Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って 作:とke
(魔法を使う前に応急処置はしっかりしないと……)
診療室に残ったリルカは、無惨な状態のアルロに処置を施していた。
止血、重点的に魔法を使うべき患部のチェック。リルカは真剣に患者と向き合っている。
そんなリルカと患者を、ラークスはじっと見つめていた。
「回復……を……馬鹿な……それじゃあ……助……る……?」
ラークスの様子はどこかおかしかった。眉間にシワを寄せ――一人でぶつぶつと何かをつぶやいている。
くわっとラークスの目が開かれた。同時に体が動く。
真剣な表情で患者へと向き合うリルカへ――ラークスがにじり寄るように後ろに移動し――唐突にその肩へと手をかけた。
「おい、リルカ」
予想だにしない力にリルカはびくりと体を震わせて振り返った。
「ラークス!? 何! アルロさんが……今は貴方と話している場合じゃ……」
「良いから聞けよ」
怒気をはらみながらリルカはラークスの方へと振り返った。
しかしラークスは獰猛に歯をむき出しにするような笑みを浮かべながら――リルカの手を取りそのまま軽くひねるようにしてリルカを押し留めた。
「……あうっ」
痛みに思わずリルカは硬直した。
そうやって行動の自由を奪ったラークスはリルカの耳に口を寄せ、ささやくようにつぶやいた
「親父にチクって、俺との婚約を破談にしたらしいな?」
「こんな、ときに、何を……」
「そりゃいいんだ。清々したくらいだ。薄々感づいてたかもしれないが、お前のこと嫌いだったからな」
捻り上げられたリルカの手にかかる力が強くなる。リルカは堪えきれずに悲鳴を上げた。
「俺が言いたいのはさ、リルカ。お前本当に魔法が使えるのか?」
「……魔法は使えるようになったわ。ねえ。手を離してラークス」
そのリルカの言葉を受けてラークスは嘲笑するように犬歯をむき出しに笑った。
嘲弄するかのような敵意有る笑い方に、リルカはびくりと身を震わせた。
「本当に?」
ラークスの声が低くなった。不気味なほど優しい声色だった。まるで子供に諭すような声音である。
それは獣が餌を見つけたときのような、酷薄な害意ある笑みだった。
リルカの顔には明らかに動揺が見える。
ラークスの言葉は相手の心の弱い部分を的確にえぐるような鋭さに溢れていた。
それが彼の持つ強烈な「自分はやれる」という自負心によって断言され――強い圧力を産んでいる。
過去を乗り越えたといえど、それは連続的に刻まれた無力感だ。それを根本的に忘れることなど出来るはずもない。
「なあ考えてみろよリルカ」
そしてラークスは、心底意地の悪い顔をして次の言葉を続けた。
「お前がもし魔法を使って、それでアルロが死ねば、――それは、お前のせいだ。治せないお前がこいつを、殺したことになるんだぞ?」
リルカの顔が青ざめた。
さんざんと自分の過去の無力感を掘り起こされた上で、みしも失敗したときのことを言われたのだ。
さらにアルロは顔見知りだった。ドジなところがあり、よく診療所に治療に来ていた。
そんな見知った人が、自分が上手くやらなければ居なくなってしまう。
人の心の傷つけ方を知り尽くしているかのようなラークスの言葉はリルカに確かに刺さっていた。
「ラークス!? なんて事を言うの!?」
効いていることを確信したであろうラークスはさらに続ける。
「俺にはお前が魔法を使えるって信じられないよ。だって都会で有名な治療術師だったお母さんの血を引いて、あれだけ努力したのにも関わらず魔法を使えなかったんだもんな?」
それはリルカの弱い部分だ。血を分けた母ができたことが自分には出来ない。
「できないなら、“私にはできません”って言えよ。今ならまだ間に合う」
それはあまりに人を見下した発言だった。
ラークスは倒れ伏し、息さえ定かではない重傷者を指差し吐き捨てるようにリルカを怒鳴りつけた。
その横暴な態度についにリルカは本格的に怒りの声を上げた。
「もう貴方には関係ない話よ! 私は院長である父に治療を任されたわ! 婚約者でも無くなった、赤の他人である貴方は、診療所のことに口を出す権利もない!」
ラークスはリルカの怒声に全く怯まなかった。心底リルカを見下すような目で見下ろし、言葉を続ける。
「連れないな。でも俺は知ってるぞ。お前が昔……やったことを。やってきたことを」
にぃ――と犬歯をむき出しにするようにラークスは笑った。
「昔も同じことがあっただろう? あの日、お前は……森に入った。自分ならできると思い上がって」
“あの日”。
その言葉は決定的にリルカの顔色を変えた。
知っている――過去――風景――。
「や……」
リルカは反射的に耳を閉じようと両手で覆った。それを見たラークスは手を無理やり退ける。
「聞けよ。今やってることと同じ。お前が自分ならできるって“言い張ってる”ことだぞ!」
リルカの躰が震えだした。
なにか心の奥で触れてはいけない、覆い隠していた衝動が……心の傷が開きかている。
「森に俺を追いかけて入ってきて、そこで魔物に襲われて……」
「やだ……いや……っ」
大切なものを失ったあの日の情景――無力感が破裂する。
リルカは前後を忘れたように足の力を失い、その場にへたり込んだ。
失敗、無力感、絶望――自責――。
母を失ったあの日……。
私はお母さんから何も受け継ぐことができなかった。
無力感に囚われたリルカは顔を上げる力さえ失い、視線が床へと落ちていく。
その堕ちる視線に胸の花飾りが映った。
その花は、いまや赤く――魔力を暴発させた色に――染まっていた。
(せんせい……助けて……)
リルカがすがるような気持ちで、瞼の裏に思い描いたのは――自分を教え導いてくれたレイルの姿だった。
「そこでお前を助けるために、お前のお母さんはさあ――ごぉっ!?」
鈍い音がした。
ラークスは後ろによろめいた。
「あ……」
リルカは顔を上げた。
その先には、心の奥底で呼んでいた人の姿があった。
“俺”は――頬骨を殴り飛ばしたびりびりとした感触を握りしめながら――怒りを吐き出した。
「ラークス……リルカから離れろ」
息をきらせながら俺は、ラークスとリルカの間にたち、そう叫んだ。
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