その日、ちょっとだけ背伸びをして母さんを手伝おうとドアを開き、俺は肩を刺された。それは命にこそ影響はなかったが、四歳児にしては深い傷だった。
引っ越したばかりの新居。
今日はいよいよ、母さん達『B小町』のドームライブの日。
「ママぁ……なでなでしてぇ」
目を擦りながら母さんにしだれかかっているルビー。
昨日は興奮で眠れなかったのか、我が妹よ。まあ、母さんのアンチとのリプ合戦でもしてたんだろう。
「んー、よしよし」
母さんはSNSの更新を中断して、ゆっくりとルビーの頭を撫でる。
「ルビー眠いの?」
「うん……」
「ちょっと寝よっか?」
「でも、ママのドーム……」
「ルビーたちが出掛けるまで少し時間あるし、大丈夫だよ。むしろ今寝ないと本番で寝ちゃうよ?」
「……じゃあ寝る、ママベッドいこ……」
「はいはい」
母さんはルビーを抱き上げてベッドに向かう。
本当に今日がドームライブ当日なのか、と疑うくらいいつも通りの一コマだ。いや、案外特別な日とはいえ、こんな物なのかも知れない。
アクア兄さんもいつも通り文庫本片手に時間を潰している。俺もガンマモンと遊んでいると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「社長たちかな? アクア、クリス、代わりに出てくれない?」
「いいよ、でも僕達が出て大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ルビー寝かせたら準備するって言っておいて」
「うん、わかった」
「なら、俺が行くよ。行こう、ガンマモン」
「うん」
ガンマモンに手伝ってもらえる自分が行った方が良いと思って、ガンマモンを連れてリビングを出て玄関に向かう。
ちょっと背伸びをして、自分の身長くらいのドアノブを捻る。手が届かなかったらガンマモンに支えて貰おうと思ったが、大丈夫みたいだ。
「すみません社長、今ママはルビーを寝かせてる途中で……」
そこにいたのは、フードを深くかぶった男だった。
「アイじゃないのか……でもまあ」
男が持っている白い花束。身長差で下から見えたその中が、キラリと光ったのが見えた。
フードの男が気味の悪い笑みを浮かべた。
「ちょうどいい」
背筋にぞっと寒気を感じたその時には、男が花束を突き出していた。
「……えっ?」
肩口にチリッとした感覚。
何事かと上げていた目線を下げると、そこには深々とナイフが刺さっていた。
それを認識した瞬間、猛烈な痛みが襲ってきた。
「ああああああああ!」
痛い、痛い、痛い。
頭の中が痛いで埋め尽くされるくらい痛い。嫌でも思い出してしまう、あの時の事を。
「クリス!」
倒れそうになる瞬間、ガンマモンの目が憎悪で黒く染まるのが見える。次の瞬間、衝撃音と共に男は吹き飛んでいた。
痛みで冴える意識の中で、当然そうなるな、と変に冷めた事を考えてしまっていた。……相手、死んで無いよな? 時々ピクピクと動いてるし、その辺は問題なさそうだ。怪我については生きてるだけ良いと思ってもらおう。……最低でも自動車に事故を起こされた程度にはなるだろうが。
と言うよりもガンマモンがアイツに追撃をかけそうにしているのを止めないと……。そう思いながらガンマモンを
「……キャ…キャプチャー……」
ガンマモンをデジヴァイスの中に収納する。ガンマモンがあいつを殺してしまうのだけは、避けれる。危険? いや、自動車事故レベルの衝撃を受けて、あの様子だから、寧ろ相手の命が心配になる。
「クリス、どうしたんだ? ……クリス!?」
アクア兄さんが騒ぎに気がついたみたいだ。アクア兄さんの声が聞こえてくる。
「……ドア……鍵…閉めて……警察と…医者を……」
ガンマモンのパワーを考えると骨の一本や二本は折れてるだろうから暫くは動けないだろうけど、まだ危ない事に変わりはない。……うん、骨で済んでれば良いな。
「どうしたの、クリス、アクア? ……クリス!」
俺は俺の名前を叫ぶアクア兄さんと母さん、それからデジヴァイスの中のガンマモンの声を聞きながら意識を失って行く。
目を覚まして、改めて考えると子供だからこそ、ホント大怪我で済んだのだと思う。腹部とか心臓とかを避けれた様な物だし。
病院で意識を取り戻した時、母さんやアクア兄さん、ルビー、駆け付けていた佐藤社長やミヤコさんと大騒ぎになったのは覚えている。
え? 犯人? 俺と一緒にいたガンマモンにぶっ飛ばされて気絶してから、通報された警察に逮捕された。……いや、戦闘できる段階で一番弱い成長期の状態でも、相手はデジモンだからね。まあ、犯人が大怪我して病院に搬送されたことに警察も疑問を持っていたが。
ルビーが偶に抱き枕にしてたり、母さんがぬいぐるみ感覚で抱きしめたりしているけど、ガンマモンは成長期のデジモン。成人男性一人がナイフ持ってる程度で勝てるわけがない。
そんな訳で、意識を取り戻した俺は、母さんをドームライブに送り出し、俺が入院している間に母さん達のドームライブは大成功。
その後はどうも、逮捕された犯人の裏に黒幕らしき人物の存在があり、その事件に興味を持ったサイコパス探偵一家工藤家の小説家の父親が黒幕の余罪を暴き、カミキヒカルと言う人物が殺人罪で逮捕されたそうだ。
どうも、真相は単純に、怒りに染まったガンマモンがぶん殴ったと言う事件だが、デジモンの存在を知らない事で、明らかに子供の力では不可能な状況になんらかのトリックがあると考えて捜査に参加したらしい。
だが、事件そのものはその裏に居る黒幕とその黒幕の余罪を暴く形で解決したものの、ストーカーに大怪我を与えた手段は分からずに終わり、工藤優作は初めての敗北を味わったらしい。
真相を知る側の俺からしてみれば、勝手に迷走しているだけだったが。
……その後は母さんがその事件の報道を見て驚いて動揺していた。
社長から「知り合いか?」と問われて「元カレ」と答える母の姿に何となく察してしまった。
後にその事をアクア兄さんやルビーと頭を突き合わせて話していたら、カミキなる人物が俺達の父親であるのだろうと言う結論に至った。
その中でアクア兄さんの前世がその事件の被害者の一人で、俺たちの出産前にカミキに殺されたゴローと言う医師で、ルビーの前世がゴローと言う人物が勤めていた病院で亡くなったさりなと言う女の子だと知った。
……その後は母さんにべったりだったルビーがアクア兄さんにべったりする様になって、母さんが寂しそうにしていたのが、印象的だった。
代わりに俺に対してちょっと過保護になったけど、其処はガンマモンにも押し付けた。
その後は母さん達B小町の活動は順風満帆……とはならなかった。徐々にB小町と言う単位から母さん、「星野アイ」一人の活動が増えて行った事だ。
まあ、元々B小町は母さんを中心としたグループ。星野アイとその引き立て役と言うべきグループ。アイドルから女優へと活動の形が変わる事と同時に解散となった。
後に復活するかも知れないが、それはそれだろう。
そんな訳で今まで通り家族四人とガンマモン(あと社長夫妻)で仲良く過ごす中、小学五年生に進学した夏休みのある日、母さんのお台場での仕事の際に事件が起こった。
霧に包まれるお台場、現れるデジモン達。小学五年に進学していた俺はガンマモンと共に母さんやミヤコさんに兄さん達を守る為に一人囮になってデジモン達に戦いを挑んだのだった。
あいつらの言葉を考えると明らかに俺も狙いの一人の様子だし。
メタルファントモンとファントモンの率いるバケモン達を相手に戦いながら逃げる中、俺は同じ様にお台場に来ていた有馬かなと再会して、メタルファントモンに何処かに連れて行かれる途中の彼女を助けた。
そんな俺達の前に現れる強敵、ダークナイトモンに追い詰められる俺とカノーヴァイスモンだったが、駆けつけてくれた八神太一と石田ヤマトの二人と力を合わせて、ダークナイトモンとその騎乗竜ダークメイルドラモンを撃破。だが、ダークナイトモンからスカルナイトモンに退化した奴は助けに来たデビモンと共に逃走した。
戦いの音を聞いて俺達のところに来たアクア兄さんとルビー。そして、泉光子郎とカブテリモン。
此処に向かう途中で兄さん達と出会った光子郎の話で、同じく無事な大人達に安全地帯を作って隠れてもらっていると言う話を聞いて、アクア兄さんとルビーにかなを任せて、その場所を母さんとミヤコさんに伝えてもらい、一緒に避難してもらう間に、俺は太一達と共に逃げたスカルナイトモンとデビモンを追った。
途中、他の三人の仲間、城戸丈とゴマモン、竹之内空とピヨモン、太刀川ミミとパルモンの三人と三匹と合流し、ヤマトの弟の高石タケルと太一の妹の八神ヒカリが攫われたと聞いた。
今回の事件と、後に知った事だが、以前俺にセフィロトモンを送り込んだ黒幕であるヴァンデモンが待つ屋上に乗り込んだ俺たちは、捕らえたタケルくんとヒカリちゃんの力でより強大な姿のダークナイトモンと新たに進化したネオデビモンとの戦いに突入する。
俺のカノーヴァイスモン、太一のメタルグレイモン、空のガルダモン、光子郎のアトラーカブテリモンがダークナイトモンと、
ヤマトのワーガルルモン、丈先輩のズドモン、太刀川ミミのリリモンがネオデビモンとの激闘を開始する。
死闘の中で二体のデジモンが聖なるデジモンの成長期のパタモンとプロットモンに退化し、タケルくんとヒカリちゃんを助ける事に成功して、そのまま黒幕であるヴァンデモンとの決戦に突入する。
強敵との連戦のダメージもあり、ヴァンデモンに追い詰められる中、パタモンとプロットモンが聖なる力を覚醒させ一時的にその姿を完全体のホーリーエンジェモンとエンジェウーモンへと進化させたのだった。
二体の聖なるデジモンの力に、九人の力を合わせヴァンデモンを撃破しても、まだ霧は晴れなかった。