「カイザァー……ナックル!!!」
「ガハァッ」
通常のISよりも一回り大きい真紅のIS『ダイカイザー』を纏ったユウヤの拳が、小柄な銀髪の少女『ラウラ・ボーデヴィッヒ』の駆る黒い装甲のIS『シュバルツェア・レーゲン』を殴り飛ばす。
アリーナの地面をバウンドしながら壁に叩きつけられたレーゲンは片側のレールガンだけでなく、周囲の装甲も内部が露出している無残な姿だ。
『カイザーナックル』、ダイカイザーの武装の一つで白式の零落白夜と同質のSE突破の拳だ。当然ながら、
「くっ……くそっ……」
ISは絶対防御に守られているが、それを無力化した上でダイカイザーのパワーで殴り続けられた結果、中破と言う域は当の昔に超えているレーゲン。装甲が砕けて内部が露出している部分も多く、まともな形で残っている装甲を探す方が難しいだろう。
核となる全身装甲のIS『カイザード』の上から武装を纏ったダイカイザーでは有るが、内蔵武器を使わずに両手の拳だけで此処まで追い込まれたのだから、ラウラにしてみれば屈辱だ。
ユウヤに勝負を挑んだのは、ラウラにしてみれば尊敬する千冬に対して生意気な態度を取るユウヤを叩きのめすだけの心算だった。無様に自分の前に跪かせて今までの千冬に対する態度を後悔させてやる心算だった。だが、結果として叩きのめされているのは己のほうだった。
(認めない、認められるものか!!!)
認められないと思っていても、機体は既に絶対防御程度しか生きていない。辛うじてその部分だけは生きているが、既にレーゲンの武装は悉く死んでいる。どんなに否定した所でISでまともに使えるのはスラスターだけだ。
「おいおい、後悔させてくれるんじゃなかったのか、軍人さん?」
本体から砕け落ちた武装の一部を踏み砕きながら、相手を馬鹿にする様に挑発気味な言葉がユウヤから放たれる。どう見ても悪役な行動である。
『ふざけるな、今すぐ後悔させてやる』とでも叫びたかったが、そんな事を叫んだ所で何の意味も無いだろう、這い蹲っていないにしても、後悔させられているのは己なのだから。
「きさま……」
ラウラは立ち上がりながら、目の前に立つユウヤを睨み付ける。
『……その辺にしておけ、確かに一度叩きのめせとは言ったが、此処までしろとはいっていないぞ!』
(まあ、こっちのSEも多く消費したからな)
カイザーナックルの応用で全身に効果は薄いが、零落白夜に相当するエネルギーフィールドを纏う事もできるが、その効果に反してSEの消費が大きい防御型の零落白夜である。ハイリスク・ローリターンと言う言葉が相応しく実弾や実体剣には効果が薄い。ユウヤは好んで使用していないが、レーゲンの持つAICに対しては天敵とも言える能力を発揮してくれた。
まあ、ラウラを弁護するのならば無敵と思っていたAICが無力化された事で動揺した隙を突かれたと言えるだろうが。
(くそぉぉぉぉぉぉ!!! 此処で負けたら、私の存在意義が!? 織斑教官を侮辱するこんな奴に負けたら……また私は、落ち零れの烙印を押されてしまう)
そんなラウラの心情を知らずユウヤはカイザードとの会話へと意識を向ける。
(ああ、殆ど八つ当たりで戦った様な感じだからな……)
『それは分かるが』
そもそも、ラウラとの試合はカイザードが受けるように言ったのが始まりだ。まあ、結果的に八つ当たりの的になった訳だが……。
『気が済んだのならその辺にしておけ、八つ当たりにしてもこれ以上はやりすぎだ』
「ああ、コレじゃあ、単なる弱いものいじめだからな」
(弱い!? 弱いだと、私が!?)
思わず口に出てしまったカイザードとの会話がラウラに聞え、ラウラの表情に憎悪の感情が浮かび上がる。叩きのめしてやると思っていた相手に『弱い』と言い切られてしまった事に、憎悪の意思が沸きあがる。
(なんでもいい、アイツを叩きのめすための、力を! 私に!!!)
―Valkyrie Trace System……boot,―
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「な、なんだ!?」
ラウラの絶叫に驚いてカイザードとの会話から意識を其方へと向ける。彼女のISに稲妻が走り、ISが変形を始めていく。いや、それは変形と言うよりも……
『彼女のISが変貌する、だと? まさか!?』
「何か分かったのか?」
『VTシステム……可能性としては、それが強い』
「VTシステム? あれって、禁止されているシステム……っ!?」
カイザードの言葉に答えながらラウラのほうへと視線を向けると、今までとは違う黒いISへと変貌している。
しかも、それはカイザードの推測を肯定するような姿……『暮桜』、かつての織斑千冬の機体へと変貌している。……しかも、黒い影のような形で有るが、纏っているのも織斑千冬へと変わり果てていた。
「チッ! カイザード!?」
『ああ! 油断するな、過去のデータとは言え……かつての世界最強だぞ』
「だったら、此処でその称号……返上させてやる!」
後日……トーナメント当日。
「それで、なんで呼び出されたか分かるわよね?」
「は、はい」
いつもの笑顔こそ浮べているが、『#マーク』が張り付いているIS学園生徒会長の更識楯無さんと、正座させられているユウヤくんの図が生徒会室に有りました。
心当たりと言えば、
「え、えーと、ボーデヴィッヒさんのISを壊しちゃった事でしょうか?」
「それはそれで問題だけど、あの子のISには禁止されているVTシステムが搭載されていた事もあって、それほど大きな問題にはされてないわよ」
そこで一度言葉を切ると、『寧ろ』と前置きして……
「問題が有るのはこの二人についてね」
映像に映し出されているのはラウラの巻き添えに破壊された一夏の白式とシャルルのラファールと……目を廻してアリーナの床に倒れている二人。
「いや、あの七光りが妙な事叫んで乱入してきたから……」
「幸い、白式は倉持が不眠不休で、ラファールの方は元々デュノア社制の量産機のカスタム機、両方とも何とかトーナメントまでに修理が完了したそうよ」
「それは良かった」
ユウキが属しているのはダイカイザーの開発元であるDP社であり、そのDP社は現在倉持研を抜いて日本国内でのISの開発についてはトップとなっている。第二世代に限定すれば、多種多様な量産機と初の第三世代量産機である『メッチャバトラー』の生産が開始した為だ。
要するに後発ながら既に大きく倉持研に差をつけていると言う訳だ。当然ながらそれが面白くないのは倉持研の皆さん。そんな時に世界で始めて確認された男性IS操縦者の一夏とユウキ、二人の専用機を用意する事で大きな話題性を得ようとしたわけだ。
だが、当然ながら新型の開発など時間が掛かる事この上ない。急ぎながらも相応の性能を持つ一夏の専用機『白式』の開発の為に、既に開発が進んでいた楯無さんの妹であり日本代表候補生の専用機のパーツの大部分を流用した結果、無事短時間で白式の完成に漕ぎ着けた訳である。
若干シスコンの気が有るのか楯無さん、その一軒が原因で一夏に対して良い感情を抱いて居ないと言うのがユウキの印象だ。
そんな中、急遽決まってしまったクラス代表決定戦。話題性の為にブリュンヒルデの弟である一夏の専用機を最優先で用意し、何とか数ヶ月の遅れでユウキの専用機の完成の目処が出来た(しかも、この時点で日本代表候補生の専用機は既に凍結している)矢先に起こった急なクラス代表決定戦と言うイベントでユウキがDP社と契約して正式に企業代表としてダイカイザーを受け取ってしまった訳だ。
慌ててDP社との契約を考え直してもらうようにユウキとの交渉に移った倉持研だが、ダイカイザーの事情を知ったユウキは、クラス代表決定戦に間に合わないという事を理由に倉持研との契約を拒み、おまけに専用機の件が原因で代表候補生も倉持研から離れてDP社に新たに専用機を依頼してしまったわけだ。
……結果、一夏は二度もユウキに白式をボコボコにされて無様を曝したわけである。特に本体は兎も角、唯一無二の武装である雪片がボロボロに破壊された結果、このタッグトーナメントには切り札無しでの参加となってしまったわけだ。
「にしても、あの七光り……武器に合わせて戦い方を帰るって事覚えた方がいいんじゃないんですか?」
「そうよね」
近接用ブレードを手に突っ込んで行った結果、攻撃は当てられるものの手痛い反撃を受けている一夏に苦笑を浮かべる二人。どうも所々に一撃必殺の破壊力を持った雪片に頼っていた姿が見え隠れする。それが白式のスペックだと言ってしまえばそれまでだが、控えめに言っても素人である一夏向けの機体ではない。
常々『倉持の技術者は無能ばかり』と言っているユウキが総称する理由が白式に収束している。既に依頼されていた代表候補生の専用機の開発を放り出した上に、織斑千冬の弟だからと言う理由で接近戦しか出来ない欠陥品を渡したのだ。いや……
「そもそも元からその程度の連中の集まりだったんだろうな」
どんな理由かは知らないが、偶々千冬が専用機を求めたのが倉持だった。千冬だったから欠陥機でも優勝できた……その結果、ブリュンヒルデの専用機を作りあげた企業としてメッキが貼られた訳だ。そして、DP社の存在でそのメッキも段々とはがれて行ったのだろう。
……それがユウキの持っている倉持への(偏見が有るが)評価だ。
「っ!? それは本当なの!?」
ユウキがモニターで愛の様子を見ていると、楯無が驚愕の声を上げる。
「織斑先生が瀕死の重傷を負ったなんて……」
「はぁ?」
楯無の言葉に思わず呆けた声を上げてしまう。
「えっと……素手で熊の群とでも戦ったんですか?」
「残念ながら、打鉄を身に付けて学園の敷地内で重症を追って発見されたわ」
「……仮にも、“世界最強”だろ?」
クラス対抗戦での“Я”ダイユーシャの襲撃と同じ事を警戒してか、ユウキを連れて現場へと向かった結果……コアさえも粉々に破壊され、完全に破壊された打鉄を纏った千冬が片腕を切断された状態で発見された。
彼女が負った大きな傷は肩と肘の二箇所で切断された利き腕と、心臓に到達する寸前で止められた斬撃。同様にラファールを纏った教師部隊にも被害が出ていた。千冬でさえ僅かに遅れていれば命を落としていたであろう状況……その大半は死亡しており、運よく生き残った教師から『巨大な鎌を持った龍のような白い全身装甲』だったとの事だ。
『……カオスブレイカー……奴か』
カイザードからの呟き……それによってユウキはこの襲撃の犯人がカイザード達の敵であるリンクジョーカーだと理解した。
急遽、生徒会と後から駆けつけた他の教師達によって負傷者達は病院へと運ばれたが……多くの犠牲者が出てしまった。この襲撃によってタッグトーナメントは一回戦のみで中止となった。
「千冬姉ぇ!!!」
そんな中、楯無とユウキが護衛のために(ユウキは心底嫌そうだったが、現行で襲撃者に対抗できるのがDP社のISのみと言う事もあり)着いている病室の中に一夏が飛び込んでくる。
手術は終わり、眠っている千冬だが、切断された腕はその後の手術で無事に縫合されているものの、もうマトモに動くことは無いだろうと、更に眼に撒かれた包帯が取れても片目の視力はもう二度と戻らないと宣告されている。
…………専用機は無く、仮に戻ったとしてもまともに動かない利き腕では以前のように剣を振る事は出来ず、片目の視力を失った今、既にかつての“世界最強”のブリュンヒルデは完全に死んだだろう。
「ユウキ! お前が居ながらなんでだよ!?」
「オレに当たるな、バカ」
行き場の無い怒りを一夏から向けられるユウキだが、それよりも生き残った教師からの報告……『同じ部隊の教師が互いに殺し合いを始めた』と言う一点が報告を受けた者の中で引っかかっていた。
千冬世界最強剥奪編でした。手術の結果と言うよりも大部分は某絆を嘲笑う道化師のせいで彼が倒されるまで千冬さん利き手はまともに動きません。片目の視力も失い戦闘者としては死んだも同然です。