Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って 作:とke
「大分熱くなりましたねえ」
「うん。この時期って結構作物が出来るんだね。結構重たいなこりゃ……」
俺とリルカは2人連れ立って村を歩いていた。
診療所の用事でお使いをした帰りである。
診療所は問診をした代金として農作物を現物で貰うことになっており、その作物を受け取りに行ったところだ。
「今年は豊作だったらしいですね。料理も豪華にできそう」
小脇に抱えたザルいっぱいの作物をみて、リルカは料理の算段をしながら嬉しそうに笑う。
俺の両手も農作物を入れた俵や入れ物でいっぱいになっていた。
だいたい作物の納入は、患者の親族などが来てくれるのだが、ちょうど食料の貯蔵が少なくなったのもありこちらから出向く運びとなった。
豊作もあり大盤振る舞いで手渡された作物は、俺とリルカ2人の両手を満杯にしてしまっていた。
「ふぅ……熱いな」
汗を掻く気候になった昨今、リルカの服装も大分夏の装いになっていた。
白い肩紐のワンピースが薄くかいた汗で肌に張り付いている。
「でもこんなに気兼ねなく外を歩けるなんて嬉しいです」
不意に振り返って屈託なくリルカは笑った。
運動をするだけで倒れかねない体調だったのだから、こうして遠慮なく外を歩けるのは嬉しいのだろう。
それは喜ばしいが、1つ少し困ったことが。
人に見られるような経験が少なかったからか、色々とこう……無防備なのである。
(ちょっーっと目に毒……)
リルカは汗で邪魔されないように髪をたくしあげていた。その隙間から見える白いうなじが艶めかしい。
風が吹くと暑さを軽減するために全身で受けるから、ふわさっとスカートが揺れ、すらりとした生足が覗く。
「先生! 帰ったらこのスイカ戴いちゃいましょう」
「え、ああ! ……確かにのどが渇いたね」
リルカのワクワクした声に俺は我に返った。
慌てて返事を返し――思考を入れ替えるために、少し真面目なことを考えた。
(あれからラークスも音沙汰ないし、平和だねえ……)
ラークスが怒鳴り込んできてたあの日から数日経過していた。
あれからラークスは全く診療所に訪ねて来ることはなかった。
父シリウスに叱られて納得したのかもしれない。のどかな日々が続いていた。
そんな余計なことを考えていたからか、噂をすれば影とやらか。
「ラークス――」
診療所へ向かう坂道に向かうためにギルドを通る必要がある。
ギルドの前を横切った時にラークスと出会った。
「先生……」
リルカが無意識か俺の後ろに隠れる。
俺はリルカの前に立つように身体を移動させ、努めて目を合わさないようにラークスとすれ違った。
「……チッ」
すれ違いざま、ラークスは大きく舌打ちをひとつした。
ひやりとしたが、ラークスはなにか言いたげに俺を見て、結局なにも言えずに睨みつけるだけでそのまま身を翻した。
(……相当絞られたみたいだなあ)
ラークスの表情はまだ恨み骨髄の様相だったが、それ以上こちらになにかしてくることもなくすれ違った。
彼の父シリウスに話を通した結果が出たのか、今までと違う穏当な遭遇であった。
どうやら注意を受けたことで諦めてくれたらしい。
「何も言わずに行ってくれましたね」
「ああ」
俺たちは互いに顔を見合わせて苦笑した。
安心感が互いに伝わり弛緩した空気になる。
そうして少し立ち止まっていると後ろから声が聞こえた。
「あーっ! レイルくーん! それにリルカちゃん!」
振り向くと後ろから見知った顔がこちらに走り寄ってきた。
「アルロさん! お久しぶりですね」
「こんにちわ」
俺が答え、続いてリルカが頭を下げる。
駆け寄って来たアルロは裏表のない笑顔を浮かべながら口を開いた。
「今ラークスさんそっち行ったけど大丈夫だった? 最近めちゃくちゃ機嫌悪いみたいでさ」
「そうでもなかった……よね?」
「うん」
俺の目から見ると大事には至ってないように見えた。
不安になって隣に立つリルカに目配せするとリルカも頷いた。
「この前レイルくんが診療所に居るって俺が話したら、すごい機嫌悪くなってさ。大丈夫かなって心配してたんだ」
「あっそれで……」
アルロの言葉に俺はなぜ急にラークスが診療所に現れたのか理解した。
そこから情報が伝わったのだ。
一体なぜラークスにしれたかを疑問に思っていたが、こういう理由だったか。
「なるほどねえ……」
「それで……」
俺とリルカは納得して頭を振った。
そんな俺達を見たアルロは目をしばたかせ、俺たちを交互にまじまじと見た。
「あっれえ……なんか仲良くない?」
様子のおかしいアルロに問いかけて帰ってきた答えに――俺は驚いた。
「えっ?」
俺は驚いてリルカを見る。同時にリルカも同じように俺を見てバッチリと目があった。
めちゃくちゃリルカの顔が赤い。
俺の顔も熱い。同じ様になっていることだろう。
さらにアルロは言葉を続けてくる。
「いやなんか、雰囲気が……兄貴と義姉さんが新婚の頃みたいな……」
「し、新婚……!?」
リルカがすごい勢いでのけぞった。
とんでもなく新鮮なリアクションだった。
「何言ってるんですか!」
俺は顔を真赤にしてそれに反論した。そういう事実は全く無いし、考えても見なかった。
だいたい俺とリルカは手さえ繋いだこともない間柄なのだ。
「なんか返事するタイミングも妙に息が合ってるし」
「いやいやっ」
「そんな……」
……バッチリ、同じタイミングで俺とリルカは声を上げた。
気まずくなってその後口をつぐむ。
「距離も凄い近いし……」
いつの間にかリルカと肩がふれあいそうな距離にいることを自覚して、俺は慌てて距離をとった。
「仲いいよねえ君たち……」
ジト目でアルロがこちらを見つめてくる。
反論したいが……顔が熱くて頭がまわらない。
いやそもそも、思い切り否定してしまったらリルカが傷つくかも……。
そんなに嫌ではないのだ。
後ろから緊張感でがちがちになったリルカの声が聞こえていた。
「し、新婚……」
「リルカ? 気にしすぎでは?」
「同じ屋根の下で過ごして……ご飯を作って……お父さんの仕事も手伝ってて……あうう……よく考えればこれ……」
リルカの言葉に俺は固まった。
客観的に自分の状態を見る――ということを意図的にしてこなかったわけだが、その言葉によって現状を認識するきっかけを作ってしまったのである。
言い訳ができないほど外から見ればこれは……。
「落ち着いて!? ただの居候だから!」
俺はまずい流れを断ち切るために叫んだ。
ここは断言しないとまずい。
「そうだよ。君等って一緒に住んでるんだもんねえ……う~ん?」
しかし本人の証言などより、状況証拠が揃っている。
俺は形勢のまずさを悟った。
流されてはいけない! この流れを変えねばならない。
「アルロさん! そういえば……仕事の方は順調なんですか?」
強引に俺は話を変えた。
これしかない。
一か八かだったが、アルロはその話の転換に、嬉々として乗っかった。
「そうそう。聞いてよ俺でかい仕事貰っちゃって」
通った!
思考過多でフリーズして顔をうつむけているリルカを、そっと俺の身体で隠しながらアルロの話を促す。
「へええ。良かったじゃないですか。なんの仕事なんです?」
「今度、都会から交易で送られてくる品を輸送する馬車の御者だよ」
「交易品……!」
思った以上に大きな仕事だ。
「夏野菜の収穫の時期だからね~。都会と農作物といろんなものを交換するんだ」
「なるほど」
「その荷馬車の御者なんだけど、結構払いがよくてさ。倍率が高いんだけど抽選で俺が獲ったわけ!」
「へええ。良かったじゃないですか」
ギルドの仕事でバッティングがあった場合は抽選で決められる。
揉め事が起こらないように決められたことだ。
アルロの喜びようからも相当に割のいい仕事なのだろう。
「おうよ。てなわけで機嫌がいいのさ」
「危険は無いんですか?」
「交易路を使うから魔物もそんなに出ないし、ただ馬車動かすだけで相場の5倍はもらえるんだ。へへへへ、何食うかな」
相場の4倍とは剛毅な話だ。アルロがこうまで浮かれる理由もわかる。
ひとしきり百面相をしたアルロは不意に手を叩いた。
「とと、そういうわけで仕事の準備しないと……んじゃまたねっ」
何かを思い出したように手を叩いて、アルロはそそくさと帰ってしまった。
「マイペースな人だな……」
俺は流石に呆れたように頭を掻いた。
嵐のような時間だった。相変わらず独自の世界を持つ人である。
「うう……なんだったんですか……」
リルカが疲れ果てたような声を上げ、俺はそれに吹き出した。
「ああいう人だよなぁ」
俺はそう言いながらも、アルロさんに親しみを感じていた。
(でもなんか嫌いになれないんだよな。なんだかんだとずっと気にかけてくれてるし……)
しかし、屈託ない自然体で好意を伝えてくれるアルロを嫌いにはなれなかった。
「仕事が終わった後、飲みに誘おうかな」
ふとそんなことを思った。
リルカとの事柄も色々説明しなきゃいけないし。
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