丈夫?」と言うはずだ。長い間対立してきたとはいえ、ディアナとミネルヴァは深い絆で結ばれている。敬語を使うなど、ありえない。

 

 その不自然さに、観客も気づいた。笑い声が止まった。

 

 演劇中、謝る――これは、絶対にやってはいけないことだ。

 

 たとえセリフを間違ったり、今のようにハプニングで転んでしまっても、舞台上で謝っては、絶対にダメなのだ。

 

 セリフを間違おうが転ぼうが、舞台の上では、演技は続いているのだ。謝る、ということは、役を抜き、素の状態に戻ることである。

 

 つまり、演技を止めることなのだ。

 

 だから、普段の練習でも、セリフを間違ったりしても、誰も謝らない。どんなにおかしくても、間違ったセリフのまま進めるようにしている。

 

 未来も、そのことに気づき、口を押える。これも、良くない行動だ。

 

 さとみが、体を起こした。

 

 そして。

 

「あなたこそ、大丈夫?」

 

 ミネルヴァの口調で、そう言った。

 

 その言葉で、未来もディアナに戻る。

 

「うん、あたしは大丈夫!」

 

 そう言って、立ち上がった。

 

 さとみも立とうとする。

 

 その動きが止まった。

 

 もしかして、さっき転んだ時、足をひねったか?

 

 そう思ったけど、止まったのは一瞬で、すぐにさとみは立ち上がった。「じゃあ、行こうか!」

 

「ええ!」

 

 ディアナが言い、2人は走って舞台袖に消える。どうやらさとみの足は大丈夫のようだ。

 

 舞台裏に戻って来たさとみと未来。舞台上と一転、2人の表情は暗くなる。

 

「あの……さとみ先輩……さっきは……」動揺する未来。

 

 それに対して、さとみは。

 

「後にしなさい! まだ最後のシーンが残ってる!」

 

 怒りに任せた言葉を投げかけた。

 

 ――大丈夫よ、気にしないで。

 

 そう言ってあげれば、どんなに未来の心が救われるか、さとみには判らないのだろうか? もちろん、今のシーンは明らかに未来のミスだ。責められても仕方がない。でも、それをフォローしてこその仲間じゃないのだろうか?

 

「結衣、何してんの。行くよ」

 

 梓に呼ばれた。舞台の照明はすでに消えている。最後のシーンの準備をしなければいけない。あたしは仕方なく、舞台に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 最後のシーンが始まった。

 

 未来もさとみも、そして、他のみんなも、ラストシーンは何の問題も無く終え。

 

 そして、幕が下りた。

 

 ミスはあったものの、それでも、堀北中学春のお披露目会は、例年通りのスタンディングオベーションで終わった。

 

 

 

 ――でも。

 

 舞台裏では、「ああ、良かったね」とはいかなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「――まったく、とんでもない恥だわ! 女神ディアナが鬼神ミネルヴァを押し倒して、しかも『すみません! 大丈夫ですか!?』ですって? あきれて何も言えないわ」

 

『何も言えないわ』と言いながらも、さっきからずっと文句を言っているのは愛梨だ。さとみは、壁にもたれかかり、腕組みをして、じっと未来を見ている。舞台を終えてから、一言もしゃべっていない。

 

 そのさとみの代弁者のつもりなのか、愛梨の口は止まらない。「これで部長も判ったでしょう? この娘なんかに、ディアナ役は無理なんです。主演が舞台上で素に戻って謝るなんて、前代未聞です。早急に配役の変更を希望します」

 

 愛梨が梓を見る。梓は、やれやれ、という表情をすると、未来に視線を向けた。

 

「未来、なんか言うことはないの?」

 

 梓に言われ、ずっとうつむいていた未来は、顔を上げる。

 

 そして、みんなの方を向き、

 

「今日は、本当に申し訳ありませんでした」

 

 深く、頭を下げた。

 

「フン、謝って済む問題じゃないでしょ」鼻で笑う愛梨。

 

 未来は、言葉を継ぐ。「愛梨ちゃんの言う通りです。やっぱり、あたしにディアナ役なんてムリです。今日の一件で、そのことがよく判りました」

 

「ちょっと、未来!」あたしは未来の言葉を止めようとする。

 

 でも、未来はあたしの方を見て、そして、寂しそうに笑った。「いいんです。あたしなんて、演技はヘタだし、才能も無いし……それだけじゃなく、今日は、危うくさとみ先輩にケガをさせてしまうところでした。ディアナ失格です。でも、1度でも、ディアナを演じることができて、本当に、良かったと思っています。あたしはもう満足ですから、秋の大会は、さとみ先輩に、ディアナを演じてもらってください。お願いします」

 

 未来は、梓に向かって頭を下げた。

 

 しばらく沈黙。

 

 何と声をかけていいのか、判らない。

 

「……まあ、未来がそう言うのなら、そうするけど」ようやく、梓がそう答えた。

 

 ――本当に、本当にそれでいいの? 未来?

 

 あなたは、ディアナの役を、誰よりもやりたがってたじゃないか。

 

 あなたは、ディアナの役を、誰よりも練習してきたじゃないか。

 

 それなのに、たった1回のお披露目公演で、それも、舞台の上で大失敗をして、それで終わりで、本当にいいの?

 

 そんなの、ダメだよ!

 

 そう言おうとしたけど、先に愛梨が口を開いた。

 

「そうしてもらえると助かるわ。まったく……市長の娘だか何だか知らないけど、親のコネで演劇部の主演なんて、ホント、いい迷惑だわ」

 

 愛梨の、その言葉に。

 

 未来の肩が、大きく震えた。

 

「なんですって?」

 

 じっと無言で未来を見つめていたさとみが声を上げ、愛梨を見る。

 

「ああ。あたしたちの学年の間で、結構話題になってるんですよ。この娘、堀北市の市長の娘なんです」

 

 愛梨は、嘲るように言った。

 

 あいつ、何を言うつもりだ?

 

 あたしは愛梨を睨みつけるけど、そんなことはお構いなしに続ける。

 

「小学生の時は市川の学校に通ってったらしいんですけど、勉強について行けず、堀北に戻って来たそうです。だよね? 未来」

 

 愛梨は挑発するような表情で、未来の顔を覗き込んだ。

 

「ち……違います……あたしは……演劇が……したくて……」震えた声で言う未来。

 

 でも、その声は愛梨には届かない。「まあ、親のコネで勉強のできる学校に入っても、そうなるのがオチでしょうね。でもさ、この学校にまで、親のコネを持ち込まないでくれる? そりゃ、この堀北中学は市立だから、市長が圧力をかければ、うちの顧問の先生なんかじゃ逆らえないのは当然だけどね」

 

 愛梨の言葉に。

 

 腕組みしているさとみの手が、震えている。怒りを抑えている。そう見えた。

 

「ちがう……あたし……そんなこと……してない……」

 

 絞り出すような未来の声も、誰にも届かない。

 

「してない? じゃあ、何であんたなんかがディアナをやってるのよ? それしか考えられないでしょ!! 演劇は神聖なものなんだ。親のコネとか、そんな理由で伝統ある堀中演劇部の主演をやられたんじゃ、みんな迷惑なんだよ! さっさと辞めちまえ!」

 

 吐き捨てるような愛梨のセリフに。

 

 ぶちっ。

 

 ああ、キレた。あたし、ブチキレてしまった。

 

 確かに未来は市長の娘だ。それが原因で、市川の学校に通っていたというのも、多分当たっている。

 

 でも、そのことと今回の主演は、関係ないだろうが!

 

 彼女は自分の意志でこの堀北中学への進学を選んだのだ。演劇をやりたい。その一心で、両親を説得したんだ。

 

 それに、未来はこれまで、父親が市長だということに、かなりのコンプレックスを持っていたように思う。普段は笑顔でそんな様子を見せることはないけれど、でも、小学6年生の春、初めて公園で出会った時、市長の娘、と理由で、みんなから避けられていた。あの時の未来の寂しそうな顔は、今でも忘れない。

 

 それを!

 

 今、演技に失敗し、落ち込んでいる未来に、その心の傷に、毒を塗りこむような愛梨の言葉。あたしは許せない。どうしても許せなかった。だから、愛梨の前に立ち、右手を振り上げた。

 

 そして、その手を振り下ろす――。

 

 ――その前に。

 

 

 

 ぱぁん!!

 

 

 

 乾いた音が、部屋中に響き渡った。

 

 あたしの右手は――振り上げられたままだ。

 

 あたしよりも先に、他の人が、愛梨をひっぱたいたのだ。

 

 それは、部長の梓でも、未来本人でもなく。

 

 

 

 さとみだった――。

 

 

 

 あたしが右手を振り下ろすよりも早く、さとみ手のひらが、愛梨の頬を張っていた。

 

 いきなりのことに、しかもそれが味方だと思っていたさとみだと知り、愛梨は目を白黒させる。

 

「な……何するんですか!?」

 

 ぶたれた左頬を押さえ、愛梨はようやくそれだけ言った。

 

「親のコネで主演になった? ふざけるな! そんなことで、この堀北中学演劇部の、ディアナ役になれるわけないでしょ!!」

 

 さとみは、愛梨に向かって叫んだ。

 

 今までさとみはいろんなことで後輩たちを怒鳴ってきた。それに耐えられず、何人もの部員たちが辞めて行ったけど、そんなのがかわいく思えるほどに、今のさとみの表情は鬼気迫り、声は怒りに満ちていた。

 

 その迫力に押され、愛梨は何も言い返すことができず、黙るしかない。

 

 そして。

 

 さとみは、今度は未来の方を見て。

 

「あんたも、あんなこと言われて、何で黙ってるのよ!」

 

 両手で未来の襟をつかみ、引き寄せる。

 

 これはまずい。止めないと。

 

 そう思い、一歩踏み出したところで。

 

「――ダメよ」

 

 梓に、制された。

 

 何で止めるの? と言う前に。

 

 さとみが叫ぶ。

 

「今のはね……あんたがバカにされたんじゃないんだよ? 『ディアナとミネルヴァ』のディアナ役が――堀中演劇部に代々伝わる演目の、主演がバカにされたんだよ! あんた自身ががバカにされたんなら、黙ってようがどうしようが知ったこっちゃないけどね、ディアナを侮辱されて、黙ってんじゃないわよ!!」

 

 その言葉を聞いて。

 

 あたしは、これまでさとみが何に対して憤りを抱えていたのかに、ようやく気が付いた。

 

 さとみは、未来にディアナ役を奪われたことに対して怒っていたのではない。

 

 未来が、ディアナ役を否定したから、怒っていたのだ。

 

 さとみの言うとおり。

 

 市長である父親が顧問の先生に圧力をかけたとか、そんなくだらない理由で、伝統ある堀北中学演劇部の主演になれるわけがない。

 

 未来がディアナに選ばれたのは、彼女にそれだけの素質があると認められたからだ。

 

 未来の、演劇に対する真摯さが。

 

 未来の、普段からの努力が。

 

 それらが認められたからこそ、未来はディアナを演じることが許されたのだ。

 

 でも。

 

 未来は、自分には出来ない、自分には向いていない、と、頑なに拒み続けた。

 

 あたしは、演技がヘタだ。

 

 あたしには、才能が無い。

 

 未来本人に、そんなつもりはなかったとは言え。

 

 ディアナに任命された未来が、自分自身を否定するということは、堀中演劇部のディアナそのものを否定するということなのだ。演技がヘタでも、才能が無くても、親が市長なら、ディアナになれる。そう言っているのと同じなのだ。

 

 涼子先輩が、3年間ずっと守り続けてきた、ディアナ。

 

 さとみが、2年間ずっと追いかけてきた、ディアナ。

 

 それを、未来が否定したことが、さとみには、どうしても許せなかったのだ。

 

 その、さとみの怒りに対し、未来は。

 

「でも……ホントにあたし……ディアナなんて、ムリだし……演技もヘタで、才能も無くて……それなのに……ディアナなんて……」

 

 またも、自分を否定する。

 

「そんなこと判ってるわよ! あんたが演技がヘタだなんてことは、みんな判ってるわよ!! 」さとみの怒りは止まらない。「だから練習してきたんでしょ? 演技がヘタだから、みんなが帰った後も残って練習してきたんでしょ? 学校が終わった後も、1人公園で夜中まで練習してきたんでしょ? あんたは! ヘタなりに必死で努力してきたんでしょ!? どうしてそれに自信を持てないの!! あんたの台本には、あたしが教えてきたこと、梓が教えてきたこと、涼子先輩や美智子部長が教えてきたこと、それが全部書かれてあるでしょうが! 一番初めのページに、一番大事なことが書かれてあるでしょうが!! あれはただの落書きなの!? 違うだろ!!」

 

 ――――。

 

 あたしは。

 

 今まで、さとみの何を見てきたんだろう?

 

 ――さとみって、ホントにイヤなヤツだよね。未来にディアナ役を取られたくらいで、あんなにふてくされて、あんな嫌がらせしなくてもいいじゃない。あれじゃ、まるでイジメだよ。

 

 そんなことを言った自分を、心の底から恥ずかしく思う。

 

 さとみの言う通り。

 

 未来の台本には、今までみんなからもらったアドバイスのすべてが、細かくぎっしりと書かれてある。

 

 そして、最初のページには。

 

 美智子部長が、涼子先輩が、梓が、そして、さとみ自身も。

 

 みんなが、いつも言っていた言葉が、書かれている。

 

 ――自分の演技をして、舞台を楽しむ。

 

 そう。

 

 さとみは知っていたんだ。未来の努力を。

 

 さとみは認めていたんだ。未来のことを。

 

 さとみは、ディアナになった未来のことを、誰よりも、見ていたんだ。

 

 そのさとみの気持ちに、ようやく気づいたあたしの頬を。

 

 溢れ出した涙が伝う。

 

 未来も、同じだった。

 

 さとみの思いを知り、涙を流していた。

 

「あれだけ練習して、あれだけ努力して。それでも自分に自信が無いのなら……そんなにディアナをやりたくないんなら! あんたはもう演劇を辞めなさい!!」

 

 さとみは、投げ捨てるように未来を離した。

 

 床に倒れる未来。

 

 溢れ出した涙は、もう止まらない。溢れ出した嗚咽はもう止まらない。

 

 でも。

 

 もう、あたしは助けない。

 

 もう、あたしは手を貸さない。

 

 さとみは、自分の本音をさらけ出した。

 

 今度は未来。あなたの番。

 

 あなたが、本当の気持ちを言う番よ。

 

 さあ、ハッキリと言いなさい!

 

「あ……あ……し……ディアナ……りたい……です」

 

 嗚咽に飲み込まれ、未来の声はほとんど聞き取れない。

 

「何!? 聞こえない!!」

 

 叫ぶさとみ。

 

 あなたも叫びなさい!! 未来!!

 

「あたし!! ディアナの役!! やりたいです!!」

 

 学校中に響くのではないかと思うほどの声で。

 

 未来は、そう、叫んだ。

 

 それは、未来が初めて。

 

 自分の口から、ディアナをやりたいと言った瞬間だった。

 

「あたし!! これからも、もっともっと練習します!! だから……だから!!」

 

 未来の顔は、涙と鼻水にまみれ、メイクもぐちゃぐちゃで、オバケみたいな顔だったけれど。

 

「あたしにディアナをやらせてください!! お願いします!!」

 

 その、決意に満ちた顔は、これまでのどんな笑顔よりも、輝いて見えた――。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「ああ。それにしても、良かった良かった。みんな未来のことを認めたし、未来本人にも主演の自覚ができたようだし、これは休み明けからの稽古が、がぜん楽しみになって来たよ。今年こそ、優勝狙えるわね」梓は、満面の笑みでそう言った。

 

 お披露目公演を終え、あたしと梓は残って舞台のセットや小道具を片付けた。ロッカールームで着替え、今から帰るところだ。

 

 役者の部員は先に帰ってもらった。小道具の片づけなんかは、やっぱり裏方であるあたしたちの仕事だ。付き合ってもらう必要はない。明日からしばらく稽古は休みだ。今日は早く帰って、ゆっくり休んでもらいたい。

 

 まあ、未来はたぶん、あの公園でいつものように夜中まで練習するんだろうけど。

 

 さとみに喝を入れられ、ようやくディアナ役をやりたいと叫んだ未来。これからは、さらに努力し続けるだろう。もしかしたら、絶対エースと呼ばれた涼子先輩を超える演技力を身に着けるかもしれない。ううん。そうなってくれないと困る。

 

「しかし、さとみの速攻には参ったわね。一番愛梨たちから離れてたのに、一番最初に愛梨のことひっぱたいてたんだから」

 

 梓が、感心するような、呆れるような口調で言い、あたしは笑った。

 

 確かに、あのビンタは電光石火のスピードだった。グーじゃなかったのが奇跡だ。

 

 階段を降りようとして、女子トイレの中から、誰か出てきたのが見えた。連休初日。この校舎を使っているのは演劇部だけだから、部員の誰かだろうか? 見ると、さとみだった。あれ? あの娘、随分前に帰ったと思ったけど、まだいたんだ。声をかけようとしたら。

 

 さとみは、突然その場にしゃがみ込んだ。

 

「さとみ?」梓とあたしは、すぐに駆け寄る。「どうしたの? 大丈夫?」

 

「あんたらか……別に、何でも無いよ」

 

 さとみ、立ち上がろうとする。でも、その表情が歪んだ。右足首を抑え、再びしゃがみこむ。

 

「さとみ、その足――」

 

 彼女の足首を見て、あたしは言葉を失った。

 

 さとみの足首は、赤く、大きく、腫れ上がっていた。

 

 まるで、足の皮の下にリンゴでも埋め込まれたかのような状態だ。

 

 ――これって、舞台で転んだ時の?

 

 そう思った。あの時、さとみの右足は普通では考えられないほどの角度に曲がっていた。その後すぐに立ち上がり、普通に演技を始めたから、何もなかったんだと思ったけど、やっぱりあの時、足をくじいていたんだ。

 

「さとみ……あんたまさか、この足でずっと演技していたの?」梓が言った。もちろん、そういうことになる。

 

「……大丈夫よ。たぶん、折れてはないと思うわ」苦痛に顔をゆがめながら、さとみはそう言った。

 

 たぶん……てことは、折れてるかもしれないってことだろ? そんな状態で、短いシーンではあったけど、ラストシーンを最後まで演じ切ったの? それだけでなく、舞台裏でもそんな様子は見せなかった。きっと、あたしたちだけでなく、部員の誰も、気づいていないだろう。

 

「……未来は、もう帰ったの?」足首をさすりながら、さとみはあたしの方を見た。

 

「うん。とっくに帰ったはずだよ」

 

「そう……なら良かったわ」安心したような表情になるさとみ。「あの小心者が、自分のせいであたしが怪我をした、なんて知ったら、また、ディアナを辞めるとか言い出しかねないからね」

 

 ――――。

 

 さとみ、あなたは。

 

 たったそれだけのために、足をくじいたことを、隠してきたの?

 

 折れているかもしれないほどの苦痛にも、眉ひとつ動かさず、ラストシーンを演じ切り。

 

 演技が終わった後も、そんな素振りは一切見せず、舞台裏で、あれだけ大暴れしたの?

 

 ただ未来に、ディアナを続けてもらうために――。

 

 溢れてきた涙を、あたしはさとみにバレないようにそっと拭い。

 

「……はい」

 

 さとみの前にしゃがみ、背中を差し出した。

 

「……な、何よ? それ」戸惑うさとみ。

 

「その足で歩いて帰るって訳にはいかないでしょ? 病院まで負ぶって行ってあげるから、ほら」

 

「い……いいわよそんなの! 恥ずかしい」

 

 さとみは顔を真っ赤にし、立ち上がろうとした。でも、やはり右足は踏ん張りがきかず、すぐにしゃがみこんでしまう。

 

「ほら。せっかく結衣がこう言ってくれてるんだから、無理しないで」梓が言った。

 

「……すぐそこの病院まででいいからね」

 

 恥ずかしそうな口調でそう言うと、さとみは、ゆっくりとあたしの背中におぶさった。よっこいしょ、と、立ち上がる。結構重いな。

 

「今、結構重いな、とか思ったでしょ?」背中でさとみが言った。

 

 ぎく。何で判ったの?

 

「……あなたは考えてることがすぐ顔に出るのよ。悪かったわね、重くて」

 

 背負っているから見えないけれど、さとみが拗ねて頬を膨らませる顔が思い浮かび、思わず笑ってしまった。

 

「な……何笑ってんのよ?」

 

「ううん、何でも無い」

 

 あたしはさとみを背負い、階段を下りて、校舎の外に出た。

 

 西の空に、陽が沈もうとしていた。真っ赤に燃え上がった空は、今のあたしの、梓の、さとみの、未来の、演劇部員みんなの、心のようだった。

 

「……あたし、先生がさとみのこと、ディアナじゃなくミネルヴァにした理由、判ったよ」夕日を見つめながら、あたしは背中のさとみに向かって言った。

 

「……何よ? 急に」

 

「あなたの、その演劇にかける情熱は、絶対に鬼神だよ――」

 

 そう思った。

 

 そう。『ディアナとミネルヴァ』の、劇は。

 

 どんなに女神ディアナの演技が優れていても、それだけでは成り立たない。

 

 この劇は、女神ディアナだけで成り立っているわけではない

 

 ディアナと対立する鬼神ミネルヴァが、絶対に必要なのだ。

 

 今年の配役をした先生は、未来の努力家の面を見抜き、彼女をディアナに抜擢した。

 

 同時に、さとみの、誰にも負けない演劇にかける情熱は、鬼神に向いていると見抜いていたのだ。

 

 だから――。

 

「――今年の秋の大会は、絶対、優勝できるよね?」

 

 あたしの言葉に、梓とさとみは。

 

「当たり前でしょ!」

 

「できなきゃウソよ!」

 

 自信に満ちた声で答えた。

 

 

 

 そう。

 

 

 

 今年こそは、きっと――。

 

 

 

 夕日が沈む。燃えるような街の色は、やがてその色を失い、東の空には、真円を描いた月が顔を出し、あたしたちを見ていた――。

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

 

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