Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って   作:とke

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1 追放

 ランドルド王国中央街は世界で最も繁栄している場所である。

 現在人間国家として世界最大の規模を誇るのがランドルド王国であり、その中央街は、王国議会と冒険者ギルド本部を有する超絶一等地だ。

 ここには王国の裁量を握る高位貴族や王族――そして冒険者ギルド最高位であるSランクのさらに上澄み――限られた上位層だけが居住を許可される場所である。

 それは法で決められた許可ではない。

 王国の一等地は世界で一番地価が高い。

 それを『購入し、維持し続けられるほど』の高所得者のみが住まうことを許された地である。

 そんな王国のVIPが住まう居住区における大邸宅の一室で、俺1人と向かいの2人――合計3人が向き合うように座っている。

 

「……グレッグ、ラーナ。大切な話ってのはなんなんだ?」

 

 俺は最高級のソファに腰を浅くかけながら、前かがみの体勢で固い声を発した。

 俺の前に立つ2人は――苦楽を共にした仲間でありながら、どこかよそよそしい空気をまとっており、それが俺の声を固くしていた。

 

「レイルさん。単刀直入に言わせていただきます。アーレイン戦団を――脱退していただけませんか?」

 

 純白の僧衣(カソック)に身を包み、太古の豊穣神をかたどった黄金の杖を構えた女性――『高位神官(ハイプリースト)』ラーナ・リヴェールが開口一番に言い放ったのはあまりに辛辣な内容だった。

 

(やはり、か……)

 

 しかし俺はその内容をさして衝撃もなく受け入れた。

 俺がパーティ内での評価が軽んじられていることは薄々感づいていたことではあった。

 そして今日こういう話を切り出されることも想定していたのである。

 なぜなら先日のタナトスドラゴンを倒した後からの俺の勤務シフトは妙なことになっていた。

 急に本部待機のままパーティ参加禁止を命じられ、戦いに参加できないままパーティの共有倉庫の整理といった雑用を命じられていた。

 理由の説明もなく唐突な窓際移動となれば、少なくとも厳しい話が来ることが予想できることだった。

 

「理由を聞いていいか?」

 

「自分でわかんねえか? 足手まといなんだよお前」

 

 天をつくほどの巨躯に似合うバスターソード(両手剣)を背負い、真紅の鎧に身を包んだ『戦士(ウォリアー)』グレッグ・レグオンが体がゆすりながら横から口を挟んでくる。

 随分とはっきりと言ってくれる。

 

「お前は最上位の――『極天魔法』が使えない。Sランクになったパーティの魔術師(メイジ)でそりゃだめだろ」

 

 グレッグの声には露骨な侮蔑の響きが会った。

 ここまで面と向かって言われたことはいままでなかったためショックだったがグレッグの言うことに理がないわけでもない。

 魔法には5段階の等級がある。

 初級

 中級

 上級

 天級

 極天級

 の5つである。

 俺はこの中で極天級どころか、天級さえ満足に使えない。先日のタナトスドラゴンとの戦いでも、もはや上級魔法程度では傷を与えることが出来ない。これは魔術師の存在意義が消えていると言っていい。

 なぜ、俺が極天魔法を使えないのか。

 それは――。

 

(……俺の、魔力容量(MP)が成長しなかったからな)

 

 魔法を使う才能は2つの要素がある。

 1つめは「魔法出力」。

 これは魔力の効果率である。

 たとえば初級魔法を使ったとして魔力出力が高い方がダメージが高くなる。

 冒険者の中では揶揄するようにint(賢さ)と呼ばれる。

 俺はこれは高いほうだ。

 しかし、2つ目の魔術の才能である「魔力容量」――これが致命的に欠けていた。

 魔法を使うために使う動力のようなもので、魔術を使う回数に関係する。

 冒険者が内々で使う俗称でMP(マジックポイント)と言われるそれが、俺は――S級冒険者としてありえないほど低かった。

 俺は極天魔法の術式を編むことはできる。しかしそれを発動するためのMPがないのだ。

 使おうとした瞬間、術式は虚空に消えるのみだ。

 

「いくら待っても極天魔法は使えない。なら団長みたいに剣と魔法を両方使えるのかといえばそうでもない。……なんで魔術師を選んだんだよ」

 

(最初は……適性があったんだがな)

 

 魔力容量は先天的な数値と成長性の2つで決まる。

 俺は初期の容量こそ他人に比べて多かった。そのため職業に魔術師を選んだのだ。

 しかし後からわかったことだが、魔力容量の成長性があまりに低かったのだ。

 めったにないことらしく、そんな所で低い確率を引いても何も嬉しくない。

 どれだけ努力しても魔力容量がほとんど増えない。

 俺の魔力容量は冒険者を始めたときからほとんど成長しなかった。

 極天魔術を発動するだけの魔力容量がいくら努力しても俺には備わらなかったということである。

 まさに致命的であった。持久力が足りなさすぎるという圧倒的なハンデ。

 そんな俺がどうやってこの戦団に居場所を確保してきたか。

 

「しかし俺は魔術以外の部分で団に貢献してきたつもりだが?」 

 

「魔法ができないお前がやってきたのはアイテムを使うことだろ? それってお前じゃなくてもできるよな?」

 

 そう。俺は大成しない魔法のかわりに回復や解毒剤、初級の補助呪文を駆使し、パーティの補佐をすることでなんとか生き残っていた。

 

「レイルさんのアイテム補助は助かっていました。しかし……本職の魔法が成長しないのでは本末転倒ではないでしょうか……口さがない人が『アイテム係』と声を潜めて言っているのを耳にしたことも……」

 

 ラーナが言いにくそうにグレッグの後の言葉をつなぐ。

 自分で調合をしたりと経費などの面もなんとかやりくりしていたのだが……素材費もばかにならないような高級アイテムでなければSランクの補助は厳しい。いい加減限界が見えつつあった。

 

「別に10人でも20人でも群れられるCランクとかならいいんだけどさ。俺らS級だろ? パーティの枠に“お荷物を抱える”余分がねえんだよ」

 

 魔術などを使う冒険者パーティはその戦闘規模において同伴数が決められている。

 その理由はSランク冒険者が周囲に影響を与えすぎるからだ。

 Sランクとなれば地を割り天を割く戦闘能力を保持するため、多すぎると同士討ちの危険があるのである。 

 そのため同時に行動するのは4人までに制限されていた。

 だからこそ少数精鋭になるトップ層の冒険者パーティは個人の戦闘力が何よりも重視される傾向があり、実力主義が根強い。

 

「というわけで……ラーナに先に言わせちまったが、俺から改めていうとな。お前は抜けてもらいてえんだよ」

 

 グレッグの目からは本気が伝わってくる。 

 典型的な冒険者としての純度が高いグレッグは自分より強いか弱いかといった部分が評価の多くを締める。その尺度でいえば俺は明らかにグレッグが見下される性能(スペック)だろう。

 俺は唇を噛み締めながら、逡巡し――そして、この問いを発した後のことを想像しながらも、どうしても聞かねばならないと想い口を開いた。

 

「……団長は承知の上か?」

 

 団長――ミリア・アーレインはこの場にいない。

 聞いておきたかった。

 

「お前なあ……聞くことが『それ』かよ」

 

 俺のその問いにグレッグは露骨に顔をしかめた。

 さらに言葉へと軽蔑が混じった。

 

「結局、お前は――『団長の兄貴』だからって理由でここに居たって、自分で言ってるようなもんだな」

 

 指摘が胸に突き刺さった。

 そのとおり、団長の『魔法騎士(ブレイザー)』ミリア・アーレインは俺の妹だった。

 ミリアと俺の二人で立ち上げたパーティがアーレイン戦団であった。

 誇りのために言っておけば、これを聞いたのは親族であるミリアに忖度を期待したわけでない。

 タナトスドラゴンを倒した時、最後に労いの言葉をかけてくれたミリアを思い出す。

 ……ミリアが俺のことを本当は心の奥底で居なくなればいいと思っていたのか?

 それを聞いておきたかった。

 家族……だから。

 

「……貴方が団から離れたほうがいいと言い出したのは団長なのですよ」

 

 ラーナが憐れむようにそういった。

 俺はその言葉に後頭部を殴られたような衝撃を覚えた。

 ミリアは俺を邪魔だと思っていた……。

 グレッグやスレイが言ったのならば鵜呑みにはできないが、ラーナはパーティで数少ない女性でもありミリアと非常に親しかった。さらに聖職者でもありその言葉には重みがあった。

 

「そんな……」

 

 俺は呆然とした。

 それを憐れむように――見下すようにグレッグが口を開いた。

 

「だいたいお前が団長の兄貴だからって、極天魔法を使えないのにはなんの関係もないんだよ。恥を知りな」

 

「再三……あまり繰り返したくはないのですが、レイルさん……パーティを脱退していただけませんか?」

 

 いよいよもって場の空気がはりつめてきた。

 同時に2人の視線が剣呑な色を帯びた。

 

「ゴネるなんてダセえ真似はしないよな?」

 

(そうか。なんでこの2人が戦闘装備でいるのかわかった)

 

 そして俺は2人が鎧をつけ、武器を携えてこの場に立っている意味を察した。

 今日確実に話しを決めるつもりであり、俺がもし自棄になったときは実力行使も辞さないという意思表示なのだ。

 俺はもうアーレイン戦団にとっては外に人間であり、潜在的な恨みを抱く敵として警戒されているような認識をされているということだった。

 

(俺はもう……敵、か)

 

 そのような扱いをされて情に訴えかけるように泣きつくほど腐ってはない。

 

「わかった。俺はアーレイン戦団を抜ける。世話になったな」

 

 俺は決断を下した。

 ラーナはほっとしたように目を伏せ、グレッグはざまあみろと喜悦の笑みを浮かべた。

 

「装備は置いていけよ。お前にそれを持っていく資格はない」

 

 最後のグレッグの言葉に俺はもう言葉を返す気力もなく首肯した。

 かくしてレイル・アーレインは本日より無職の身となった。

 

 




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