刑事たちの説明をまとめると、二人の子供が家を出たのは十五、六年前のことだった。
二人がもし生きていれば二十代後半と三十代前半の年齢になっているだろうとのことだ。
二人には亡くなった楼沙と澪麗しか身内がおらず、現在の性別や所在や詳しい経歴などは
わからないままだった。
分かっていたのは二人の名前だけだった。
刑事たちは問題の二人が名前と出生を偽りライバーとなり、その中で偶然にも
力一の話を聞いてしまい、殺害計画を実行したのではないかと考えているようだった。
急にそんな話を聞かされてもメンバーには当然のことながら信じることはできなかった。
しかし、今まで考えてきた可能性の中で、一番起こり得るのではないのかとも思ってもいた。
「そこで我々としては最初の発砲事件から捜査方針を立て直す必要があると考えました。
ですので、皆さんに今一度だけ最初の事件の現場検証に動向を願いたいのです。」
警察では二人のジョーカーに対抗するための手持ちカードが揃ってなかった。
自殺とほぼ断定した操作を行っていたルイスの事件の立て直しを先に行おうと考えているようだ。
反対するメンバーも出なかったことで、全員で事件のあったスタジオに向かった。
現場に着くと、事件発生前後の詳細な立ち位置の確認や行動の順番や言動の確認が
行われた。しかし、そこで新たな事実や当日と変わった証言などは得られなかった。
一通りの確認が終わると刑事たちは落胆と疲労の表情を滲ませ帰って行った。
スタジオに残った九人のメンバーは別室に移り休憩をしていた。
さほど広くない室内に用意された大きな丸テーブルの周りに不規則に並んでいた
十個の椅子にそれぞれが自由に座っていた。
「はぁー。疲れたー。」
疲労困憊の様子の舞元は椅子の背もたれに体を預け、思いっきり背伸びをしていた。
「くたくたじゃよ。」
舞元同様にお疲れのようで、尊も目の前のテーブルに顔を突っ伏しながら足をパタパタさせていた。
「ねーねー。みんなでこれ食べませんかー。」
葉山が手に持っていたのは、どこかで見たことがある箱だった。
「あ。それは。」
凛月にも見覚えがあった箱は配信の日に尊が手土産として持ってきたゼリーの詰め合わせだった。
当日、凛月が現場の冷蔵庫にしまっていた箱だった。
先ほどの検証が終わった際に刑事に許可をもらい、葉山が持ち出したようだ。
葉山は事件当日に凛月が冷蔵庫に箱をしまうのを見ていたようだ。
「いいね。小腹も空いたし、美味しいものでも食べて元気を出そうか。」
力一の言葉を合図に嬉しそうに葉山と天宮がゼリーを皆に配り始めた。
中には蜜柑、桃、葡萄が各五個づつと全種類の果実が入ったミックスが一つだけ入っていた。
「これは誕生日プレゼントですからミックスは力一さんですね。」
天宮がニッコリと微笑みながら力一の前にゼリーと一緒に入っていたビニールで包装された
小さなデザート用のプラスチックスプーンをセットで置いた。
女性陣が先に好きな果実を選び、残ったものから男性陣が選び終えた。
配り終えて全員が椅子に着席した時だった。
室内に着信音らしき音が響いた。力一が懐からスマホを取り出した。
どうやら力一のスマホに誰からか着信があったようだ。
「ん? みんなは先に食べてて。はいはい...。」
スマホの表示を確認すると、話しながら部屋を出て行ってしまった。
「じゃ。お言葉に甘えて頂くとするか。」
社が皆の顔を見渡しながら言った。それを機に皆がゼリーに手を伸ばそうとした時だった。
力一の隣に座っていたチャイカが、徐に隣の空席の前に置かれていた
ミックスゼリーに手を伸ばした。それを何の迷いもなく勢いよく食べ始めた。
「あー! 何してるんですかー! 折角一つしかない種類をあげたのにー!」
葉山がチャイカの持っているゼリーを指差しながら叫んだ。
唖然とする舞元、社、シェリン。チャイカの様子に吹き出しそうになる凛月と尊。
天宮は自分の選んだゼリーを美味しそうに食べていた。
「ん? ぼぐみだお。」
ゼリーを頬張りながらチャイカが何かを言っている。
どうやら本人は『毒見だよ。』と言っているようだ。
力一が電話を終えたようで部屋に戻ってきた。皆の笑顔の先にあったチャイカの手元を見ると、
そこにあったのは自分が食べるはずのゼリーだった。
「あー! それはー!」
力一が慌てた様子でチャイカに近づいて行った。その様子も相まって笑い声も増していた。
「ぐっ...。」
突然、チャイカが短く不気味な声を上げると口を手で押さえながら立ち上がった。
「おいおい。チャイチャイそれはやりすぎだわ。」
透かさず舞元がツッコミを入れたのだが、それに反応することなく
チャイカは小刻みに震え始めた。
一瞬、全員の時が止まった。動かしていた手や口、出しかけていた言葉、歩み寄ろうとした足が
一斉に静止したかと思うと全員の視線がチャイカに集中した。
チャイカは、その視線に押し倒されるようにゆっくりと後ろに倒れていく。
そのまま受け身など取ることなく、静止したまま大きな音と共に床へ倒れこんだ。
しばしの沈黙の後に部屋に響いたのは凛月の悲鳴だった。
十五、六年前
黒岩楼沙 (既に離婚していた。仕事以外は澪麗の看病に注力)
黒岩澪麗 (まだ入院はしていないが病気がち)
黒岩睦実 (奏と一緒に家出) → その後行方不明 → ライバーとなる?
黒岩奏 (睦実と一緒に家出) → その後行方不明 → ライバーとなる?