TS悪役令嬢はエンジョイしたい(願望)   作:北の倶利伽羅

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生きることが大好きで意味もなくコーフンしてる

「以上で私、シン=ブヴァル=ボーロペーの演説を終わりとする」 朗々とした声が天井と壁のない大講堂に広がり、少し遅れて拍手が鳴った。しかし、この時ある北寮生はこう思っていた。

「つまらん。もっと面白いものを見せろ──」故に彼女は拍手などしなかったし、むしろその首を刈り取る為の魔法を撃ち込んだ。もちろん弾かれてしまったが。

「この分だと特に面白い事も無さそうだ、隣の奴のように早々と寝てしまえば良かったか…」とすら考え始めたが、そのような考えは次の立候補者が壇上に登った瞬間吹き飛んだ。

「何だ…この寒気は…⁉︎」少女が壇上に姿を現した瞬間に空が一瞬で曇り、まるで気温が下がったかのような寒気を感じたと思ったら、息が苦しくなるほどの重圧を感じた。頭の働きが鈍り、思考が纏まらない。彼女、いや、彼女達はこの瞬間人生で初めて恐怖というものを感じていた。

「生徒の皆さん、こんにちは。221代生徒会長に立候補したシェルミです。本日は皆さんに、『強者だけの集団を作る』という私の理想についてお話したいと思います。」もし聞く場面が違ったら『鈴の鳴るような』と思えるような美しい声も、この時は死神の囁きとしか思えなかった。

「私が昔読んだある物語には、9割のエリートと1割の下民に生徒を分ける事でエリートを大量に生み出そうとした生徒会長が出てきました。また別の物語には、95%の働き者と5%の怠け者からなる学校を作り出そうとした学園長が出てきました。」そのような物語は聞いたことが無いが、この人が言うのだから存在するのだろう──そう思わせてしまう程の迫力が、壇上の少女にはあった。

「私は彼らに言いたい。──手ぬるいと。」その時、生徒達は『この少女が生徒会長になった暁には、これまでの比ではないほどの何かとんでもない事が始まる』という事を理解した。しかしその直後、息苦しさと重圧が収まる。そして前を見ると、慈愛の笑みを浮かべた少女の後ろから日の光が差していた。

「弱者に生存権など無い。強者同士がお互いに高めあい殺し合う。それこそが我々ボーロペー王国民のあるべき姿なのではないでしょうか。」彼女達はもう、その言葉を恐ろしいとは思わなかった。もはや彼女達が眼前の少女に向ける感情は、敬虔な信者が神に向けるそれと同じであった。

「故に私は宣言します。

私が生徒会長になった暁には、定期的な生徒同士の殺し合いを実施し、100%の強者による学校を作り上げます。」その言葉を聞いた弱者が、まるで飼い主に捨てられた犬のような表情をしたが、次の瞬間その表情は晴れる。

「ただし、弱者の皆さんも安心して下さい。

あなた方の死は、無駄にはなりませんから」

狂気に染められた生徒達の盛大な拍手が、次の時代の訪れを告げるかのように青空に響き渡っていた。

 


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