Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って   作:とke

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13 向上

 俺は住み込みのために診療所への引っ越しをすることになった。

 ――ちょうどよく村を出るために荷物をすべて持っていたため話が早く、結果的に半日もしないうちに引っ越しは終わった。

 診療所は入院も兼ねて個室がいくつか有る。

 そのうちの使われてない1つが俺に提供された。いきなり個室の身である

 寝そべるスペース以外ほぼ無かったギルドの寮より診療所の部屋は断然広く、カーテンつきの窓から良い風と日差しが入ってくる。

 ありえないほど生活状況が向上した。

 そんな風に診療所に引っ越してから、10日ほど経って、大分馴染んてきた頃合いの今日このごろである。

 

「おはようございますレイル先生」

 

 まず朝は必ず、リルカが起こしに来てくれる。

 

「おはよう……リルカさん」

 

 最初はめちゃくちゃドギマギしたものだが、だんだん慣れてきて――今や洗ってない顔を見せるのも苦にならない。

 朝からリルカみたいな美人の顔を見れるのは目の保養ということで……これも嬉しい。

 

「あ、また“さん”がついてますよ。もうレイルさんは私の先生なんだから、呼び捨てにしてください」

 

「う……ごめんよ、リルカ」

 

 これも変化があったことで、教師と生徒という関係になったことで呼び合う時の人称が変化した。

 リルカは俺を「先生」と呼んでくれる。

 俺がリルカを呼ぶときは呼び捨てにしてくれとのことだ。

 まだ違和感があるが、きちんと区切りをつけて対応したいという本人たっての希望であり、断る理由もないためそのとおりにしている。

 

「はい。先生。ご飯できてますよ」

 

 言い直したことに満足したのかリルカは笑顔を浮かべた。

 そのまま俺たちは食堂へと向かう。

 

「今日も楽しみだな……リルカのご飯は本当に美味しいから」

 

 朝食といえば、当然ながら毎食の食事の質が爆上がりした。

 寮に寝泊まりしていた頃は山菜を煮たくらいの食事だった。

 今は毎日パン、スープ付きの豪勢なものになっている。

 

「おはようふたりとも」

 

 カルダスさんも非常に柔和に受け入れてくれている。

 朝の食卓を出迎える対応はもはや家族に等しい遇し方だ。

 そんな風に受け入れてもらえるのは正直嬉しかった。

 

「それじゃ頂こうか」

 

「はい」

 

 席についた俺たちを迎えて全員で食事を摂る。

 リルカは本当に料理がうまい。体が弱くても、少しでも自分のできることを良くしようとしたのだろう。

 下ごしらえや味付けがすごく丁寧で、材料が少なくても口元が緩むほど美味い。

 食事を摂り終わって少し会話をする。

 

「そうだ。昨日レイルくんから聞いた調合を試してみたんだが実際によくなったよ」

 

「王都の調合師さんから聞いたんです。最近発見された方法らしくて」

 

「ほほぉ」

 

 アーレイン戦団のアイテム調達をしていた時の知識を話したりすると役に立つこともある。

 俺は少しずつこの診療所に馴染み始めていた。

 

「ごちそうさま。じゃあ診療所に出るから、リルカは魔法の勉強をしっかりな」

 

「うん。今日の授業が終わったら手伝いに行くわね」

 

 朝食後、カルダスさんの出勤を見届け、授業が始まる。

 

「じゃあ授業を開始するんだけど、その前に……“紙”を出してもらえるかな?」

 

「あっ。はい」

 

 リルカは胸元のポケットに手を入れ――そこから親指ほどの大きさの紙を取り出した。

 その紙は紫に染まっていた。

 

「ん……試験紙が昨日よりも赤くなってないね」

 

 魔力を判定する試薬を紙に染み込ませたものだ。

 青が魔力の影響を全く受けていない状態、赤が魔力の影響を受けた状態になる。その中間が紫だ。

 

「無意識の魔法発動が少なくなってきてる証拠だ。魔力欠乏の発作は大丈夫だった?」

 

「はい。こうやって魔法が発動してるのが見えるようになってから10日……最近は意識的に抑えることができるようになってきました」

 

 俺がリルカに最初に行った指導は、この魔力判定用紙を定期的に確認してもらうことだった。

 

「いままでいつ発動していたのかわからない状態だったからね」

 

 リルカはいままで魔法を発動していた自覚がなかった。だから魔力が尽きても原因がわからなかった。

 だからそれを見えるようにすることで、自分が無意識に魔法を発動しているのはどういう時かを認識して貰う必要があった。

 

「だから今までになくすごく調子がいいんです」

 

 気合がはいった声色も、血色の良い顔色もあり、リルカは調子が良さそうだ。

 

(……気を使って嘘を言ってる風でもないな)

 

 俺はリルカの口調を注意深く観察して、そう結論する。

 実際にここ数日のリルカはとても調子が良さそうだった。

 今まで病気でいろいろなことを諦めていた鬱屈が晴れたこともあるのだろう。

 みなぎるやる気が良い影響を与えているようだ。

 そのためモチベーションが高く、物を教えたときの吸収が早い。

 ――そういう生徒にものを教えるのは、教師側としても楽しいものだ。

 

「やっぱり自分を責める気持ちがあるときにリルカは魔法を発動しているようだ」

 

「心当たりはあります……」

 

「これまでリスニングをしてきて、昔の話をしていた時が一番魔法の発動をしていることが多かったね」

 

 リルカは母を早くに亡くしており――そしてその原因が、怪我を追ったリルカに命を削るほど回復魔法を使ったことに起因するという話は事前に聞いていた。

 その頃から魔力枯渇症状が出ていたことも考えて、悔恨とそれに伴う強迫観念が魔法発動のキーになっている可能性が高い。

 俺は授業ということで、魔法技術の概要といった総論を教えつつ――それとなくリルカの魔法がどういう状態で発動するか観察させてもらっていた。

 その結果として、リルカの魔法発動は自責がトリガーになっていることを発見した。

 

「……お母さんみたいに立派な回復術師にならなければ、と思ってるときは一番落ち込みますね」

 

 俺が伝えた情報で、リルカはスカートの裾を握り込みながら考え込むようにうつむく。

 

「今も……無意識に魔法を使っているの、わかる?」

 

 そんなリルカがテーブルに置いた試験紙がじわりと紫から赤色に近い色になり始めている。

 こうして少しずつ、無意識に魔法が発動していることを指摘させてもらっている。

 

「あっ」

 

 リルカは俺が視線を落とした判定紙を慌てて見つめ、口に手を当てた。

 こうして自分の癖を少しずつ自覚してもらう。魔法を使いこなすためにはこういう自分の思考の癖を知ることは本当に大切なことだ。

 この指摘の繰り返しで、リルカの魔法の暴発は徐々に頻度を落としていっている。

 

「じゃあここでおさらい。魔法を使うときに必要なものはなんだったかな」

 

 リルカは自責の念で、負の方向に集中力がスパイラルを起こすタイプだ、だからこうして課題を与えることで集中力が向かう先を作る。

 これが最も彼女に合うパターンだ。

 思考を変え始めたリルカは「えーと、確か……」と自責をやめて勉強へと意識をスライドさせはじめている。

 同時に試験紙の変化も緩やかになっていく。

 

「魔法を使うためには、呪文の詠唱と精神集中が必要だったはず……です」

 

「よく覚えてたね。そう……特に精神の集中、これが魔法を使う上で本当に大切なことだ」

 

 リルカは当たったことで嬉しそうにガッツポーズを取った。

 

「精神集中とは、思考を一点に集中することと言える。これは――“思い悩む”とか“鬱になる”みたいな思考の柔軟性がなくなる状態と似通ってる部分がある」

 

「なるほど……」

 

「基本的な魔法の精神集中はポジティブな方向性に思考を固定すること――攻撃魔法だと相手を倒したい、回復魔法なら味方を癒やしたい、という思考に意識を集中させるわけだけど……」

 

「ポジティブもネガティブも、集中状態という意味では一緒……だから、私は無意識に魔法を発動する?」

 

「正解」

 

「なるほど……です。やっぱりだめですね。私……」

 

 悩みを言語化する。それ故に客観的にそれを見つめられる――。

 リルカに絡みつく、無意識の魔法の発露はそのネガティブに行ってしまう思考回路に深く絡んでいる。

 

(やっぱり……回復魔法をずっと使えなかったコンプレックスが、無力感を産んでるな。その悩みで魔法を発動する負のループか)

 

 自嘲気味になったリルカの様子を見て、俺はやはり事あるごとにリルカは自分を責めてしまう癖があるのを感じていた。

 一度スイッチが入ると、とことん自分を責め続ける負のスパイラルになる。

 だが、俺は良い兆しを発見していた。

 自分を責める言葉を言っていても、魔力測定用紙が赤に染まることが今回はない。

 

(……でもここ10日でリルカに持たせた試験紙の魔法発動をしめす赤発色が抑えられていってる。少しずつだけど魔法の暴発をコントロール出来始めてるんだ)

 

 徐々にだがリルカは魔法の発動を制御しつつある。実際に体調を聞いたときもかなり良いと返してきた。それは俺の視点から見ても間違いない。

 

「あの、先生それで今日はどうしましょう?」

 

 リルカが先を促してくる。これも――良い兆候だ。これまでは一度、自分を責め始めるとそれをずっと繰り返していた。

 しかし今日は吹っ切るために別のことをするきっかけを求めている。

 次のステップに進むのに期は熟したと感じた。

 

「よしじゃあ今日は……中級の魔法を練習しよう」

 

「えっ……!?」

 

 リルカは驚きのあまり椅子から立ち上がった。

 

「落ち着いて。そのための基礎を今日から始めるってだけで、中級魔法が今日使えるってわけじゃないよ?」

 

 魔法の習得、そして使える等級を上げる作業は非常に大きな作業である。

 あくまでも練習であり、俺としては目の前に新しい課題を設けることで先に進んだという実感を持ってほしいというのが狙いだ。

 つまり精神的なハリを作るのはとても大事だ。

 

「使える等級を広げる作業ってのは1年がかりってのも珍しくないからね。気長な話なんだよ」

 

 これは少々盛った。できるやつは早いし、1年はそこそこ遅めな部類に入る。ちなみに俺は上級まではかなりの速度で習得した。……だがそれ以降は、お察しのとおりである。

 

「びっくりしました。そうですよね」

 

「そういうこと。とりあえず、魔法の力量を上げる一番メジャーな方法は魔物と戦うことなんだけど……それは危険すぎるから、別の方法を取る」

 

「はい!」

 

 戦士も魔術師も成長するための一番の近道とされるのは魔物との戦いである。

 魔法の習得ランクの向上に必要な要素は、魔法を習熟した度合いと、より強い力を求める心と言われている。それは渇望――と言っても良い。

 成長には渇望が必要なのだ。

 強い敵と出会い、それに対して恐怖なり負ける悔しさなりを抱く、それによりより高次の力を求める渇望を“実感として”得たとき、魔法は次の段階へと移行する。

 そうした強さのステージが変わることを「向上(レベルアップ)」と冒険者の界隈では呼び表す。

 俺はその原理をリルカに説明する。

 

「より強い効果を実感としても求める。実戦以外でそれを訓練する方法には大きく2つあって、それが呪文の反復か、瞑想になる」

 

「力を求める――心」

 

「そう、そうすれば自然と次の段階に……リルカ?」

 

 リルカはうつむくように顔を下に向け、真剣な表情で何かを思考していた。

 あまりに必死だから、声が外に出ている。

 

「誰かを助けたい、傷ついてる人間の怪我を直したい。誰かを失いたくない――」

 

 それを見て俺は自分の体験を思い出す。

 魔法の等級が次の段階へ進んだとき、こうして何かを理解した天啓のような感覚があるものだ。

 もともとリルカは呪文の反復は無意識に十分すぎるほどやっている。

 ――何か、掴んだのかもしれない。

 

「できそうなのか?」

 

「わ、わからないです。失敗するかもしれません。私にはできないかも」

 

 湧き上がる実行感を、これまで経験で得た挫折の感情が衝突している。しかし恐らくリルカの心には確信が発生したのだ。

 ――新しい、力を得たと。

 後は背中を押すだけだ。

 俺はパンを切るナイフを手に取り、その刃の部分をを指に押し付け――力を込めた。

 

「せ、先生!?」

 

 リルカがそれに気づいて止めようとするが、刃は指の皮をぷつりと切り――そこから血が、溢れ出てきた。

 ちょっと深く切りすぎたかも。

 

「痛っ……やれそうなんだろう? いいさ、この怪我を治してくれ」

 

 俺は血が流れる指を差し出した。

 リルカならばやれるだろうと俺は判断した。

 

「わ、私……でも失敗したら」

 

「その時はできるって判断した俺が勘違いしたってだけさ。大丈夫」

 

「う……」

 

「心を落ち着けて。大丈夫。成功のイメージを」

 

 リルカは覚悟を決めたように目をつぶる。そう、もう準備はできている。

 暖かな光がリルカの周囲に発生していた。

 魔法が現実に発生する予兆として、光を伴う。発生光と呼ばれるその現象は紛れもなくリルカから魔法が発生している証だ。

 

「あ、魔法ってこんな風に……次の段階へ進むんですね。唱えるべき言葉を、まるで最初から知っていたように」

 

「そう。準備が整った時、その等級の呪文が自然と頭に浮かぶ」

 

 その言葉に確信を得る。技能の上昇(レベルアップ)の感覚は確信とともに、自分が使える力が拡張した達成感と――その力を表す呪文が天より降りてきたように頭に浮かぶのだ。

 考えていれば、リルカは無意識とはいえ初級の魔法を5年はずっと反復していたのだ。

 基礎は十分にできていたのだろう。魔法と認識していないため、無力感が邪魔をして向上(レベルアップ)したいという渇望につながらなかったようだが、指向性を与えられた今――それは結実しようとしていた。

 

「癒やしの光よ――権癒光(ヒールライト)」

 

 回復の中級魔法、リルカの手から発生した光が俺の指の傷を包み込むように動き――。手のぴりぴりとした痛みが温かさとともに消えていく。

 素晴らしい。道筋を示しただけでこれほどたやすく向上(レベルアップ)が起きるとは。

 

「せ、先生。傷が……治ってる」

 

「ありがとう。リルカが治したんだ」

 

「私……凄い。ちゃんと魔法が使えた! 魔法が……魔法が!」

 

 リルカは飛び上がらんばかりに喜んで、俺の手を掴んだ。

 回復術と同じくらい暖かく、すべらかな手が俺の両手を包み込む感触がある。

 

「リルカ、体の具合は大丈夫かい?」

 

 ドキドキと波打つ心臓をなるべ落ち着かせつつ、俺はリルカに問いかける。

 向上(レベルアップ)して新しい魔法を使った時、これは必ず聞かれる質問である。俺も魔法の師匠に聞かれた。

 ここで体に変調があるようならば――魔力容量という壁について考える必要が出てくる。

 魔力容量がない俺は上級を使えるように時点で、頭に妙な疲れが出ていた。

 

「あっ……全然大丈夫です。疲れとか一切ないです」

 

 リルカは俺の質問を受けて、我に返ったのか握っていた手を恥ずかしげに離し――ばつが悪そうに報告した。

 気を使って無理をしている可能性も考えたが、魔力が尽きることへの危機意識を長い間抱えてきたリルカがそう無理をするわけもない。

 本当に――大丈夫なようだ。

 

「ううむ。試験紙から今日だけで無意識分でも初級魔法を10回は使っているはずなんだけど……それに加えて中級1回で疲れも感じないのか」

 

 だいぶん魔法の暴発が無くなっていたとはいえ、マジックポーションを飲んでもらうことも考えていたが、なんともないとは少し驚く。

 

「あの。いきなり中級魔法を使ったの、良くなかったですか?」

 

「あ、いや向上(レベルアップ)は基本的に止められるものじゃないから、魔法を使ったのは良くて……リルカの魔力容量についてちょっと思うところがあったんだ」

 

「良くないんですか?」

 

「逆だね。恐らくものすごく容量が大きい」

 

 指導をはじめて最初の数日、測定用紙で図ったリルカの無意識に魔法を発動している頻度は、思い悩む日ならなんと100回の大台に届くほどだ。普通の日でも数十回は平均的に発動していた。

 見える化をして、その癖の矯正が始まり、頻度が劇的に減ったが、最大時の回数からリルカの魔力容量の底が見えてくる。

 Sランクパーティの僧侶ラーナでも、初級魔法を100回も使えば意識を失うだろう。

 だがリルカは――こんな無茶な魔力の使い方をして、日常生活を送れていたのである。

 それは奇跡に近い。

 一日の中で、数十回の頻度で魔法を発動しているとなれば、魔力枯渇に似た状態になるのは当たり前といった所ではある。

 

「リルカが無意識に魔法を発動していた頻度は、優れた魔術師でも1日ですぐ倒れてもおかしくない。定期的にマジックポーションを飲む程度で過ごせていたのは魔力容量がそもそも大きいんだ」

 

 つまりリルカは、魔力容量が平均的な魔術師より圧倒的に多いと考えられる。

 初級と言えど、常人がこのペースで魔法を使い続けていれば自然に回復する分を合わせても数日と持たない。

 それを5年も保たせたばかりか、日常生活ができるほどで済んでいた。これはそもそもの魔力容量が凄まじいのだろう。

 

「これだけ魔法が撃てるのは……驚異的と言っていい」

 

 魔力容量は持って生まれた才能と、修行で伸びる率の掛け算で決まる。

 毎日無意識に魔法を使っているのは修行に近い効果があるから、魔力容量が成長を続けていたのは間違いないだろうが、それでもなお凄まじい才能だ。

 

「そうなんですか……?」

 

 リルカは実感がないようできょとんとしている。

 人間は自分ができることには意外と無頓着なものである。

 

(俺とちょうど逆だな……)

 

 俺は魔法出力は高いが、魔力容量が低い。

 リルカは魔法出力が低いものの、魔力容量が圧倒的に多い。

 

(リルカの回復魔法は、中級でも初級くらいの効果量だ。だけど回復術師はそれがハンデにならない……)

 

 結果を客観的に見ると、魔法出力の弱さはやはり感じる結果となる。

 中級を使って初級魔法程度の威力しか無い。

 ラーナの回復魔法と比較するとそのくらいにはなる。

 しかし――回復魔法はもともと人間という生命力が強靭ではない種族に使うには、いささか過剰なパワーを持つのである。

 回復の極天魔法はドラゴンレベルの生命体をも完全に癒やすことができる。

 だが正直な所――人間の生命力はこの世にある生物の中では特に大きなものではなく、Sランク冒険者ほど鍛え上げた人間を完全に癒やすにしても天級、下手すれば上級でも問題ない。

 

(桁外れの魔力容量を持つリルカは極天魔法を使えるようになれば……凄まじい回復術師になるかもしれない)

 

 前のパーティの僧侶であるラーナも、よほどの有事がおこらない限り節約のために上級を使っていた。

 ラーナも容量自体はそう多いものではなく、初級は100回程度使えばMP切れしてしまうと聞いたことがある。

 リルカの魔力容量は――ラーナの限界を遥かに超える魔法行使を無意識にやっても枯渇しない。

 天級を気軽に使えるほど魔力容量があるなら――魔法出力の問題はほぼ解決する。

 

「先生。私がんばります」

 

 俺は才気煥発な生徒を眩しく思い、先行きに思いを巡らせているとリルカは目を輝かせていた。

 ここ数日に人生の方向性が激変し――前向きな未来が見えるようになってきている。

 その流れに乗り、凄まじい速度で成長をしているリルカはまさしくいま蕾が開く大輪の花のような勢いがあった。

 夢破れた俺は希望を無意識に抱けなくなっていた。でも俺が教えた生徒が未来にあふれている。

 その出会いはいままで自分のことにしか目がいっていなかった俺の視点を確実に変え始めている。

 

「そうだリルカ。これ――中級魔法が使えるようになったお祝い」

 

「えっ。わぁ……押し花ですね。空みたいな色で綺麗……」

 

 俺は懐から用意していたプレゼントを取り出した。

 真っ青な花弁の押し花だ。それを5りんほど。

 

「これは、こういう効果もあって。――風よ 風波(ウィンドアロー)」

 

 俺はそのうちの一輪を手にとって――風の初級魔法を空中に発動させる。

 空中で魔法を空打ちしたとき、手に持った押し花が――赤色に染まっていた。

 

「魔法が発動したかわかるようになってるんですね」

 

 リルカが目を丸くする。

 

「測定用紙だといちいち取り出さなきゃいけないし、それに……女の子だから身につけるなら可愛いほうが良いと思って」

 

「嬉しいです! これ……押し花を染めてるんですね」

 

「うん。花壇の白鈴(はくりん)をもらったろう。それを試薬で染めたんだ。胸のポケットに茎の部分をいれればアクセサリーみたいになると思って」

 

 白鈴はその名の通り白い花で、色をつけやすい。

 俺の説明を聞いた――リルカはなぜか急激に顔を赤くした。

 

「白鈴……! あの、花言葉とかは気にして、いえ、なんでもないです」

 

 何か贈った花について思うところがあるのはわかったが、声が小さくて聞こえない。

 

「えっ?」

 

「あっ。あのなんでもないです! 魔法の勉強の続きをしましょう!」

 

 俺は押し切られる形で授業をすることになる。

 後で気になって、診療所の本棚にある花の図鑑を開いたら載っていた。

 ――白鈴の花言葉は「幸福の訪れ」と……そして「愛する人」だった。

 顔が真っ赤になってしまったのは、リルカには見せられない。

 

 

 

 




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書き溜めなので毎日 20:00更新します。よろしければ見ていってください。

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