Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って   作:とke

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15 乱入者

 

 午後、俺はリルカと魔法の授業を行っていた。

 反復練習ということで中級魔法を何度か使ってもらい、その感触を見る。

 

「うん。安定して中級魔法を使えてるね。魔力の浪費もかなり改善してるし、これならもう診療所で魔法を使っても問題ないかもしれない」

 

「本当ですか!」

 

 ひとつ上の魔法を習得した際に、それをすぐに完璧に使用できるわけではない。

 集中が乱れて魔法を発動できなくなるという失敗例は事欠かず、習得しただけでは習熟したというわけには行かない。

 だが、もともと集中力もあり真面目なリルカはめきめきと魔法の制御を身に付け、中級魔法をほぼ失敗なく使えるようになっていた。

 

「人を治せるんですね……!」

 

「カルダスさんに提案してみるよ。……ん? 誰か来た?」

 

 嬉しそうにガッツポーズを取るリルカを眩しく見つめていると、診療所の方から誰かが入ってくる足音が聞こえた。

 カルダスが帰ってきたのかと思ったが、どうも足音の感じが違う。

 

「おい。邪魔するぞ」

 

 扉が開く。

 そのさきから現れたのは――ラークス・ルケインだった。

 

「ラークス!? いきなりどうして」

 

 リルカが立ち上がり、驚きの声を上げた。

 俺も戸惑う。診療所に住んで数ヶ月経っているが、ラークスは一度たりとも訪ねてきたことはなかった。

 

「ふん。身内の家に来るのがおかしいかよ」

 

 身内と言いながらリルカと目も合わせようとしないラークスは――俺の方を見てきた。

 

「……!」

 

 その目に込められた敵意に俺は緊張する。

 少なくとも、数ヶ月前、最後に見た時はそこまで露骨ではなかったように見えたが。

 俺は身構えて立ち上がった。

 

「Eランク……本当にここに居たとはな。驚いたぜ」

 

「お久しぶりです」

 

「俺がなんでここに来たか分かるか?」

 

 じろりと目を真正面から合わせてラークスは睨めつけるように問う。

 正直な所ラークスが来た理由など全くわからない。

 

「なんとか言えよ!」

 

「きゃっ!?」

 

 俺が黙っていると、ラークスはリルカを突き飛ばして俺の方に詰め寄ってきた。

 俺は倒れそうになるリルカをあわてて抱きとめてから、かばうようにリルカの前に立った。

 

「診療所からの薬草採集依頼が最近減ってる。誰がやってるんだろうなあ」

 

 ラークスは俺をねめつけ――まさかの方向から話を切り出してきた。

 まずい、と俺は直感的に感じた。

 しかしここで嘘をついても意味はない、正直に答えるしか無い。

 

「……俺だ」

 

「あァ? おい。住み込んでギルドに来る前に依頼を直接受けてる? つまり――それは独占だろうが」

 

 売り込みによる依頼の優先的入手。これは様々な解釈が有るが、場合によっては「仁義破り」として糾弾される場合もある。

 

「全部ではない」

 

 もちろん俺は全ての依頼を奪うようなことはしていない。ギルドに薬草採集の依頼は行っているはずだ。

 しかし3分の1くらいは診療所の薬草採集を俺が行っているのは事実だ。

 理由はある。

 カルダスさんは俺に月謝を払っている。

 その額はこの診療所の規模からすると小さくないものだ。だから俺が気を使って採集の一部を請け負っていた。

 

「あ? 結局、ギルドに出るべきな依頼を奪ってるのに変わりないだろ。自分だけ良けりゃいいのかよ?」

 

 こ基本的に依頼はギルドでまとめられた上、優劣無く先着順という決まりになっている。

 実際には、信頼の置ける冒険者を指名するという依頼が横行しているとはいえ、違法だと摘発されれば黒になる。

 単純に目くじらを立てて指名依頼が駆逐されない理由は、ルールを作った側もその恩恵を受けるからにほかならない。

 金持ちは腕のいい冒険者を割増で雇いたがる。

 よってこれを許すか許さないかは、ギルドを仕切っている有力者の言葉一つになる。

 このリーウィルならラークスがギルドの法だろう。

 

「……すまない。次からは先生と協議して、バランスを考える」

 

 俺は素直に頭を下げた。

 

「すまない……だぁ? おい、言葉1つで終わりか? テメエみんなの依頼を奪っておいて……ごめん1つで終わりなのかよ!」

 

 だが案の定それで終わるはずもなかった。

 俺が仮に冒険者を続けていたなら、同じくらいの頻度で診療所からの採集依頼を受けていた範囲での手伝いだった。ギルドに流れる依頼の総数は変化していないはずだ。

 だがルール違反はルール違反だ。完全に新参の俺が抵抗することが出来ない。

 

「どうすればいい」

 

「まず……ここで地面に這いつくばって! 本気で謝れッ!」

 

 謝罪を要求した時のラークスの顔には、隠しきれない嗜虐心の笑みが浮かんでいた。

 傅き、ひれ伏すことが当然と言わんばかりだった。

 業腹だった。しかし……どうしようもなかった。

 間借りして住んでいる俺が原因で迷惑をかけている。

 魔法を使ってラークスに痛い目を見せる方法を思いつかなくはなかったが、ラークスをここで叩きのめせばこの家に迷惑がかかるかもしれない。

 

「やめてラークス……! 急に来ていきなり揉め事なんて!」

 

 俺が地面に膝をつこうとしていると、横から声がした。

 強く凛とした声に俺は驚く。

 その声の主はリルカだった。

 

「うるせえ。お前は黙ってろ!」

 

 ラークスはうっとおしそうに凄む。だが――リルカはそれを受け止め言葉を続ける。

 

「レイル先生が依頼を不当に奪っていると言うなら、貴方もずっと、エクスマジックベリーの依頼は自分しかできないようにしていたじゃない!」

 

「……!?」

 

 ラークスは舌打ちをした。

 あの指名依頼はずっと繰り返されていたのだ。

 それはラークスにとって不都合な事実だった。

 

「あれは親父がやってことを押し付けられたんだ! それに、そのエクスマジックベリーで助かってたのは誰だよ! お前だろうが!」

 

 ラークスは堪えきれぬ怒気を爆発させた。

 

「人に縋らないと生きていけないような弱い奴が俺は嫌いなんだよ……! 俺に口出しするんじゃねえ」

 

「どうして……いつもそうなんですか。貴方は……」

 

 ラークスは苛立ちをさらに深めたように、露骨な舌打ちをする。

 この空気は覚えがある。

 リルカが倒れた宴会の日、入り口でリルカとラークスが話した。

 その時にラークスがリルカに対して露骨に見下すように喋っていた。

 その空気が言葉になっていまここに現れている。

 

「……リルカ。下がって。俺が原因の話なんだ」

 

 にじり寄り、怒鳴り散らしそうなほど苛立ちを発するラークスにまずいと思った俺は、リルカの前に立つ。

 そして、俺は――地面に膝をついた。

 

「そんな……!?」

 

「ラークスさん。すいませんでした」

 

 俺は地面に頭を付けた。

 

「へっ……いい心がけだな」

 

 ラークスの声から幾文か溜飲を下げた気配がある。俺はそれに安堵した。

 頭一つで揉め事が収まるならまだ良い。

 命が奪われるわけじゃない。

 そんな時、顎に衝撃が走った。

 驚くと同時に、顔を――無理矢理上げさせられる。

 ラークスが俺の顎を蹴り上げて、持ち上げるようにしている。

 

「ラークス!」

 

 リルカの怒声。

 

「おい立て。次はギルドでやるんだよ。全員の前でそうやってもう1回這いつくばって謝るんだ」

 

 ラークスは楽しそうに笑っていた。

 

(見せしめか……!? そうまで力を誇示したいものか!?)

 

 それは本質的にこの行為を楽しんでいるのを革新させるほどに無邪気だった。

 こうまで侮辱されて、流石に頭にも来る。

 睨みつけるようにラークスを見やった次の瞬間、扉がまた開いた。

 

「何事か!」

 

 息を切らしたカルダスが飛び込んできた。

 

「お父さん!」

 

 流石にこれだけがなり立てれば診療所の方にも聞こえたようだった。

 カルダスは俺たち3人の様子を見て状況を確認してからラークスの方を見た。

 

「ラークスくん。これはどういうことか説明してくれるか?」

 

「いえ、先生。診療所からの依頼が最近少ない件を調べてたら、このEランクの奴が途中で奪ってたとわかったので、その件を話してたんですよ」

 

 カルダスの言葉にラークスは、俺達とはがらりと口調を変えて答えた。

 権威を使うものは権威にへりくだるものだ。

 そういう使い分けが客観的に見て小賢しいと見られることも知らずにやってしまうのは、人間は自分のことを客観的に見られない証だろう。

 

「……そうか。彼に依頼を出したのは私だ。そんなことになっているなら、もう少しギルドに依頼を出そう」

 

「ええ。次からお願いします。それと――こいつを借りてきますよ。けじめをつけさせます」

 

 状況を見守る俺はラークスに胸ぐらをつかまれた。

 戦士系の冒険者だけあって力では振りほどけそうにない。

 

「悪いがそれは許可できんな」

 

 だがなんとカルダスは、俺の胸ぐらを掴むラークスの手を引き剥がすように握り――明らかに拒絶を口にした。

 

「は?」

 

 ラークスはそれを全く想定していなかったようで――絶句し、間抜けな声を上げた。

 

「彼はうちの客人だ。ましてや娘の命の恩人。そんな方に頭を下げさせるのはシドリ家の末代までの恥だ。連れて行くなら私にしなさい」

 

 カルダスの言葉は明確に俺を守ろうという意味が込められていた。

 

「い、いやしかし」

 

「だいいち、採集依頼を出したのは私だ。責任は私にあるのに彼を連れて行くのはおかしかろう」

 

「馬鹿な……こんな男をなんでそこまで……」

 

 身体を張るほど、レイルという男を遇していると言外に言われたラークスは狼狽した。

 

「……ッ。先生が出るまでもない。そこまでおっしゃるなら今回は良いですよ」

 

 ラークスは心底恨めしそうに俺の胸ぐらを握りしめ――名残惜しそうに手を離した。

 

「……失礼しますッ」

 

 そのまま一瞥もせず後ろを向き――嵐のようにラークスは去っていった。

 叩きつけられるように締められるドアの向こうに小さくなっていくラークスの足音が完全に消えてから――カルダスはつぶやいた。

 

「はぁ……父上に言いつけられるのが怖いだけだろうに」

 

 カルダスの声にも怒りがあった。

 

「レイル先生……大丈夫ですか!」

 

「ああ。ありがとうリルカ……大丈夫」

 

「……あれは完全に言いがかりです。許せない」

 

 リルカがこうまで怒っているのは初めて見た。それほどまで俺のために怒ってくれるのはなにかくすぐったい気分だった。

 

「然りだな。もともと傲慢なところがあったが……シリウスが病気で倒れてから、年々酷くなっているようだ」

 

 シリウスは確かラークスの父の名前だったはずだ。

 名実ともに村の実験を握った時期、ということなのだろう。

 

「リルカ。ラークスくんとの婚約をどう思う?」

 

 俺がラークスにつけられた埃を払っていると、カルダスはリルカの顔を覗き込み――真剣に問いを発した。

 

「お父さん……!?」

 

 リルカは驚きに目を見開く。

 俺も驚いて思わず2人の方を見てしまった。

 

「レイルくんとも話したが、もうリルカは身体は良くなった。先のことを自分で決められるんだ。今まで色々と押し付けてきたが、自分の素直な気持ちを言ってご覧」

 

「そんなの、今更決まった話を反故にするなんて、お父さんの立場が」

 

「……結婚を取りやめたいんだね?」

 

 無意識に言ってしまったのだろう。しかし、その言葉に込められた意思は明白だった。

 

「あ……」

 

「良いんだリルカ。正直に言ってみなさい」

 

「……私、ラークスと結婚するのは嫌です」

 

 そう言ったリルカが微かに俺の方を見た気がした。

 カルダスは何かを決めた様子でリルカの肩に手をおいた。

 リルカは父の言葉に頷いた。

 

「わかった。よく言ってくれたね。……私もね、彼にリルカを任せられない気持ちだったんだよ」

 

 カルダスはリルカの頭に手をおいて微笑んだ。

 

「後のことは安心しなさい」

 

 リルカは頭を撫でられぽかんとしながら、戸惑いがちに首を縦に振った。

 

 

 




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書き溜めなので毎日 20:00更新します。よろしければ見ていってください。

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