Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って   作:とke

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9 恐るべき仮説

「やったわ……失言だ。まじでやらかした」

 

 食卓から出た廊下で俺は頭を抱えていた。

 というか実際に、一発自分で自分の頬をぶったたいた。

 何をやっているのか。

 好意で食事に呼ばれた席で、過去の辛い記憶を掘り返すようなことに口を滑らせ――あまつさえ、一筋の涙さえ流させてしまうとは。

 

「……もう本当に村を出るしか無いな」

 

 俺はその方向で決意を固めつつあった。

 

「魔力がないってそんな……酷いことなのかね」

 

 弱気が言葉になる。

 俺とリルカさんは少し違うが、どこか似た過去を持つ。

 ――共通するのは魔法が使えず、苦しい思いをしているということだ。

 俺は魔力がないお陰で、それまでの居場所を失った。

 リルカもまた魔力がないために、自尊心を傷つけられて傷ついている。

 魔法――それは、使えるものと使えないものが明確にわけられた才能の世界だ。

 生まれたときからできる人間とそうでない人間が明確に分かれる。残酷なほど真っ二つに。

 

(でも俺は……魔法の才能が少しはあったから、あの孤児院を出て、冒険者になったんだよな)

 

 リルカの過去話から触発されるように過去の思い出が蘇る。

 俺は孤児院育ちだ。

 当然だが親の顔を知らない。

 俺は魔物に破壊された村の生き残りだと育ててくれた職員に聞いたが、真実なのかも確認していない。

 名字であるアーレインというのはその孤児院の名前で、ミリアと名字が同じなのは同じ孤児院にいたからだ。

 血の繋がりはない。

 だけど――本物の家族以上に、強いつながりを感じている。

 孤児院は良い場所だった。創業者の先生が立派な聖職者で、荒んだ子供も優しく受け止めて育ててくれた。

 

(あのままあの孤児院がある村で、普通に生きても良かった……でも、俺が冒険者を選んだのは)

 

「ね、兄さん! ――この世界には誰も知らない、足を踏み入れたことのない場所があるんですって!」

 

 赤い――真紅の瞳をらんらんと輝かせ、未知を語る少女の顔が、脳裏にまざまざと蘇った。

 ミリア・アーレイン。

 アーレイン戦団の団長にして、最上位のSランク冒険者の――若かりし頃。

 

「私は誰も知らない場所を見てみたい! この世界の全部を見てみたいの――!」

 

 俺には明確な夢がなかった。凡人で、つまらない人間だ。

 でも俺のそばには、壮大な夢を持つ少女がいた。

 俺にはない行動力を持つ、そんな人が偶然そばに居たから。

 妹に頼まれて――だから冒険者になったのだ。

 

(そういや、最初はそんな動機だったけな)

 

 物心ついてすぐくらいの記憶だ。もはやおぼろげで、本当にあったことなのかすらあやふやだ。

 だけど、ミリア・アーレインの夢に引っ張られて俺は冒険者を目指した。これは真実だった気がする。

 

「ま、でも結局……俺は冒険者に向いてなかったよな……」

 

 だが結果は見ての通り、人の夢に乗っかって――自分の分を超えた世界を垣間見た結果がこれだ。

 Sランクに相応する力をどうしても手に入れられなかった。

 才能がなかった俺は居場所を失った。

 ――分相応な夢を見るとはそういうものだ。

 ぼーっと過去に浸りながらいつの間にか俺は診療所の庭の花畑を眺めていた。

 カラフルで美しい花は、ささくれだった心を癒やしてくれた。

 そんな時、急に後ろから話しかけられる。

 

「花、お好きですか?」

 

「リルカさん……!」

 

 思考が過去から現実に立ち返る。

 

「えへへ。この花壇、自慢だから見てもらえて嬉しいです」

 

 リルカの目は微かに赤く腫れていた。だがその表情は晴れやかで、俺は内心胸をなでおろした。

 泣いてある程度吹っ切れたようだった。あのまま落ち込まれ続けては罪悪感があったから、俺としてもありがたかった。

 

「よかったら近くで見ていきます?」

 

 胸をなでおろす俺を尻目に、リルカは薄く笑って花壇に手招きした。

 

「ええ。ぜひ。実は料理を待ってる時に見えてからずっと興味があったんですよ」

 

「勝手口からどうぞ」

 

 リルカさんと連れ立って花壇に移動する。

 種々様々な花の香気がむせかえるように鼻孔をつく。

 

「これは……本当に見事ですね」

 

 俺は賞賛の言葉を贈った。

 桃、赤、紫――様々な色の花が咲き乱れ、うららかな日差しに照らされて気持ちのいい空間になっている。

 すべての花がみずみずしく空を向き、よく手入れをされた立派な花壇だった。

 

「花壇はもともと母のもので、今は私が手入れしているんです。」 

 

「これは全部お一人で? こんなに立派に育てるのって大変でしょう」

 

「いえ。手間がかかるとかは全然なくて、みんなすくすく育ってくれるんです。リーウィルの土がいいんじゃないかって思うんですけど」

 

 そういうものかと俺は思いながら、花壇に入る。

 ふと俺は外から花を見た時に気になっていたことを思い出した。

 

(土が特別……か)

 

 俺はかがみ込んで土に触れる。湿ったずっしりとしたなかなかの土だが――特別滋養があるといった風でもない。

 

「リリカさんの育て方が良いんですよ」

 

 ならばリルカが丁寧に育てている結果だろう。

 事実をいうが、口に出せば世辞めいているなと苦笑する。

 

「そうですか?」

 

 リルカが照れたようにはにかんだ。

 つられて気恥ずかしさを覚えた俺は花畑のほうに視線を移し、じっくりと見渡してみる。

 ふと――視界の端に一房の花が目に止まった。

 

(庭から見たときにも気になってたけど、本当に珍しい色の月光花だな……)

 

 近寄って見てみると、花がしっかりと紫色の花弁をつけており、立派なものだ。

 通常は黄色の花弁をつけるものだが、なぜこんな珍しい色の花弁をつけているのか……どこかで聞いた気がするのだけど、あと一歩思い出せない。

 

「今年も綺麗に咲いてくれたね。花瓶は変えたし、ギルドにもおすそ分けしたし。後はどうしようかしら」

 

 花の様子を丁寧に見るリルカを尻目に――首をひねりながら月光花の場所しげしげとみてみるがそれ以上は何もわからなかった。

 

「あっ……萎れてる」

 

 俺の様子には気づかず、リルカは花畑に近づく。

 

「ごめんね。……私がもっとしっかりしてればよかったのに」

 

 感慨のこもった言葉だ。重いほどの感情が困った言葉に気を取られ俺はリルカの方を向いた。

 その時だった。

 リルカの手が萎れた花に近づいたその瞬間――その花弁が微かに開いたのだ。

 

(え?)

 

 確かに見た。萎れた花がほんの僅かに――だが確かに、その花弁を開いたのだ。そういったことはほぼ、ありえない。

 見間違いかと思ったが、それにしては確かな動きだった。

 その現象を受け止めようと思考を動かし、月光花の生態が繋がるように思い出される。

 

(そうだ。月光花の性質は……おい、おいおいおい待てよ。これ……嘘だろ。そんな、まさか)

 

 それを見た時、俺は脳髄がしびれるような衝撃を味わっていた。

 花に抱いた違和感、これまで蓄えてきた知識――脳内にある雑多な知識や思考が一本の線で結ばれていく。

 恐るべき仮説が――俺の中で形になろうとしている。

 

「レイルさん、よかったら一輪どうですか? ……レイルさん?」

 

 肩を震わせながら硬直する俺に話しかけ、その異様な様子に気づいたリルカは心配そうに再度声をかけてくる。

 俺はその申し出に我に返った。

 

「リルカさん。この紫色の花……いただいていいですか?」

 

 俺は紫色の月光花を指差した。

 このリルカの申し出はありがたかった。こちらから言い出そうとしたことを先んじて言ってもらったからだ。

 

「ええ。気に入ったものがあればいくらでも持っていってください。少しでもお礼になれば――」 

 

 リルカは嬉しそうに花を摘み、俺に差し出してくれる。

 笑顔で手渡された紫の月光花を丁寧に受け取り、俺は――胸中で形になり始めた“ある仮説”のために質問をひとつした。

 これが、パズルの最後の1ピースになるだろうという確信を持ちながら。

 

「あの、この花畑で育てている花は、全部種から育ててるんですか?」

 

「はい。実をつけた花から種をとってを繰り返してます」

 

 想定通りに――ピースがはまる。

 俺は押し黙った。

 

(種から……やはり……これはすぐに確かめたほうが良いが、準備がいるな)

 

 その答えを聞いて、俺は胸中で芽生えた仮説を、すぐに立証する必要があると確信した。

 だが今すぐにとはいかない。準備が必要だった。

 俺は決心して口を開いた。

 

「リルカさん! 急な質問で申し訳ないんですけど今晩……予定は会いてますか?」

 

 気合が入りすぎて少し顔を近づけすぎた気もするがまあ気にするまい。

 近づいたリルカの顔が真っ赤に染まった。

 

「え、ええ!? こ、今晩!? あのちょっと、そういうのは困ります」

 

 予想外の反応だった。

 ……なにか違う意味で伝わってる。俺は慌てて言葉を付け足す。

 

「カルダス先生とお2人に話したいことがありまして」

 

「あ、お父さんと……」

 

 決して邪な意図があるわけではないということを伝えると、なぜかしょんぼりしたようにリルカはうつむいた。

 

「大切な話なのでぜひとも今晩、お時間を頂きたいのですが……」

 

「大丈夫だと思いますけど。ちょっと聞いてきますね」

 

 構わず俺は話を続ける。

 真剣な俺の表情に、流石にただならぬ話だと分かってか、リルカはうなずいてから踵を返し――確認のために診療所の中に入っていった。 

 

「お父さん大丈夫だそうです」

 

「そうですか。それはありがたい……」

 

 しばらくして戻ってきたリルカの答えに俺は頭を下げた。

 話が早いのは助かる。

 早速準備に取り掛からねば。夜までそう遠くない。

 

「……すみません。急に用ができまして。一旦帰らせてもらいます」

 

「お帰りですか?」

 

 急な俺の言葉にリルカは驚いた。

 俺は頭を下げ、時間を惜しんで踵を返した。

 落ち着かない俺の様子をぽかんとリルカは見つめる。その様子に、俺は色々と礼を言ってないことを思い出して、口を開いた。

 

「あ、ご飯ごちそうさまでした。本当に美味しかったです。では夜にまた!」

 

 ――言えてなかったお礼を言って、俺は診療所を後にした。

 お礼を言った時、横目にリルカが少しだけ微笑んでくれたのが飛び込んできて嬉しい気持ちになった。

 空を見上げ――日が落ちるまでの時間を確認する。

 目指すは、森だ。

 

 

 

 




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書き溜めなので毎日 20:00更新します。よろしければ見ていってください。

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