Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って 作:とke
診療所を後にして、俺は何度目かになるリーウィルの森に来ていた。
診療所で抱いたある仮説を立証するための準備には、この森で色々と採集することが必要だった。
(マジックベリー、キュアリーフ……うん。ここらへんなら)
目を凝らし――手早く俺は様々な薬草が生えている採集スポットを発見する。
青々と生った薬草たちだったが、今回必要なのはそれではない。
それらの有用な薬草に全く目もくれず俺は、採集スポットに隣接する木に近づいていった。
俺は木の表面に手を付き――その感触で、求めていたものがあるかを探す。
ぬるりとした感触とともに、求めていたものがあったと確信する。
「よし。この苔だ」
木の表面にこびりつく――苔。
俺はポーチから採集用のナイフと木製の小瓶を取り出し、苔をこそいだ。
ぽろぽろと苔がこそげ取られ――剥げていく。俺はそれを小瓶の中へと入れる。
やがて小瓶がいっぱいになる。
俺はそれをそっと採集用ポーチに入れた。
(この量だと瓶3つ……余裕を持って4つくらい採っておくか)
目算からそう判断する。
俺は採集地をまわって同じ作業を繰り返す。
同じような小瓶が4つ苔で満杯になった。
(量はこれで十分くらいだな……あとそうだ。もう一つ)
俺は眼下の地面を目を細めて眺める。
お目当てのものはすぐに見つかった。
黄金色のツヤをもつ花だ。点々と珍しくもないくらいに生えている何の変哲もない花だ。
俺はその花を根本ごと掘り出して摘んだ。4~5房ほど採集してポーチに入れる。
「ふぅ。夕方になってきたな」
一仕事を終えて空を見上げると、夕焼けに空が赤らんできていた。
これ以上遅くなると、夜の約束に間に合わなくなる可能性がある。作業も終わったし、森にとどまる意味もない。俺は帰路についた。
その途中で人影を見つけた。
「あれ、レイルくん!?」
声をかけようとか迷っていると、先に見つけられた。
「アルロさん……どうも」
その人影はアルロだった。
人懐っこいアルロは俺を見つけるなり、ずいずいと近寄り、肩に手をおいてきた。
そして――なにかうんうんと勝手に頷き――しみじみとした口調で口を開く。
「……良かった。依頼あったんだねえ」
ラークスに仕事を干されていることをどうも知っているらしい。
まあ当たり前か。この狭い村だし噂など一瞬で広まるだろう。
どうやら俺が、なけなしの仕事に運良くありつけたと勘違いしてくれているようだった。
(残念ながらここに居るのは依頼じゃないんだけど……)
だがアルロの想像と違い、俺は依頼を受けたから森に入ったわけではない。
今晩の準備をするために自主的に森に入ったのだ。ただ説明が面倒だったので俺はその話に乗っかることにする。
まあこれは、アルロの想像力が的外れということではない。
命の脅かす魔物のテリトリーに仕事以外で入りたいものなど普通は居るわけがない。アルロの想像は至極まっとうなものだ。
「いやあ……なんとかやってます」
「ん? 怪しいなあ」
しかし結果として困ったことが起きた。
自信満々なアルロに想像が外れていると言えず――そのことから曖昧になった俺の表情から、何かを察したようだ。
疑惑にまま全身を観察され、そしてアルロの視線がある一点に目がとまった。何かと思い視線をたどると、ポーチの口がうっかり空いていた。
「あっ、そのポーチの中……なにこれ、花と変な小瓶が入ってるだけ?」
(しまった。普通の採取からすると、この中身って変だよな。説明するの面倒くさいし……)
これを見られたのはなかなか痛い。
摘んだ花はなんの変哲もないそこらへんに生えているもので、小瓶に入ってるのは得体のしれない苔である。
両方とも採集依頼で扱うことはない代物だ。端から見るとそんな妙なものを採集した俺は相当変に見えているだろう。
さてどうごまかしたものかと頭を回転させようとすると――。
「……レイルくん。見栄、張っちゃった?」
なんと、アルロはため息を付き――思いもよらぬ回答を口にした。
「へっ?」
予想外過ぎて俺は変な気の抜けた声を出してしまう。
「スカスカのポーチで帰るなんてかっこ悪いからってテキトーなもの詰めちゃった?」
なんだか知らないが、勝手に俺が妙なものをポーチに容れてる理由を補完してくれている。ラッキーだ。
「あ、ああ! そうなんですよ! もう全然採集できないの、かっこ悪いって思っちゃって!」
これ幸いと俺はそれに乗っかってごまかした。
「……うん。俺も駆け出しの頃も誤魔化し……やっちゃったことあるよ。でも残念ながらこの花は本当になんの変哲もないものなんだ。いやー、格好つけたいのはわかるけどね?」
一人で思いっきり納得しながらアルロはなにかちょっと嬉しそうに自分の過去を語り始めた。
「でもレイルくん、そういうのは良くないよ。……冒険者なら失敗をしっかり認めないと! そういう所から本当に致命的な失敗が起こるわけよ!」
「は、はい。至極反省します」
やたら実感のこもった説教に、俺は冷や汗を流しながら相槌を打ちつつ。話がこじれなかったことに安堵していた。
「ほら、キュアリーフやマジックベリーはこういうところに落ちてるんだよ……ちょっと採集手伝ってあげるから!」
アルロの謎の発奮にあい、足元に生えるキュアリーフを摘んで渡された。
――摘み方が雑なので、少し葉が欠けてしまい、それ薬効が落ちるんだけどなーと内心苦笑しつつも、好意を感じて少し嬉しかった。
人の情けはやはり身にしみるものだ。
いい人なのだろう。アルロ・モーン。
しばらくもくもくと採集を手伝ってもらい、俺の両手にいっぱいになるほどのキュアリーフやマジックベリーが集まった。
「それだけあれば大丈夫だね! 頑張れよ!」
めちゃくちゃ満足そうな顔で、鼻を鳴らすアルロだったが、俺は出会った瞬間から気になっていることがあった。
ここまでしてもらって指摘しないのも悪い気がしたので、俺は恐る恐るずっと思っていたことを口にする。
「あの、アルロさんは自分の依頼いいんですか?」
アルロは結構な時間を俺のために薬草を集めてくれていた。
だがアルロがこの森にいるということは、依頼を受けて入っているということで……さらにアルロの持ち物を見る限り成果があったようには見えなかった。
俺の問いを聞いてアルロは目を泳がせて――押し黙った。
そして口に手を当て、青ざめた顔で叫び声を上げた。
「えっ……あっ!? 忘れてた……ウサギを採らないと!」
やっぱり忘れてたのか……。
いい人なのだが、こういうところがある人だ。
「それじゃ! レイルくんここでお別れだ!」
「アルロさんありがとうございました」
だがそういうウッカリがあるから、素直に善意で行動してくれたことが分かる。
俺は本気で礼を言った。
ラークスに睨まれている俺に肩入れするのはリスクが有るのに、それを飛び越えて良くしてくれるアルロの好意は純粋に嬉しかった。
……何も考えてないだけかもしれないけど。
そのままアルロと別れた俺はリーウィルへの道をゆく。
ふと小さな気配がした。
その気配に目を向け、村へ続く道の横を覗くと、木陰からまるまるとしたウサギが警戒するようにこちらを見ている。
俺はそれを見届け――周囲に他の人間の気配がないかを探った。――気配はない。
「……雷よ。雷針(サンダーピアス)」
俺は小声で初級魔法を唱えた。
パチリ、と宙空に放電が起こり、それが針のようにウサギを射抜く。
ぎゅん! と体をしびれさせ、うさぎはひっくり返った。
これでも動くターゲットに魔法を当てるのは結構経験がいるのである。一発で仕留められて少しうれしい。
体をしびれさせたウサギを見た俺は、遥か後ろにいるアルロへ大声を上げた。
「アルロさん! ウサギがいましたよ!」
聞こえているかわからなかったから運が良ければという気持ちだったが――後方からちゃっかりとアルロの声が帰ってくる。
「えーっ!? どこどこ!? あ、ラッキー! なんか転んでる!」
慌てて近づいてくるアルロの歓声を背に俺は村へと帰っていった。
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