Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って   作:とke

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2 王都離脱

 アーレイン戦団を抜ける決断をした俺は、手続きのために王国の中央にあるギルド本部に来ていた。

 中に足を踏み入れた俺にギルド中の視線が集中する。

 情報にも目ざとい高位冒険者が位置する中央ギルドの面々では、もう俺の退団が噂として流れているらしく、露骨に気にされているようであった。

 

「ついにあのコネ野郎、クビになったのか」

 

「身内だからって依怙贔屓されて……」

 

 口さがない何人かが露骨な声でなにか言っていたが無視。

 

「退団の手続きをお願いします。」

 

 そんな好奇の視線を無視しながら俺は退団の手続きを終わらせた。

 

「書類はこれで全てですね……何か返却するものがあればお預かりします」

 

「これを」

 

 俺は家で纏めてきた荷物を黙って取り出した。

 荷物の中身は、幾重の魔術的防御を刻まれた外套(トーガ)、護衛用の儀礼短剣(アゾット)に魔力増強の宝珠(アクセサリー)類である。

 Sランク戦士団にふさわしい凄まじい力を秘めた呪具たちは全て取り外し、こうして返却のためにひとまとめにした。

 自分の一部となっている装備を外すことは、自分の積み上げてきた自信も一緒に消えていくようだった。

 ギルド職員は荷をほどき、その中身を慎重に確認してから、また丁重に包装する。

 危険物のチェックはしっかりと。ギルド総本山である王都中央ギルドの職員は特に優秀である。

 

「……それではおかけになって少々お待ち下さい」

 

 よそよそしい対応に俺は従い、待合室の椅子へと腰掛けた。

 ちらりと先程の受付を見ると、小声で先輩らしき女性と話しながら俺の方をチラチラと見ていた。

 たまたま視線があっただけだろう。そう思おう。

 と視線を別の方にすると、また俺の方を見ている冒険者と目が会い、慌てて目をそらされた。

 ため息をつくと同時にまた別方向から声が聞こえる。

 

「レイル・アーレイン……Sランクまでいったのに極天級を使えないって本当なのかしら」

 

「天級でも満足に使えないとか……」

 

「ああ。あの『アイテム係』……」

 

 実力を特に重んじる業界だけに、技量不足は特に話題にされ虚仮にされる。

 こういった口さがない悪口はちょくちょく聞こえてはいたものの、ここまで直接言われたのは今日が初めてだ。

 アーレイン戦団の名にこれまで守られていたという認識が実感となって胸にしみた。

 周囲からの嘲笑が飛び交う場所での待ち時間は永遠のように感じられた。

 

「レイル・アーレインさん。9番の窓口までお願いします」

 

 ようやく呼ばれた。立ち上がると重い空気にさらされたせいか足元がふらついた。

 

「さて……と、退団の手続きだな……」

 

 知らず識らずのうちに独り言が口ついていた。

 人は不安になると独り言を言う。

 

「それではアーレイン戦団を退団ということになりましたので、ソロのフリー冒険者として活動していただくことになります」

 

 受付のお姉さんに淡々と事務的に説明された。

 その内容に少し驚く。

 

「あ、そうですか……」

 

 アーレイン戦団を抜けただけでもう冒険者でなくなってしまったような錯覚だったが、あくまでも戦団を抜けただけ。俺はまだ冒険者なのだ。

 

「Sランク戦団に在籍されていた場合、Aランク相応のフリーランスとしての活動権限を持ちます」

 

 冒険者を始めた頃から戦団として活動を始めていた俺には初耳の話だ。

 

「ただし、緊急性を要するA以上の仕事は国家からの義務になりますので、王都にいらっしゃる以上拒否はできません」

 

 その言葉に俺は――言葉をつまらせた。

 ギルドにおける等級はEが最低でSが最高となる。

 最高のSランクは国家の危機として認定された竜や魔獣といった天災に匹敵するモンスターの討伐や、人類未踏の秘境への踏破を求められる。

 その下のAランクも地方の小さな街レベルなら破壊できるようなモンスターの討伐に携わる。

 極天魔法さえ使えればAランクの魔物くらいなら瞬殺できる。

 グレッグも、ミリアも1人でAランクの魔物の討伐をなんなくこなすだろう。

 僧侶であるラーナはソロでは無理だろうが、あれほどの回復魔法ならどの戦団も喉から手が出るほど欲しがるため、すぐに頼りになる仲間を見つけられる。

 

(他の戦団に入ろうにもこんな風評じゃ……)

 

 俺が冒険者として再スタートする道は厳しそうだった。

 ギルド全体から陰口を言われていると錯覚するほどの陰口をいま叩かれたばかりである。

 冒険者ランクが上がるほど風聞には敏感になる。そもそも実力が足りず、さらにリスクを背負ってまで俺を抱えてくれる戦団などあるはずもない。

 実力主義としての原理が強い冒険者において、縁故でSランクに在籍していたと見られている風評は思っていた以上に風当たりが強いようだ。

 暗澹たる気持ちになっていると、いつの間にか説明が終わっていた。

 

「こちらがAランク相応の証明書類です。どのギルドでもこちらを見せていただければAランクの任務を受けられます。提示しなければEランクからの開始となるので気をつけてください」

 

「ええ、はい」

 

 これを使うことはないだろうと思いながら、俺はため息を付いて書類を受け取った。

 また俺に視線を送ってくる冒険者が居る。針のむしろである。

 此れ以上ここに居るのは居たたまれず――俺は逃げるようにギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市民街の安宿で、俺は改めて自分の持ち物を確認していた。

 

「残ったのは私物で使ってたこの採集用のナイフと……中身は空のアイテムポーチだけか」

 

 もともと住んでいた中央街にあるアーレイン船団のセーフハウスは退団してから当然使うことは出来ず、この市民街の安宿に居を移し替えた。

 有事の際の蓄えはしてあったが、宿泊費と食費に少しずつ消えていっている。

 Sランク戦団なのに俺は貧乏だった。

 なぜなら、俺は結構――貯蓄せずにお金を使っていたからだ。アーレイン戦団の拠点に魔法論文の書庫を作っているのだが、これはほとんど俺の自費によるものであった。

 俺は魔力容量を伸ばす方法がもしかしたらあるのではないかという希望にすがり、高価な魔法の研究本を買い漁っていた。

 それはもう一点物の本なので目玉が飛び出るほど高い。俺の報酬はだいたいそういうものに消えていったというわけだ。

 

「……仕事を探さないとな」

 

 そういうわけで俺の手持ちは1年先の生活費くらいのもので、生活に余裕がない。

 結論を出した俺は就職活動を行った。

 冒険者時代の経験を活かすものとして考えた末、いくつか候補を考えついた。

 

「魔術器具の販売員とかならいけるかもしれないな」

 

 早速売り込みに行ってみるが、帰ってきた反応は芳しくなかった。

 

「アーレイン戦団!? の、レイル……。ああ」

 

 採用担当者は例外なく渋い顔をした。俺は自分の風評が王都で地に落ちていると知った。

 5件目の面接では、はっきりと言われた。

 

「……魔術器具の大手取引は冒険者の方も一定数いらっしゃいますから、貴方の評判を考えると販売員としての採用は厳しいかと」

 

 心身ともにぼろぼろになりながらも職を探して街を歩いていると、俺に聞こえるような大声でヒソヒソと悪口をかけてくる人もいた。

 

「……絞らずにもっと手広く受けて見よう」

 

 もはや業種を選んでおられず、片っ端からエントリーする。

 武具屋の店員も受けたが、冒険者が利用するのでダメ。

 手広く受けるところを増やしたが商業系はだいたい上客に冒険者が多いのでダメだった。

 大工や鍛冶といったインフラ整備系は、なんか専門性が高すぎて、ほぼ一子相伝だったり、工房の縁故採用になるということでだめ。

 ――そんな感じで就活は一向に成果が上がらなかった。

 1月そういった環境に置かれ、貯金も目減りして――ついに俺は折れた。

 

「王都を出よう! 俺を知らない人間がいるところへ行くしかない!」

 

 俺は王都を出ることを決意した。

 王都ランドル度は冒険者を中心に回っている。冒険者界隈で死ぬほど評判が悪い俺の居場所は無い。

 このままここにいると全てが終わってしまいそうな気がした。

 決断をして荷物をまとめる。

 残りのたくわえを切り崩し、旅装を整え――食料や水も買い込む。

 自給自足を考えると、採集用のナイフとアイテムポーチが残っているのは頼もしかった。

 準備をしている間、どこへ行くか考えた。

 俺のことを知らない人がいるところへ行きたいというのが重要だ。

 

「行くなら西だな」

 

 帝国より西側は農業の世界であり、言ってしまえば田舎になる。

 それなら俺のことを知っている人も少なくなるはずだ。

 そう考えた俺は西に旅立ったのである。 

 途中で出会った野盗や野生のCランク魔物などをあしらいつつあてどなく1月ほど行軍を続けた。

 食料が心もとなくなれば、時には山菜や果実といった野生の食料を採集して飢えを凌ぐ。

 あてどなく西へと進んでいると、やがて周囲に森が多くなっていき、人の行き来も少なくなっていった。

 道が荒れはじめ、やがて人が踏み鳴らした土をかろうじて道と呼べるような――そんな状況になっていく。

 

「……見えた。これが最西端――レプラコーン山脈」

 

 やがて目の前に巨大な山脈が広がった。

 その山脈は王国の所領の最西端であり、現状人間が把握する最果てであった。

 レプラコーン山脈は人類未踏の地であり、その向こうに何が広がっているか現代の人間は知らない。

 山岳地帯に近づくほど切り開かれた平地が少なくなり、山脈を覆うように森が濃くなっていく。

 目的地は近い。

 

「山脈の下に広がる……地の果て、王国領の最果ての森か――」

 

 俺は山脈を守るように広がる森へ足を踏み入れた。

 そして俺の目の端に人の生活が生み出す炊事の煙を発見した。

 人がいる。

 そこが目的地。この世界の果てだ。

 

(夢を原動力に進む冒険者には、敬遠される未踏の地がない地方都市。ここなら俺を知っている人も居ないだろう。)

 

 俺を知っている人が居ない土地に行く、これが大事なことだった。

 王国領の最西端。レプラコーン山脈の真下に位置する、深緑の村――リーウィルに俺はたどり着いた。

 

 

 




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