「リミット完全開放」
この日、世界は終わる。世界蛇、世界を飲み込む巨大な怪物。目の前の敵に対してこの時の彼にはそんな認識で十分だった。
三つ巴の戦いの末の結末としては受け入れるしかない。分かり合えなかった結果なのだから。
手元にあるのは五つのブレスレット。SONGの奏者達との戦いで命を落とした仲間達の力の源たるウルトラアクセサリー。
その事を恨む気はもう無い。向こうも同じ数だけ命を落とした。そして、最後の決着を制したのは自分なのだから。
取るべきは最悪の状況の中での最善を掴むための行動。
「レム、次元航行艦『星雲荘』の機能を使ってこの世界からの離脱を」
『了解しました』
身に纏うウルトラスーツTYPE- zeroの通信機から響いてくる電子音を聞いて彼、センカは目の前の敵に挑む。
「力、貸してもらうぜ、みんな!」
この世界はもうダメでも、一つでも多くの世界を救う為に。
『ティガレット』
『ダイナレット』
『ガイアレット』
『アグルレット』
『メビウスレット』
五つのウルトラアクセサリーの力を自身の力に上乗せする。
『ゼロレット』
「リミット完全開放。コード、ウルトラ、ダイナマイト!」
『メビウスレット』のデータの中に有った技のデータから各スーツに装備された最終兵装。
正真正銘の全身全霊の一撃が世界を喰らう怪物を吹き飛ばす。
自分の世界の事は既に諦めているが、他の世界までも犠牲にはさせない。そんな意思を命を落とした仲間達の力も上乗せして、その技を放つ。
地上に新たな太陽が出現する様を幻視させる一撃を最後にセンカはその意識を手放すのだった。
『センカ、治療完了しました』
スピーカーから流れる合成音声。それを聞いてセンカの意識は覚醒する。視界に入るのは自分達の……今は自分しか居ない家である艦の見慣れた天井。
「っ……。レム、あの蛇野郎はどうなった?」
治療ポットの中から這い出しながら、彼『如月 センカ』は次元航行艦『星雲荘』の管理AIのレムへとそう問いかける。
『ウルトラダイナマイトによってダメージは与え一時追い返したものの世界蛇は健在です』
「そうか」
『その間に貴方を無事に回収できました。貴方の所有しているウルトラアクセサリーにも欠損は有りません。ですが』
「奴に奪われた分は欠損している、か?」
『その通りです。次に、スーツの方は予備パーツを組み直し新造は完了しました。物資が不足しているので早急な補給が必要です』
「そうか。……ところで何か視界が少し低く無いか?」
『それでしたら、ポットでの大規模な治療の際に何故か数年ですが肉体年齢も若返っています。このポットで治療すると若返るバグが確認されているのは貴方だけですよ』
「言うなよ」
そう言う体質なのだろうと無理矢理納得して置くことにする。
自分自身を爆弾にする大技を使って命が助かったのだからそれだけで十分だ。
『ですが注意してください。あなたの場合は他の方達と違い限界があるのです』
「分かってる」
治療ごとに若返るのならば限界を超えたら治療できない危険性もある。あまり多用出来ないと言うことだろう。
「それで此処が?」
『はい。元の世界で回収したブレスレットのエネルギーと同質の物を観測された並行世界です』
「そうか」
モニターに映る地球を見下ろしながらセンカはそう呟く。
『最優先で回収すべきブレスレットのエネルギー反応は既に確認しています』
地球の映像の一部が拡大される。手持ちのブレスレットの一つである『セブンレット』と同質のエネルギー反応が確認された場所。
『バルベルデ共和国にてブラザーズレットの一つのエネルギー反応が確認されました』
バルベルデ共和国。それが偶然なのかは分からないが、自分達の世界に於いて『奴』に奪われた『ギンガレット』の所在地でもあった場所だ。
『なお、軍から物資の補給と活動資金の確保も可能です』
「サラリと強盗を推奨して無いか、お前?」
『センカ、悪人に人権は有りません』
このAI、なんか妙な方向に人間味が出ている気がしてきたセンカだった。
『この世界の当面の活動資金の確保も並行してお願いします。私の方でも風鳴訃堂の銀行口座から生活費を盗む手筈を整えておきます』
「頼む」
『お任せください、バルベルデの軍に罪は着せておきます』
なお、センカとAIの間で当然の流れで風鳴訃堂からの盗みは確定した。これから襲撃する相手に全部罪を着せた上で。
それはほんの偶然だった。偶々活動資金と物資の強奪と……目的だった『ウルトラマンレット』の確保。それが全部軍の所に有ったから襲撃しただけだ。
そこにノイズが出現したからついでとばかりに基地の壊滅と並行して殲滅した、それだけだった。(軍人の人的被害は考慮していない)
自分を見上げる様に見つめている銀色の髪の少女との出会いは偶然だった。
見捨てる事は簡単だ。
自分達の世界と同じ流れを辿りながらも、この並行世界は過去の時間軸に当たると言う事も今理解した。見捨てた所で目の前の少女は自分が見捨てた所で助かるのだから、放置した所で罪悪感は感じないで済む。
「一緒に、来るか?」
だが、そう言って手を差し伸べる。
センカには彼女を見捨てる事は出来なかった。
そんなセンカの手を彼女も戸惑いながらも取る。
これがセンカと『雪音 クリス』の出会いだった。
また、別の場所、別の時間では……
「大丈夫かい、立花響ちゃん」
腕から伸ばした光の刃で彼女を襲っていた怪物の首を刎ねた仮面の男は彼女へとそう告げる。
首を刎ねた怪物の体に腕を差し込み、指輪の様なものを回収するとそのまま遠ざける様に怪物の体を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた怪物の体は爆散するが、まだ周囲には多くの怪物がいる。
男と少女の周りにはまだ多くの怪物達がいる。彼女の家族を殺した怪物達が。
だが、仮面の男はそんな怪物達など存在しない様に言葉を続けていく。
「僕はトレギア。ウルトラマンTYPE-トレギア。君を、助けに来たよ」
機械にも生物にも似た青いスーツを纏った男はそう言って彼女へと手を差し伸べる。
この日、全てを失った少女『立花響』は……タチの悪い仮面の不審者と出会った。
こうして二人の少女の運命が変わった瞬間から物語は始まる。