Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って 作:とke
「さて。薬草薬草っと……」
バッグにキュアベリーを詰め込みながら俺はひとりごちた。
俺は森に薬草を取りに来ていた。
理由としては馬車の大事故で、治療のためにあらかたポーションの備蓄を使い切ってしまったことによる。
手術の処置や、その後の体調管理にポーションを使うこともあり、一気に消費されることになった。
採集依頼をギルドに出しているが、早急に要るため俺が先んじて採集に来ているというわけだった。
「これだけあれば当座はしのげるだろう……」
採集を初めて数時間経ち、ポーチの中を覗き込むと薬草で一杯になっていた。
ずっしりとした重みを感じながら、俺は折った腰を持ち上げて立ち上がった。
額に浮かぶ汗を拭いながら俺はポーチの口をこぼれないようにしっかりと結び、
「……んじゃ、薬草は揃ったし、少し私用をね?」
誰が聞いているわけでもないが、少し後ろめたい気持ちがあり独りごちた。
――森に来ると決めてから俺は決めていることがあった。
それは、絶賛きまずい状態であるリルカへと、仲直りのための布石をうつことだった。
リルカとは先日、魔法仕様の件で言い合いになってから気まずい状態が続いている。
朝食卓を囲んだ時、露骨に視線をそらされ、ひどく動揺したものだ。
こんな状態が続くのは避けたい。
現状を解決するために俺はアイディアを一つ持っていた。
そのために森で採集をする必要があり、――少し下心をもってこの採集を願い出た部分もあるのが後ろめたさの理由である。
「あったこれこれ」
俺は薬草よりも身をかがめ注意深く地面を眺め――目的のものを発見する。
視界の先に小さな赤い実が見つかって、俺はそれに駆け寄った。
「クランベリーだ。うん虫に食われてない」
親指の先ほどの赤い小さな木の実のクランベリーは、甘みがあり女性に人気の果実だ。
甘酸っぱいとろりとした味わいで、好む人も多い。
これで俺は、パイを作るつもりだった。
パイ生地に煮詰めたクランベリーを乗せた甘いパイ。
さらにクランベリーは薬効を吸収する効果もあり、少し苦味があるマジックベリーと合わせるとちょうどいい塩梅の甘酸っぱさになる。
魔力を消耗した冒険者のために振る舞われる料理のうちの一つだ。
「結構数がいるから、頑張って探さないとな」
甘みを出すためには結構な数のクランベリーを煮詰めなければならない。
手間暇がかかる料理である。しかしその美味しさは評判がよく、リルカに……調理してあげたいという思いがあった。
俺は集中してクランベリーを採集した。
「ん……?」
薬草とは別に持ち込んだカゴに赤い実が敷き詰められるほどいっぱいになった頃、不意に人の気配を感じた。
ここは採集をする冒険者が多いから不思議なことは無いのだが、何か違和感を感じて俺はその人影に近づいた。
(山芋でも掘ってるのかな? ……しかし、何か)
ざくざくと土を掘り起こす音が近づくにつれて大きくなる。
スコップか何かで地面を掘る音だ。
その人影は一心不乱に地面を掘っていた。
軽鎧に腰に剣を佩(は)き、ひと目見れば冒険者と分かる出で立ちである。
「あー……だりぃ……くっそ」
表情にありありと不平を浮かべ、ぶつくさと悪態をつきながら地面を掘る冒険者。
(E~Dランクの募集で一緒になったことはない。でもどこかで顔は知っている……)
「ラークスさんも面倒なこと言うぜ……」
俺の疑問は次の悪態で氷解する。そうだ、ラークスの手下だ。取り巻きとして立っていたのを見たことがある。
しかしなぜこんな所にいるのだろう。モンスター討伐依頼なら穴をほっている理由が説明つかない。
落とし穴にしてはトラップツールも展開していないし、色々と妙だ。
「こんにちわ。何してるんですか?」
俺は意を決して話しかけた。
「あ? なんだてめえ?」
予想だにしてなかったのか、男は思い切り驚いて身をすくませた。
「人影が見えたんで、ご同業かと思いまして」
俺は警戒心を持たれないようににこやかに姿を現した。
「ちっ。んだよモンスターかと思うじゃねえか。採集なら別のとこいけ――」
苛立たしげに舌打ちをしながら振り向いた男と目があった瞬間、男の目が見開かれた。
「ん? お前、まさか……医者んとこの、レイルとかいうやつか?」
その目に宿る危険な光に俺は、違和感を持ったことが間違いでなかったのを確信する。
「……何をしてるんです?」
俺の問いに答えず男はにやりと笑った。
「へへっ。へへっ。ついてるぜ。オレ一人だけこうして雑用を押し付けられたが……“獲物”がきっちり来てくれるんだからさ」
雰囲気が変わった。
男は哄笑を上げた。
嫌な気配が輪郭を持ったような気がして俺は身構えた。
「……ラークスの手下だな? 何をやってる」
もはや取り繕う必要もない。俺は口調を変えて問い詰めた。
「見てわかるだろ。穴ほってるんだよ」
「……なんのために?」
「馬鹿か。穴ってのは埋めるために掘るんだよ! ――てめえみたいなのをな!」
男は飛びかかってきた。同時に剣を抜き放つ。
「これ正当防衛だよな?」
俺は突き出された剣をかわし、抱えるように受け止めた。
予備動作が大きく直線的すぎる。見てから対処可能な動きだった。
「は?」
男はほうけたように目を見開く。
まさか受け止められると思って無かったのだろう。最初から警戒している様子を隠してもいなかったのに不意をついたと確信していた表情といい、対人練度がそこまで高くないタイプだ。
「ぐあっ!?」
俺はそのまま男の手首を思い切りひねり上げた。
男はその痛みで怯んだ叫びを開ける。その隙にダメ押しと呪文を唱えた。
「天より来る物――雷よ、雷打(サンダーブロウ)」
雷の中級魔法が発動し、男の体にまとわりつく。男はしびれに身体を震わし、その場に崩れ落ちた。
(中級魔法じゃなくて良かったかな……)
冒険者であるため、少し強めに魔法を当て当てたが予想以上に効いて困惑する。
「もう一度質問するぞ? ここでな何をしていた?」
「ひ、ひぃ……話します。ラークスさんがあんたを始末しに行くからそのーー処分のために穴を掘れって」
「何?」
ぞわりと背筋が凍った。
穴が一つでは無かったからだ。
「なんで……穴が5つもある!」
俺は激昂した。
1つが俺を埋めるためのものなのはわかった。
だが残りは? 誰を埋めるためのものだ?
「ひ、ひぃ……」
俺の顔はよほど怖かったらしい。喉奥に空気をつまらせたような声を上げ、男は震えながら話を続ける。
「し、診療所にいる……やつ全員……埋めるって」
「馬鹿な!」
俺は激高した。
「そんな凶行をなんで許す! 周りにいる貴様らが止めないのか!」
「ひ、ひひ……シドリ家が……なくなりゃ……分家にだってチャンスが」
目眩がする。直接的な人のエゴに触れるのは不快だった。
そういうものから自由になるために冒険者になったというのに、現実はいつだって逃してくれない。
「貴様はっ! その穴で眠ってろ!」
俺は男の胸ぐらをつかんで麻痺してる身体を強引に引っ張り上げた。
そのまま俺は男を自分が掘った穴に突き落とした。
「ぎゃあああああああっ!」
男はゴロゴロと穴を滑り落ち、自分で掘った穴を滑り落ちた。
「麻痺が抜けるまでそこにいろ。ラークスに加勢しにきたら……本当に容赦しないぞ」
俺は穴に転げ落ちた男を見下ろすようにそう言った。
「ひ、ひぃ……」
男は身を捩って目に涙を浮かべた。
戦意を失った表情に興味をなくした俺は踵を返した。
「リルカっ……!」
俺は診療所へと駆け出した。
――間に合うように祈りながら。
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