一話目
『ノヴァ』、彼の事をそう呼ぶ声に聞き覚えが有るのは、夢の中での天使の声に似ているからだろう。光を纏い異次元からの侵略者である裏12宮が率いた軍と戦った六色の軍の中の、黄色の軍の中心となった戦っていた天使。
後方では激励するように戦場ライブが繰り広げられていたのはノーコメントとしておいた方が良いだろうか?
何故、自分がノヴァと呼ばれるのかは……夢の中で本物のノヴァの言っていた通り、紅也がノヴァ達の魂を受け継いでいるからだろうか?
「……んっ……」
「ノヴァ!? 良かった……目を醒ましてくれたんだな」
紅也が目を開いた時、彼の視界に飛び込んできたのは、涙目で紅也の事を覗き込んでいる美しい金色の髪を持った巨乳美人。一瞬だけ、彼女の姿が夢の中に出てきた天使と重なるのは、彼女が天使自身だからだろう。
ゆっくりと腕を上げると、片腕が人のものでは無くなっていた。真紅に染まった異形の腕、全身には何故か痛みを感じる。……自分に何が起こったのかは分からない。声が出ないまま混乱していると彼女は異形の腕に優しく触れ。
「この腕は……ジークヴルムの。そうか……。ノヴァ、今のお前に何が起こっているのか説明する。落ち着いて聞いてくれ」
彼女が言うには、異形の腕はかつてのアルティメット・ジークヴルム・ノヴァの腕。『雷皇龍ジークヴルム』と呼ばれていた頃の力が集まった物らしい。彼女の説明に従うと、異形の腕はドラゴンの頭を思わせる籠手を装着した物に変わり、人の物へと戻った。
元々彼女達アルティメットはスピリットと呼ばれる存在だったそうだ。そして、紅也の身に起こった事を引き金とし彼の中に在るアルティメットの力が覚醒、その結果アルティメットの魂を持った人間から、スピリットと人間のハーフと言う状態に変化しつつあるそうだ。後々アルティメットへと変わっていくらしい。
ジークヴルムの力がこういう形で具現化したのは、人間の体でスピリットの力を使うため、なのだそうだ。それが右手に起こったことだが、同時に左手もまた別のドラゴンのものへと変わる。『太陽龍 ジーク・アポロ・ドラゴン』。二体目の三龍神の力もこういう形で具現化したそうだ。
何が有ったのか、そう聞いてみたのだが……残念ながらそれを教えてもらう事は出来なかった。ただ一つだけ教えてもらった事は、『紅い髪の悪魔に関わらない方が良い』らしい。
まあ、彼女『アルティメット・ヴァリエル』こと人間形態名『エリス・ヴァリエル』との初顔合わせはそんな形で成ったのだった。
さて、エリスと分かれてから(彼女が言うには一ヶ月くらいでもう一人、ノヴァだった頃の戦友がやったくるらしい)、在学している駒王学園に登校していると非常に驚いた物を見る事となった。
「何が有った?」
変態三人組と名高い三人組の問題児の一角『兵藤 一誠』が学園の二大お姉さまと呼ばれている三年の『リアス・グレモリー』と一緒に登校している姿を目撃したのだ。
周囲から様々な感情が向けられているが、不思議と紅也にはそんな感情は湧いてこない。寧ろ、彼女達二人よりもエリスの方が紅也にとっては魅力的に感じる。それに何より……リアスは彼女が関わるなと言っていた『紅い髪』と言うフレーズと一致をしているからだ。悪魔と言う部分は分からないが、紅い髪と言う部分に一致している以上は警戒しておいた方がいいだろう。
「忠告に従っとくか……」
そんなエリスからの忠告も有ってあまり二人を眺めるのを止めてさっさと登校する事に決めた。だからだろうか、紅也の姿を見たリアスの顔に驚きの感情が浮かんだのを見逃してしまったのは。
教室ではクラスメイトである変態三人組の二人に絡まれ、『お前ら、生乳見たこと有るか?』と言う一誠に発言に心底呆れたものだった。
(その変態発言どうにかすれば彼女くらい出来そうなのにな……ん?)
そんな瞬間妙な感覚に襲われる。
(……一誠の奴、彼女が出来たって言って……その彼女の写真を自慢げに見せてたような……っ!? 前後の記憶がなんか曖昧だな……)
改めて考えているとどうも自身の記憶が混乱しているのが分かる。エリスの言葉が正しいのなら……いや、間違いなく正しいのだろうが、それはアルティメットの魂が覚醒した事が影響しているのだと考えられる。
放課後、帰り支度をしながら家を出るときにエリスから言われた言葉を思い出している。今のところ、紅也の中で目覚めた三龍神の力は二つまで、最後のドラゴンの力は未だに目覚めていない。
まだ完全に目覚めて居ない……よく言えばまだコントロールしやすい弱い段階で、自分の中のスピリットの力のコントロール方を教えてくれるそうだ。だから今日は速く帰ってくるように言われたのだが、
「や、どうも」
帰る前に紅也を尋ねてきたのは学園一のイケメン、『木場 祐斗』だ。
「……ナンの用だ?」
「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ。ぼくについてきて欲しい」
未だに悪魔と言う部分は理解できないが、彼女……エリスの言葉は信頼に足ると理解している。会ったばかりの彼女にそんな風に信頼するのも疑問だが、己の中のノヴァの魂が戦友である彼女は信頼するの足ると言っているのだろう。
そんな彼女の忠告に引っかかるリアス・グレモリーからの呼び出し。此処は断るべきだろう。
「悪いけど、今日は用が有るんだ」
そう言って手を振って追い返そうとするとその手を木場につかまれる。
「悪いけど、そう言うわけには行かなくてね。どうしても君に来て欲しいそうなんだ」
「っ!? だから放……っ!?」
「ガッ!?」
それを振り払おうとした瞬間、一瞬掴まれている腕に何か……恐らくは雷皇龍の力が流れたのを感じる。それと同時に木場の体が崩れ落ちる。その一瞬で雷皇龍の力が一種のスタンガンの様に流れたのだ。
雷の皇。その名は伊達では無く、雷撃を操る事ができる。力が腕に籠手の形で具現化したとは言え、不安定な力は紅也の持った拒絶の意思に反応して、彼を攻撃すると言う結果を生み出してしまった。
まあ、不安定であるが故に今朝のように籠手の形で具現化することも無く、傍から見れば紅也の腕を掴んだ木場が急に倒れたようにしか見えない。
『キャー!!!』
どっちにしても、急に人が倒れるなどと言う現象が起これば周囲から悲鳴が上がるのも当然だ。特に女子に人気の高い木場、真っ先に悲鳴を上げたのは女生徒の一人だった。
『何をしたのか?』と紅也に対する抗議が上がらないのは、傍から見れば片手を掴まれていた状態で、殴り飛ばすのも、蹴り飛ばすのも直ぐには無理だったからと言う状況ゆえだろう。視線が集まっている状況ならそんな事になれば直ぐに分かる。序でに紅也が木場に触れていたのは掴まれていた腕だけだ、そんな状況で一般的な常識では危害を加えるのは無理だと誰もが判断するだろう。
そして、この場に居るのが木場以外には普通の人間……或いは若葉マーク付きの裏関係者だけと言うのも幸いだった。
紅也の腕を掴んだ木場が急に倒れた。寧ろ、紅也が何かをしたかと疑うよりも、木場が病気等に感染していないかと言う心配をする所だろう。
女子や一誠を含んだ近くに居た男子に意識を失った木場が保健室に運ばれていく姿を見送りながら、さっさとその場を後にする紅也だった。
「……ってな事があって……」
「完全に力の暴走だな。……リアス・グレモリー……、外見から言って間違いなくあの時の女だな」
帰宅後、学園での状況を説明された頭を抱える。後半の呟きは聴き取れないほど小さい物だったが、鋭さを含んだ視線で紅也を一瞥する。
「ノヴァ……幸い、相手があの女の関係者……恐らく悪魔だったから良かったものの、相手が普通の人間相手だったらどうなっていた事か……。少しずつ力をコントロールしてもらう予定だったが、そんな呑気な事は言ってられない様だ。最低限、暴走させない程度にはコントロールできるようになってもらうぞ」
「は、はい!」
有無を言わせぬ迫力のエリスに圧され、思わず直立不動で返事をする紅也。実際、彼女の判断には正しさしかなく、彼も納得できる事だ。下手に力を暴走させて周囲を傷付ける事は彼にとっても望む事ではない。
……その日、エリスから力のコントロールについて学ぶ事になったが、結構彼女は厳しかった、とだけ記しておく。
「それで、祐斗は大丈夫なの?」
「はい」
深夜の駒王学園旧校舎。その中にあるオカルト研究部部室。既に生徒全員が学校に残っている事を認められていない時間帯に、オカルト研究部だけ明かりが灯っていた。
その中にある影は四つ、一つはリアス・グレモリー。もう一つは昼間、雷皇龍の力の暴走に去らされてしまった木場祐斗だ。
一誠の迎えだけでなく、リアスから紅也も一緒に連れてくる様に言われた為に、紅也を連れてこようとした際に、無防備な所に強力な電撃に曝されて意識を失ってしまったが、幸いにも命だけでなく体にも影響は無い。
だが、残念ながらその一撃で木場は夕方頃まで意識を奪われていたので、一誠の迎えも果たせなかった。内心で『何をされたのか分からないけど、今度は油断しない』と誓いつつ、己の主であるリアスへと報告をしていた。
「そう」
木場からの返答を聞いたリアスの表情に安堵の色が浮かぶ。
「ありがとう、祐斗。明日改めて接触するとして……祐斗を反応さえさせずに一瞬で倒す実力者。それが意図したものじゃなかったとしても……いいえ、寧ろそれはそっちの方が危険ね」
紅茶に一度口を付けると彼女は改めて呟く。
「どっちにしても、私の可愛い眷属に手を出した子には、お仕置きしないとね」
雷を纏いながら紅也の姿が真紅の龍人と言った趣の姿へと変わる。その翼や頭部には雷皇龍ジークヴルムと似た趣を持っている。人間の肉体を人間とスピリットのハーフと言うべき肉体へと変異させる。
イメージ的には仮面ライダークウガやアギトの肉体強化系の仮面ライダーへの変身に近い。……ベルトは無いが。
「ふぅ……」
「短時間だけだが、全身の変異まで出来る様になった様だ」
「流石に疲れた……」
人間の姿へと戻って呼吸を整えている紅也へとエリスは感心した様子で声をかける。
「まあ、技術としては応用の一つだからな……能力の制御の」
エリス曰く、紅也は魂に引っ張られて肉体が急激にスピリットへと変異している分、能力の制御が不安定になっている。それは仮免のドライバーにレーシングカーを運転させるような物だ。だからこそ、一気に段階を飛ばして一気に能力の制御を出来るようにしようとした訳だ。
「それって上手く行かなかったら……」
「今日一日無駄になっただけで済む。最悪は明日から暫く能力の制御の訓練をして貰うつもりだったが……」
「学校はどうするんだよ?」
「怪我人でも量産したいのなら止めないが?」
「……取り合えず、過程の話は止めよう……。上手く行ったんだし」
「そうだな」
流石に一日で能力の制御に成功した事には素直に喜んでおこう。……流石に怪我人を大量生産したくは無い。
「そう言えば、エリスさ「エリスで良い」エリスは何処に泊まるんだ」
「そうだな。お前の家に部屋を借りるつもりだが。まあ、私達アルティメットやスピリットの滞在についても許可は貰っている」
「許可?」
「ああ。『天剣の覇王』が日本神話の神族に直接交渉してくれた。お蔭である程度長期滞在も出来るようになった」
そう言うエリスの脳裏に浮かぶのは、長期滞在の手続きをした時に会った日本神話の神の一柱であるツクヨミの姿(外見イメージはガイストクラッシャーの『ムーンライト・ツクヨミ』)。
流石にアルティメットは上級スピリットクラスまで能力は制御する必要が有るが、悪魔側に文句を言われても突っ撥ねる事が出来る様に、日本と言う国の神族の許可を得た訳だ。……彼ら自体はどうも、三大勢力……特に聖書の神と関係の深い天界に害意がある様子だが。その原因は聖書の神にある。
(……まあ、理由は聞いたがな。何処にでも居るな……迷惑な神は)
思い出すのはスピリット達の世界を『ジャジメント・ドラゴニス』と言う器を利用して滅ぼそうとした彼女達の世界の創造神。結果的にソードブレイヴを持ったソードアイズのスピリット達によって滅ぼされたが……。
(まあ、私は魂だけでもノヴァと再会出来た。……今はそれで十分だ)
まだ途中です。
擬人化イメージ、アルティメット・ヴァリエルは『明の星のエリス』をモデルとしています。