ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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遅くなってごめんちゃい☆
そして感想等ありがとうございます。めっちゃ励みになってます!

今回は主人公視点無しです。


追放…だと…!?

「那由他サンの斬魄刀の能力が分かりました」

 

 

 ()()()は町外れの工場跡地に来ています。

 

 ここは藍染サンの手によって虚として断罪された元護廷の隊長格が身を潜めている場所です。

 

 

「……それで? その能力ってのはなんやねん」

 

 

 代表して平子サンが口を開きました。

 その顔は苦虫を噛み潰したように渋いです。

 

「光の操作です。鬼道系に属するでしょうが、あまりに珍しい能力なので正確な分類は難しいですね」

「そか」

 

 簡単な答え。

 

 珍しいだけでなく非常に強力な能力ですが、それでも皆の反応は淡泊です。

 

 それも当然でしょう。

 

 約80年前、私たちは尸魂界を追われました。

 その際にアタシたちと共に藍染サンに立ち向かった那由他サンは、今でも護廷の死神として活躍しています。しかも、七番隊の隊長として。

 

 それは良いのですが、藍染サンも同じように五番隊の隊長に就任したのが皆の顔を曇らせている理由でした。

 

 

 つまり、藍染サンの犯行を黙認してるってことッスね。

 

 

「那由他は結局、ウチらを売ったってことかいな」

 

 ひよ里サンが苛立たし気に言葉を発しました。

 彼女は護廷にいた頃、那由他サンと仲が良かったですからね。

 未だに信じられないのかもしれません。

 

「その話は何回もしただろ? いい加減割り切れって」

 

 愛川さんがため息交じりに応えます。

 

「せやけど、あたしかて信じられへんわ。エロ本貸し合った仲やのに」

「おまっ、那由他に又貸ししてたのかよ!?」

「ツッコミどこそこか?」

 

 矢胴丸サンの言葉で驚愕する愛川サンに六車サンの冷静な指摘が入ります。

 

「那由他ちゃんも興味津々やったで?」

「意外すぎる……」

 

「んな話はどーでもええねん」

 

 平子サンの一声で、再び場は静寂に包まれました。

 

「那由他は藍染とつるんどる。それが分かれば十分や」

「今では藍染隊長、デスからね……」

「元から藍染側なのか。兄貴を捨てきれなかったのか。まあ、俺は後者だと思いてぇなぁ」

「あのバカ野郎め……」

「野郎ちゃうやろ」

「リサは黙ろうな」

「じゃあ、私たちが仲良かったのも演技?」

「あの音色で演技だったら、これは僕のセンスも鈍ったのかな」

「鏡花水月ちゃうん?」

「それは()()()()()って話し合っただろ?」

 

「だぁぁっぁああ! うっさいわボケ! ウチが那由他をぶっ飛ばしたる!!」

 

 皆の会話にひよ里サンの堪忍袋の緒が切れました。

 

 

 それもこれも、未だに皆さんが那由他サンの事を割り切れていない、というのがあります。

 

 

 藍染サンは優しく柔和な笑顔が印象的な人格者として有名でしたが、隊長格として何度も会う度に皆さんは思っていたんです。

 

 ──この人、本当は笑ってないのでは? 

 

 それは小さな違和感ッス。

 護廷の仲間を疑うのも罪悪感がありましたが、何か一線を引いてるように彼がアタシたちと距離を詰める事はありませんでした。

 特に平子サンが顕著でしたね。

 

 人と一定の距離を取る、というのも人の性格がありますが、あの藍染サンがそのような態度を取る事に感じた直感は誤魔化せなかったものです。

 

 今思えば、恐らく鏡花水月の隠蔽でしょうね。

 五感を騙せても何が切っ掛けで気付くか分からない。

 用意周到で誰にも気付かれぬよう物事を進めていた藍染サンだからこそ、他人に近づきすぎないようにしていたのでしょう。

 そして、自らに心酔させ疑う余地を奪っていく。

 

 その用心深さがアタシたちの違和感となって、藍染サンからの排除対象へとなったようですが。

 

 

 何より、彼は那由他サンのために動いています。

 

 

 その溺愛ぶりは護廷でも有名でしたからね。

 

 十番隊の一心さんが告白した時は離れたところから見守り、その後は十番隊舎へ()()()にまで行ったそうですから。

 ファンクラブも藍染サンが公認した範囲でしたし、隊士の間で『鉄の掟』なんてものを徹底させていたそうです。

 告白厳禁、自身からの身体的接触の禁止、ご飯は常にツーマンセルで誘う、などなど……。

 

 

 いやぁ、立派なシスコンッスね! 

 

 

 これに気付いていなかった那由他サンも那由他サンで凄まじい鈍さですが……。

 

 まあ、だからこそ彼の行動理由も分かるのです。

 

 そこまで追い詰められていた。

 どんな非情な手段であろうと、彼女を必ず救ってみせるという強い意思を感じます。

 

 その被害に遭ったアタシたちでも、藍染サンに業を煮やしながら納得はしてしまえているのですから。

 

 だからこその距離感だったのかと、今ならば考えられるのです。

 

 

 しかし、那由他サンは違います。

 

 

 彼女はむしろこちらへ積極的に関わろうとしていました。

 

 まるで怖がらせてないか、不快感を与えていないか。

 野良猫に近づく猫好きみたいでしたね。

 

 皆に好かれるように、皆を大切にしたいという感情が近くにいるだけで分かりました。

 

 自分の顔も気にしているのでしょう。

 出来る限りの事をして皆との関係構築に奮闘する彼女の姿は微笑ましいものでした。

 

 そういった行動の端々に出る感情のようなものを、皆はいつの間にか察知できるようになっていたのです。

 

 藍染サンが必要最小限の行動で最上の結果を出すのだとしたら、那由他サンは必要以上の準備と労力をかけて最上の結果を出している感じでしょうか。

 

 だからこそ、その姿勢をアタシたちは好ましく思っていました。

 

 

 そして、あの運命の晩。

 

 彼女は藍染サンに立ち向かっていました。

 

 あの時の顔を、アタシは忘れる事が出来ません。

 

 普段以上に怯え、どうすれば良いか分からない。親に捨てられないよう、必死に縋りつく子供のような顔でした。

 無表情だとしても長年の付き合いです。それくらいは分かります。

 

 当時、気を失っていた他の皆さんも後に話に聞いただけで悲痛な表情を浮かべていました。

 

 現世へ逃げる際には夜一サンのおかげで何とかなりましたが、那由他サンだけは藍染サンの手によって阻まれました。

 他の方々は良いけれど、那由他サンは彼にとっても特別なのでしょう。当たり前ですね。

 

 夜一サンも「藍染は許せん。しかし、那由他が藍染の側を選んだ理由も……分からんでもない」と言っていました。

 那由他サンを奪い取られた際に何か感じるものでもあったのでしょう。

 

 尊敬していた兄が非道に手を染めていた。

 それも、自分のせいで。

 

 心優しい彼女の事です。

 そんな兄を自分から切り捨てる事など出来なくても仕方ないと言えましょう。

 

 

 

 ──最悪の展開としては、アタシたちの知っている那由他サンなど存在せず全てが鏡花水月による幻だった、という場合です。

 

 

 

 しかし、これはないだろうとアタシたちは結論付けていました。

 

 

 何故ならば、藍染サンが那由他サンを説得できるとは思えないからです。

 

 

 鏡花水月を他人に使う場合、幻を作り出す本人の協力が必要不可欠です。

 何せ、同じ人物が二人いる状態になる訳ですからね。

 

 そして、藍染サンが鏡花水月を会得しアタシたちに披露したのは護廷に入ってから。

 それまでの那由他サンが本物であるのは確実です。

 

 更に言えば、那由他サンは随分と多忙でした。

 

 休暇という名の世話日、なんて隊士たちの間で囁かれていたくらい皆の世話を焼きたがる子でした。

 

 藍染サンも強制的に言う事を聞かせるタイプではありません。

 

 非情であり外道であろうと、そこには一種の美学が存在し、彼の矜持によって行動が決められている。

 アタシはそう感じています。

 何より、あそこまで大切にしていた妹を無理矢理従えるとも思えませんし。

 

 

 そして大きな疑問点として、あのタイミングで那由他サンを仕向けてくる理由がないのです。

 

 

 藍染サンが那由他サンの魂魄を改善させるために虚化の研究をしていたのは分かります。アタシもそうですし。

 しかし、アタシたちの前で見せつけるように虚化させたのは疑問が残るのです。

 

 あの流れならば、アタシたちが那由他サンと一緒に現世へ逃げようとする事は想定できたはず。

 あのタイミングでは、アタシたちは那由他サンを全面的に信じていました。だからこそ一緒に現世に逃げようとしました。

 にも関わらず、那由他サンは護廷の死神のまま。

 わざわざアタシたちが那由他サンを奪還する事を藍染サン自らが阻止しています。

 阻止するのであれば何故、あの時に虚化を? 

 アタシの崩玉すら用いずに安定化できるのならば、後でやれば良かった話です。

 

 藍染サンなら、そのままアタシたちと共に現世へ向かわせてスパイのように那由他サンを使っていても可笑しくありません。

 

 藍染サンが完全催眠を自慢気に語っていたのは平子サンが聞いています。

 それなら那由他サンの姿も鏡花水月を使っていたと考えるのが普通ですが、先の理由以外にも虚化に耐えられる人物は隊長格以上の霊圧を持つ人ですから、あの場にいたのは那由他サン本人だと考えられます。

 

 次に那由他サンをわざわざアタシと一緒に行動させた事。

 

 これはアタシの油断を誘い、最終的には崩玉を奪うためでしょう。

 けれども、那由他サンはそれすらも出来ないボロボロな状態でアタシの前へと現れました。

 結局彼女はアタシたちが逃げだすまで昏睡状態であり、崩玉を奪うどころか動くことさえ出来ていません。

 

 そんなミス、藍染サンがするでしょうか? 

 

 そして、アタシにこれら疑問を残している点も気になります。

 

 

 ──まるで、那由他サンを溺愛するあまり、彼女が好き勝手動くのを藍染サンがフォローしているようです。

 

 

 結果的に、アタシたちは那由他サンを疑いきれていません。

 

 それすらも藍染サンの策略だとすれば、これは大変に厄介な問題ッスね。

 

 ただ、一番厄介なのが、

 

 

 

「ああ、それと。那由他サン、殺されたらしいですよ?」

 

 

 

「「「は?」」」

 

 

 皆さんの声が綺麗にハモリました。

 結構気持ちが良いっすね。

 

「ちょ、ちょい待ちぃ! なんで藍染がそないな事許すねん!?」

 

「藍染サンも拘束されたみたいッスよ? 一時的な措置らしいですけど」

 

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 

 もう一度ハモリましたね。

 ちょっと面白いッス。

 

「ど、どういう事や!? 一から説明せい!」

「分かってますよぉ」

「な、何が何やら……」

「ちゃんと説明するッスよー」

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

「零番隊より藍染那由他を虚として処理せよ、との命が下った」

 

 

「なっ、待って頂きたい!?」

 

 私は総隊長の言葉にすぐさま反論した。

 

「り、理由を! 理由をお聞かせ願いたいっ!!」

 

 総隊長の表情は真剣そのもの。

 当たり前だろう。

 この場に呼ばれている隊長たちも皆が表情を強張らせている。

 

 私──砕蜂もその一人だ。

 

「……虚の力を持ちつつも制御を行えていた藍染那由他に虚化の影響が見られた。先の事件によって更に虚を身に宿した彼奴を、これ以上は容認出来ん」

 

「これまでの彼女の功績を無視してもですかっ!!」

 

 咆える。

 

 しかし、これまでではなくこれからの話をしているのだ。

 些か頭に血が上っていると言えよう。

 

 分かっている。

 

 分かっているが……! 

 

 

「無論じゃ」

 

 

 総隊長の言葉に言葉を無くす。

 拳を強く握りしめながらも一歩踏み出した足を元に戻した。

 

 ただし、この決定には疑問点が尽きない。

 

 何故今頃になって? 

 あの事件は数年前の話だ。

 今では那由他姉様も通常業務に戻っておられる。

 なにより、そこまでの変化は……た、確かに少し直情的になった気はするが。

 

 

 そもそも、零番隊が動くほどの案件だろうか? 

 

 

 少々きな臭い。

 

 これは虚化云々ではなく、那由他姉さま本人に零番隊が動くほどの理由があると考えられるだろう。

 

 私は忘れていない。

 

 80年前、忠誠を誓っていた夜一様が尸魂界に反旗を翻し罪人として逃げていった事を。

 

 また繰り返すと言うのか? 

 

 あの絶望を、もう一度味わえと言うのか? 

 

 そんなもの、私が絶対に認めないっ! 

 

 

 

『砕蜂』

『那由他姉様……』

 

 あの時、悲嘆に暮れ、自身がどちらへ進めば良いかも分からなかった頃。

 

 私は那由他姉様と共に在った。

 

 あの人は口が上手くない。

 だから、ただ側にいて頭を撫でてくれただけだ。

 

 普段からよく共にするが、その時も基本的には私が一方的に喋るだけだった。

 それでも、那由他姉様は慈しむような顔で私を見つめ可憐に首をコクコクと振り相槌を打ってくれる。

 

 いつもの無表情。

 それを馬鹿にする者も、感情が薄いと考えるものもいない。

 ただ表現を上手く出来ないだけなのだ。

 

 だからこそ、その動かぬ口元よりも、彼女の目がものを言う。

 

 常に他者を慮る目だ。

 

 この世の全てを愛し、抱きしめられるかのような、優しい目だ。

 

 

『私がいます』

 

 

 あの時の言葉が、私を立ち直らせたと言っても過言ではない。

 

 ああ、私にはまだこの人がいる。

 

 私をいつも可愛がってくれ、私は常にその大きな背中に寄り掛かっていた。

 

 ──那由他姉様の支えに私もなろう。

 

 そう、素直に思えた。

 

 そして、もしかしたらこの時。

 

 

 私は那由他姉様を愛してしまったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 その那由他姉様が虚として処されるだと? 

 

 

 馬鹿も休み休み言えっ!! 

 

 

「……俺もその命には違和感を覚えます」

 

 言葉を零したのは十三番隊の浮竹だった。

 

「彼女は隊士皆のためを想って行動しています。身に虚を宿しているのは確かですが、その制御にも成功していたはずです。何故今更になって」

 

 

「控えよ、浮竹」

 

 

 総隊長の重い一言が場を支配した。

 

「これは王族特務案件に匹敵する。我らに逆らうという選択肢は、最早ない」

 

 その言葉だけで察した。

 察せざるを得ない。

 

 ──総隊長も、苦慮の末判断したのだという事を。

 

 あの人に目をかけていたのは総隊長も同じだ。

 

 それが虚と判断される。

 きっと何か救う道はないかと探した事だろう。

 側に立つ雀部も黙して伏している。

 その心中を慮っているのだろう。

 

「反抗の余地ありとして、既に兄の藍染惣右介は拘束済み。この場での決定に異議を唱える者は同じ処罰を受けると肝に銘じよ」

 

 無理もない。

 

 奴の溺愛っぷりは誰でも知っている事だ。当然の処置だろう。

 

 歯を食いしばる。

 

 こんな事が、あって良いのか? 

 

 

「失礼します!」

 

 

「何事じゃ!」

 

 隊首会に飛び込んで来たのは見知らぬ顔。

 恐らく一番隊の者だろう。

 

 しかし、この場に口を挟むなどよっぽどの事態だ。

 

 

 ──まさかっ!? 

 

 

「藍染那由他七番隊隊長が逃亡! 現在は瀞霊廷を出て流魂街におり、取り押さえに向かった者多数が無力化されております!!」

 

 

「……死した者は?」

「おりません! すべて縛道による拘束です!」

「……そうか」

 

 なんという、事だ……。

 

 那由他姉様……。

 

 那由他姉様。

 

 那由他姉様っ。

 

 

 那由他姉様っ! 

 

 

「待て、砕蜂!」

 

 誰かの声が聞こえる。

 

 そのような雑事に気を取られる暇はない。

 

 せめて一目。

 

 あの人をこの目で見なければ、悔やんでも悔やみきれないっ! 

 

 

 

 

「那由他姉様っ!」

 

 追い付いた。

 追い付けた。

 

 その人は斬魄刀を抜くこともなく、ただ苦し気な顔で周囲の人を優しく地面へと抱き下ろしていた。

 

 那由他姉様が、表情を変えているなんて……。

 

 私でも数回しか見たことのないものだ。

 それほどの苦痛なのだ。

 この人の心が悲鳴を上げているのだ。

 

 私に続いて続々と隊長格が集まる。

 

 しかし、言葉を発する者はいない。

 

 それはそうだろう。

 

 この光景を見るだけで分かる。

 

 何故、この人を虚として断じなければならない? 

 

 

 誰よりも清らかで、優しく、高潔な心を持つこの方を、どうして斬り捨てる事ができようかっ!? 

 

 

「京楽っ!」

「ここで睨めっこしててもしょうがないでしょ」

「それは、そうだがっ!」

 

 八番隊の京楽春水が斬魄刀を抜いた。

 

 普段はふざけた態度ばかり取る奴だが、その実力は確かである。

 

 如何に那由他姉様と言えど、縛道のみで立ち向かえる相手ではない。

 

 どうする。私はどうすれば良い。

 

 頭の整理が追い付かない。

 混乱してグチャグチャだ。

 

 ただ、私はこの人を救いたいのだ。

 

 共に歩んでいきたいのだ。

 

 それだけ、なのに……っ! 

 

「逃げ場はないよ。というより、どこへ逃げようとしてるの?」

「皆さまに迷惑はかけません」

「うーん、現状かかってるんだよね~」

「……申し訳ありません」

「謝られちゃったよ。どうしようかね、これ」

 

 京楽は飄々と声をかける。

 那由他姉様はいつもと変わらぬ平坦な声だ。

 

 だが、その声には後悔の念がこれでもかと込められていた。

 

 

「……私が虚となれば、刃を向けやすいですか」

 

 

 え? 

 

 今、この人は何と言ったのだ? 

 

 虚となれば? 

 

 そんな、自ら罪を被ると言うのか……? 

 

(けい)を虚にはさせぬ」

 

 声は朽木白哉のものだった。

 

「せめて、死神として裁こう。零番隊に、渡しはせぬ……!」

 

 その信念に、幾人かの者が斬魄刀を抜いた。

 

「那由他隊長。貴方は、このような時のために、ワシを育てられたのですか……? こうなる事が分かっておられたのですか? 何十年も苦しんでおられたのですか? 何故……何故、ワシに話して下さらなかったのですかっ!? それほどまでに、ワシは、ワシはっ! 頼るに値しなかったのですかっ……!?」

 

 私が飛び出し、すぐに総隊長が副隊長以下席官にも招集をかけたのだろう。

 相手は那由他姉様だ。何も可笑しな事はない。

 

 七番隊副隊長、狛村左陣は震える声で那由他姉様へと訴えかける。

 

「僕は、貴方の苦しんでいる顔なんて、見たくない、です」

 

 三番隊第三席、吉良イヅル。

 

「私たちは、那由他隊長に憧れて、これまで頑張ってこられました!」

 

 五番隊第五席、雛森桃。

 

「俺は強くなりましたよ。貴方のおかげです。でも、今で満足する訳ないんですよ……。貴方が、目標なんすよ!」

 

 十一番隊第六席、阿散井恋次。

 

「俺が死神になったのも、那由他隊長のおかげなんですっ……!」

 

 九番隊副隊長、檜佐木修兵。

 

「那由他……」

 

 十番隊副隊長、松本乱菊。

 

 

「藍染七番隊隊長!」「俺たちが不甲斐なくて、すいやせんっ!」「嫌だ、こんな事って……」「なんで、なんでだよっ! ちくしょう!?」

 

 続々と集まってくる隊士たち。

 

 八番隊の伊勢副隊長、七番隊の射場副隊長、四番隊の虎徹副隊長、十番隊の日番谷三席まで、

 

 

 これだけの人に、この人は愛されてきたのだ……。

 

 

 

「射殺せ “神槍”」

 

 

 

 途端、底冷えのする声が響いた。

 

 そして、鮮血が舞う。

 

「「「なっ!?」」」

 

 

「市丸、貴様ぁぁぁあああああ!!!」

 

 

 頭の血管が切れたかと思った。

 

 それほどの憤怒だ。

 

 他の皆が驚く中、私は市丸の胸倉を掴む。

 

「ちょぉ、待ってぇな。ボクは命令に素直に従っただけですやん」

 

 ヘラヘラとした顔をぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。

 

 しかし、言っている事も真実だ。

 

 私たちは感情で二の足を踏んでいただけで、行いとしては奴の方が正しい。

 

 苛立たし気に振り返ると、既に那由他姉様は消えていた。

 

 市丸の斬魄刀で吹き飛ばされたのだろう。

 

 地には僅かな血痕のみが残されていた。

 

 

「ちゃんと殺しときましたよ?」

 

 

 ブチギレそうになるが、肩を強く掴まれた。

 

 振り払うように向き直ると、そこには浮竹がいた。

 

「那由他は死んだ……そうだろ?」

 

 そして、気付いた。

 

 

 ()()()()()()()()()、という意味を。

 

 

 

「那由他隊長っ!」

 

 

 

 遅れてきたのは、確か……十三番隊の朽木ルキア、だったか? 

 

 那由他姉様から特別に可愛がられていた奴だ。

 

 ちっ! 

 

 

「そんな……那由他、隊長……」

 

 

 現場の血痕を見て察したのだろう。

 詳しくは後で浮竹が説明するだろうし、ここで言う訳にもいかない。

 

 

 

「あ、ああぁぁ……あああぁぁぁぁぁぁ……!!!」

 

 

 静かに慟哭し、蹲る朽木に仲間が寄り添う。

 

 誰もが沈痛の面持ちで項垂れていた。

 

 あの人ほど素晴らしい死神が、かつていただろうか。

 

 どうしてこのような事になった? 

 

 決まっている。

 

 

 

 

 

虚化などという実験を行った、浦原喜助のせいだ。

 

 

 

 

 

 朽木ルキアの嘆き悲しむ声を背後に、私は浦原喜助に憎悪の念を燃やしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、私たちは藍染那由他という人物を失った。

 

 

 

 そして、その数年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──十番隊隊長の志波一心が失踪したのだ。

 

 

 

 


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