(さて、どうする?)
僅かにそう考えたものの、メダキャリバーを地面に突き刺し、降参と言う態度で上に上げる。
「時空管理局執務官のフェイト・T・ハラオウンです。ここで何をしていたんですか?」
「いや、何をって何もして無いって訳じゃないけど…戦っていたとしか…。」
確かに嘘は無い。だが、『完全武装』で『周囲が破壊』されて『人が倒れている』と言う状況でそんな事を言ってしまえば、その言葉は『自供した』としか言わないだろう。どう考えても『』の中の単語が問題だらけだ。
「ッ!? あなたを殺人未遂と大規模破壊活動の容疑で逮捕します。」
当然の事ながらオーズに向けているフェイトの視線が鋭さを増す。犯人と認定されてしまったようだ。
「って、ちょっと待て、オレは真犯人と戦っていただけだ! 大体、執務官、お前の管轄は此処(地上)じゃないだろう!?」
「え、ええと…それは…。そ、それにそんな格好で言われても説得力は有りません!」
「まあ、オレが完全武装なのは認めるけどな。」
心の中で溜息を吐きながらオーズは視線を自動販売機形態のライドベンダーに向ける。彼女の隙を見てカンロイドを購入、そして、それを使って逃げる手段を考える。オーズやグリード、ヤミーの事を下手に知られる訳には行かないのだ。
「取り合えず、そこで倒れている人は良いのか? オレは逃げも隠れもしないから、先にそっちの無事を確認した方が良いんじゃないのか?」
「っ!? 貴方に言われなくても。」
フェイトの視線が倒れている男へと向いた瞬間、セルメダルを取り出しライドベンダーに近づこうとした時、
「ッ!? 危ない!!!」
「え?」
フェイトへと向かって巨大な黒い火球が向かっていくのを視認する。
既に彼女のスピードでも逃げられないだろう、オーズはタカメダルのボディー『タカヘッド』の優れた視力でそれを確認すると、バッタメダルのレッグ『バッタレッグ』の跳躍力を最大限に活かし、フェイトの前へと出て盾になる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
フェイトを庇って無防備なままに火球の直撃を受けるとオーズはその場に崩れ落ちる。
「大丈夫です…ソウ…マ?」
「が…。」
音を立ててオーズドライバーが地に落ちて変身が解除されると、呆然とフェイトは彼の名を呼ぶ。
完全に倒れる前に腕をつき、体を支えると前方…火球を放ったで有ろう物へと視線を向ける。
「ほう、オーズも随分と甘い事をすると思ったが、あの時の少年だったか? そして、もう一人はあの時の少女か…。」
「あなたは!?」
「あの時の…化け物…そうか…お前は…『グリード』だったのか。」
目の前に降り立った龍の意匠を持った全身に背中には不死鳥をイメージさせる翼を持った怪物…グリードに向かって二人は驚愕を露にする。
「なるほど、まだまだ甘いが研ぎ澄まされた刃の様な良い目をする様になったな、しかもオーズになるとは、君は私の期待以上だな、少年。」
その表情に嘲笑を浮かべながら総麻とフェイトへと視線を向けてそう宣言すると、自らの体の中に片腕を突き刺し、直にそれを抜き取る。
「な、なにをしてるんですか?」
「少年、問いに答えよう。私の名は『ヴァルト』。この世界のグリードだ。」
フェイトの言葉を…存在さえも無視する様に総麻にだけ視線を向け、自らの体の中から抜き出したそれを総麻へと投げ付ける。
「っ!? これは…コアメダル!?」
投げ付けられたそれを受け止めて、それに視線を向ける。それは始めて見る龍の絵が描かれた黒いコアメダル。
「地球のグリードを此方へと呼び寄せ、オーズドライバーをこの世界に持ち込んだ甲斐が有ったな。」
「…お前…なんで態々コアメダルをオレに渡した?」
「個人的な美学と言う奴だ。己のコアメダルを渡し、その上で叩き潰し相手のメダル毎取り戻す。決闘の約束とでも思っていれば良い。」
「「っ!?」」
ヴァルトがそう告げると衝撃音が響き翼を広げたヴァルトの姿が消えると、総麻とフェイトの背後で再び衝撃音が聞こえる。
「この男は貰っていくぞ。残念ながら、私のヤミーは『特別』でな、この男にはまだ使い道がある。」
後から聞こえた声に振り向くと、そこには気絶している男を拾い上げているヴァルトの姿があった。
「その人を放して下さい!」
「オーズの少年、名を聞いておこうか?」
バルディッシュを突きつけながら叫ぶフェイトの声を無視してヴァルトは総麻へとそう問い掛ける。
「神凪総麻だ。」
「そうか。では、覚えておこう、ソウマ。次に会う時は今の様な『余計な物』が無くなっている事を願うぞ。」
「ま、待って!!! きゃあ!」
背中の翼を広げ飛翔したヴァルトをフェイトが追おうとした時、ヴァルトが巻き起こした風が彼女の視界を奪い、眼を開けた時は既にヴァルトの姿は無くなって行った。
「逃げられた…か。痛ゥ!?」
ヴァルトと名乗った幻獣の姿のグリードが姿を消した瞬間、火球が直撃した所を押さえながら崩れ落ちてその場に倒れる。
「っ!? ソウマ、大丈夫!?」
「ああ。大丈夫…って言いたい所だけど、結構効いた。……それにしても、あの野郎、余計な物ってどう言う意味だ?」
駆け寄ったフェイトに支えられて立ち上がると、総麻はフェイトへと視線を向け、
「所で、こんな所に来てオレに何か用か?」
「うん。総麻に相談が有って来たんだけど…。」
「…その途中でヤミーの起こしていた破壊活動に気がついて、現在に至るって訳か…。」
「……うん……。」
申し訳無さそうに頷くフェイトに対して心の中で溜息を吐きながら、自動販売機形態のライドベンダーを指差してそこに連れて行く様に言う。
セルメダルを投入し、ライドベンダーをバイクモードに変形させると、目の前での自動販売機からバイクへの変形に驚いているフェイトを一瞥しながら、その座席に座ると、
「それで、何が聞きたいんだ?」
「うん。総麻は…母さんの事、まだ恨んでる?」
「それが、『リンディ・ハラオウン』と言う人間を指しているなら、間違いなく恨んでるな。…あの女は勝手にオレから両親との思い出の場所を勝手に奪った。憎むなって言う方が不思議だろう?」
突き刺すような冷たい視線でフェイトを一瞥しながら、総麻は一切の迷いなく答える。
『理想で何も救えない』と言う…トラウマ、呪い、どんな形の言い方になったとしても、総麻の心の中に理想を否定する絶対的な『現実主義』を与える切欠となったのが、中学に入った頃の両親の死。
「…『助けられる命は助ける』…か。」
思わずそう呟いてしまう。
紛争地域でのボランティアを行っていた医師であった父と看護婦であった母の口癖の様な言葉。だから、以前の総麻も…何時も家には居ない両親の事を尊敬していた。だが、中学に入学した時にその両親は命を落とした。
死んだ両親の事を悪く言う周りの人間達、勿論、そんな人間ばかりではない事は理解しているが、それが総麻に『命の価値』と言う考え方を植えつけた。『己にとって価値のある命を守り、それを守る為に価値のない命を捨てる』。『何故両親が死んで殺した人間が生きているのか?』と言う常にぶつけ続けた疑問が出してしまった答えだ。両親の死が総麻の心に植えつけた『闇』と『生き方』。
…だが、結局の所、なのは達には冷たく振舞ってはいるのも、ロストロギアに分類されるであろう、オーズドライバーとメダルを持つオーズである自分と敵対した時に、彼女達が何が有っても苦しまないで済む様にと思っての事だ。最悪の場合、自分が死んだとしても、悲しまずに済むように。
「…そう…なんだ…。…ごめん…母さんが勝手な事をして…。」
「気にするなよ。あの雌狐はあの雌狐、フェイトはフェイトだ。フェイトが謝る必要はない。」
「…うん…。」
フェイトの言葉に総麻は手を振りながら答える。自宅の場所を知られてからと言うものの、時々フェイトの相談に乗っている。こうして会う度に義理の母親の行動を謝られ続けていると流石に逆に総麻の方が申し訳なくなる。だが、リンディの事は許す気は無いので、受け入れる訳には行かない。
まあ、中学の頃に現在の『問題児』としての己の形成は出来てしまっていたが、リンディに勝手に家を処分されて管理局に入れてから、彼女達が正しいと言う元々持っていた管理局の有り方への疑問が倍増していた。そんな中でフェイトに協力して違法研究所の一つに突入した時、その時は存在を知らなかったが、初めて幻獣型グリードのヴァルトと出会った。
研究所の中でヴァルトに見せられたデータ。最初は二人も信じていなかったが、調べれば調べるほどそれが真実である事を告げていた。結果的に管理局に力を貸す事が無意味と感じた総麻は辞める道を選んだ訳である。
特にオーズになりフリーとなってから調べた結果では、管理局が違法研究を支援していると言う事実を完全に確信してしまった。
「それで、相談ってなんだ?」
罪悪感が湧いてくる現状を払拭する様に総麻は話を本題に移す。
「うん、実ははやてが設立したって言う新説部隊の事なんだけど。」
「…また機動六課とか言う部隊の事か…? オレも今日、はやての奴に協力を頼まれた。」
明後日の方向に視線を向けながら思わず頭を抱えてしまう。タダでさえ『オーズ』や『コアメダル』と言う危険な爆弾を抱えている状態で管理局の中の派閥争いの中間点に成りかねない場所に飛び込みたくない。
「正直言って、私は機動六課の設立に反対なんだ。陸の治安が悪いのは陸の怠慢だってはやては言うけど…。」
「悪い言い方したら、本局所属の部隊を陸に作るなんて、陸を見下したやり方だ。喧嘩を売っているとしか思えない。」
「それは言いすぎだと思うけど…でも、私もそれは傲慢だと思う。はやてに新部隊に協力するって約束しちゃってたから、協力する他になかったけど。」
「まあ、オレが言うのは何だけどな…理想を捨てて仕事と割り切ってしまえば楽になるだろ?」
言った本人も思うが乱暴な理論だ。そんな総麻の言葉にフェイトは黙り込む。
「……私も、あの時から何が正しいのか分からなくなっちゃって、管理局やめようかなと思ってるんだ。」
「っ!? そうか。」
その言葉に驚いた物の肯定も否定も出来ない。最初からそれほど管理局を良い目で見ていなかった総麻以上に管理局を信じていたフェイトの中の失望は大きかったのだろう。再度の沈黙が流れる。
「…ねえ、総麻、グリードって何? 総麻が変身していた、あの姿は何?」
そんな中でフェイトが疑問に思っていた事を口に出す。
「…グリードはオレも詳しい事はわからない。ただ分かるのは体がメダルで構成された生物で、ヤミーと言う怪物を人間の欲望から生み出す事くらいだな。」
多少嘘は混ざっている。アンクと言うグリードの一員が身近に存在しているのだから、知りたいと思えば知る切欠は幾らでも有る。もっとも、アンクが素直に答えてくれるとは思っていないが。
「そして、オレが変身していた姿は…オーズだ。」
そこまで言った後一度口篭ってしまう。実際、説明できるほど総麻はオーズについて詳しくはない。
精々が、オーメダルの中のコアメダルといわれている物を三枚使って様々な姿に変身でき、グリードの種類だけコンボと呼ばれる強力な力が使用できる事と、アンクとグリードの一人、猫種グリードの『カザリ』経由の情報では、グリードを封印する為の力と言う事らしい。
「オーズ?」
総麻が黙っているとフェイトが聞き返してくる。
「あいつらと戦う力らしい。」
他にも聞きたい事が有る様子のフェイトだが、総麻の足元にバッタカンロイドが現れる。
『おい、さっきのヤミーがまた現れたぞ。』
それを手に取るとバッタカンロイドを通じてアンクからの通信が聞こえてくる。
「早いな。分かった、直に行く。フェイト、そう言う訳だ聞きたい事は後で教えてやるから、家の方にでも行っていてくれ。」
「私も「ここは管轄外だろ? 余計な手出しはしない方が良い。」で、でも…。」
「オレの怪我の事なら心配するなよ。大体、あいつ等の事はオレ達が専門なんだ。それに…何の罪のない人達の命が失われるのだけは…許せないんだよ。」
ヒラヒラと手を振りながら不安そうに言うフェイトを安心させるように告げながら、総麻はライドベンダーを走らせる。
実際にフェイトに心配させない様に火球を受けた痕は気にしない様にしていたが、実際、それはかなり辛い。だが、それでも…総麻の中の欠片ほどの理想は『罪のない命は救うべき命』と告げている。だから、そんな心の告げている言葉に従って総麻は戦い続ける事を選ぶ。
「ふん!!!」
「ッ!?」
突然目の前に現れたヴァトルの振りぬいた腕を総麻はライドベンダーを横に走らせて回避する。
「邪魔を…するな!!!」
「忠告しよう、何も知らずに私のヤミーを倒せば後悔するぞ。」
「後悔?」
ヴァトルはその表情に笑みを浮かべながら、
「私のヤミーは特別でな、人間に寄生しているのではない。…私のヤミーは人間を『核』として存在している訳だ。」
「なんだと…まさか…。」
ヴァトルのその言葉の意味を理解し、驚愕を露にしてしまう。
「私のヤミーは人間を核として存在している。私のヤミーから人間を抜け出したらその瞬間、ヤミーの実態は消え時間を置いて再び復活する。今のお前の力で完全に倒すとすれば、人間諸共殺すしかない。」
「っ!?」
呆然とした表情で思わず足を止めてしまう。グリフォンヤミーを完全に倒すには核となった人を殺すしか無いのだ。
「行け、覚悟した上で人間を殺してみろ。多くを救う為に一を切り捨てろ、人間を殺せ。その経験は戦士としての成長を与えるのではないのか?」
総麻はヴァトルの言葉に答える様にライドベンダーから降り、オーズドライバーを装着する。
「なんのつもりだ?」
「…お前なら知っているんだろう? あのグリードを犠牲者を出さずに倒す方法を!?」
両端にタカメダルとバッタメダルを装填し、トラメダルを取り出しヴァトルを睨みつける。
「…知っていると言ったら…?」
「教えてもらう…その方法を!? 変身!!!」
『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ!♪ タトバ!♪ タッ・トッ・バッ!♪』
オーズドライバーの鳴らす軽快な音楽と共に、仮面ライダーオーズ・タトバコンボへと変身するとメダキャリバーを持ってヴァトルへと切り掛かる。
「ふっ、確かに知っているぞ。確かにお前はまだ望むほどの力は無いだろうが…。だが。」
オーズの振るうメダキャリバーを大きく後に跳んで避けたヴァトルは、目を閉じて一呼吸すると、
「ククク…アーッハッハッハァァァァァァァァァァ!!! 良い言葉だ!!! 良い考えだ!!! 良いだろう、私に勝てたなら教えてやろう。さあ、決闘だ!!! 闘争だ!!! あの時以来満たされなかった私の欲望を…奴に代わって満たしてもらうぞォ…オォォォォォォォォォズ!!!」
それが本来の姿である様に、押さえつけていた物を解放する様に、オーズの言葉に背中の翼を広げ、両腕から爪を伸ばし、牙を剥き、歓喜の…狂喜の笑みを浮かべ、今まで見せていた冷静さを一切感じさせずヴァトルはオーズへと向かっていく。
「グッ!? こいつ…これが本性かよ!?」
メダキャリバーを盾にしてヴァトルの拳を防ぎ、後ろに跳ぶ事で衝撃を殺し、体勢を立て直すと、メダキャリバーに三枚のセルメダルを装填する。
「どうした? 知りたいのではないのか? 戦うのだろう!!! オレをォ!!! この本能を満たせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!! 欲望を満たせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! オォォォォォォォォォォオオズゥ!!!」
「この狂戦士が!!!」
叫びと共に向かうヴァトルと、メダキャリバーを構えて地面を蹴り迎え撃つオーズ。再びぶつかり合うオーズとヴァトル。
ぶつかり合うは強欲なる狂戦士と空虚なる英雄候補。
ヴァトル
闇を司る幻獣系グリード。名前の由来は「バトル(戦い)」。
龍の頭と肩には爪の意匠を持ち全身は鱗に覆われ、不死鳥の翼を持つ。漆黒の炎を放ち、高い腕力と飛行能力と跳躍力を武器にしている。
ヴァトルのヤミーはセルメダルを人間に投与し、人間を取り込む形で誕生する。戦闘行為に関した欲望を持つ人間を選びヤミーに変えている為に純粋に暴れる事で成長する。
冷静で科学技術にも精通し、情報収集も怠らないという知的で冷静な普段の姿と、心から戦いを楽しみ狂気に支配された様に戦う戦闘時の姿を持つ。
『強者と戦うこと』に心から喜びを覚えるが、過去の戦いで心から楽しめて戦えたオーズとは別のライダーと戦ったが、ヴァトルと決着を付ける前に命を落とした為に未だに満たされていない。その為に、オーズである総麻をかつての敵以上に強く冷酷な戦士に成長させる為に行動を起こしている。その為には他の人間だけでなく他のグリード、己のメダルさえも利用する。
標的とした相手には『相手を倒し、相手のメダル諸共奪い返す』と言う意味で己のコアメダルを渡している。
過去の総麻と出会った事から活動時期は他のグリード達よりも早かった様子。