Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って   作:とke

17 / 35
14 リルカの未来

 リルカの中級魔法の映えある使用先として2人目に選ばれたのは、父のカルダスであった。

 その日の夕食を採りながらリルカの成長の顛末を伝え――激務により肩こりや腰の痛みに悩まされていたカルダスに使用することになった。

 

「癒やしの光よ――権癒光(ヒールライト)」

 

 リルカはマッサージをしながら――中級魔法を使った。

 光が染み込むようにカルダスの体に染み渡り、「おぉ――」と驚きとも感嘆とも付かぬ声が上がった。

 

「……リルカ、本当に凄いじゃないか。よく頑張ったね。まるでお母さんにしてもらっているみたいだった」

 

 懐かしさと感動に包まれた声で、カルダスは目をうるませてリルカを褒め称えた。

 そしてその夜――俺は酒の席に誘われた。

 

「今日は飲みたい気分でな。どうかなレイルくん、一献」

 

「お付き合いします」

 

 あまり酒は好きではないが、そういうこととなった。

 積年の苦労を考えれば、祝杯を上げたくなる気持ちもわかるし、それを人と分かち合え無いのは寂しいだろう。

 そういう判別がつくのは、人を育てるという工程を経て、自分以外の他人の面倒を見る実感に俺が馴染んできたということも有るのだろうか。

 

「ささ、一杯……」

 

 カルダスは率先して俺に酌をする。その動作一つ一つに感謝を感じて――嬉しかった。

 

「乾杯」

 

 つぎ終わったグラスを突き合わせ――酒を飲む。

 

「レイルくんが居てくれて本当に助かっているよ」

 

 ぐい、とコップを飲み干したラークスはそう言って笑った。

 空になったカルダスのコップに俺は酒を注ぎながら俺も笑った。

 

「リルカの指導が忙しくないときには診療所の手伝いをしてくれるし、薬草も採ってきてくれている」

 

「お世話になっていますから」

 

「それに、リルカが最近良く笑うようになった……」

 

 少しろれつの回らぬ声でカルダスがしみじみとそう言った。

 

「魔法を自分の力できちんとコントロールできるようになってきました。もうすぐに倒れる心配も無いでしょう」

 

 確かに思い出すリルカの顔は笑顔の印象が強い。

 良い酒にしたいと思った俺は、順調であることを告げた。

 それを聞いたカルダスは――良い笑みを浮かべた。

 しばらく俺たちは静かに飲んだ。

 やがて酔いも回ってきた。

 ……ボトル1本を飲み干した辺りで、カルダスがぽつりと口を開いた。

 

「レイルくん……あの娘は、具合が悪い時でも食事を必ず作ってくれてね……その後に私の腰を揉んでくれたんだよ……」

 

「親孝行ですね……」

 

 いかにもリルカらしい――と俺は思った。

 そしてその時に間違いなく微細な魔法が発動していたのだろう。リルカは真実、父の体をいたわり――この節目までその体から病を遠ざけていたに違いない。

 それがリルカ・シドリという少女の有り様である。

 だがそれは言わぬが花だろう。

 それは同時にリルカの体を蝕んでいた癖でもある。命を削り、孝行をしてくれていたと想像させるのは罪悪感を呼ぶかもしれない。

 物事の裏側というものは言わないほうが良いこともあるのだ。

 

「でもね……その時のリルカの顔は悲しそうで……魔法が使えるお母さんならもっと良くしてやれたのにって……言ったんだ。それを聞いた時私はね……本当に、何も言えなかった」

 

 遠い目をして語られた過去は、酒の力を借りてなお痛々しく――カルダスの言葉が湿っていく。

 

「ええ」

 

 俺は答えを返すことができず相槌をうつのにとどめた。

 それはカルダスも望んでいないだろう。

 しかしもう一口酒を口にして――カルダスは崩れるように笑った。

 

「だけど今ね、気兼ねなくあの娘が笑って……誰かの代わりとかじゃなく、自分の力で魔法を使う姿を見て私はね、本当に嬉しいんだよ」

 

 心底の言葉だと、聞くだけで分かる――。そんな言葉であった。

 それは俺を救ってくれた。

 居なくても良い――と言われた俺も、人の役に立てたか。

 ならばきっと、俺の人生は無駄ではない。

 言葉にならず、俺も酒を煽った。

 人生で一番良い酩酊感であった。

 

「リルカの身体が大丈夫になったいま、あの子の未来について、私は考えなければならんな」

 

 カルダスはそういった。

 リルカは見違えるほど健康になった。

 倒れる心配もなくなり、魔法を使うことまでできる。

 彼女は自由を手に入れた。

 

「未来の話……か。そういえばレイルくんは、リルカに許嫁がいるのは知っているかい?」

 

 唐突な話題の転換に酒を口に運ぶ手が止まった。

 どういう意図での質問かは分からない。

 

「ええ。ラークス・ルケインでしょう? 小耳に挟んだことがあります」

 

 俺は少し緊張しながら答えた。

 

「知っていたか……私はね……ラークスくんと結婚することがリルカのためにならないような気がしているんだよ……」

 

 カルダスの言葉に、俺はラークスに受けた仕打ちを思い出していた。

 森で横柄に怒鳴られた記憶。

 リルカの体調を知りながら、エクスマジックベリー採集をしていなかった件。

 面子を潰されたからと仕事を干されたこと。

 ――リルカに話しかけられた時、うっとおしそうな目で彼女を見ていたこと。 

 

「それは、俺からはなんとも……」

 

 胸にうちに巻き起こる鬱屈した感情を飲み込みながら、俺は言葉を濁した。

 カルダスは俺の目を見ながら話を続ける。

 

「2人の婚約話が持ち上がった理由は、当人同士の……リルカの意思というわけではない。様々な理由が複雑に絡んで成立した話だった」

 

 俺はその言葉に背筋を正す。何か大切なことを言おうとしているのだろうと感じた。

 

「我がシドリ家とルケイン家は、このリーウィルでは古参の家柄でね。両家とも村の運営のことについても色々決定する立場にあった」

 

「そうだったんですか」

 

「ルケイン家は狩りや村の防備……シドリ家は村の医術、薬学を担当する家で、代々子供がその役目を継いできた」

 

 それぞれ専門性が高く、責任が重い職業だ。それ故に自然と村の決断を任されることになったのだろう。

 

「私は家のために都会で医学を学んだ。そこで妻と結婚してリーウィルに移り住んでもらった」

 

 カルダスの過去。それを聞くのは初めてだが、順風満帆に聞こえる。だが俺はその結果を知っていた。

 

「それからしばらくして……レイルくんも知っての通り、妻は男の子を産む前に亡くなってしまい――リルカは体があの状態になってしまった」

 

 カルダスは遠くを見つめるような表情でそう言った。

 

「シドリ家を無くさないために、再婚しろと根強く説得を受けたが、私は妻以外と添い遂げる気はなかった。それに、あんな状態だったリルカに新しい妻と馴染めというのも酷だろう?」

 

「確かに、それは重い話です」

 

 起こってしまった様々な変化に、繊細なリルカがかなりのダメージを受けたのは想像に難くなかった。

 

「そういう理由もあり、家族のことで手一杯になったから……ルケイン家に村の実務を全て任せることになった」

 

 診療所を運営し、娘の病気を診てとなれば、村の仕事に時間を割くことが難しいだろう。

 

「しかし、権限をいきなり全て任せるとなると格好が付かない。ルケイン家が無理矢理にシドリ家から権限を奪ったという噂が出かねなかった」

 

 なるほど。五代は続くような古い慣習に支えられた村だ。急に色々なことが変わると大変だろう。

 

「そこで立場をはっきりするために、ルケイン家とシドリ家の長子――ラークスくんとリルカの2人を許嫁とする流れになったわけだ」

 

 結婚をすれば、ラークスはルケイン家の跡取りであり、シドリ家の婿ということになる。

 両家の権限を持つ名分がたつということだ。

 いつ倒れるかわからないリルカの看病に、診療所の仕事が重なっていれば、それはもう気が休まる暇もないだろう。

 

「……そういう事情があったんですね」

 

「そうだ。それにもし私が倒れれば、リルカの高価なマジックポーションを用意できるような余裕があるのは、もうルケイン家しかいない。そう思い私は婚約の話を願い出た」

 

「……なるほど」

 

 農業や一次生産業しかないこの村に、かなり嗜好品に寄ったマジックポーションを用意する余裕がある家はそうないだろう。

 これまではリルカの命を繋ぐためにはルケイン家に嫁ぐ以外の選択肢は無かった。

 

「だがリルカの身体が大丈夫になったいま、リルカは一人で自分の人生を歩めるようになった。……私の心情としては、娘には幸せになってほしい。強いられて家庭をもつなどもってのほかだ」

 

 リルカは見違えるほど健康になった。

 倒れる心配もなくなり、魔法を使うことまでできる。

 彼女は自由を手に入れた。

 

「ふふ。レイルくんがリルカを貰ってくれればそれに越したことはないんだがね」

 

 俺の様子を見て、ふいにカルダスさんがにやりと笑い――そう言った。

 

「んなッ……ゴホッ」

 

 あまりの言葉に俺は飲み込みかけた酒が喉に引っかかり咳き込んでしまった。

 リルカと……俺が?

 

「リルカはまんざらでもないと思うがね」

 

 カルダスが含み笑いをしながら告げてくるその言葉に――自分に魔力があると知った時の夜に抱きしめた、リルカの身体の暖かさが脳裏に蘇って、顔が赤くなる。

 それをなるたけ早く忘れるために手元の酒を飲み干した。

 

「ははは。酔ったかな。私も……」

 

「酔ってますよ!」

 

 カルダスは飄々と動揺した俺を眺め、笑う。

 俺はそんなカルダスさんの心臓に悪いいたずらを笑い、そのグラスに俺から酒をつぐ。

 その後、酒盛りは夜遅くまで続いた。

 

 

 




評価や感想いただけましたら非常に励みになりますので、よろしければぜひともお願いします。


書き溜めなので毎日 20:00更新します。よろしければ見ていってください。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。