#予告殺人   作:夏野 雪

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#17

 シェリンの言葉に力一は何も言い返さなかった。

「嘘だろ...力一。」

社が刑事たちの群れの中から唖然とした様子で現れた。

それに続いて舞元や尊が次々と少し前に出てきた。皆一様に驚きや戸惑いの

表情を浮かべていた。

「い。一体どうなっとるんじゃ。シェリン。」

尊が真っ青な顔でシェリンを見つめていた。シェリンは覚悟を決めたように

静かに語り始めた。

「この事件は色々な事情が複雑に絡んでいて、とても難解な事件だと

皆が考えていました。でも、実はとても単純で分かりやすい事件だったんです。」

シェリンは力一の方に視線を送った。力一は何も言えわずにシェリンを見つめていた。

その表情からは何も感じられず、本当にただ見つめているようだった。

「複雑に見える大きな原因となったのは間違いなく『黒岩楼沙』と二人の子供、

『睦実』と『奏』の存在でした。話の流れをすっきりさせるために二人の子供の正体を

考えてみましょう。一人は社さん。あなたが『奏』さんであることをご自身が

お認めになっています。では、もう一人の『睦実』は誰なのか。

それは...舞元さん。あなたですよね。」

「舞元が...?」

そう言うとリオンは隣に立っていた舞元を見上げた。他のメンバーも一様に舞元を見ていた。

舞元は驚きもせず、何時ものように腕を組んだままシェリンを見ていた。

「よくわかったな! シェリン! その通りだ。俺が黒岩楼沙のもう一人の子供だ。」

皆が唖然とする中、舞元はニコニコと笑いながらシェリンを讃えているようだ。

「どうして...わかったんだ。俺は誰にも言ってなかったはず。」

弟である社は兄のようにはいかないようだ。自分が守り抜いていた秘密を

見破った探偵を驚愕の表情で見つめることしか出来ずにいた。

「舞元さんと警察署であった時、リオンさんと一緒にいた時にわかりました。」

「えっ? あの時に? なんかあったっけ? 」

リオンは首を傾げ、あの時を思い出していたが何も思い当たることはなかった。

「ええ。刑事さんともう一人の子供の話をしている時に舞元さんは『もう一人の息子』と

言っていました。『奏』もそうですが、『睦実』と言う名前からでは性別は判断できません。

それなのに舞元さんは『息子』と言っていた。これはもう一人の子供が男であることを

知っているということになります。二人の子供には親族などは居なかったことを考えれば、

舞元さんが『睦実』である可能性が高いと思いましてね。確信はありませんでしたがね。」

「なるほど。いやー迂闊だったな。社が黙っててくれたのにな。」

舞元は笑いながら頭を掻くと社の方に目をやった。社は気まずそうに皆の顔を見まわした。

「悪いとは思ったが、兄貴を巻き込みたくなくて...。」

「二人は知ってたん? 遺産のこと? 」

「ん? 椎名か。実は俺たちは遺産の件は知らなかったんだ。力一から聞いて初めて知ったよ。

楼沙さんが亡くなってたこともね。もう十六年前かな。澪麗の事で大喧嘩して二人で家を出たんだ。

それからは二人だけで生きてきた。親の力を借りずに二人で協力してね。

そんなある日、たまたま目にしたSEEDsのオーディションに社が通った。

俺も社に誘われて兄弟であることを隠してオーディションを受けてみたら何と合格さ。

それからは新しい人生をこの世界で歩み始めたってわけよ。」

舞元は質問してきた椎名に向けてというより、皆に向けて話をしていた。

「遺産の件を力一さん以外が誰も知らなかったと考えた時に疑問が生まれます。

今回の発端であるTwitterの投稿は何のために行われたのか? 」

シェリンの投げかけに辺りは静まり返った。誰もすぐに答えを出せずにいるようだった。

「目立ちたかったのかな...。」

そう呟いたのは葉山だった。それは誰もが一度、行きついた答えだった。

「さすが葉山さん。その通りなんです。」

「ええ? それだけなん? 」

「そうなんですよ。椎名さん。今回の事件は本当に単純な事ばかりなんです。

力一さんは自作自演のツイートをあげたんです。理由は一つ。注目を集めるためです。

目的は自分の誕生日配信を見せるためです。そこで自分が殺されかけることで自分への注目、

同情、人気を集めるためです。今回の事件の根本にあるのは本当にそれだけだったんです。」

 

 シェリンの話を聞いていた凛月が強張った顔で力一を睨みつけていた。

「じゃ...ルイスちゃんは、そのためだけに...。」

「凛月さんには申し上げにくいんですが、その通りです。力一さんの目的を達成させるためだけに

殺されたんです。」

そこまで聞いていた凛月が力一に飛び掛かろうとしたのを咄嗟に尊が止めた。

「凛月! 抑えるのじゃ。」

「尊さん...でも...でも。」

涙を流して自分のに腕にしがみつく凛月の頭を優しく抱きかかえた尊は「大丈夫。大丈夫。」と

繰り返し言い聞かせていた。

「力一さんはルイスさんに自分の配信にシークレットゲストとして登場してほしいと伝えました。

八時半になったら照明を落として欲しいと頼んだ。スタジオに入ったらゲストに向けて

懐中電灯の光を浴びせて『手を上げて』と行って驚かせてほしいとでも言ったんでしょう。

悪戯好きなルイスさんは喜んで承諾したでしょう。」

尊の腕の中からルイスの名を呼ぶ声が微かに聞こえてきていた。その震える声を聞いたシェリンは

込み上げる怒りと悔しさを飲み込むと説明を続けた。

「時間通りに部屋に入ってきたルイスさん。貴方は照明が消えたと同時に内開きだった

撮影スペースの扉の影に隠れた。タイミングを図り後ろからルイスさんを射殺した後に

彼女の手に銃を握らせ壁に向かって発砲する。最後に自分の腕を撃ったというわけです。

貴方が自分を撃った理由は本当に命を狙われているということをアピールするため。

そして、ルイスさんを殺した時に残った返り血を誤魔化すためでした。

しかし、ここで予想外のことが二つ起きていたんです。その原因となったのは身長でした。」

「身長? 」

「そうです。社さん。まず一人はチャイカさんでした。チャイカさんは身長が高すぎた。

集まったメンバーで一番高かった。かなり広角で高出力の懐中電灯を使っていたけれど、

それでもカバーしきれなかった。これは本人に聞いたわけではありませんが、

恐らくチャイカさんは微かに見えたのかもしれません。いや、あるはずの物が見えなかった。

撃たれて蹲っているはずの力一さんが居なかったのです。そして、もう一人。

同じ光景を目撃した人物。」

「笹木か...。おらんってそういう意味やったん? 」

椎名が最後に見た笹木の顔と言葉を思い出していた。

「はい。そうなんです。たまたま机の下にいた笹木さんには光が当たっていなかった。

光に照らし出される部屋の中に居なかったんです。笹木さんと同じ目線に居るはずの

蹲る力一さんが。あの状況で笹木さんが特定できる人物は貴方しか居なかったんです。」

皆が視線を向ける先に居る力一は相も変わらず無言で佇んでいた。

「それが原因で二人は殺されたのか。」

「それがそうじゃなかったんです。舞元さん。チャイカさんを殺す予定はなかったと思います。」

「ほう...。」

シェリンの言葉に初めて力一が反応を示した。それは短いものだったが、少し驚いた様子だった。

「チャイカさんが殺されたゼリーにどうやって毒が入れられたのか。これが問題でした。

これも簡単なことだったんです。ミックスゼリーは二つあったんです。

尊さんが最初に持ってきた時に力一さんは中身を見ていた。なので、事前に購入していた

同じミックスゼリーに毒を入れて懐に忍ばせていた。それを当日配られた後に入れ替えたんでしょう。

もし、自分にミックスゼリーじゃなければ自分で食べたいと言っていたのでしょう。

入れ替えた後、適当な理由で一旦退出した貴方はトイレに流すなどして配られたゼリーを処分した。

戻ってきた貴方は、さぞ驚いたことでしょう。

なぜなら、チャイカさんが自分のゼリーを食べていたのだから。」

「じゃあ。チャイチャイは本当に運が悪かっただけってこと? 」

「そうかもしれません。リオンさん。でも、僕はそうではないと考えています。

チャイカさんは最初の事件で力一さんが居ないかもしれなかったことを見ていた。

そして、恐らくですがチャイカさんはゼリーの入れ替えも目撃していたんだと僕は考えてます。」

「おいおい。まさかチャイチャイはあえて食べたっていうのか? 」

「舞元さん...今となってはわからないのですが、僕はチャイカさんは賭けてみたんだと思います。

自分の信頼する力一さんを。大好きな力一さんが、そんなことをするわけ無いって。

チャイカさんは自分の信じる力一さんを信じるためにゼリーを食べた。

ゼリーの入れ替えを見ていたのにも関わらず。」

それを聞いていた舞元が力一の胸倉に掴みかかった。

「お前...お前はチャイカの気持ちを利用したのか! 」

周りにいた女性陣では体格の良い舞元は止められず、慌てて刑事たちが間に入り二人を引き離した。

「貴方は自分でゼリーを食べるつもりだったんですよね。毒を入れている場所を偏らせ、

毒がない部分を食べて、苦しむ演技をする予定だった。そうすることで黒岩さんの子供二人に

容疑の目を向けさせるために。警察に社さんが子供のうちの一人だったと情報を流したのも

貴方ですね。」

「知ってたのか? 」

社が驚いた様子で力一を見つめた。力一は観念したのか口を開いた。

「ああ。知ってたよ。黒岩さんから聞かされていたからね。こんなこと言いたくないんだが、

黒岩さんは君たちを恨んでいた。澪麗を見捨てた君たちを。だから僕に遺産を託したんだ。

君たちと親しくしていた僕に。あえてね。」

それを聞いて社と舞元は何も言えなかった。二人にも言いたいことは沢山あった。

だけれども、口からその言葉が出ることはなかった。

 

 

 

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