「私たちの入手した情報と同様のようですね。」
室内は予想外の展開に驚愕と困惑に包まれていた。
刑事たちも話を聞くのには適した空気ではないと思ったのか、
力一から会話の主導権を奪った。
「実は我々が手に入れた情報には、まだ続きがあるんです。
実は黒岩楼沙は既に亡くなっています。」
「なんだって!? 何時です? 」
力一は椅子を倒しかねない勢いで立ち上がった。
「一週間程前ですね。恐らく力一さんに遺言書を送った直後だと思われますね。」
「おいおい。ちょっと待ってくれ。何だっけ? えーと。れいらさんだっけ?
れいらさんは、まだ入院中なのか? 」
慌てた様子の舞元の問いに対し。刑事は至極冷静に一つの事実を伝えた。
「そこが肝心なんですが、亡くなってます。九月二十九日にね。」
刑事が話し終えると、会議室は再び異様な沈黙に包まれていった。
「ということは、現在遺産の相続権があるのは...。」
「そうなんですよ。シェリンさん。例のツイートが流れていた時点で、
黒岩氏の遺産相続権は貴方に移っていたんです。力一さん。」
部屋中の視線が力一に集まった。珍しく言葉に詰まっているようで、
自分に集まる視線を一つ一つ確認するように、皆の顔を困惑の表情で見渡していた。
「でも待って。それはルイスちゃんに関係ないと。もしも力一さんが殺されちゃっても、
ルイスちゃんは何も得しないやろ。」
凛月の意見はごもっともであった。膨大な遺産が力一の手の中に収まろうとしていることは、
一旦置いておいたとしても、それがルイスの犯行動機とはならないはずだ。
なぜなら、ルイスが力一を殺したとしても、彼女自身に遺産が転がり込むということは
起こりえないはずだからだ。
「そうです。
「どういう意味ですか? 」
刑事の意味あり気な一言にシェリンが突っかかっていった。
「遺言状に記載されている相続人が亡くなった場合、遺産相続は通常通りに行われます。」
「ええ。そうなるでしょうね。」
シェリンと刑事の会話は続いていた。
「澪麗さんと力一さんが共に亡くなってしまった場合、法律上は遺言書が無効となり
黒岩氏の残りの相続権所有者へと権利は移ります。」
「娘さん以外に相続人が居たんですか? 」
「正確に言えば...居ます。だが今は居ません。」
「え? どういう意味ですか? 」
シェリンと刑事のやり取りが一瞬だけ止まった。
周りも次の一言を期待と不安の眼差しで待ち受けていた。
「黒岩楼沙には澪麗以外に二人の子供が居たんです。病弱だった澪麗ばかり構っていた楼沙に
嫌気が差してしまったようだという話です。詳しくは捜査中ですが。
直後に二人は家を出た。その後の行方は未だに不明という訳です。」
「二人の...子供? 」
「ええ。力一さん。仮に貴方が死んでしまった場合、法律的には行方不明の二人が相続することに
なります。つまりですね。もし二人が二人が生きていて、どこかで貴方のことを知ったとしたら
殺す動機は十分にある。そう考えれば、二人がルイスさんへ依頼した可能性もあります。」
「ちょ、ちょっと。待ってください! 」
慌てて刑事の言葉を遮ったのはシェリンだった。それに対して刑事は何も言わなかった。
それはシェリンの言葉を予知しているからなのか、不満そうな顔一つせずに道を譲った。
「二人の子供が何処かで生きていたとして、見ず知らずの人から力一さんへの配信に
サプライズで出るように依頼されて...。」
シェリンの口の動きが止まった。
「そうです。」
刑事はシェリンの顔を満足気に眺めていた。どうやら本当に予知能力を持っているようだ。
相槌のタイミングは文句無しのものだった。
「その二人の子供が僕たちの中に居るということなの...か? 」
「流石シェリンさん。
警察では考えております。」
今日は初配信の日だ。
あの日、あの家を飛び出した日から
見返してやりたいと思ったあの日から
ようやくここまでやってきた。
少し手と声が震えている。
まだゴールなんかじゃない。
生きていくんだ。
『