まさかこんなにも早くスタジオに戻って来ることになろうとは、
刑事たち自身も思ってもみなかった。
亡くなったのは花畑チャイカだった。直前に食したゼリーの中に毒物が
混入していたようだ。ビニール製の薄い蓋の中央に小さな穴が開いており、
注射器のようなもので毒を混入したと思われた。
念のため、他のゼリーには穴も空いてなければ、毒物の反応もなかった。
「このゼリーは確か...葉山さんが持って行ったものですよね。」
刑事が葉山に問いかけると、葉山はあたふたと慌てた様子で答えた。
「は、はい。そうですよ。でもでも葉山は持ってきただけで...。」
葉山は今にも泣き出してしまいそうに目を潤ませ刑事を見つめた。
その様子に刑事も慌てて葉山をなだめると次の話題に移った。
「き、聞いた話ではルイスさんの事件当日に竜胆さんが買ってきたものでしたよね。」
「...そうじゃよ。わらわが力一のために買ってきたものじゃ。」
既に尊は大粒の涙を流していた。
それでも、尊はチャイカとの思い出を胸に気丈に振舞って見せた。
「念のため、購入した場所を教えていただけますか? 」
刑事に聞かれた尊が答えたのはメディアでも取り上げられている有名店だった。
刑事が店名をメモすると、凛月に視線を送った。
「桜さん。先ほどの現場検証でも確認したように、貴女が箱から出さずに冷蔵庫に
入れたんですよね。」
「はい。その時は机にドーナツがあったから...。でも、中身には触れてないと! 」
確かにあの日、冷蔵庫へ入れたのは凛月だった。中身には触れずに目視で中身を確認した後、
冷蔵庫へ入れていた。だが、それをはっきりと証明できる人はいなかった。
「ということは、花畑さんが食べたゼリーに毒を入れるチャンスがあったのは、
購入した竜胆さん、箱を冷蔵庫へ入れた桜さん、箱をこの部屋に運んで配った葉山さん、
ゼリーを葉山さんと一緒に配った天宮さんの四人ということになりそうですね。」
「あの事件以来、現場の冷蔵庫に入れっぱなしだったんだろう? その間はどうなんだ? 」
葉山と天宮の近くで二人を慰めていた舞元が顔だけを刑事に向けながら尋ねた。
「あのスタジオは施錠されていた上、鍵は警察関係者以外には渡さないように伝えていました。
スタジオ管理者に確認したところ、鍵を借りに来た者はいないとのことです。
つまり、毒を入れるチャンスは発砲事件のあった日か今日しかないんです。」
刑事の説明になるほどと一言返事を返し、泣いている二人の方に視線を戻した。
「刑事さん。」
発言と共に手を上げていたのはシェリンだった。どうしましたとシェリンに発言の許可を出した。
「ありがとうございます。あのゼリーは力一さんが食べるはずのものでした。
それをチャイカさんが偶然、
「僕のせいだ...。」
震える声で呟いたのは、椅子に座り頭を抱えていた力一だった。
隣には社が座っていたが、社もどんな言葉をかけていいのかわからず、
ただ狼狽える友を見つめることしか出来ずにいた。
「ええ。それは聞いています。つまり本当に狙われていたのは。」
「違います。そうじゃないです。いや、そうなんですけど...。」
刑事の言葉を遮ったのはシェリンだった。
「僕も狙われていたのは力一さんだと思います。ただ、僕が問題にしているのはそうではなくて、
「ん? そうだな...言われてみれば確かにそうだな。」
顎に手を当てて社もシェリンの言葉の意味を考え、同じ結論に達したようだった。
「そうなんです。社さん。確かにゼリーの詰め合わせにはミックスゼリーは
一つしか入ってなかった。目的を考えれば特別な物を特別な人へ渡すのは普通のことでしょう。
例えば、誕生日ケーキならネームプレートが乗っているケーキを主役が食べるのと同じように。
でもですね。それは百パーセントではないのです。ミックスゼリーを食べる事など、
ましてや毒物を混入させるという危険行為を事前に行い、それを特定の人物に確実に
食べさせることなんてできるのでしょうか? 」
シェリンの鋭い指摘が皆の心に突き刺さった。もちろん、それは刑事たちも同様であった。
一人の刑事が少し考えて答えた。
「なるほど。その通りですな。そう考えると竜胆さん、桜さんの両名には毒を入れるのは
難しいとなるが、シェリンさん。こう考えればどうだい?
毒を入れる役が竜胆さんか桜さんで、それを当日配る役が葉山さんか天宮さん。つまり、」
「刑事さんたちが探している二人の子供が、その四人の中にいるということですか? 」
シェリンが刑事の言葉の続きを語った。
「いい加減にしてよ! 私がルイスちゃんをお金のために殺すわけなかと! 」
凛月はテーブルを拳で叩きながら立ち上がった。彼女の顔は怒りに満ちていたが、
それに反して大粒の涙は頬を伝ったままだった。
シェリンは凛月に近づき深く頭を下げた。
「申し訳ないです。凛月さんの気持ちも考えずにこんな話を。
でも、もう少しだけ続けさせてください。ルイスさんのためにも。」
目の前で深く頭を下げるシェリンの態度と言葉を前に凛月は拳を強く握り締めると
静かに椅子へ腰を沈めた。
「ありがとうございます。確かに、その四人の中にいた場合の否定するだけの材料は
ありませんが、もし力一さんがミックスゼリー以外を選んでしまったら。
力一さんの手元にミックスゼリーが渡ったとして、それを力一さんが拒否したら。
ミックスゼリーを他の人が食べることになってしまったら。犯人はどうしていたのでしょう? 」
「それは...。でも、実際に蓋に穴は開いていて、フルーツゼリーには毒が入っていた。
これは変わらない事実だ。シェリンさんの仰ってることもわかりますが、
ではどうやってゼリーに毒を? 」
刑事が少しむきになった様子でシェリンに詰め寄った。シェリンも負けじと一歩も退かなかった。
「僕は皆さんを信じている。だけど、絶対に真相は究明して見せます。
二人のためにも。残った皆のためにも。」