数々のフロムゲーから四方世界に飛ばされるのは見るけど狼さん居なくね? よし、じゃあぶちこんでやるぜ!

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思いついたから投稿した、続きは書かない。


ゴブリンスレイヤー ──SHADOWS LIVE THRICE──

「───かっ!!」

 

 青き上衣の剣聖が、身の内に残る全ての力を籠めた声を張り上げる。激しい戦いによって幾度となく散った薄の上に正座をし、眼前の(勝者)へと己の介錯を促すべく潔く、じっと待つ。

 

 かつて〝葦名衆〟を率い、国盗りを果たした葦名一心。孫の手によって黄泉帰りを果たしたことで、全盛の頃───否。

 それだけでなく不死となり、黒の不死斬りたる〝開門〟を手にしているのだから、恐らくは全盛の頃以上の実力を持っていることだろう。

 

 しかし、剣聖は今、敗者となっている。その全盛の肉体には無数の切り傷が刻まれており、赤黒い血が止め処なく溢れる姿は彼を知る者からすれば目を疑うような光景であろう。

 

 この光景を作り出した張本人たる一人(一匹)()もまた───不死であった。一心の孫、弦一郎が求めた不死(しなず)の力である〝竜胤〟。それによりこの男は、強者を相手に幾度となく死んでは甦ってを繰り返していた。そして、それは一心に対しても変わらず、数えきれぬ程に回生の力を使い、しかし、その果てに漸く剣聖は膝を着いたのだ。

 

 

 その忍がゆらりと剣聖に近づく。

 既に瓢箪は空。独りでに傷が塞がる訳でもないため、夥しい量の血で地面を紅く染めながら、同じく濃紅の色をした刀を背より抜刀する。

 

 赤の不死斬り──銘を〝拝涙〟。開門と同様に不死の因果を断つ(絶つ)ことのできる大太刀は、一心の首へと向けられていた。

 

「………」

 

「やれい!」

 

 その小柄な体躯を引き絞られた弓の如く仰け反らせ、そのまま勢い良く、不死斬りで一心の不死を断ちきった。

 

「────ッ!」

 

「見事…じゃ…。隻狼(セキロ)…」

 

「……さらば」

 

───カチン、と。静寂に包まれたこの薄野原に納刀の音が響き渡った。

 

 

 これにて剣聖の不死は断たれ、葦名はじきに滅びるだろう。後は、主を連れて此処を脱するのみ──ではない。力なく横たわる竜胤の御子、九郎の下へ忍は歩みを進める。

 

 

ただ、己の為すべきことを、為すために────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───人として、生きてくだされ』

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───カランコロン。

 

 

 何処とも知れぬ場所でひとつ、骰子の転がる音が響く。

 転がされたのは六面のありふれたモノであったがしかし、その出目が世界に齎す影響は未知数であり、よりいっそう神々の愉悦を加速させる。

 いつの間にか、その四方世界(ゲームボード)の側に、無愛想なしかめっ面の仏像のような駒が置かれていた。

 

 

 喜色満面のその一柱がゆらりとその駒を持ち上げ───

 

 

 

 

 

 

 寄る辺なき一匹の狼が、野に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────っ」

 

 ふと()()()()()。幾度となく味わった感覚。しかし、ソレはもう訪れることが無いはずであり、狼の忍に僅かな動揺を与えた。

 

───まさか、九郎様の人帰りに失敗した……?

 

 そう思い、直ぐ様狼は立ち上がる。仮に()()だとするならばもう一度御子の下へ駆けつけなければならない。

 為すべきことが分かり、いざ動こうとしたその時だった。漸く、狼は己の置かれた状況に気づく。

 

「ここは……?」

 

 辺り一面に広がる深緑の草原。この景色は葦名の縦横を走破した狼の記憶にも該当するモノがなかった為に、異邦の地では、と朧気に判断し始め───。

 

 

「───二つの、月」

 

 

 見慣れぬこの夜空の下で、その判断を確定させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し湿り気のある、しっとりとした風が青く若々しい芝を揺らす。少し呑気ではあるが沸き立つ血を冷ますその冷風を狼は心地いいと感じていた。

 

「むぅ…」 

 

 目が覚めてから暫く経ったものの、ここが何処であるか、何故葦名ではないのか、そして何故再び目を覚ましたのか答えを出せずにいた。

 

「…竜胤は、失われている……」

 

 草原から少し移動した所にあった小川に映る影は、以前と違い痣のない、眉間に皺を寄せた壮年の老け顔であった。それは己と主を縛っていた呪いが消滅したことを裏付けるに他ならないもので、人帰りが果たされたことに安心したのも束の間、尚更息を吹き替えした事が疑問でならない。

 狼の身体からは不死は消滅し、現在は鍛え上げられただけの只人の肉体でしかない。これからは少し慎重に行動せねばと心に言い聞かせる。

 

「取り敢えず、移動せねば……」

 

 忍とは何時如何なる時でも状況を正確に判断する。それは狼も例外ではなく先程の湿った風からもうすぐ雨が降るであろうことを察知していた。

 

 

───願わくば、堅固な洞穴に…。

 

 

 雨をやり過ごしている間に地崩れ等が起きてはたまったものではないので、嘗て放り込まれていたあの洞穴を思い出しながら颯爽と野を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運が良かったのか、程なくして少々窮屈ではあるものの洞穴を見つける事ができ、そこにどっかりと腰を下ろした。

 暫く身を休めていれば、予想通りしとしとと雨が降りだし、柄にもなくほんの僅かに口角を引き上げる。

 

「………」 

 

 目を伏せながら、狼は熟考する。これからの事をではなく、()()()()()()()()()()について。

 

 

───この地面のすり減り具合…猿の様な二足で歩行する獣か……。

 

 

 薄暗く、目を凝らしても精々が輪郭を捉えるのでやっとな明るさではあるが、夜目の効く狼には土台関係のない細事であり、黙々と思考に浸る。

 

 

───この狭い洞窟の中でもすり減るということは即ち、群れを成している……。

 

 

 狭い穴ぐらに住まうのならば然程体重のない小型の生物のはず。にも関わらず地面がすり減るのは一匹や二匹のソレでは、よほど長い間この洞穴を使わない限りはあり得ない。よって、群れを成していると考えた方が妥当であろう。

 

 

───今は夜ではあるが、僅かに音が反響している……夜行性ということか…。

 

 

 立てた聞き耳が拾ったのは僅かではあったが狼の警戒心を引き上げるのには十分すぎるモノであった。

 

「さて…」

 

 思考の海から意識を一度引き上げ、行動を始める。

 

「───」

 

 懐から取り出したのは一粒の飴。濁りを含んだ空色のソレを口の中に放り込み、座禅を組むことで構えを成す。

 

───〝月隠の飴〟。仙峯上人が、らっぱ衆に授けたというその飴は狼の隠密能力を高め、狼の魂の奥底にまで刻み込まれた程の強者でもなければ()()()()()ということにすら気付くことが出来なくなるのだ。

 護国の勇者であった成れの果てを討ち、飴を用いなくともその身に御霊を降ろすことが可能な狼であったが、不用意に形代を消費する事を嫌い、余りに余った飴を口の中で転がすのだった。

 

 

───効果が失くなる前に、正体を見極める……。

 

 

 寝込みを襲われるのを避けるべく、その思いを胸に塗り潰されたかのような暗闇へと音もなく足を進めていく。

 

 移動している間にも準備は整えられる。

 

 狼の左腕に取り付けられたからくり、〝忍義手〟。荒れ寺の仏師───猩々の形代を宿す依り代たる側面も持ったその形見を操作し何時でも使えるように用意された紫紺の忍具が見え隠れしていた。

 

 数十秒進むと、なんとも形容しがたい面妖な風貌の像が狼の目に入る。人のものではない、何かの動物の頭蓋骨を掲げる様に文字通りの骨組みで作られたこの像は猿の知能と器用さをもってしても難しい───つまりは、より人間に近しいだけの肉体を持ったモノが住まうということだった。

 

「………」

 

 ここは異邦の地。葦名───ないしは日ノ本に生息していなかった生き物が居てもおかしくないと考えを改めて()()()()()()()()()()()()()()()に聞き耳を立てる。

 

 

『……OB…GO……』

 

『GOB…ORBG………』

 

 

 先程よりも鮮明に、獣のしゃがれた鳴き声を聞き取る。想像通り複数いるため正面から突っ込むのは危険と判断し、背をゴツゴツとした岩肌の壁にぴったりと密着させ、僅かに異臭の漂うその穴に顔を出して視線を向ける。

 

 

───その先にあったのは熟達の忍たる狼にも想像し難い光景だった。

 

 

「GORBUG!」

「BUGOBO!」

 

 

 背丈こそらっぱ衆と変わらぬ程ではあるが、その容貌は明らかな異形であり、薄汚れた緑の肌が醜悪な笑みを際立たせていた。

 その手に持つのは槍や短剣など、人を殺める為の武器であり、現にそれらの足元に転がる青年の死体を弄んでいた。

 

 

───獣などではない……!

 

 

 狼は再度認識を改める。ここに住まうのは獣などではなく、人に害をなすおぞましい化け物───さしずめ小鬼といったところだ───ということを。

 

 自然と、狼の眉間に皺が生まれる。遥か異邦の地とはいえど、人の死体を弄ぶ姿を見せられては気分が悪い。

 

「────ッ」

 

 故に、これは善意による誅伐ではない。

 

 意図されぬものといえど尾を踏まれてしまった一匹の狼による───一方的な蹂躙だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の小鬼(ゴブリン)達はたいそう機嫌が良かった。昼間(真夜中)に間抜けな人間(冒険者)どもが寝ているからと油断したのかロクに準備もせずフラフラとこの巣穴へやって来たのだ。

 そんな過剰なだけの自信を携えた連中の末路など、決まって悲惨なものであり、事実として一党パーティの前衛を勤めていた男の新米戦士と、後衛で祈りを捧げていた新米僧侶は小鬼達の食物となり、気弱そうな新米魔術師は立派な孕み袋としてこの巣の用心棒(ホブ)が目覚めれば純潔を散らされることとなるだろう。

 

「GOBUBGOR!」

「GORB!」

 

 自分たちの手で仕留めた目の前のご馳走に、小鬼は下品な笑い声を上げはしゃぐ。

 新米剣士から奪った戦利品の直剣を拾い上げブンブンと振り回す。これに巻き込まれて死んだ仲間もいるがこの快楽に比べれば些細なことだった。

 

「GORBGO~」

「GORBUBU!」

 

 最早、元々どんな風貌をしていたのか分からないほど餌の肉体はぐちゃぐちゃになり、そろそろ食べ頃だろうと誰かが言ったその時だった。

 

 

 

───ドシャリッ!

 

 

 

「GOBU?」

 

 何かが崩れ落ちる様な鈍い音が、小鬼達の食料庫に響く。その音が気になった一匹が辺りを見渡すも、未だぎゃあぎゃあ騒ぐ仲間と振り回された剣に巻き込まれて出来た死体しかなく気のせいだと判断し、騒ぐ仲間に混ざろうとした。

 

 

───それが叶わぬと知らずに。

 

 

「GO──!」

 

 

───ドシャリッ!

 

 

 声を出す事も出来ないまま、首元から大量の血を吹き出して地面を紅く染め上げる。

 その事に気付いた小鬼が音が聞こえた方に進めば、またひとつ、鈍い音が生み出された。

 

 

───またひとつ、またひとつと。小鬼の死体が増えていき、比例するかの如く段々と騒ぎ声が小さくなっていく。

 

 

「GOBG…」

 

 生き残っている幾匹かが、警戒心を引き上げる。

 おかしい、ここには()()()がいる──! と。奇しくもここに訪れた存在と似たような思考をする。

 

 しかし、今さら気づけどもう遅い。

 

 

「───GOBUッ!?」

 

 

───ボンッ!

 

 

 槍を持った個体の首から血のように赤い煙が吹き出す。

 

「GOBORッ!」

 

「BUGOッ」

 

「GOBUGU!」

 

 濃紅の中で翻される一閃。

 その煙に呑み込まれた小鬼が断末魔を上げながらその命を散らしていく。

 やがて、最後の一匹となった小鬼は漸くその侵入者の姿を目に納める。

 

 同胞の血によって赤黒く染まった装束。

 

 暗闇のなかでゆらりと妖しく煌めく得物。

 

 得物を持たぬその左腕から、猛る獄炎を幻視する。

 

「───」

 

「G、GOBUッ」

 

 果たしてその姿は。

 

「───ッ!」

 

 

───さぞ恐ろしい、修羅に見えただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───小鬼ども、存外に脆いな…。

 

 

 チャキリ、と鍔口を鳴らしながら得物たる刀、〝楔丸〟を納刀する。

 

 蹂躙の限りを尽くした後、大量の死体を見ながら狼は未知の化け物に対し何処か気の抜けた感想を漏らしていた。

 実際、隠密し背後忍殺をせずとも正面から刀を振り回すだけで片付けることができただろう。少なくとも落ち谷に住まう猿達の方が、狼にとっては余程脅威足り得る厄敵だった。

 

「………」

 

 死屍累累となった小鬼の山の中にある、嘗ては人であっただろう肉塊に狼の視線は縫い付けられる。

 あまりにも惨たらしい様。幼少の頃、葦名の国盗り戦が残したあの戦場いくさばをさ迷っていた狼ですら、ここまでの惨殺死体は見たことがなかった。

 

 びちゃびちゃと窪みに溜まった血を踏み散らかしながらその死体へ近づき、手を合わせる。

 

「………」

 

 せめて、死後の安寧を───。

 顔も知らぬ者であれどこれくらいは許される筈だと、只、静かに黙祷する。

 

 

───一握りの慈悲だけは、捨ててはならぬ…。

 

「───」

 

 ふと、そんな言葉が頭を過る。

 そう、どんなに醜い化生を殺めるときであろうとも慈悲だけは忘れてはならないのだ。合掌はそのまま、狼の体は小鬼の山へと向けられる。

 

 仮に、一抹の情けすら失ったとすれば───

 

「眠れ…」

 

 

───それはもう、人ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狼は別れ道へ戻り、今度は正面の穴道へと足を進め、開けた空間にぶつかる。当然のことそこには小鬼が蔓延っており、その中には太郎兵のように体格の優れた者や、先の像を思い起こさせる装飾を身につけた人骨の椅子に座る個体も見受けられた。

 

 そして何より狼の目を引いたのは───。

 

「……は?」

 

「GORBBGO~!」

「────」

 

 地に組伏せた女を犯す小鬼の姿であった。下卑た笑い声を上げながら、快楽に身を任せ腰を打ち付ける様はどこか歪さを孕んでおり言い様のない不快感を覚える。

 あまりにも冒涜的。あの捨て牢で密かに行われていた不死の実験と類似した何かを狼は感じていた。

 

 そういえば、これ程の数が要るにも関わらず雌の個体を見かけなかったと、狼は思い出す。

 そこから導き出されるのは、小鬼は()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 

───まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ…。

 

 

 そうやって、小鬼の位置と数を把握してるとたった一人だけ地に伏せずに縛り上げられた裸の女がいる事に気がつく。

 女の意識は朦朧としているのか、はたまた絶望故なのかその眼光は弱々しいものだった。だらしなく涎を溢しながら女の前に立つ大型の小鬼を見て嫌な予想が狼の頭に浮かぶ。

 

「……まさか」

 

 女の足が開かれ、小鬼が腰の()()を見せつける様にする姿は予感した未来が訪れる前触れだろう。

 

「───ッ!」

 

 最早一刻の猶予もない。

 既に位置と数は把握している。後は小鬼どもを鏖殺するのみ。そして優先すべきは大型の個体。

 

 狙いを定めた狼は弓を引くかの如く刀を構え、そして次の瞬間───。

 

「フッ──!」

 

「GORBO!?」

 

 その刹那、一度(ひとたび)狼の姿がかき消えたかと思えば既に大型の懐へ、楔丸を突き立てていた。

 技の名を〝大忍び刺し〟、忍が流派技の奥義である。圧倒的な速度より繰り出される刺突は熟達の忍ですら見切るのは困難を極める。

 

 しかし、この奥義の本懐は刺突に非ず。

 

「ぬぅっ!」

 

 大型に膝を着かせ(体幹を崩し)ながら踏み台にし、狼の体は遥か上空へとはね上がる。そのまま身を落下に任せ、その勢いをのせ大型の首を切り裂く(落下忍殺)。形代を消費することで飛び上がり、落下忍殺へと繋げるこの一連の流れこそこの技の真価である。尤も、奥義を編み出した張本人はその先を行く───云わば〝秘伝〟の技へと昇華させているのだが。

 

「■■■■■■■…」

 

「っ!」

 

 地面に降り立った狼は奇妙な念仏染みた声の出所へと目を向ける。その念仏らしきものを唱えている小鬼の手元には人の顔程の大きさはあるであろう火の玉がごうごうと燃えていた。小鬼の顔は酷く歪んだ笑みが張り付けられており、数秒後にはその手の凶弾が己へと衝突することを狼は察知した。

 

「ならばっ───!」

 

 ガチャリッ! と左腕の義手から金属音を鳴らすと同時、紅蓮の残り火を溢しながら小鬼へと肉薄する。

 

「───■■■!」

 

 小鬼がひとつ大きな声で唱えると風切り音を立てながら火の玉は狼の顔へと真っ直ぐに吸い込まれていく。しかし、その程度の速度に反応できない狼ではなかった。

 

「───ッ!」

 

 

───ギャリィィン!

 

 

 忍義手から回転しながら展開された鉄扇は火の粉を散らしながらその火球を霧散させる。驚きを隠せないといった表情の小鬼術師は思わずその場で動きを止めてしまった。

 

 その一瞬はあまりにも致命的だ。

 狼はその鉄扇───〝朱雀の紅蓮傘〟を折り畳み、楔丸と共に勢い良く小鬼術師に向かって振り落ろす攻撃へと派生させる。

 

「GORBOOO!!!」

 

 その〝放ち斬り〟により両方の肩から先が失くなり小鬼術師は痛みと恐怖に耐えかねたのか悲鳴を上げ、腰を抜かす(体幹が崩れる)

 すかさず狼は小鬼術師の首をはね飛ばす。

 

 数秒間宙を舞った恐怖に染まったその顔が落下したその時には背後から迫っていた小鬼の視界から狼の姿は消えていた。

 

「GBOR──!」

 

 断末魔を上げる暇すら与えず、忍義手を軸としながら回転と共に斬撃を小鬼達へと無差別に与える。

 一か八か、手にもったみすぼらしい短剣を斬撃の通り道へと割り込ませ、致命傷を逃れた小鬼も返す一太刀であっさりと仕留められ、近付いていた小鬼から狼は距離を取る。

 

「………」

 

 構えはそのままに、一度落ち着いて回りを見渡す。数は随分と減り、残り三匹である。

 一つ息を吐き出し、魂の底に眠るある技を思い起こす(流派技にセットする)。意識する技は〝寄鷹斬り・逆さ回し〟から〝奥義・浮き舟渡り〟へと切り替わる。

 

「───っ!」

 

 狙いを定めた最初の一匹を始点となる二連撃で仕留める。

 

「BORBOGU!?」

「GOBOR!」

 

 突然仕掛けてきた事に驚いたのか、小鬼は驚愕の声を上げるが直ぐに一匹が狼へと飛び掛かる。

 

 だが、動き出すにしては目の前の強者にとっては随分と悠長なものであった。

 次なる二太刀で向かってきた二匹目を斬り飛ばす。

 

「ぬうん───!」

 

 狼は止まることなく標的を移し、刀を振るう。

 とどめとなるその一閃で最後の三匹目は物言わぬ屍へと変える。

 

 異境より葦名の地へと渡って来た女武者、〝巴〟。彼女が伝えたとされる葦名流の異端の剣技で、まるで花見舞台を舞う芸者の如く、その五連撃でもって異端の存在を斬り伏せた。

 

「………」

 

 刀を滴る血を払い恐怖で顔を強張らせた裸体の女へと近づいていく。

 

「あ……あぁ……」

 

 女───新米魔術師の頭の中には自らがここから救われるイメージなど微塵もなかった。

 何処か浮わついた気持ちのまま洞窟へと入っていく一党の二人に流されのそのそとついて行けばあっさりと小鬼達に蹂躙され身ぐるみを剥がされたまま下品な目線を向けられ続け、とうとうヒトとしての最後の尊厳が失われると絶望したその時、自身の眼では影しか捉える事のできなかったナニかが一分と経たず小鬼どもを肉塊へと変えたのだ。その圧倒的に理不尽な暴力に次は自分が晒されるのだと考えるのが寧ろ自然と言えるだろう。

 

 しかし、そんな少女の予想は裏切られる。

 

「……おい」

 

「ひっ…」

 

 狼の口から低い唸る様な声が漏らされる。

 

「動くな…」

 

 条件反射で身動ぎしてしまった少女に短く、単純な指示をし、背の杭に括りつけられた手首の縄を音もなく、そして少女に悟らせる事もないほど手早く断ち切った。

 

「ぇ……」

 

「衣服はないのか……?」

 

「ぁ…えと……」

 

 

───まさか、己を助けるつもりなのか?

 

 

 そこで少女はようやく目の前に立つ男の姿を認識する。

 小柄かつ老け顔。その左腕は奇妙な形をしているが間違いなく、只人(ヒューム)の男であった。

 

「……どうなのだ」

 

「あっ…ない……です…」

 

「そうか…」

 

 途切れ途切れにたどたどしく話す。相手が只人と分かったとはいえ、それだけで《秩序》に属する存在でもあるとも限らない。只人でありながら邪教の類いに精を出す者だっているのだ。

 

 

───どちらかといえばこの男も、そんな《混沌》に属する者と考えた方がしっくり来る。

 

 

 少女にとって、先の狼の姿はそれくらい衝撃的なものだった。

 

「………」

 

「ぁ…えと……」

 

「…すまぬ……」

 

「…え?」

 

 突然の謝罪。助けられている立場の魔術師ならばともかく、狼の口から発せられるのは些か可笑しい。

 

「…布切れ一つ、持ってない……」

 

 次に狼が放った言葉に新米魔術師は絶句した。

 

 

───まさか、本気で助ける気なの?

 

 

 さっきまでの、鬼神如き戦う姿から一転、どこかしょんぼりとした雰囲気を纏った男がとても《混沌》の側の存在とは、最早微塵も思えなくなった。

 

 意を決して、今度は魔術師の方から口を開いた。

 

「あの…、私よりも他の方々を……お願いします」

 

「……承知した」

 

 狼は一先ずは問題のない自分より長く苦しんだ女性たちを優先して欲しいという意思を汲み取り、新米魔術師はこの男は少なくとも悪しき存在ではないと確信する。

 

 思わぬ形に転んだ冒険が、再び思わぬ方向へと転がった。

 そう多少困惑しつつも、取り敢えず助かったことに魔術師は安堵したのだった。




巴流最強!巴流最強!

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