Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って 作:とke
「ブォォォォォォォッ!?」
山狩りをしていたラークスを先頭にした一団は、突如として響いた獣の叫声にざわついた。
「なんだぁ!?」
「クラッシュボアか!?」
「近くにいるのか!」
集団に緊張と――それに伴う恐怖が伝播する。
山狩りの集団の構成員はほぼDランク以下の冒険者だ。
Cランク魔物が正面から来られれば危険な身である。
「てめえら! ガタガタ抜かすな!」
ラークスは浮足立つ集団を舌打ちしながら怒鳴りつけた。
「声からしてまだ距離がある! すぐ襲われることはねえ! ……自分で居場所を教えてくれたんだから今日で片がつくぞ!」
ラークスの発破に周囲は平静を取り戻す。
ラークスは常に自ら集団の先頭にいる。襲われてもラークスがまず引き受けてくれるという保証があるから集団は説得された。
「クラッシュボアの声はどっちに聞こえる!」
「あっちです!」
「よし!」
集団の過半数が示す先に、ラークスは足を踏み出す。
頭の先導に集団は士気を上げた。
「さすがラークスさんだな……こんな状況でも落ち着いてる」
後ろから受ける尊敬。ラークスはこの村に代々務める冒険者の家系だ。
代々冒険者を受け継ぐ家系であり、そのために幼い頃から厳しい訓練をしていた。
背に受ける称賛に鼻をふくらませながらラークスは頬を緩めた。
(当たり前だろ。俺は……Bランクだ。お前らと違うんだよ)
傲然とした思考に悦に入るラークスだったが、訓練の結果か、状況の判断も並行して行っていた。
クラッシュボアの雄叫び。これは滅多に起こることではない。
基本的に草食のクラッシュボアは、威嚇行動のような叫びを上げることはあまりない。
あるとすれば、自分の縄張りに見慣れぬ者が入り込んだか……。
「Eランクのあいつ……、ちゃんと村に戻ったのか?」
ラークスは嫌な想像師をして顔をしかめる。
同じ森に住む動物を見てクラッシュボアが威嚇をするほど警戒することはほとんどない。
あのような声を上げるのはラークスの経験上、人間という見慣れぬ気配を感じたときだけだ。
いまこの森にいる人間は自分たちと、あの最近村に来たEランクの若い男だけ。
Eランクがボアに襲われたというのは有り得る話だ。
別によそ者がどうなると知ったことではないが、冒険者の顔役である自分の管理不足を指摘される種になるかもしれないと感じると、少し心が苛立った。
山狩り集団に回収したほうが面倒はなかったか……と考えるラークスは、若さが産む完璧主義に囚われている。
そうやって考えを巡らせるラークスの耳に――不意に凄まじい音が聞こえる。
凄まじい衝突音と、バキバキバキバキ――という木が折れる音だ。
ラークスは影の薄い新入りのEランクのことをすぐに忘却し、戦闘へ意識を集中した。
クラッシュボアは戦闘態勢に入っている。
なにか想定外のことが起こっていると感じたラークスは後ろの手下たちに急ぐと号令をかけようと大きく息を吸った所で。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?!!?」
クラッシュボアがもう一度、叫びを上げた。
かなり――近い。
「もう居るぞ!!」
ラークスは号令をかけ、腰に下げた大ぶりの両刃剣の柄に手をかける。
先頭の熱気に当てられた若者たちはめいめい気合の声を上げた。
集団が発生する戦の熱気は、眼前にクラッシュボアに集中する。
だから。
――ガサガサと、梢が不自然に少し揺れようと、集団の意識はクラッシュボアに集中していた。
梢の向こう側ですれ違うように、集団のすぐそばを通り抜けていった人影を誰も気にすることはなかった。
採集用のポーチを大事そうに抱え、村の方に走るレイルを知覚したものは誰もいない。
「クラッシュボアだァ!!」
集団は魔物と対峙した。
クラッシュボアは興奮し、周囲の木々に思い切り頭をぶつけ――戦闘の狂乱の様相だった。
「弓だ!!!!」
ラークスは後ろの若者たちに支持を出す。
その号令に従い、木弓を携えた若者たちが弓を射かける。
クラッシュボアはその弓を身に受け、苦しむ声を上げた。
「よし! 後は任せろ!」
ボアが弓を受けて弱まったのを確認したラークスは、剣を抜き放ってクラッシュボアに切りかかった。
クラッシュボアは目を見開いて応戦するが――ラークスの剣のほうが早い。
「武技――大豪断(だいごうだん)!」
戦士の技である武技は身体強化をして相手を攻撃するというシンプルが故に強力な技である。
ラークスの一撃は、クラッシュボアの骨まで両断した。
「うおおおおおおおおおおおお! すげえ!」
「肉だ! 肉が食えるぞ!」
沸き立つ若者の集団が次々と賞賛の言葉を伝えるのを当然のように受けながら――ラークスは少し違和感を覚えていた。
(妙に手応えがなかったな。それに突進をしてこなかった。足を怪我していたのか?)
しかし、すぐに思い直す。
(手下どもの弓が偶然、足に致命的一打(クリティカルヒット)したか……)
この村には魔物を倒す戦力は自分が率いる一団しか居ないのだ。それ以外の誰かがクラッシュボアに傷をつけるなどできるはずもない。
運が良かった、と結論づけた。
ラークスは思考を中断し、仕留めた獲物と、賞賛の言葉に意識を向けた。
賞賛は甘く、達成感は気持ちよい。
今日はよく、酔えそうだった。
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