Sランクパーティの落ちこぼれ、病気の少女と追放先で出会って 作:とke
「おーい酒だ酒もってこい!」
「肉うまい!」
「坊っちゃんが獲ってきたらしいぞ」
「うちの畑も荒らしてたやつだで。その分今日は楽しませてもらうべな」
宴会が始まり、広いギルド内には多くの人が集まっていた。
奥の見晴らしが良いところにボア肉を煮込んだスープや焼き肉の料理がどっさりと置かれ、食欲を誘う香りがギルド中に充満している。
王都のビュッフェ形式に似た配置に――場所と効率を考えると自然とこうなるのかと納得しながら、俺は入口に近い席でちびちびと酒を飲んでいた。
「どうも。お集まりいただいて……はは……クラッシュボア程度、大したことは」
宴会の中心にラークスが立ち、挨拶に来る村の人々と談笑していた。
高レベルの冒険者というだけではなく、ラークスがこの村にとって非情に大きな存在ということがわかる。
「……人気者なんだな」
ラークスの様子を見ながらちびちびと酒を飲んでいると、後ろから話しかけられた。
振り向くとコップを片手に顔を赤に染めたアルロがいた。
「いぇーい。レイルくん。飲んでる?」
「アルロさん……出来上がってますね」
「ははは。久々の酒だよん。飲まないと損だ! ラークスさん様様だよ!」
なんだかんだとアルロの口調にはラークスへの尊敬がにじみ出ていた。
多くの人に囲まれて談笑するラークスの様子に、俺は思っていた以上にこの村はラークスの影響が強いことを感じていた。
「ラークスさんって……村の中心って感じですね」
その実感を一言で表すとこうなる。
「おうよ。ルケイン家は、5代は続く家系らしくてな、ずっと冒険者をやってこの村を守ってるらしいぞ」
「へえ……立派なんですね」
なるほど、そもそも歴史ある土着の名家でもあるのか。
あながちギルドの顔を自称するのも間違いではないのかも知れない。
「そうだよぉ。俺の家みたいに冴えない百姓じゃないからさ。三男の俺に渡す畑もないからって、冒険者におんだすような家じゃねえのよね……ひっく」
人生模様は様々であるようだった。
「あそこに嫁さんといるのが兄貴だけどよ。毎日泥まみれになって働いてる兄貴と違って、独身の俺はこうやって酒をかっくらえる。良い身分だと思わない?」
絡まれそうだと感じた俺は話題を変える。
「ははは……ところで俺の挨拶ってまだなんですかね? 酒で意識なくなったら怖いな」
「ん? そうだねえ。村民がみんな揃ってからなんじゃないか? 大分揃ってきてるみたいだけど……あ、まだリルカちゃんとカルダス先生がいない」
そういえば、リルカの姿が見えない。
「……来れるんですか? リルカさん」
しかし、正直な所、昼間の体調を鑑みるとリルカが来れそうな場ではなさそうだ。
「あの親子はこういうのは律儀に必ず顔出すよ。真面目なんだよね」
「……そうですか」
昼間見たリルカの体調でこういう場に来ることは良いとは思えなかった。
リルカの純真な笑顔を思い浮かべると、こういう祭事を無視できるような性格ではなさそうなのはわかる。しかし――。大丈夫なのだろうか。
なにか心の奥にもやもやとしたものを感じる。
無理だから休むといえるような性格でも無さそうなのだ。
知り合って間もないが、彼女は自分を犠牲にしても来るだろう――という想像が容易にできる。
「あれえ。レイルくんリルカちゃん来るのが嬉しいの? そういえば凄い積極的だったもんね。いひひひひ」
難しい顔をしていると、アルロさんが思いっきり混ぜっ返してきた。
その言葉に驚くと同時に、少しシリアス過ぎた脳内が楽になった。
なるほど周囲から見れば、俺がリルカさんにお熱を上げているようにしか見えないということだ。
「ははは、やっぱ高望みですかね」
思いつめていた自分を自覚し、笑いながらそう話を合わせていると――。
がちゃり、とギルドのドアが開いた。
宴会が始まって時間が経っていたので、珍しい途中参加者に宴会場中の視点がドアに向く。
「やれやれ。遅くなった」
二人連れの影だ。
白髪が生え始めた初老の男と、その後ろでうつむき気味に楚々と立つ少女――リルカだ。
「お。診療所のお二人だ!」
宴会場のどこからか声が飛ぶ。
俺も自然と2人の方に――いや、リルカの方に目が行った。
体は大丈夫そうだろうか?
扉の直ぐ側の席である俺は近くで見える。
リルカは相変わらず美しかった。しかし同時に……不安になる美しさだ。
ここまで来るのに歩いて来たはずなのに……、彼女の肌は不気味に白い。
うつむいているのは恥ずかしがっているというより疲れているような。
「やあカルダス先生! お待ちしてましたよ!」
ラークスが目ざとくそれを目にして扉の近くに近寄った。
「ああ。ラークスくん……遅くなってすまんね。娘と2人で来たよ」
カルダスはリルカを指差して娘といった。なるほど、診療所も身内で運営しているのだろう。
来て数日だが村の施設はだいたいが身内で運営しているのがわかってきていた。
「父の治療にご足労頂いたあとですからね。文句なんて言えませんよ」
「そうか。そう言ってもらえるとな。お父上は……シリウス様はゆっくりだが良くなっているよ」
「さすがはカルダス先生だ……」
ラークスは初老の男――カルダスに握手を申し出ながらにこやかに談笑を始める。
カルダスはそれを受けながら、恐縮したように頭を下げた。
「……ラークス。こんばんわ」
後ろに立つリルカが口を開いた。
ラークスが今度はリルカの方に向き直る。
俺は人当たりの良い言葉を言うのかと想像していたら、ラークスはリルカには眉をひそめて言った。
「……リルカは家にいなくていいのか?」
俺は驚いた。いままで愛想を振りまいていたラークスが、リルカ相手には歓迎もなくいきなり本音のようなことを言う。
その響きに、俺はラークスもリルカの体調のことをしっているとあたりを付けた。
面倒を起こしてほしくない――という意識が強い性格を感じさせるからだ。
俺を森から追いやったのと同じように、リルカが倒れた時のことを想像するのが嫌なのだろう。
「せっかくなのに顔を出さないなんて失礼だと思って」
リルカはそんな煙たがるラークスにも気丈に笑顔を見せ、へりくだってみせる。
どこか卑下も感じさせるその態度に俺は、年頃の近い2人がぎくしゃくしている空気を感じた。
「倒れられたら皆が迷惑するんだぞ? わかってるか?」
主にラークスのほうがリルカを疎んじている様子だった。
ラークスはとにかくリルカをこの場から遠ざけたいようだった。
リルカは困ったように苦笑しながら、
「少しお料理を頂いたら帰るわ」
と殊勝な態度を取る。
「ふん。いいね。さっさと帰ったほうがいい――」
ラークスはあからさまにほっとしたように鼻を鳴らした。
自分の娘を邪険に扱われている父はどうなのだと、カルダス医師を盗み見るが、小さく溜息をついているだけだ。
小さな村にある複雑な人間模様なのだろう。部外者の俺には知る由もないことだが。
やがてラークスは再び、会場の中心へと戻っていった。
「よし。全員揃ったな。――よし、じゃあこれから宴の主役を皆に紹介します!!!」
リルカの体調が心配でラークスを気にしていなかった俺の横で、急にラークスの大声がした。
慌てて振り向くとラークスがいつの間にか俺の横に居た。
そのまま俺の背中をたたき、何事か耳打ちする。
「Eランク! お前の歓迎会だぞ! しゃんとしろ」
「あ、え? はい」
ラークスの声に俺はじっとリルカさんのことを見つめていた状態から我に返り、立ち上がった。
「数日前からこのギルドに入った新人を紹介します! 最下級のEですが、有望な若者です――」
(何度もEランクっていう必要あるのかね!?)
ラークスの紹介により、立たされた俺に、場内中の視線が注がれる。
どこか生ぬるい視線だった。
村中ほぼ全員が顔見知りというこの小さな村にとってよそ者の俺は、距離を測りかねる新人だろう。
冒険者という生産に遠い仕事をしているから、積極的に関わる必要のない立場でもある。
面白そうなやつなら絡みに行くか――という程度の興味の視線が、値踏みするように俺に降り注ぐ。
「ほら自己紹介だ。あと挨拶もな」
あっけに取られた俺は慌てて立ち上がった。
実力を示すとか、資格を売り込むような活動が王都の冒険者活動だった。こういう風に儀礼的な挨拶をするというのは勝手がよくわからない。
俺は焦ってしどろもどろになりながら、なんとかもつれる口を開いた。
「レイル・アーレインです。流れ者ですが、採集などの仕事をさせていただいてます。どうぞみなさんよろしくお願いします」
無難な言葉で俺は締めた。
周囲の興味が潮を引くように失せていくのがわかる。
ぱちぱちぱち――とまばらに拍手の音がする。
無難。つまらない。ちょっと壁がある――? とでも思われたか。
まあでも、失敗するよりはいいだろう。
皆また興味の薄い新参者よりも手元の酒に興味を移し始めていた。
ラークスも既に俺のそばから姿を消している。
なんなんだこの状況――と苦笑しながら座ろうとした時。
「こんばんわ。お名前……レイルさんって……言うんですね」
リルカが近くに居た。
白い――肌。
「昼に会った時、名前聞いてませんでしたね。……レイルさん。どうぞこれからよろしくおねがいします」
「あ、どうも……」
誰も興味がない俺の名前を呼んでくれたことに、予想以上にこみ上げてくるものがあった。
王都でも厄介者と言われ、追いやられた俺の名前を呼んでくれたことは不覚にも。
酒のせいかどうもセンチメンタルだ。
「リルカ。ほら、行こう」
父のカルダスに呼ばれ、あわててぺこりと頭を下げてきびすを返す彼女をぼうと眺めていた。
その時だった。
「あ―――――っ。やだ……こんな時……に。体が……」
小さな――驚愕の声をリルカが上げた。
「リルカ?」
その切迫したリルカの声に、父カルダスが心配そうに振り向こうとする。
だがその前に、ぐらりとリルカの上半身が揺れた。
危険な兆候だ。俺は思わず席を立ち上がった。
同時に――リルカの身体が崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。
近くの席で酒を飲んでいた数人が連鎖的に異変に気づくことになる。
「リルカさん――――!!!」
誰よりも早く俺は叫んだ。
「リ……リルカ!!!」
場数を踏んでいるであろう医師カルダス医師も流石に身内の急変に狼狽をコントロールできていない。
「リルカちゃん!?」
「大変だ! 倒れたぞ!」
冒険者ギルド中が騒然となった。
俺は立ち上がって駆け寄ろうとしたが、それより前に野次馬の壁が俺の眼前に出来上がる。
「発作か……おお……なんということだ……」
カルダスが手慣れた様子で――しかし手の震えが抑えきれない様子で――脈を取り、険しい表情になる。
芳しくない反応に俺の胸中に嫌な予感が突き上げてきた。
「何事だ!」
当然、仕切り屋のラークスも来る。
そんなラークスを見上げたカルダスは、怒りを含んだ声で口を開いた。
「娘の発作が起きた! やはり薬を飲む頻度が落ちてたから……」
「む……っ」
少々過激なほどの怒りだと感じたが、次に続く言葉でその意味が理解できた。
「なあラークスくん! 君に依頼したエクスマジックベリーはまだなのか! おめでたい席で聞くまいと思っていたが……こんなことになっては!」
カルダスの咎めるような言葉にラークスは顔色を変えた。
それは明らかにやましいことが有るときの顔つきだった。
ある程度、地位や実績がないとできない指名依頼――リルカさんやシリンさんが依頼の横紙破りをあれほど恐れたわけ――その理由がこれだったのだ。
村の中心であるラークス・ルケインが指名依頼として受けていたから、誰もそれに文句が言えなかったのである。
「え、ああ。あの依頼……はですね」
これほど村の中枢として遇されているラークスの仕事を奪うことはできないだろう。しかし……疑問が残る。
ラークスは、クラッシュボアを追ってずっと山狩りをしていた。
リルカの命がかかっているのに、それはどういうことだ?
「娘は君の婚約者だ! だから君に任せた! なあ――あるんだろう。エクスマジックベリーは! だから依頼をキャンセルせずに、クラッシュボアを追っていたんだろう!?」
そして続く情報はさらに驚くべきものだった。
ラークスとリルカは婚約者どうしだった。尋常ではない関係性を匂わせていたが……。
「う……いや、それは……ですね」
ラークスの顔色は顔面蒼白になっていた。
その様子に俺は確信した。ラークスはこの依頼を、サボったのだ。やる気があったかは本人しか知る由も無いが、最低でも後回しにする判断をしたのは確実だ。
エクスマジックベリーは納品されていない。
今日俺がギルドで聞いたことだ。
どんな事情があるにしろ――今の問題は、リルカが死に瀕していて、エクスマジックベリーが必要なことだ。
もう躊躇している場合ではなかった。
「すいませんどいてください!」
俺は野次馬を押しのけ――渦中に飛び込んだ!
予想外の乱入者に皆の視線が集中する。
目立ちたくないのだが、仕方がない。
「な、なんだよEランク! 今は貴様などにかまっている場合では……!」
ラークスの静止が入るが俺は構わず振り切った。
「カルダスさん! これ……エクスマジックベリーです! 使ってください!」
俺はポーチからエクスマジックベリーを取り出し、カルダス医師へと差し出した。
「なっ!? ……馬鹿な! 駆け出しのEランクが適当な知識で薬草を語るのは100年早い!」
ラークスはそれを見て口を馬鹿みたいに開けて硬直した。
それ自体は妥当な判断だ。
野草と採集品の見分けは経験が物を言う作業である。薬草類は外見に特徴があるものも多いが、植物のは千差万別の種類があり、的確に見分けるのに熟練が必要となる。
だが間違いはない。
俺はSランクパーティの使用するアイテムの素材を全て自分で採集していたのだ。
エクスマジックベリーももちろん必要になる素材で、何百と採集してきた。間違えるはずはない。
とにかくカルダスにそれが分かってもらえればいい。俺は祈るようにカルダスを見る。
カルダス医師は信じられないように俺の差し出した薬草を見て。
「いや、間違いない。これはエクスマジックベリーだ。しかも採集の処置が完璧な……」
「なんだと!?」
「レイルくん、だったね。譲ってもらえるか?」
「すぐにでも。代金は後でも良いです。早く調合を……! MP回復薬――“ネクタル”なら他にも素材類全て整ってます!」
「薬の種類まで……? あるのかい? 」
「キラーマッシュに、キュアフラワー、それにブロッサムローズですね! 予備が必要なら言ってください!」
俺はいずれなにかで必要になるかと余分に拾っておいた材料をポーチから取り出した。
「天の助けか……!」
「カルダス先生。奥を! ギルドの設備を使ってください!」
「すまない。借りうける!」
シリンとカルダスは慌ただしく奥へと走り去っていった。
残された俺は、リルカのそばに近寄り、手を握る。
――リルカの手が冷たい。
リルカの手はまるで真冬に立ちすくんでいたかのような冷たさだ。
生命エネルギーである魔力が人の体から枯渇すると、こうやって体温低下が起こる。
リルカの尋常ではない様子を、村中の人間が見ていた。
酒も入り、口さがない人々から次々とリルカのことを口にし始めた。
「ねえ、リルカちゃんここ数日すごく調子悪そうだったわよね」
「ラークスさん、採集依頼を専任で受けてたって本当かしら」
「いやでも、ラークスさんずっとクラッシュボア追ってたぜ」
「採集依頼受けてるなんて、全然知らないような顔してたけど……」
「婚約者の薬の材料を放り出して狩猟を……?」
「いやしかしクラッシュボアは危険じゃぞ」
「他に人に任せれば……」
ラークスはそんな周囲の声や、時におくられる懐疑の視線をうけ、顔面どころか唇までも蒼白にしていた。
「ば……馬鹿な……」
うろたえるラークスにすごい顔をして睨まれる。
だが俺はそんなことにかまっている暇はなかった。
吐瀉物で気道が塞がれないように体を横にして、空になったポーチに干し草を詰めたクッションを用意して枕にする。
様子を見ると、小さくリルカは震えていた。
体を震わせることで少しでも熱を生み出して、生きるために。
そのいじましい努力を無駄になどできない。
魔力がなくて死ぬなんて、くだらない終わりを許していいわけがない。
「すいません。空のお皿を!」
「お、おうこれでいいか……?」
おそるおそる横から皿が差し出される。
俺はそれを受け取り――ポーチから予備のマジックベリーをすべて取り出し、皿の裏ですりつぶした。
「おい。何をしてるんだ?」
「こうすれば飲みやすいから……マジックベリーは調合しなくても微量な魔力回復効果があるんです。応急処置くらいにはなります!」
どろどろのペースト状になったそれを更に乗せ――仰臥させたリルカの口に流し込む。
「……頼む! 聞こえてるなら飲み込んでくれ!」
俺は痙攣するように震えるリルカの耳元で叫んだ。
通じてくれ――。
リルカは小さくうなずいて、ごくりとそれを飲み込んだ。
――しかし痙攣は止まらず、様子は変わらない。
もはや俺にできることはない……。薬が間に合うことを祈るだけだ。体温低下を少しでも防ぐため、上着を脱ぎ捨てて、毛布代わりに彼女にかける。
無限に思える時間が経って、ギルド奥の扉が開いた。
額に汗を浮かべたカルダス医師が出てきた。
「調合が完了した!」
容器に入った薄い琥珀色の液体――目を凝らせば、その液体の中から沸き立つように光は発されている。
間違いない。
MP回復薬として最高のランクにあるポーション、ネクタルだ。
「リルカ……薬だよ……飲むんだ……」
俺はカルダス医師のじゃまにならないようにリルカのそばをそっと離れる。
カルダス医師は手慣れたようにリルカにネクタルを飲ませた。
それはすぐに劇的な効果を発揮した。
「ん……う……」
息も絶え絶えだったリルカの息は目に見えて整い始めた。
やがて、震えが収まり――最後に一つ大きくぶるりと体を震わせた後、リルカは健やかな寝息を立て始めた。
「リルカ……良かった……本当に……」
カルダス医師は安心のあまり放心してその場に座り込んだ。
野次馬も涙もろい何人かは堪えきれずに涙を流していた。リルカは愛されているのだろう。
流れ者の俺が、いい娘だとこの短い邂逅で確信できるほど――健やかで良い子に感じられたのだから。
やがてカルダス医師はリルカの体にかけられた俺の上着を見つけ――その主を探して周囲を探した所で、上着がない俺と目が合う。
「この上着は……君のものか? ネクタルの素材も君が……すまない。もう一度名前をいいだろうか?」
「レイル・アーレインです。俺も……よかった。間に合ってよかったです」
俺も一日の疲れが全て両肩に押し寄せているような気分になっていて、つぶやくように答えた。
「後日家に来てくれ。材料の代金と、お礼をしたい」
カルダス医師の力強い言葉に俺は無言でうなずき答えた。
ほっとしたようにカルダスは長い息を吐き――そして、倒れたリルカをおぶった。
「では……娘を家で休ませますので、これで失礼します……」
そして娘を背にしたカルダス医師は酒場を出ていった。
出ていったあと――歓声が爆発した。
「やるじゃねえか兄ちゃん!」
「リルカちゃんを助けてくれてありがとうねえ」
「若き有望な冒険者に乾杯だァ!」
俺は多くの村人に囲まれることになる。
戸惑っている俺に酒が勧められ――それを受け取り、喉を潤す。
達成感もあり――楽しい酔いだった。
だからこそ、喧騒の外で数人の取り巻きとともに肩を震わせているラークスに目がいかなかった。
「俺は……俺は、村の、農作物のためにクラッシュボアを追った。間違ってないぞ……! そんな急に悪くなるなんて知らなかったんだ」
唇を噛み締め、ラークスは1人抑えきれぬ感情を言葉にする。
「レイル・アーレイン……Eランク風情が……!」
最高の夜になるはずだった予感は正反対になり――その落差の底で憎しみがふつふつとラークスの心には湧き出していた
生涯忘れん――ラークスの脳裏に今日の怒りとともにレクスの顔が刻まれた。
評価や感想いただけましたら非常に励みになりますので、よろしければぜひともお願いします。
書き溜めなので毎日 20:00更新します。よろしければ見ていってください。