篠ノ之束が開発したマルチフォームパワードスーツ、『インフィニット・ストラトス』が開発され、その欠陥により女尊男卑思想の世界の中……………になることは無かった。
1人の正体不明、国籍不明の科学者の手によって齎された各国一つずつの、新たなISコアと通常兵器でISを迎撃可能とする革新的な技術。それによりISの有用性は大きく後退していった。
『オルガン・シンフォニー』
そう名乗った科学者に対する興味は世界中で高いが、その正体を掴むことはできず、唯一分かったことは女性であると言う事だけであった。
多くの国や企業が彼女を見つけ出そうとしたが、誰一人彼女を直接見た者は居なかった。
彼女のもたらした技術をISに応用する度に新たな技術を提供して、世界のバランスを保つかのような行動から『調和の女神』と謳われた彼女の真の目的が明らかになったのは、織斑一夏が高校受験の試験会場を間違えISに触れてしまった事で世界初の男性操縦者となってから数日後、全国で実施された検査の中でただ一人起動させた第二の男性操縦者『馬場 雷夢』の発見された時だった。
白騎士事件の発生に前後するように両親が失踪した事に始まり、織斑 一夏が世界初の男性操縦者として確認される一年前にオルガン・シンフォニーのラボに連れられ真の意味での世界初の男性操縦者となり、世界で初めて彼女と直接会合した人間になったり、オルガン製の専用機を渡されたり、戦闘訓練を受けさせられたりと、一つ一つ上げていくと濃密すぎる人生を送ってきたと思う。
白騎士事件に前後した事で、行方不明の両親が白騎士事件の被害者と思われた為に、“何一つ関係無い”事件の被害者と誤認した政府から口止め料を半ば騙し取る羽目になり、更に政府からの監視の意味合いもある形で更識家の当主が後見人になってくれた。
特に両親の失踪の真実を知っている身の上としては、事件のもみ消しを図る政府に対して恨みを抱くどころか、大金騙し取った申し訳なさしか沸かなかった。そもそも、居なくなる前に両親から事情は聞いているのだし。
まあ、結果的に更識の当主の娘2人と仲良くなれたのは良かった。
そして、現在では、
「はぁ!」
現行のISとは違う全身装甲の白いISの振るう剣によって切り裂かれた敵が消えていく。データで編まれた相手なので残骸が残らない為に動きを阻害することはない。
最早芸術品と呼べる域まで作り上げられた美しい造形と、現行のISを遥かに超えた性能を誇る雷夢専用機『カイゼルファイヤー』。
彼女の、オルガン・シンフォニーの望んだ勇者の為の器。
かつては敗北するために用意されたそれを再設計し直した物。
そして、それを纏うのは、自分と同じ世界からの漂流者より生まれた少年。
彼女の望む勇者と似た風貌をした彼の姿に歓喜の情を覚える。
この世界の歪さは少しでも修正しなければならない。
彼の為に、
この世界のラムネスとして戦い抜く為に。
この世界には相応しい敵がいる。
ファントムタスクと篠ノ之束と言う彼と戦うべき悪しき者が。
形は違えど、彼女の望んだ勇者の姿と状況に少しずつ近づく事に喜ばずには居られない。
訓練を終えた雷夢に近づき、タオルを渡す己の思いを受け継いだ少女の後継機との仲の良さに笑顔を浮かべる。
彼の側にいるのは己では無いが、すぐ近くにはこの世界の己と言うべき者がいてくれた。遺伝子の完全な一致など、別世界でもそうは起こらないだろう。それが起こり、この世界のラムネスの近くにいると言う奇跡に喜ばずには居られないのだ。
愛しい者の名を呟く彼女の表情には歓喜に満ちた笑顔が、その瞳から流れるのは自分が知る彼ともう二度と会えないという悲しみの涙が浮かんでいた。