ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

13 / 67
とある出来事:七番隊の場合

 

 

「……那由他隊長、いなくなったんだよな」

「ばか、お前!?」

「でも、そうじゃん?」

「それは、そう、だけど……!」

 

 

「なんでそんな事が言えるの!?」

 

 

 とある女性隊士が叫んだ。

 七番隊舎は、恐ろしいほどの静けさだった。

 

 隊長の側にいた人だけではない。あの人に触れ合った人皆が思った。

 

 

 

 

 

 

 なぜ? と。

 

 

 

 

 

 

「俺らはさ、那由他隊長から“名前で呼んで欲しい”って言われてたよな?」

 

 口火を切った事務担当の死神が言う。

 彼は最初、とても強い情熱を胸に灯していたらしい。しかし、実力的な問題から事務方に配属となったようだ。

 

「どれだけ、俺らはあの人と向き合えたのかな」

 

 彼の言葉に多くの者が下を向く。

 彼女は元々五番隊であり八席。しかも、体に敵となる虚の力を宿していた。

 これは有名なことで、公言こそされていないが事実と認識されている。

 

 そんな隊長に対して、僕らは距離を置いていた。

 一番に距離を詰めようとして矢面に立っていたのは狛村副隊長だ。

 

「貴殿らの想い、儂が背負おう」

 

 そう言って、緊張した面持ちで隊長と接していた。

 

 しかし、隊長は決して怖くもなければ、強(・)い(・)人(・)で(・)も(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 

 

 

「……これを」

「はい」

 

 

 僕が那由他隊長と仕事を共にする機会があった。

 その時は随分と静かな人だと思ったが、緊張感が強くてよく分からなかった。

 

 

「……これを。そこに」

「はい」

 

 

 なんとなく柔くなった雰囲気に首を傾げながら、それでもどうしたら良いか分からなかった。

 

 

「……これを。そこに、置いてください」

「はい」

 

 

 不器用なだけだと、察した。

 

 僕のような一般隊士に緊張されているとは思ってもみなかった。

 ただ、那由他隊長ほどの人の話題は噂でも広がりやすく、気づいたら皆が「あぁ、那由他隊長ってそういう人なんだ」という共通認識が出来ていたのは少し笑った。

 

 そうすると逆に勇者みたいなやつが出てきて。

 

 

「那由他隊長! 俺の事も下の名前で呼んでもらえないですか!」

 

 

 なんて。

 いや、嘘だろ。マジか。尊敬するわ、その勇気。

 

 

「では、〇〇。この仕事を次にしてくだい」

 

 

 彼が名乗る前に把握してるの!? 

 

 調子に乗って次々に名乗りだす七番隊士の皆には笑ったけど、もちろん僕も名乗った。

 

 

 

「☆☆くん、これを貴方に任せたいです。貴方は~が得意でしょうから、これはやりがいのある仕事だと思います」

「□□さん、これは貴方の好きなことに近いのですが、$$さんが苦手な分野なのでフォローに回ってくだされば嬉しいです」

「%%くんは経理より庶務の方が向いていますね。男性として不満かもしれませんが、私はしっかりと貴方を評価していますよ」

「&&さん、これはどういう事ですか? 貴方ほどの人がこのようなミスをするとは思えません。理由があるのでしょう?」

 

 

 

 那由他隊長は皆を見ていた。

 

 はじめは疑心でもって見ていた隊長格としての資質を、行動によって示して頂けた。

 だからこそ、皆が衝撃を受けている。

 

 那由他隊長がいなくなったという現実を。

 

 

 

「あの人の名前を呼んでも、届いてなかったのかもな」

 

 

 

 彼は純粋な力でもって護廷に貢献したかった。しかし、それを出来るだけの実力が無かった。

 だからこそ気になったのかもしれない。

 

 あの人が、僕らへ教えてくれた愛よりも、返せるものが無かったという事に。

 力が無くても、伝えられる愛があると教えてくれたように。

 

 

 

 

「那由他隊長……いなくなったんだよなぁ……!」

 

 

 

 

 嗚咽を抑える事なく漏らした彼の言葉に、僕らは何も言えなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。