最近、感想返せてなくてごめんなさい! でもちゃんと全部読んでます!
「無断出撃は罪なれど、即断速攻により隊士の犠牲は必要最小限に抑えられ、ひいては現世の被害も軽微なものに留めることとなった。よって──此度の隊規違反は不問とする!」
俺──志波一心は無言で総隊長に頭を下げる。
勝手に飛び出したが、なんとか温情を貰えたようだ。
それもこれも、
「報告には虚の異様さとそれを手引きしたと思われる謎の襲撃者
「はい」
那由他隊長とあの滅却師の嬢ちゃん、二人のおかげだ。
“
人間たちの暮らす『現世』、死した者が暮らす『霊界』、そして虚の蔓延る『虚圏』。
この三界における魂魄量のバランスを取るのが死神に課せられた役割である。
そのため、死神は現世にて成仏できずに留まっている霊“
しかし、死神だけで全ての人々を救える訳ではない。
虚との戦いで殉職する事の多い死神は、その絶対数が足りないのだ。
また、虚に立ち向かえる力を持つためにかかる期間もそれなり。
これに対して、人間はただやられる事を良しとしなかった。
己の力で霊子を操り、虚を葬る術を身に着けた者たち──滅却師。
彼らの目指したものは敵の消滅である。
俺たち死神は虚を倒してもその魂魄までは消滅させない。
けれども、奴らは違う。
存在そのものを
それを魂のバランサーである死神は容認できなかった。
その結果、千年前から続く滅却師と死神の争いは、約200年前に死神の勝利という形をもって終止符を打つことになった。
ってのが、俺の知っている滅却師のあらましだったんだが……。
「まさか生き残りがいたとはなぁ」
何とは無しに呟く。
いつもの様に副隊長の乱菊から逃げ、俺は太めの木の枝を寝床替わりにして仕事をサボっていた。
何故、あの嬢ちゃんの事を総隊長に報告しなかったのか。
自分の事ながら正確には分かっていない。
滅却師の存在なんて総隊長に伝えたら、きっと粛清が彼女を待っているのだろう。
命を張って自分を助けてくれた彼女なのだ。
流石にそれは不義理すぎないか?
なんて思ってはみるが、どうも自分的にはしっくりこない。
なんか気になるんだよなぁ……。
そもそも、彼女は俺が死神である事などは分かっていたのだ。
分かった上で、俺を助けたのだ。
しかも、俺が対峙していた虚は隊長である俺が手こずるほどの強敵。
それを先祖の仇っていうもん飲み込んでまで助けたんだ。
「黒崎真咲……つったか」
すんげぇ度胸持ってんな。
その後、俺に襲われるとか考えなかったのだろうか。
いや、返り討ちにできると思っていたのかもしれない。
何せあの黒いのを一発で仕留めてたし。
それはそれで、俺の隊長としてのプライドがなぁ……。
まあ、んなあるかどうかも分からないものはどうでも良い。
それよりも気になるのは、俺を背後から襲った奴だ。
如何に強い虚と戦っていたとしても、背後をそう簡単にとられるような柔な鍛え方をしていないつもりだった。
何故全く霊圧を感じなかった?
しかも、傷跡は刀傷だ。
つまり、下手人は死神である。
そう考えると、直後に嬢ちゃんを連れてきた那由他隊長の事を思い出す。
あぁ、もう隊長じゃないんだよな……。
誰よりも皆を想っていた、今なお慕われ続ける元七番隊の隊長。
俺の──初恋の人。
流石にもう引きずっちゃいない。100年も前の話だ。
ただ、それでもあの人への憧れが薄れる事だけは無かった。
那由他さんが来る直前で俺を斬った下手人は消えた。
那由他さんは、どうやら黒崎真咲を連れてきてくれたようだった。
つまり、下手人は那由他さんが助っ人を連れてくる前に俺を始末しようとしたが、それが間に合わなかったって感じか?
それなら、もしかすると那由他さんは俺に傷を負わせたのが誰か知っている?
もしかして――浦原喜助か?
そういや、虚と戦っている時に別の巨大な虚の霊圧を感じた。
目の前にいた奴がガキに見えるほどの霊圧だ。
あれは最上級大虚の数体分に匹敵する力だと思う。そして、同じ場所から那由他さんの霊圧も。
十二番隊の涅隊長も、
『虚圏にて観測されていた最上級大虚の霊圧が何体か消失したヨ。三界における魂魄のバランスに関してはまだ問題ないけれど、これ以上続くのは問題ダネ』
と言っていた。
虚圏の虚を現世に送っている奴がいる……?
だとすると……現世へと渡った那由他さんが、その虚を退治しまくっていたんだろう。
那由他さんから感じる虚の霊圧も前に比べて大きくなっていたのは、少しずつ体を蝕まれたからだろうか。
しっかし、最上級大虚数体分の強さにまで育っているとは、流石と言うべきなのだろうか。
俺なんか赤子の手を捻るレベルだろう。しかもそれを制御出来てるっぽいし。
マジでやべぇな、あの人……。
しかし、総隊長も那由他さんの活動を黙認しているようだ。
魂魄バランスを崩すようなら対処するだろうが、今はまだそこまででもない。
最近は落ち着いたようだし。
流石にあの人の霊圧には気付く。
何十年も見てきたからな。
あの人の霊圧を観測すると、常に虚の霊圧とあるそうだ。
どうやってかは知らないが虚圏にも行ってるらしい。
まあ、十中八九虚の退治をしているのだろう。
現れたら危険な最上級大虚を何体も葬ってる訳だ。
やっぱあの人は変わんねぇな。
「……もう一回会って、キッチリ礼でも言ってくるかな」
思い浮かべた二人の姿。
幸いにも、突如現世に現れた最上級大虚――あの黒い奴が何故現れたのか調査を行う必要がある。
もう那由他さんが解決しちまったかもしれないが……。
それならそれで構わない。
っていうか、あんまあの人に頼りすぎるのも悪ぃな。
もう既に死神としての地位を奪われたのだ、あの人は。
それでも、皆の平和を願っているのだ。
なら、俺は俺で胸を張れる事をしなくちゃなんねぇ。
丁度鳴木市は十番隊の管轄。
相手が最上級大虚なら隊長である俺が現世に行くべき。
おっし、何の問題もねえな!
そうして、俺は再び現世へ向かう準備を始めた。
▼△▼
俺は現在、シンプルながらもしっかり女の子の部屋をしている真咲ちゃんの部屋に居候している。
ホワイトを倒した真咲さんに連れられて石田家へ連れていかれそうになった俺。
そんな彼女の行動を止めたのは、クール系イケメン石田竜弦さんだった。
『連れていける訳ないだろう……』
呆れたように呟く竜弦さんに俺も全力で頷いた。
だって俺、君たちの天敵である死神と虚のハーフみたいなもんですよ?
しかも石田家って滅却師の総本山みたいなもんでしょ?
許される訳がねぇ。
『で、でも! この人のおかげで助けられたんだし、なんか行くとこなさそうだし!』
『捨ててきなさい』
俺は捨て猫か何かか?
真咲さんが泣きそうな顔で必死に竜弦さんを説得しようとしているが、彼は当然のようにNOを連呼する。
『私は問題ありません』
『ほらぁ!』
違うよ、真咲ちゃん。
俺は「心配しないでも大丈夫だから放っておいて」って意味で言ったんだよ?
別に石田家で針の筵になっても無問題とか、そういう意味じゃ決してないよ?
『……分かった。どうやら霊圧を完全に消す術も持っているようだし納屋にでも』
『私の部屋で良いよ!』
アイエエエ! 竜弦サン!? 竜弦サンナンデ!?
まさか竜弦さんが折れるとは思ってもみなかった。
真咲さんの押しの強さ、恐るべし。
こうして、お家の人に隠れひっそりと石田家に居候する事になってしまった俺。
浦原さんの霊圧遮断コート持ってて本当に良かった。なきゃ速攻でバレてたよ。
しかし、マジでこれからどうなるんだろう……。
っていうか、このままだと俺は浦原さんと接触する事になるのでは?
マズくない?
だってお兄様の暴挙を見ていながら一緒に仲良く隊長やってたんだよ?
これはフルボッコ確定ですわ……。
まあ、
ただ、この時代での俺の原作知識が曖昧なんだよねぇ。
俺が知っている流れは以下の通り。
➀一心さんがホワイトとバトる。
②一心さんヨン様から斬られる。
③真咲さんがホワイトを倒し寄生される。
④真咲さんが虚化する。
⑤浦原さん登場。
⑥一心さんが死神の力を失う代わりに真咲さんを助ける。
⑦人間として暮らし医者になった一心さんと真咲さんが結婚。
⑧一護誕生。
俺が知っている流れなんてこんなもんだ。
苺出生の秘密って千年血戦編で明らかになるやん?
俺、その頃の鰤ちゃんと読んでた訳じゃないからさ……。
なんとなくは知っているものの、詳しくは知らない。
今となっては致命的すぎる。
だって、④がいつ起こるか分からんのやもん!
もう散々原作に介入しまくってしまったせいでどの程度の差異があるかもわからんが、この④の時期が分からなければ俺は彼女の元を離れるのも怖い。
人知れず真咲さんが魂魄自殺してたら俺も自殺してしまうかもしれん。
そういう訳で、結局俺は彼女の部屋に居候する事になってしまった。
お兄様に怒られなきゃ良いけど……。
真咲さんの側を離れて部屋に置き去りにされても困るので、彼女が学校へ行く時も俺はついていく。
勿論、霊圧遮断コートを羽織った上で霊圧を極小まで抑えた状態でだ。
一人で浦原さんと会うなんて恐ろしすぎる。
学校の授業を窓の外の木に座って眺める。
なんか懐かしいなー。そういえば学校のお勉強ってこんなんだったわ。
何だかんだ授業をエンジョイしてしまった。
暇だししょうがないよね。
そういえば虚圏はどうなってるかなぁ。
“刃”の皆は元気だろうか。
そして、部屋で普通にくっちゃべってたら家の人に不審に思われるだろうから、夜には真咲さんとお散歩をしている。
彼女は俺の事をあれこれと聞いてくるが、俺は口下手もあって上手く会話を続けられない。
基本的には彼女が俺にずっと語り掛けている形だ。
傍から見たら真咲さんが可哀想な子になってしまうので、出来るだけ人通りが少ない道を歩く。
このように、俺の日常は虚圏での荒んだものから随分と華やかなものに変わってしまった。
この間、お兄様から何の連絡もないのが少し怖いが、まあ「好きにすると良い」という言質を貰っているのだ。
便りがないのは元気な証拠! 那由他は今日も元気ですよ、お兄様!
そして、ホワイト事件から数日が経った頃。
俺たちの前に浦原さんが現れた。
▼△▼
「お久しぶりですね、那由他サン」
先日感じた強大な虚の気配と、あれは志波一心サンの霊圧でしょう。
これを、アタシは藍染サンの手引きによるものだと確信をもって調べました。
予想通り、その場に参入した滅却師の少女『黒崎真咲』には虚が宿っています。
100年以上に渡り虚の研究してきたアタシです。
見ただけでもある程度は分かります。
しかし、予想外だったのは彼女の隣に那由他サンがいた事です。
やはり、彼女は藍染サンの手を取ったのでしょうか。
虚が宿った黒崎サンの経過観察をしているのでしょうか。
尸魂界から追われたのもこのために……?
数々の疑問がアタシの中で渦巻ますが、今はまだ情報が足りません。
如何に霊圧遮断コートを着ていても、目視で認識してしまえば意味はないのです。
数日間を、アタシは二人の女性の調査に当てました。
傍から見ると完全にストーカーなのは地味に精神に来ましたが……。
義骸を簡単に脱ぐ訳にもいかないッスからね。
尸魂界に発見されるリスクは出来るだけ抑えなければなりませんし。
こうして観察した結果なのですが……今回に限って言えば、那由他サンは“白”でしょう。
まず、彼女たちのやり取りは普通の友人のように気安いものでした。
那由他サンは口が上手くありませんが、それでも黒崎サンとの会話を楽しんでいたのは雰囲気で分かります。
その様子は今まで見た事がないほど嬉しそうなものでした。
時折警戒するように周囲を見渡す時はこちらがバレないかヒヤヒヤしたものですが、彼女の視線は基本的に黒崎サンに釘付けッス。
随分と彼女にご執心のようですね。
黒崎サンが鏡花水月にかかっているとは考えづらい状況ですから、あそこにいるのは那由他サンで間違いありません。
黒崎サンが彼女の事を「那由他さん」と呼んでいる事も確認済みです。
まるで姉妹のように仲良さげな二人を、疑う事の方が難しいです。
しかし、そのような演技を彼女の兄である藍染サンは誰にも気付かれずに続けていました。
油断は禁物ッスね。
ただ、出来れば演技ではなく、本心から黒崎サンに寄り添っているもんだとアタシも思いたいものです。
だから、アタシも覚悟を決めて那由他サンの前へ姿を現しました。
ここで、彼女を見極めます。
「……浦原さん」
彼女はどこか気まずい様子でアタシから目線を逸らしました。
どうやら罪悪感を抱いてはいるようです。
それだけで少しホッとしてしまう自分に苦笑いが浮かぶッスね。
「無事で、良かったです」
「貴方がそれを言います?」
「申し訳ありません」
すぐさま謝罪をしてくる那由他サン。
腰を直角に曲げ、頭をこれでもかと下げている姿には、こちらも少し戸惑ってしまうほどでした。
「そう仰るって事は、自分の立場も分かってるって事ッスか?」
「私では……お兄様を止められません」
頭を下げたまま、苦しそうに呟かれた言葉。
そうですね。
彼女はそういう人でしたね。
彼女の心根が変わってないようで安心したと同時に、藍染サンに怒りが湧きます。
彼女を救うための行いで、何故彼女が傷ついていると分からないのか。
それでも貴方の側を選んだ那由他サンが、どのような気持ちで貴方の行いを見ていたか。
誰に相談する事も出来ず、己の中で背負うと決めた彼女の悲壮な覚悟に、貴方は気付けないのですか──藍染サン?
でも、同時に那由他サンへも少し怒りを覚えました。
「貴方は周囲からどのように見られているか、もう少し理解する必要があるッスね」
ビクリと肩を震わせる那由他サン。
これはあれっすね、きっと断罪されても仕方ないって思ってるやつッスね。
アタシはただ、平子サンたちにお仕置きをしてもらって彼女の協力を取り付けたいだけなんですが。
「っ! 待って!」
と、ここで隣で事の成り行きを見守っていた黒崎サンがアタシと那由他サンの間に両手を広げて入ってきました。
彼女にとって、既に那由他サンは他人ではないのでしょう。
数日間だけですが、二人を見ていたアタシにですら分かります。
「詳しい事は分からないけどっ、でも、那由他さんはきっと後悔してる!」
彼女の発言に那由他サンは恐る恐る顔を上げ、黒崎サンの背を見つめます。
那由他サンも黒崎サンと知り合って数日です。
多分、「何で?」って感じッスかね。
だから言ったんスよ。
那由他サンは他人からどう思われているか、もう少し理解した方が良いッス。
「貴方が誰かも、那由他さんとどういう関係なのかも、過去にどんな事があったかも、私は知らない。でも、これだけは言える!」
黒崎サンの視線は強いです。
何が何でも、自分の背に控える那由他サンを守ろうという、強い決意を感じます。
その瞳は那由他さんとは違う煌めき――“太陽”のように輝いていました。
月と太陽ッスか。
これは惹かれ合うのも当然ッスかね。
そして、アタシが彼女たちに人間的魅力を感じるのも必然でしょうか。
さながら、アタシたちは地球ってところでしょう。
空から温かく照らされ、安心して眠れる時を与えられ、命を育み、慈しむように看取られる。
お互いが別の優しさを周囲に与え、どちらかが欠けた事など昔から無かったと錯覚してしまう。
こう考えると、驚くほど二人の関係性がしっくり来るのも不思議なものッス。
人間関係は出会ってからの時間だけじゃないって事ッスね。
アタシの方が那由他サンとは長い付き合いではあるのですが、少し妬けるッス。
「私は、困っている親友を放っておく事なんて出来ない!!」
黒崎サンの言葉に、那由他サンは目を丸くしました。
ほら、黒崎サンは貴方の事を“親友”って呼んでますよ?
というよりも、アタシは完璧に悪役ですねぇ……。
どうしましょうか?
アタシを前にした那由他サンに動く気配はありません。
この様子ならば落ち着いて話す事もできるでしょう。
平子サンたちが納得するかはちょっと分かりませんが……。
まあ、それもこれからの話し合い次第でしょうか。
なんて、思わず彼女たちの友情にホッコリとしていた時でした。
憤怒の形相でアタシに向かって斬魄刀を振り下ろしながら降ってくる、
▼△▼
「何故お母様に告げ口をした!?」
僕──石田竜弦は側付きのメイド、片桐に詰問するように問いかけた。
「
失敗した、と思った。
霊体とは言え、霊力持ちは食事を必要とする。
その分のフォローを真咲が己の霊力で補っていたのだが、流石に普段と変わらぬ食事では回復が追い付かない。
そのため、片桐に彼女の食事を少し変えるように頼んだのだ。
その際に必要最低限の理由のみを語ったつもりだったが、僕は彼女を信頼しすぎていたのかもしれない。
せめて藍染那由他の存在は伏せておくべきだった。
今更ながらに後悔が付きまとうが、もう遅い。
「真咲様は虚の攻撃で傷を負っており、正式な滅却師の治療術式を行わなければ将来の石田家の血が濁ってしまう可能性があります。それに、やはり死神に肩入れするべきではありません!」
片桐の言い分は尤もだ。
僕も分かっている。
――真咲は、僕の婚約者である。
お互いに純血の滅却師。
既に真咲のご両親が他界してしまった以上、この血を守るためにも、僕と真咲の結婚は定められたものだった。
しかし、僕は真咲を──愛していた。
高校生の僕が何を言っているんだとは思う。
けれど、彼女の幸せそうな顔を見るだけで、僕の心はいつも救われていた。
その笑顔を守るためなら……。
「そんな理由で──」
思わず漏れてしまった僕の発言に、片桐は唖然とした顔を晒した。
当然だろう。
「“そんな理由”!?」
片桐は声を荒らげた。
しかし、激昂はしなかった。
ただ悲しそうに、信じられないように、裏切られたように。
その声をただ震わせて僕に訴えかけるだけだった。
「それが全てではないのですか!?」
片桐の言葉全てが僕に刺さる。
そうだ、僕は昔からそう言ってきた。
片桐にも言い聞かせた。
全ては、
「坊ちゃまは仰ったではありませんか!! 真咲様との結婚は、滅却師の未来の為だと……!!」
僕は結局、己の心を曝け出す事に恐怖を覚えたのだ。
もし、彼女に拒絶されたら。
もし、彼女の笑顔が曇ったら。
もし、彼女を幸せに出来なかったら。
それならば、彼女のしたい事を、僕は支えようと決めたのだ。
そして、それは僕を幼い時から支えてくれている、幼馴染でもある片桐を裏切る行為だった。
ああ、僕は愚かだな。
勉学だけが出来ても、何も救えやしない。
「っ!」
「坊ちゃま!?」
片桐の悲痛な声を背に、僕は家を飛び出した。
本当に僕はどうしようもない。
親からの期待、片桐からの信頼、真咲からの信愛。
どれも中途半端に受け止めている。
何故信じられない?
自分の努力を、自分が進む道を、彼女の心を。
何故、僕は信じきれないんだっ──!?
行く当てもなく、ただ夜道を駆ける。
そして、肌がヒリつく程の膨大な霊圧の衝突を感じ取った。
「なっ!?」
この霊圧は……先日の死神のものか!
しかし、ならば相手は?
混乱する頭を何とか整理しようと、霊圧を感じた周囲を霊圧探知で探る。
「……真咲?」
そして、そのすぐ側に、真咲がいる事に気が付いた。
何故?
また、君は死神を救おうというのか?
己の身を削ってでも、他者を助けたいと思うのか?
僕はただ、君の笑顔が見たいだけなのだ。
「くそ、くそっ、くそっ、くそぉぉぉおおお!!」
僕は自身の不甲斐なさを吐き出しながら、現場へと急いだ。
こんな自分は、きっと真咲には相応しくないのだろう。
親から決められた婚約者。
そんな僅かな関係性で、僕は君を手に入れられるとは思えていない。
太陽のような君の笑顔を、僕は下から見上げる事しか出来ていないのだから。
現場で見つけたのは、怒りの形相で刃を振るう死神と、それを必死に受け止める謎の男。
そして、戸惑う真咲に、
──藍染那由他の姿だった。
次回、『修羅場』
デュエルスタンバイッ!