人気の少ない小さな公園の一角にあったベンチに誰かが座っていた。
ベンチの近くには薄汚れた街灯が一本立っており、すっかりと暗くなった空に浮かんでいた
朧月と共に頼りない光で公園を照らしていた。
光に吸い寄せられるよに、もう一つの人影が公園に姿を現した。
新たに現れた人影がベンチに向かって歩み寄って行った。
ベンチに座っていた人物がスマホを取り出し、時間を確認する。時間通りだった。
「お待たせしてしまって、ごめんなさい。」
目の前に現れたのは間違いなくメッセージを送って来た彼女だった。
明りに照らし出されたのは桜凛月だった。
「お金は...用意していただけましたか? 」
もちろんだ。とすぐに答えた。私がデータを見せてくれと伝えると凛月はポケットから
黒いUSBメモリーを取り出した。
「この中に入ってます。コピーはありません。」
彼女が言っていることを信用してよいものだろうか? 人は見かけによらず欲深い生き物だ。
実際に彼女が金を要求するような強迫めいた事をしてくるとは思ってもみなかった。
完全に油断していた。笹木の時もそうだった。全く。
「お金を確認してもよろしいですか。」
信用できるわけが無い。
ゆっくりと頷くと懐から金を取り出す素振りを見せてやる。そこに金は入っていない。
入っているのはナイフだ。りつきん。すぐに楽にしてあげよう。
二つの影の距離が縮まって行く。その懐に悪意をたっぷりと詰め込みながら。
凛月の目の前まで辿り着いた。自分から強迫してきたのに怯えたような目をしていた。
まぁ。どうせ演技であろう。余計な事を考えずにさっさと済ませてしまおう。
再度、刃を握る手に力を込めた。確実に、慎重に刃が握られた手を凛月の前に。
「そこまでだ! 」
強烈な光が二人を照らし出す。それはまるで、あの日のようだった。
人影の全くなかったはずの公園には、いつの間にか幾つもの人影が集まっていた。
そのほとんどが刑事であった。刑事たちはマグライトを二人に向けていた。
二人を円状に取り囲むように並んだ影の内の何個かが凛月の目の前の人物を素早く取り押さえた。
取り押さえられた人物の手から醜悪な光を放つ刃が地面へと落ちていった。
目の前で地面に落ちていったナイフを見て、凛月は抑えていた恐怖が溢れ出した。
糸の切れたマリオネットの様に膝から崩れ落ちた。
その様子を見ていた人影が一つ、凛月の元へと駆け寄った。それはシェリンだった。
「凛月さん! 大丈夫ですか!? 」
「ああ...シェリンさん。ありがとうございます。」
必死に平静を装うとしている凛月の目には涙が浮かんでいた。
「貴女には...敵いませんね。」
シェルンは少し震えていた凛月の肩にそっと手を置いた。
そんな二人の様子を睨みつけている人物は刑事たちに取り押さえられ地面に屈していた。
「立つんだ。」と促され気だるそうに立ち上がると、その手には手錠がかけられた。
目尻に溜まった涙を手で拭うと、凛月はその人物へと近づいて行った。
「そういうことですか...。」
男は全てを理解したようだ。力なくそう呟いた。
次の瞬間、凛月は何の躊躇いも、加減もせずに男の頬に目がけて平手を振りかぶった。
男が無抵抗にその手を正面から受けるとパシンと渇いた音が辺りに響いた。
その澄み切った高らかな音は異質な喧騒に包まれていた公園をも正気に戻したようだった。
一転して静まり返った中、シェリンは男に近づいて行った。
「やっぱり貴方が犯人だったんですね。力一さん。」