ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

14 / 51
ホワイト…だと…!?

「隊長を辞めます」

 

 

 市丸くんにぶっ飛ばされて尸魂界から逃げる数日前にヨン様へ言った言葉だ。

 

 まさか、それからすぐに実行してくれるとは思ってもみなかったが。

 

 

 海燕殿事件の成り行きでメタスタシアを取り込んでしまった俺に、もうこれ以上の原作ブレイクをする気はない。

 

 だってあそこでルキアが突っ込んでいくとは思わなかったんやもん。

 何でそんな事したん? 下手したら死んでたよ、君? 

 

 

 君は俺に曇り顔を見せるんだから、そんなとこで死んじゃだめでしょ? 

 

 

 それに苺が死神になれないじゃん。

 そんなの原作ブレイク以前の問題よ。

 俺は苺の曇り顔も見たいのっ! 

 

 ただ、間近でルキアの苦し気な泣き顔を見れたのはとても良かった。これには俺もニッコリ。

 

 あと、アーロニーロはごめんよぉ……。

 あの名シーンを再現出来ないと理解した時は本気で凹んだ。

 

 

 俺の大好きなルキアの名シーンがぁぁぁ……。(号泣)

 

 

 

 

「……どうしてだい?」

 

 ヨン様は暗黒微笑を携えながら聞いてくる。

 これは返答次第でご機嫌を損ねるやつですね。分かります。

 

「ワンちゃんがいますので」

 

 おっと、本音が零れ過ぎた。

 

「なるほど」

 

 え、今ので理解できたの!? 

 思考が異次元すぎて言った俺の方が困惑するわ。

 

「狛村左陣は君に心酔している。君の表現も的を射ているだろう。今までは那由他が隊長であった方が都合が良かったが、卍解を隠している君に対して既に卍解を会得している狛村左陣を隊長に据えるのは、山本元柳斎が初めに言っていた通り理にかなっている」

 

 なんか好解釈してくれた。

 ありがてぇ。

 

「それに虚圏では“(エスパーダ)”も揃った。誰かが面倒を見る必要もあるだろう。既に那由他を隊長に留めておく理由も少ない。──好きにすると良い」

 

 頂きましたっ! 

 “好きにすると良い”! 

 

 これで七番隊の隊長に狛ちゃんがなってくれる! 

 

 良かったー。

 

 射場さん含めのダブル副隊長って異例過ぎて総隊長の目が怖かったんだよねー。

 めっちゃ睨んできてたし。

 

 俺が(建前上)卍解出来ないんだから副隊長を二人でってゴリ押ししたんすよ。

 射場さんをわざわざ十一番隊から引っ張ってきた甲斐があったわ。

 

 これで隊長はワンちゃん、副隊長は広島弁。

 原作開始時点の七番隊はやっぱこれでしょ! 

 

「それで、隊長を辞めた後はどないしはるんですか?」

 

 市丸くんがすかさずツッコんでくる。

 それな。

 

「先ほど藍染様が仰ったように虚圏の管理をするのではないか?」

 

 ナイスフォロー要っち。

 

「いや、管理はしなくて良い」

 

 あるぇ……? 

 

「那由他の魂魄強度を上げるとしよう。那由他、虚圏の虚を好きに喰らうと良い

 

 oh……デンジャラス……。

 そんなカニバリズム的なサムシングはグロいのでノーセンキューなのですが。

 

「そろそろ零番隊が那由他の中の“()()”に気付き動くはずだ。それを利用すれば那由他は自由だよ」

 

 偶然すらも必然にする。これぞヨン様劇場。

 

 

 で、俺の中の“欠片”って何……? 

 

 

 要っちや市丸は訳知り顔(?)でウンウン頷いている。

 

 ちょっとぉ、仲間外れは良くないよぉ……。

 

「那由他は虚圏で寛いでいれば良いさ。今まで励んできた分ね」

 

 急に優しくなって怖いんじゃが。

 そして教えてくれる気がないのも分かったでござる。

 

 

 

 そんな訳で、俺はしばらく虚圏で虚を喰っちゃ寝ハピハピしていた。

 

 

 

 それにしても、逃げる時の皆の表情は良かったなぁ~。

 

 俺も「辛そうな顔しなきゃっ!」って使命感で必死こいて顔面筋動かそうとしていたけど効果はあっただろうか? 

 ぶっちゃけ、どれくらい顔が変わっていたのか自分ではよく分かっていない。

 

 そして市丸はナイスだった。

 

 京楽さんが割と殺る気満々でビビッて「虚化しなければ本気で来ないよね?」って聞いたら皆で刀抜き出すんだもん。そらビビるわ。

 思わず市丸くんにアイコンタクトしたら速攻で神槍出してくれて本当に助かった。

 

 君は命の恩人だよ。

 

 ただね、ガチで()()()()()()()のはどうかと思うんだ……! 

 

 そこは演技で良いんだよ、演技で。

 割と本気で焦って防いだじゃないか。そんな防ぐ事前提の信頼はいらない。重い。

 おかげ様で肩をザックリやられたよ。すごい痛かった。(小並感)

 

 

 で、虚圏で虚を探して三千里以上を歩いた訳だが、いつの間にか“刃”を含めた最上級大虚(ヴァストローデ)からすら恐れられるようになったのは少し切ない。

 優しく食べてあげただろぉ? 無表情だったけど。

 

 別にカニバった訳ではない。カーニバルみたいな勢いで食べてたが。

 流魂街でダイソンしていた時と同じ要領だ。

 

 

 虚見つけて懲らしめて斬魄刀でダイソン! 

 

 以上! 

 

 

 やってる事まんま虚圏の虚そのものなんだよなぁ……。

 

 

 なんか当たり前のようにヨン様に言われたから「そうなんだー」としか考えてなかったが、これって結構凄い事じゃね? 

 最早“暴食(グロトネリア)”じゃね? 

 いや、別に取り込んだ虚の能力を再現出来たりはしないんだけど。

 

 そこら辺──って言っても随分探したが──にいた最上級大虚は殆ど喰ったから、もう俺の霊圧半分くらい虚だし。

 

 今までの癖で霊圧は無意識レベルで抑えられているから、よく探らなきゃ俺の中の濃厚な虚の気配には気が付かれないだろうけど。

 苺と会った瞬間に敵認定されるのも悲しいから、虚の方の霊圧を集中的に抑えてはいる。

 

 ただ、俺に虚をダイソンできる能力があるとはここに来るまで知らなった。

 あれかな? ヨン様謹製の崩玉(仮)で再虚化したからかな? 再破面化みたいなノリでやられたんだよな……。

 

 どうやら俺の魂魄を強化するというよりも、今までの実験データを元にした改善だったらしい。

 つまり、死神に寄生する虚の能力を改造して虚を吸収する能力にしたようだ。

 

 

 もう俺の魂魄、色々混ざったり弄られまくったせいで原形がないんじゃがぁ……。

 

 

 それでもしっかり自我を保てているあたりは流石ヨン様なのだろうか? 

 

 ただ、魂の半身である“天輪”なんかはとてもご立腹だ。

 お兄様の事も『本当なら今すぐ斬りたい』とか言ってたし。

 

 物騒だよぉ。チャン一顔で曇ってくれるのは嬉しいが。

 

 ともかく、こんな状態の魂魄を卯ノ花さんとかに見られたら一発アウトなので、やはり隊長辞めてて良かった。

 

 まあ、こうなったのは虚圏で虚食べ放題してたからなんだけどね! 

 

 あと、試してみたら他者に俺の虚の力を割譲する事も出来たので、アーロニーロにはさっさとメタスタ君を返してあげた。

 

 感覚としては人間に死神の力を渡すのに近い、と思う。やったことないから分からんけど。

 

 その結果、なんかアーロニーロには凄い恐縮された上に、他の“刃”からはめっちゃ世話を焼かれるようになったのだが……やっぱみんな強くなりたいのかな? 

 いや、嬉しいんだけどね。俺は本来あるべきところへ返してあげただけよ? 

 

 でもやったぜ! これで原作再現できる! 

 

 なんかルキアの覚悟の仕方が既に違うんだよなぁ……。

 

 あそこで突っ込む子じゃなかったでしょ? 

 これじゃアーロニーロ海燕殿が出てきても普通に倒しそう。

 

 だから、虚のみんなは俺の事をそんなに怖がらなくても良いと思うんじゃが。

 生きるのが俺の魂魄の中か虚圏かの違いくらいよ? 

 俺も割と本能と欲で生きてるから一緒一緒! 

 

 まあ、“もう一人のボク”みたいに精神世界で自我を保てている奴はいないが。

 

 

 ──そう考えると、“もう一人のボク”って何者? 

 

 

 いや、曳舟さんから貰った疑似魂魄だからね。

 零番隊の力は凄いって事やろ。

 

 でもあいつ自分の事を“虚の力”って自慢してくるんだよな。

()()()()()()使()()ってうるさいし。

 

 使う機会ないねん。

 “天輪”使う事すら稀やぞ? 

 後、出し惜しみした方がOSR値溜まりやすいんでしょ? 

 

 最後の言ったら凄い納得されたのも腑に落ちんけど。

 

 ま、いっか。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで数年を虚圏で過ごしていた俺にお兄様から一報が届いた。

 

死神代行、という者が生まれたようだ』

 

 なんでも、一応殺された事になっている俺だが、結局は生きている俺の観察を合法的にするために浮竹さん発案で生まれた役職らしい。

 勿論、建て前は別に説明しているだろうが。

 

 俺の現在地を掴めてはいないだろうけれど、監視は重霊地である鳴木市に範囲を絞ったようだ。

 俺が本当に虚になって現世の人間襲ってたら尸魂界もたまったもんじゃないだろうしな。

 他の地域で大きな事件でも起きてなけりゃ鳴木市に根を張ってみようという思考は理解はできる。

 

 ただ、俺が原因で死神代行が生まれるとは思ってもみなかった。

 

 ごめん、銀城……。

 俺のせいで死神に裏切られるっぽいわ。

 その理由までは知らんけど。

 

 まあ、しばらく月島さんとかとキャッキャウフフしてて。

 

 破面編以降どうなるか俺も詳しく知らんねん。

 なんか無月で死神の力を失った苺を曇らせてから復活した能力を奪って更に曇らせるんでしょ? 

 

 なにそれ楽しそう。

 

 それで銀城が死神に復讐したい、んだよね? 

 俺の知っている情報なんてそんなフワッとした感じのものだ。

 

 まあ、その原因が俺になるっぽいので、少しくらいは様子を見た方が良いかもしれない。

 

「お兄様」

「何だい?」

「私は現世にも少し行った方が良いでしょう」

「……そうだね。君の姿を少し確認させてあげよう」

 

 はい、ヨン様からのGOサイン、頂きましたー! 

 

 

 

 

 そんな訳で現世へと時々顔を出していた俺だったが、ある日、一心さんを見つけた。

 

 

 

 

 

 オマケでホワイト。(白目

 

 

 

 

 

 雨が降りしきる中、始めは見間違いかと思った。

 思わず二度見してしまったし。

 

 一心さんが現世にいるって、それってそういう事でしょう? 

 消えまくる死神の調査でなんやかんやして一人で現世まで飛び出してきちゃったあれでしょう? 

 

 あ、現世の駐在隊士が斬られた。

 一心さんが気付いてホワイトに瞬歩で近づき戦闘が始まる。

 

 しばらくしたら真咲さんがやってくるんだろうな。

 

 予期せぬ形で原作シーンに遭遇した俺は霊圧遮断コートを羽織ったまま野球観戦のように近くのビルの屋上へと身を潜める。

 

 おー、「剡月」だ! 

 中々きちんと鑑賞する機会が無かったんだよね。

 一心さんも何故かよそよそしかったし。時々ご飯とか一緒に食べには行っていたけど、二人で行くって事はあの茶屋に行ったきりだなぁ。

 まあ、それは良いんだけど。

 

 

「……成程。全身は黒いし孔も何やら塞がっちゃいるが……霊圧は虚に間違い無えようだ……!」

 

 

 キャー! 一心さんカッコイイよー!! 

 

 久々に見れた原作ママの光景に俺はキャッキャと喜ぶ。

 

 

 しかし、真咲さん! 真咲さんはいずこぉーーー!? 

 

 なんか一心さんめがっさ苦戦しとるんですけどぉ!? 

 

 なんてテンパってたら、

 

「無断出撃かいな。こら問題になりそうやなァ」

「良いじゃないか。予想外の収穫だ」

 

 隣にヨン様劇団員たち、ギンくんと要くんの降臨である。

 

 急に来るのは心臓に悪いから止めて? 

 

「あれは()()()()()()()()()()()()“試作品”でね」

 

 そして、我らが劇団長ヨン様も当然のようにいる。

 

 あと、なんか当たり前のように話しかけられたが、一応俺も霊圧遮断コート着てんです。

 そんなにバレバレだった? 

 霊圧コントロールには一家言あると思っていただけに地味に凹む。

 

 違う、そういう問題じゃない。

 

 

 ちょっっっっと待って……! 

 

 

 え、アレは俺を前提に作られた虚なの? 

 あと、だから真咲さんはどこだってばよ。

 

「“試作品”ではなく“ホワイト”とお呼びください。奴はこれまでに創り上げた凡百の虚とは次元が違います。()()()()()()()()()()()()()“死神の魂”で創り上げた虚なのですから」

 

 要っちのこだわりはこの際どうでも良いんじゃ。

 

 あれ? 

 

 でも、原作だと確か“ホワイト”が初めて“死神の魂”を元にして創った虚じゃなかったっけ? 

 なんで()()()()()()()()()()()()()()()()()の? 

 

 確か俺がメタスタ君の観察に行く時に誰かが言ってたよね、そんな感じの事。

 

 

 もしかして──俺のせい? 

 

 

「全ては那由他の魂魄強度を上げるためだよ。多くの虚を喰らってそれなりの強度にはなってきたようだが、やはり死神の魂を使った方が効率が良さそうだね」

 

 

 

 

 はい、俺のせいでしたぁ! 

 

 

 

 

 え、待って、それで海燕さんが死んでホワイトが生まれるの!? 

 

 原作ガン無視じゃんっ!? 

 

 そんな設定無かったよ、当たり前だよ、だって俺原作にいないんだもん! (混乱)

 

 

 更に待って! 

 

 

 

ここで俺が介入しなきゃ、もしかして一護生まれないんじゃね……? 

 

 

 

 そう考えると、なんだか“天輪”が苺の姿をしているのにも意味があるような気がしてきた。

 

 流石に焦る。

 ここで一心さんと真咲さんが出会わないなど許されない。

 

 俺は霊圧探知の範囲を広げ、必死の思いで真咲さんを探った。

 

 ……いた! 

 

 少し離れたところに二つのかなり強い霊圧反応がある。

 

 一人は真咲さんだとしたら……もう一人は雨竜パッパか! 

 

 おのれぇディケイドォォォォォ!

 貴様のせいでこの世界が崩壊したらマジで絶許! 

 

 俺はいてもたってもいられずその場から離れ真咲さんの元へ動こうとする。

 

 

 

「那由他は彼に興味がないと思っていたんだが……何か気になる点でもあるのかい?」

 

 

 

 途端、お兄様の聞いた事もないような冷たい声が俺の首筋を撫でた。

 思わず体が凍り付く。

 

 え、急にそんなブリザード吹く? 

 

 隣の要っちと市丸くんも冷や汗浮かべてるじゃん。

 圧迫面接は良くないよぉ。

 

「近くに滅却師と思われる霊圧があります」

「ほう……滅却師か」

 

 こんな時でも動く不愛想さんの仕事に諸手を上げて喜ぶ俺。

 

 どうやら“滅却師”という単語にしっかりと興味を持って頂けたようだ。

 これには他の二人もニッコリ。安堵的な。

 

「面白い。良いよ、那由他。好きにしなさい」

 

 はい、頂きましたっ! 

 

 という訳で瞬歩を使い速攻でその場から離れる。

 勢いつけ過ぎて足場を壊さないように気を付けながらも、俺に出せる最速で離れた。

 

 

 めっちゃこえぇぇぇぇ……!!?? 

 

 

 何が逆鱗に触れたのか分からんが、何で一心さん助けようとするだけであんななったの!? 

 

 確かに助けようとは思ったけど、死神人生としてはほぼ終わるからさ! 

 ヨン様お好みの才能の塊みたいな息子さんもつくって下さるし! 

 

 俺は苺の顔見たいし! 

 真咲さんには一心さんと出会ってもらわなきゃ困るし! 

 

 ほら、win-winだろっ!? 

 

 そんな説明出来る訳ないけどなぁっ! 

 

 とにかく、真咲さんを霊圧で釣るべく、俺は霊圧遮断コートを急いで脱ぎ、虚の方の霊圧のみを上げる。

 伊達に虚圏で虚を喰っちゃ寝してないわ! 

 

 瞬間、結構な重圧を世界に与えてしまった。

 

 アブネ、焦って変な出力で出しちった。適度な量に調節しないと。

 尸魂界からも観測されたろうな、今のは……。大丈夫かな? 

 

 まあ、今はそんな事気にしていてもしゃーなし。

 

 よっしゃ、滅却師のお二人発見! 

 

「「!?」」

 

 突然現れた俺に二人は驚き、何やら光の弓を咄嗟に構えている。

 何だっけ、あれ、弧雀だっけ? 

 普通にカッコイイんだよな。ちょっと使ってみたい。

 

「行かなければ後悔しますよ」

「!」

 

 そして、端的に真咲さんへと話しかけた。

 

 あんまりのんびりとしている時間はないので、少し急かす感じになるが仕方ないだろう。

 俺は彼女が原作通りに「自分が助けられる人は誰でも助けたい」という想いを持っている前提で話している。

 

 そうでなきゃ、こいついきなり何言ってんだ状態である。かなり痛い子。

 

「悪いが僕たち純血統滅却師(エヒト・クインシー)は易々と血を流すべきでは無いんだ」

 

 しかし、そんな俺に反応したのは雨竜パッパこと石田竜弦さん。

 うむ、クール系イケメンだな。影を落としてあげたい。

 

 どうやら今まで二人が揉めていた内容を俺が既に把握している事を察したらしい。

 

 流石、将来の総合病院院長。

 今はまだ高校生のはずだったが、きっと頭の出来も良いのだろう。

 

「私は、行くよ」

 

 そして、こんな不審者である俺に数瞬の迷いすら無く断言できる真咲さんは凄いと思う。

 俺が言うのもなんだけど。

 

「やめろ!」

「私ねっ!」

 

 真咲さんは引き留めようとする竜弦さんを一喝で黙らせた。

 おぉ、地味に凄い。

 

「竜ちゃんがおば様のことや滅却師のこと、その先の未来のいろんな事まで色々考えて行動するの、そういうのすごく竜ちゃんのいいところだと思う。でも──」

 

 そして、真咲さんは顔だけをくるりと竜弦さんへと振り向かせ、とても力強い目をして言い放った。

 

 

 

「仕来りに従って、今日できることをやらないで、誰かを見殺しにしたあたしを──明日のあたしは許せないと思うから」

 

 

 

 泣きそう。

 このセリフを側で聞けたことを神に感謝します。オーマイ……。

 

 表情が変わらんから、心の中で滂沱の涙を流す。

 

「? 貴方、泣いてるの……?」

 

 俺は驚いて真咲さんを見つめる。

 別に目から雫が零れていた訳ではない。

 

 それを、今さっき会ったばかりの真咲さんに指摘されるとは。

 

 やっぱりこの人はそういうところが凄い。

 改めて感動した。

 

「待て! そいつは虚だ!」

「気配はそうだね。でも、きっと大丈夫だよ」

「何を根拠に……!?」

「女の勘、かな?」

 

 悪戯好きのようなニシシッと笑った顔がとってもキュートです。

 俺の心が浄化されそう……。

 

「私を信用して頂けるのですか」

「うーん、信用っていうか、信頼?」

 

 何が違うんだ? 

 

「信頼はね。信じるだけじゃなくて頼るの。私は貴方を頼りにしている」

 

 その顔は、とても真剣なものだった。

 

 うわぁ、俺は凄い貴重な瞬間に立ち会っているかもしれない。

 

 

 これが黒崎一護の母親──『黒崎真咲』。

 

 

 一心さんが“太陽”と形容するのも分かる。

 

「では、ついてきてください」

「行ってくるね、竜ちゃん」

「真咲っ……!」

 

 追いすがるように伸ばした竜弦の手はフラフラと力なく虚空をさまよい、やがて体の横へとダラリと下がった。

 彼も彼で好きなキャラではあるんだけどね。

 

 ゴメン、でも今はちょっと真咲さんを借ります。

 

 

 俺は瞬歩で移動する。

 

 真咲さんも俺に難なくついてきていた。

 流石、現滅却師最強と噂される人だ。

 

 そして、すぐに一心さんとホワイトが戦っている姿が目に入る。

 

 既にヨン様に背中から斬られた後なのだろう。

 多くの血を流し、なんとか踏ん張っている状況だが辛うじて、という感じだ。

 

「っ!」

 

 真咲さんがすぐさま滅却十字から弓を形成、矢を放ち一心さんからホワイトを引き離すように牽制する。

 

「何だ……あいつは……!?」

 

 一心さんが驚き真咲さんを見つけ、

 

 

「なっ!? 那由他隊長っっ!?」

 

 

 俺もついでに見つける。

 

 って、あ。

 

 

 

 

 何俺まで普通に登場してるんじゃい、ボケェ!!?? 

 

 

 

 

 しまった、真咲さんを案内だけして後は隠れてるつもりだったのに! 

 

 ヤベェ、どうしよう!? 

 

 

 なんて俺が一人動揺していても戦いは続く。

 

 

 ホワイトの迅さに動きを捉えきれない真咲さん。

 

「それなら」

 

 すると、武装を解いて手をホワイトに向けて差し伸べた。

 

 あ、これアレや。

 とりあえず原作通りにホワイトが真咲さんに寄生できそうでホッとする。

 

 そんな俺の考えなど知らない真咲さんへ飛び掛るホワイト。

 

 

「よし。つ―かま―え……たっ!

 

 

 捨て身の攻撃。

 自分の肩口を噛ませてホワイトを捕まえた真咲さんは、至近距離からホワイトのこめかみを撃ち抜いた。

 

 ホワイトは衝撃に吹き飛ばされる事はなく真咲さんの肩に嚙みついたままだったが、すぐに全身の力を抜き弾け飛ぶ。

 

 ──よし、なんとか原作通り! 

 

 一人、心の中でガッツポである。

 

「あいつを一人でやっちまうとは……嬢ちゃん一体何者だ……?」

 

 一心さんの言葉に、ふぅと息を吐いていた真咲さんがビクリと体を震わせ反応する。

 全身ボロボロではあるものの、そこは護廷の隊長。

 自分が討ち倒すべき敵を代わりに退治してくれたんだから、礼ぐらいはするだろう。

 それに、一心さんは結構な女好きだし。

 

 美少女JKである真咲ちゃんにこのタイミングで声をかけない訳がない。 

 

 ただ、滅却師と死神だからね。

 

 一心さんはまだ気が付いてないっぽいけど、真咲さんからしたら先祖を虐殺した死神に対して、そら初めは気まずいわな。

 

 そんな死神が相手でも助けようとするんだから、本当にこの人は聖人君子。

 

 原作苺の「皆を護りたい」っていう想いも亡き母から受け継いだのだと分かる。エモイ。

 

 

「私は、黒崎真咲──滅却師です」

 

 

 しばしの無言を挟んで、真咲さんは覚悟を決めた顔で一心さんの問いに答える。

 

 

「そっか滅却師か! 実物見るのは初めてだ!」

 

 

 そして一心さんの言葉に、驚いた表情を返していた。

 

 

 

 

 

 あぁぁぁぁ……尊いんじゃぁぁぁぁ……。

 

 

 

 

 ここは俺が邪魔する場面では決してない。

 

 邪魔者は静かに去るのみ……。

 

 

「で、那由他隊長もありがとうございます!」

 

 

 やっぱり見逃してくれないかぁ……! 

 

 

「いえ、私は何もしていません」

「そんな事ないよ! 私をここまで案内してくれたでしょ? そのおかげで、こうやって誰かを助けられたんだから、それは貴方のおかげだよ」

 

 やめてぇ! これ以上俺の良心を刺激しないでぇ! 

 俺は苺が産まれて欲しいだけなんですぅぅ! 

 

 

 幸いな事に、俺の経緯を知っている一心さんはこの場にいる俺の事を深くは追及しなかった。

 

 まだ俺の事を仲間だと思ってくれているようで何よりです。

 

 

 そして、一心さんは尸魂界へと帰っていったのだが、

 

 

 

 

「ねえ、貴方。私の住んでる家に来ない?」

 

 

 

 

 ねえ、君の家って石田君の家でしょぉ? 

 

 君が勝手に決めていい訳じゃ、あ、こら、やめろ! 

 無理矢理連れて行くな! 

 

 

 これ以上ややこしい事になるのは嫌なのぉぉぉぉ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な!! 自爆したと言う事は標的虚化だけじゃない……最終段階の“転移”まで行ったという事だ……それを滅却師に……!」

 

 死神の虚化の為に創ったのに、滅却師に反応した事に失敗だったと失望する要。

 

 だが、私は那由他が引き起こした騒動の様子を興味深く感じていた。

 

 

 当初の目標から逸れたものが、当初の目標を超える事もあるのだろう。

 

 

「そう悲嘆する事もない、要」

「しかし……」

「死した死神から容作られた虚が、敢えて最も自らと相反する存在である滅却師を選んだ。──その先を見てみたいとは思わないか?」

 

 私の言葉に要は考えるように押し黙る。

 ギンは特に口を挟まずにいつも通りの微笑を浮かべているだけだ。

 

 これも君の導く頂きに繋がるのだろうね。

 

 私は眼下にて滅却師の少女に腕を掴まれ引っ張られていく妹を見守る。

 

 

 

 

 ──楽しみだよ、那由他。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。