ネタ短編集   作:龍牙

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IS 多重クロスオーバー

インフィニット・ストラトス、通称ISがこの世に生まれ約十年余り、女性しか扱えない、世界各国で500に満たない数しか存在しないと言う致命的な欠陥を抱えながらも現存の兵器を超える性能故に最強の兵器として君臨している中、つい最近初の男性操縦者が発見された。

 

世界初の男性操縦者『織斑一夏』、IS世界大会モンドグロッソ初代優勝者《ブリュンヒルデ》にしてISの開発者『篠ノ之束』の親友である『織斑千冬』の弟。話題に事欠かない立ち位置の人間である。

 

彼に続けとばかりに世界中で行われた検査の末に発見された彼、『天地 大和』はIS学園では無く、新設校のIS操縦学科に入学したと言うわけだ。

 

一部の国々の思惑と、とある大企業の思惑が絡み合った結果生まれた第二のIS学園。男女共学の整備学科と操縦学科に別れた学園であり、開発した新型のデータを多くの国に渡したくないと言う思惑のある国からの代表候補生も受け入れている。現状では二年にブラジルとギリシャ、一年にタイとオランダとカナダの代表候補生が入学している。

 

大和の場合は最大のスポンサーである大企業の日本支社の企業代表として入学した身の上である。そこに保護された事で実験台にされる事なく日々を過ごしている訳である。

 

「ふぁ……」

 

まあ、現在は図書室の机に突っ伏しながら欠伸をしているのであるが。

 

「モンドグロッソ優勝者についてのレポートね」

 

操縦学科の一学期末までの提出課題であるが、どうもどの操縦者を見ても一つの結論にしか辿り着かない大和である。

即ち、『会長やら副会長の方が強い』と。身内贔屓ではなくシュミレーションとはいえ歴代優勝者に対して全勝。織斑千冬に至ってはバトルスタイルの相性が良いのか、既に勝利までの時間のタイムトライアルまでしている始末だ。

 

「取り敢えず、面白みのない初代以外にしておくか」

 

そもそも、開発者の親友と言うのならば世界最初のISである白騎士の操縦者である可能性が最も高い。ってか、僅かな戦闘映像と数多く出回っている千冬の試合記録のいくつかに合致する点も見られる。第二の可能性としては篠ノ之束本人が操縦者と言う可能性だが、其方も高くは無いがあり得る可能性と考えている。

両者とも篠ノ之流と言う剣道が共通点にあり、流派特有の微かな癖が無意識の中で出てしまったと言う可能性である。

 

「白騎士の正体を推測したレポートじゃ無いからな」

 

初代ブリュンヒルデはテーマとしては、レポートの過程で内容が本題から全力で変な方向に離れそうなので最初から選ばないことに決める。

 

 

 

『一年一組の天地大和くん、生徒会長がお呼びです。至急生徒会室にお越しください』

 

 

 

「? 何の用だ、シフォン会長」

 

生徒会長『シフォン・フェアチャイルド』、此処一、二年の経歴しかない謎の人物にして、この学園の生徒会長にして大和と同じ企業の本社の企業代表選手を務めている。

大和の操縦者の師匠にして学園内では織斑千冬を超える最強のブリュンヒルデ候補と名高い。当人はなる気は無いらしいが。

 

繰り返します、と続けられる放送を聞きながらレポートの為のノートを閉じるとさっさと生徒会室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃーい」

 

笑顔で大和を出迎えてくれる生徒会室の主人であるシフォン。そして、大和の分のお茶を用意してくれる緑色の髪の女生徒は、副会長の『キャシー・ロックハート』。

 

シフォンと同じく経歴不明なのが彼女である。シフォンとは知り合いらしいのだが、あまり話したがらないために詳しい事は分からない。大和とシフォンと同じ企業のアメリカ支社の企業代表である。

 

「急に呼び出したりしてごめんなさいね」

 

「いえ、何となく見当がついてますから」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

お茶に口をつけながらシフォンの言葉にそう返す。

 

「IS学園、若しくはIS委員会絡み、ですね?」

 

「ええ、またそうなのよ」

 

夏休み前のこの時期までかなりの頻度でIS委員会絡みの要請があったので、生徒会の手伝いをしている大和もよく分かっている。

 

世界初の男性操縦者である『織斑一夏』のこの時期までの活躍によるところも大きい。

クラス代表として出場したクラス対抗戦では試合中に乱入してきた正体不明のISを試合相手である中国の代表候補生と協力して撃退。

その後のタッグトーナメントではフランスの代表候補生とともにドイツの代表候補生の専用機に組み込まれていたVT(ヴァルキリートレース)システムが暴走した際にこれを鎮圧しドイツの代表候補生を救出。

更にその後に行われた臨海学校では学園側の指揮のもとで暴走した軍用機の暴走を他の代表候補生や篠ノ之束博士製造の世界初の第四世代機を使った篠ノ之束博士の妹と共に迎撃し、その際に世界最短で二次移行(セカンド・シフト)に至った。

と色々と出来すぎている気がするが、イベント毎のトラブルで活躍は事欠かない。

 

それに対して派手な活躍のない大和を人材の乏しい新設校で飼い殺しにするのではなく優秀な教員の揃った名門校IS学園で学ばせるべきという声が強くなっているのだ。

 

「織斑一夏くんの活躍について大和くんはどう思うの?」

 

「御都合主義のヒーローショー」

 

シフォンからの問いを大和はそう率直に返す。

 

「そもそも、アメリカとイスラエルの共同開発の軍用機の一件が怪しい」

 

明らかにアメリカ軍、最低でも自衛隊や日本の国家代表でも引っ張って来て対応させるべき案件だ。

一学生の専用機持ちが対応するのは目を瞑ろう。少なくとも織斑一夏、篠ノ之束の妹は日本国籍なのだから。司令部の教員もまだ良い。

問題は他に対応した代表候補生達、イギリス、ドイツ、中国、フランスの四か国に日本は態々アメリカの軍用機のデータと実戦データをプレゼントしたことになる。

どう考えてもアメリカからの恨みを買っていることだろう。

 

だが、それが篠ノ之束の仕組んだことなら話は変わる。第四世代機である妹へのプレゼントを使った妹が親友の弟共に華々しく初陣を飾る。

本の向こう側、文字として、絵として、側からみればヒーローとヒロインの大活躍とでも言うべきワンシーンだろう。

 

「第二に、クラス代表戦の正体不明機の一件」

 

次に指差すのはIS学園での最初の事件だ。

 

「どの国でも作られていない無人機を使ったと言うこの事件、テロ組織とかも考えられるけど怪しいのは篠ノ之束だろうな」

 

三番目の事件と同様に世界初の男性操縦者が凶悪な武装をした無法なテロリスト……分かりやすい悪者を退治する。正にヒーローの絵姿と言うべき絵だろう。

 

そんな推測が出来るほど一学期の間に起こった織斑一夏の活躍のうち二つに篠ノ之束の影があるのだ。

 

「それで、なんでそんな話を?」

 

「実は、学園間の交流試合が決まっちゃったんです」

 

「は?」

 

シフォンが言うには初の公式的なIS操縦者育成の為の施設同士での交流試合を行い互いの学園の操縦者の実力を見ようと言う建前らしい。

 

ルールは一対一の試合を三回行い勝ち星の多い方の勝利。但し、代表は代表候補生を除く一年生の中から三人選び、一枠は男性操縦者同士の試合とすること。

 

明らかにピンポイントで大和を狙っている。試合に負けたら大和引き抜きに勢い付く、試合に勝っても大和が一夏に負けたらIS学園の指導の方が良いと言ってくるだろう。

要するに今後の平和な学園生活の為には一夏に勝った上でIS学園の代表に勝つ必要があるのだ。

 

「大和くんが企業代表と言う事もあって、企業代表の出場は問題ないんですけど」

 

「シルヴィや美九はコメット姉妹と一緒に海外ツアーの真っ最中、試合の日程より一週間遅れる、か」

 

「ええ、それでこの事を知らせたら、珍しくヤマダちゃんとユキちゃんがやる気になっちゃいました」

 

『てへ』とでと言うような態度で告げるシフォンは年上でありながら可愛らしく感じるのだが、言葉の内容が大和にとっては不安極まりない。

 

世間一般では代表候補生や国家代表はアイドルのような扱いを受ける事も多く、この学園には所属しているカナダの代表候補生のコメット姉妹に至っては現役のアイドルだったりする。

 

現に大和と同じ企業代表の何人かはアイドルや歌手と言った方面で活躍しているものもいる。

シフォンとの会話に出てきたメンバーも其処に分類されているメンバーである。

コメット姉妹がIS学園では無く此方に留学しているのもアイドル活動に理解がある、寧ろバックアップもしてくれているという理由もあったりする。

 

「そう言うわけでお仕事で海外にいるシルヴィアちゃん以外の『四神』チームで登録しておいたから宜しくお願いね」

 

「って、仕方ないけどオレだけ事後承諾!?」

 

「ううっ、だって、他の二人を決めるのに時間がかかったんだもん」

 

『よよよ』と噓泣きをするシフォンを他所に、その状況を鑑みてみる。希望者が少ないと言うわけではない、多くて決まらなかったのだろう。

その為、開発時のコードネームが四神を模した大和達四人の中の参加可能な三人と言う事で決まったわけだ。

 

「分かりましたよ、その事はもう良いです」

 

交流戦の日程を聞くと出されたお茶に口をつける。話している間に冷めたお茶もそれなりに美味しかった。


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