ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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愉悦タグは一度も消してないよ……?(涙目


目標…だと…!?

 ──案外しっかり抵抗してんじゃん。

 

 精神世界にて“オレ”と対峙してから少し。

 

 卍解して一気に決めるつもりだったが、それなりに手こずった。

 伊達に最上級大虚数体分の霊圧を持っていた訳ではないって事だ。

 

『やっぱ強いなー』

 

 ──まあ、それが俺の人生の目的の一つでもあった訳ですし。

 

 地面に大の字になって寝転がる“オレ”に近づいて側に座る。

 

 もう、こいつに力は残っていない。

 別にほっといても良かったのだが、何となく話をしてみる気に俺はなった。

 

 ──これで、お前の影響は無くなるのか? 

 

『ま、殆どな』

 

 完全に消える訳じゃないのかぁ。

 それはそれで不安である。

 

『オレはオマエだって言ったろ? オマエがどれだけ綺麗事を言ったとしても、オマエが他人の不幸を嗤う存在である事に変わりはねーよ』

 

 それもそうか。

 

 俺は別に改心したという訳ではない。

 ただ欲求のみに支配される事がなくなった、考え方のベクトルが変わったというだけだ。

 

 “人を不幸に陥れ生の喜びを実感したい愉悦部”から“絶望の淵から這い上がる人を見たい愉悦部”になっただけである。

 

 結局クソやんドSやん……。

 

『何となく分かってんだろうけど、これからはオレの“力”も問題なく使える。……んで、これからどうするつもりだ?』

 

 平子さんのところ行くとか、黒崎家にご厄介になるとか、恐らくそういう事を聞きたい訳ではないだろう。

 

 俺も悩んではいるので即答できなかっただけだ。

 

 俺の目標は苺とルキアを曇らせる事。

 これに変わりはない。

 いや、原点に帰ったと言うべきだろうか。

 

 ただ、どうやって曇らせようかって話よ。

 

 二人には死んで欲しくないし、あまりに精神的負荷を与えてヨン様に負けるのも嫌なのだ。

 苺が自分の生まれた時からヨン様の玩具だったとか知った時に、完璧に心が折れる事は避けたい。

 情緒コントロールが難しいな……。

 

 やはり、ここは俺が傷つくべきなのだろうか。

 

 黒崎家と共に過ごす事になるのだし、一護とは幼い時から一緒に暮らす事になる。

 別に死神になる前から曇らせる必要はないし、しょっちゅう見てたらカタルシスも半減だ。

 そのため、死神になるまでは俺が死神である事を隠し、SS編でヨン様と対峙した時に俺が斬られる、とかどうじゃろ。

 

 ヨン様にとって俺は裏切り者も同然である訳だし、恐らく簡単に斬り捨ててくれる事だろう。

 

 

 問題は死神になる際に出会うルキアだ。

 

 

 俺と一心さん、ルキアは顔見知りだ。

 既に死神すら見えない一心さんがどうやって誤魔化してたのかは知らんけど、恐らく原作じゃ顔見知りじゃなかったんだろう。

 浦原さんとは面識が無かったはずだし、そっちは大丈夫なはず。

 

 下手に姿を見せずにコッソリと見守るくらいで良いかなぁ。

 

 既にルキアとは護廷の頃に関わりを持ってるし、この関係性のままでも俺がヨン様に斬られれば曇ってくれそうな気はする。

 

 崩玉ヨン様になる前のヨン様だし、俺が一方的に殺される事もないだろう。

 普通に抵抗できるだけの実力は持っているつもりだ。

 

 ルキアや苺がヨン様に斬られる瞬間に身代わりになればいっか。

 でも破面とかどうすっかなぁ……。

 

 やっぱり苺の味方? 

 それともヨン様に回収される? 

 

 俺の意思は別として、霊圧自体はヨン様好みだろうし何かの実験にでも使われるのだろうか。

 

 お、それならそれで良いじゃん。

 きっと苺が俺を取り返しに虚圏へ乗り込んでくる事になるわ。

 織姫ちゃんポジションだ。

 その時に決死の覚悟で挑む悲壮な顔を観察できれば万々歳である。

 

 相当ガバい考えな気がするが、ぶっちゃけ頭の良くない俺にそれ以上の考えは浮かばなかった。

 

 とりあえず、死神になるまで苺を可愛がってあげよう。

 話はそれからだ。

 

 

『どうやらまとまったみたいだな』

 

 ──オマエの影響で自分の欲望自覚しちゃったじゃん……

 

『そら良い事だ』

 

 ニヤニヤとしている俺の顔を見ると、なんて言うか、違和感? 

 せめてもう少し清楚系な表情してくれませんかね。イメージが悪いんだよ。

 

 ──ただし、誰も彼もを絶望させるなんて事しねーよ? 

 

『わぁってるって』

 

 ほんとかよ。嘘くせぇ。

 今までだって俺の事を騙してたくせによー。調子いい奴。

 

『さっきも言ったろ? オレはオマエの潜在意識を呼び起こしただけだ』

 

 分かってるっつの。

 

 話してると自分のクソさ加減に辟易しそうなので話を終わらせるために立ち上がる。

 

 

『忘れねー事だな』

 

 

 背を向けて“オレ”から離れようとした俺に、奴が声をかけてくる。

 

 

 

『オマエは立派なクソ野郎だよ。

 

誰かの不幸を喜ぶ奴にまともな感性なんか期待すんな

 

だから、オマエは開き直って一護とルキアを弄べば良いさ』

 

 

 

 ほんと碌な事言わないな“オレ”……。

 俺の良心穿って楽しいんでしょ? 流石“オレ”だよ、いや()か。

 

 複雑な気持ちを抱きながら、俺は精神世界を出る。

 

 

 俺は“BLEACH”という作品を一護とルキアのダブル主人公だと考えている。

 

 二人がどのような苦境においても立ち上がる姿を見た。

 どのような絶望にも屈せず、更なる力を身に着けて立ち上がった。

 お互いを信頼し合い、その背を預けて戦っていた。

 

 そんな姿が好きだ。

 

 だからこそ、

 

 

 ──その姿が更に煌めくためには、より深い絶望が必要なのだ。

 

 

 それを出来れば用意してあげよう。

 

 俺が傷つく程度で奮起するのならお安い御用だ。

 

 君らを決して死なせやしない。

 

 凶刃から守ろう。

 心に寄り添おう。

 愛をもって接しよう。

 

 その方が、君たちはより輝ける。

 

 理不尽な敵を払える。

 

 俺に素晴らしい感動を与えてくれる。

 

 

 

 

 

 ――っていう、まぁ、自分の欲望を考えたらそんな話ってこと。

 

 

 

 

 

 本気でやろうとまでは正直そこまで思っていない。

 

 

 色々と今後の事について物騒な事を考えてしまったが、俺は曇った顔の主人公を思い浮かべて内心でニヤニヤと嗤っているだけで個人的には十分なのだ。

 

 前はこんなでもなかったのに、なんか開眼したくさい。

 

 ほんと、“オレ”は余計な事してくれたわ。

 

 

『……はぁ』

 

 

 “天輪”のため息で、今度は純粋に笑いそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

 那由他さんが目を覚ました。

 

 俺のせいで巻き込んだようなもんだ。

 無事である事に心底ホッとする。

 

 ただし、彼女もあの嬢ちゃんから離れられなくなった。

 

 

 つまり──那由他さんと俺との同棲が始まる。

 

 

 いや、未練はないよ? 

 別に引きずってねーし? 

 ドエラい振られ方された時の傷心は確かにあったが、思い返してみれば誠実な対応でもあった。

 

 そんな那由他さんと一つ屋根の下。

 

 いや、別に隣の部屋とか家借りれば良いって話もあるんだが、真咲ちゃんの事を考えればいつでも相談できる同棲ってのが一番良いと思う訳ヨ。

 

 

 いやぁ~~まいったなぁ~~! 

 

 

 とりあえず、俺は真咲ちゃんから離れる事が出来ない。これは確定。

 那由他さんも離れない方が良い。

 

 こっからの生活をどうするかねぇ……。

 

 なんて一人で悶々とこれからの生活を考えていた。

 

「すみません、その……」

 

 那由他さんが困ったような声を上げる。

 珍しいっちゃ珍しいが、別にこの人は無感情な訳でもない。

 どちらかと言うと分かりやすい方だ。

 付き合いが短いと取っ付きにくい印象を受けるが、それなりに話していたら口下手なだけと分かる。

 

 だから、今も何かに困ったのだろう。

 

「どうしたんスか?」

 

 浦原喜助が答える。

 那由他さんは今、奴が用意した義骸に入ったところだ。

 

 俺が解決できる問題でもねぇだろうし、ここはアイツに任せておこう。

 

 

 先ほど浦原喜助──いや、助けてもらったんだし、浦原さんとでも呼ぼうか。一応先輩だし。

 

 彼に聞いた話を、俺は未だに咀嚼できていない。

 

 俺の知っている藍染隊長は、皆から好かれる立派な隊長だった。

 物事には真摯に取り組み、部下の事も思いやっている。

 仕事は早いし、藍染隊長の色が五番隊にも行き渡って他隊の同位の席官よりも五番隊は優秀と言われていたほどだ。

 

 そんな人が全ての元凶……。

 

 (にわ)かには信じられない。

 

 けれど、那由他さんは浦原さんの事を信用しているようだ。

 なら、俺がここで変にツッコんで場を搔き乱すのも良くないだろう。

 

 まあ、一応警戒だけはしとくけどな。

 

 で、那由他さんはどうしたんだ? 

 

 

「実は、その……胸を支える物が欲しいのですが……」

 

 

 思わず彼女の胸元を凝視する。

 

 彼女が入った義骸は浦原さんが作った特殊な物だと聞いた。

 それは、性差や体格に左右される事もなく、入った魂魄を反映して人間としての見た目になるらしい。

 

 つまり、義骸へ適当に服を着せた後に那由他さんが中へ入ったのだが……。

 

「あ、これはうっかりしてましたね。那由他サンほど()()()()()をお持ちの方がこの義骸を使うのは初めてだったので」

 

 那由他さんの胸は、ぶっちゃけデカイ。

 

 十番隊の副隊長だった乱菊よりかは小さいだろうが、男として十分な魅力を感じるサイズだ。

 隠れ巨乳と噂されていた四番隊の虎徹副隊長とどちらが大きいか、なんて下世話な話を飲みの場で野郎共と語り合ったのも懐かしい。

 

 つまり、那由他さんの胸はデカイ。

 

「さらしがあれば」

「いやいや、現代の女性はブラってものを付けてるんスよー」

「……持っているのですか?」

「そんな変態みたいな目で見られるのは心外ッス……。流石に持ってないので、そこらで買ってきましょう」

 

 

「俺がひとっ走り行ってきます!」

 

 

 全力で請け負った。

 当然である。

 

「そ、そのためにも、那由他さんの大きさを確かめたく……!」

「一心サン……下心が露骨過ぎますって」

 

 呆れられた。

 那由他さんは分かるが浦原喜助! オマエなら俺の気持ちも分かるはずだろぉ!? 

 

「でも、サイズが分からなければ買えないのも事実っすね……。ご自身で行きます? 適当に包帯でも巻いていれば……」

 

 

「下が67の上が89です」

 

 

「「え?」」

 

「私もブラくらいは知っています」

「いや、そういう問題じゃなくてッスね……」

「現世任務で時間が出来た時に測ってもらった事があります」

「あ、那由他サンも女性っぽい楽しみ方を知ってたんスね……」

「失敬な」

「いや、これは、その……ハイ、スミマセン」

 

 浦原さんが平謝りしている。

 どうやら俺の発言は那由他さん的に問題が無かったらしい。

 

 んで、これってもしかして。

 

「一心さん。ご迷惑をおかけします」

 

 俺が買いに行っても良いって事だよな! 

 

 俺が選んだ下着を那由他さんが着ける……。

 うっ、少し興奮してきた。

 

 

「那由他さん!」

 

 

 と、ここで女の子の焦った声が響く。

 そうだ。この場にはもう一人女性がいたわ。

 

「ダ、ダメだよ! そんな簡単に教えちゃったら!?」

 

 わたわたと慌てた様子で那由他さんへと駆け寄るのは、先ほどまでの苦痛が嘘みたいに元気な少女──黒崎真咲だった。

 

「そうなのですか?」

「そうだよ? 女の子の大切な体なんだから」

 

 俺が精神世界であの子に宿る虚をぶった斬った時は裸で絡んできた癖に。どの口が言ってんだか……。

 

「そうですね、失念していました」

「でしょ? 買いには私が行ってくるから!」

「はい、ありがとうございます。……少し内なる虚と話しすぎたようです」

 

 その発言は看過できなかった。

 

 話した? 虚と? 

 

 もしかして、この人は──

 

「那由他サン」

 

 すかさず、浦原さんが間に割って入る。

 

「虚は虚です。自我を見失わないよう、注意して下さい」

 

 その顔は真剣だ。

 無事に意識を取り戻したから、全部綺麗に解決したのかと思ってたが……どうやらそういう訳でもないらしい。

 

「分かっています」

 

 那由他さんは静かに頷く。

 しかし、その顔にはどこか影がある。

 いや、これは……諦め? 違う。

 

 ──喜び? 

 

 色々なもんがごっちゃになってて、流石に俺には分からねぇ。

 でも、この人はまた何か厄介なもんを背負ったのだろう。

 

 それだけは分かった。

 

「ただ、あの虚も私の一部だと、理解しただけです」

「違います。虚は虚です」

「いえ、違いません」

 

 俺に口を挟めるもんでもなかった。

 俺の中には虚がいないんだから、那由他さんの心中を完全に理解する事は難しい。

 

 

「私が思い、行ってきたことは──全て私の一部です」

 

 

 それは覚悟とも取れる独白だった。

 きっと、何か目を背けたくなるような出来事もあったのだろう。

 

 だけどよ、それがどうした。

 

「俺は那由他さんと一緒にいるぜ」

 

 那由他さんがこちらを向く。

 相変わらず綺麗な目だ。

 どこまでも内心を見通すかのように澄んだ眼。

 俺は、この人に恥じないように、この人を護れるようになんなきゃなんねぇ。

 

 実力は那由他さんの方が上だ。

 おまけに、俺は死神の力も失っちまっている。

 

 だから、俺は人としてこの人を支えたいと思った。

 

 

 

 

「貴方が側に寄るべきは、私ではなく真咲さんです」

 

 

 

 

 人生二度目のフラれ文句は、流石に結構キツかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺らはお前の事を信用してへんで、那由他」

 

 

 那由他サンの準備が整い、一心サンと黒崎サンを鉄裁サンに任せた後。

 アタシは那由他サンを連れて平子サンたちの元へとやってきました。

 

 まあ、予想していた事とはいえ、なかなかに手厳しい事を言いますね、平子サンも。

 

「分かっています」

 

 しかし、那由他サンも覚悟をもってここへ来ているのでしょう。

 その目に不安の色はあっても揺らぎはありません。

 

「ほなら、俺らの前によう顔出せたな、え?」

 

 平子サンの圧迫面接が続きます。

 

 他の方も表情は硬いです。

 内心の葛藤は出さないようにしているのでしょうね。

 

 ここへ来る前に、アタシは平子サンたちに事のあらましを伝えています。

 

 つまり、那由他サンの行動や藍染サンの元に戻れない事は既に理解しているのです。

 

 それでも敢えてこうやって接するのは、ある意味彼らなりのケジメなのでしょう。

 

「私は、皆さんを見捨てました」

 

 那由他サンが口を開きます。

 もっと他の言い方があるでしょうに。

 不器用な人です。

 

「お兄様の側を選びました」

 

 平子サン他、誰も反応をしません。

 じっと那由他サンを見つめています。

 

 この人たちもこの人たちで那由他サンの本心を見極めようとしていると分かります。

 

「それでも、真咲さんを見捨てる訳にはいきませんでした」

 

 那由他サンが彼女にどのような想いを抱いているのか。

 その全ては分かりません。

 

 それでも、とても大切な存在だという事は分かりました。

 

 何故、そこまで彼女へ肩入れするのか。

 藍染サンへの抑止力となると考えている……? 

 

 彼女の“目”は霊王のものです。

 

 魂魄に宿っているとはいえ、霊王の目は未来すら見通せます。

 

 つまり、真咲さん、もしくは彼女に連なる者が藍染サンへの決め手となるのかもしれません。

 

 全ては那由他サンが藍染サンを止めようと思索している前提での推測なので、あまり楽観視もできませんが……。

 少なくとも、アタシの中で黒崎サンに対する関心が高まったのも確かでした。

 

「なんでや?」

 

 そこには平子サンも気づいたのでしょう。

 短い言葉で那由他サンへ問いかけます。

 

 

「お兄様を止める英雄のために」

 

 

 この言葉で確信できました。

 

 確実に黒崎サンはキーパーソンになります。

 今後も要観察ッスね。

 

 ただ、那由他サンの“目”を平子サンたちに話すかどうかは躊躇いを拭えません。

 

 何故なら、アタシたちがこうやって藍染サンに嵌められ尸魂界を追われた未来というものを、那由他サンは見ていた可能性が高いからです。

 よって、彼女は分かっていて藍染サンを見逃したと考えられます。

 

『魂魄消失事件』の際にアタシについて藍染サンの前へ立ったのも、その未来を覆したいと考えてだったと予想するのが精神衛生上は良いのですが……。

 

 

 那由他サンの言う()()()()()()アタシたちが追放されたと考えるのが妥当かもしれません。

 

 

 アタシたちが追放される事が英雄の誕生には必要な過程だった。

 

 彼女が事件後も護廷に残ったのは今が“英雄のいない時代”だから。

 アタシたちに友好的なのも英雄の成長に力を借りるため。

 そして、黒崎サンを助け藍染サンの元から離れたのも英雄の誕生を決めるターニングポイントだったから。

 

 そう考えれば割と彼女の行動もしっくり来ます。

 

 ただし、これはあくまでもアタシの推測です。

 この予測を知れば平子サンたちは今後も利用される可能性を危惧して那由他サンを排除するかもしれませんし。

 

 もし、那由他サンが未来を救う道のために“今”を選んでいるのだとしたら、彼女の行動を妨げるのはデメリットでしかありません。

 

 

 これが逆に、未来を藍染サンに捧げるための行動ならば……。

 

 

 未来視ってのは流石にズルいっすねぇ。

 アタシもその判断をこの場で下すのは不可能です。

 

 ですから、最大限の警戒をもって貴方を観察させてもらいますよ、那由他サン。

 

 

 

 もし、貴方が世界の平和を脅かすものだと判断できた場合は、

 

 

 

 

アタシが貴方を殺します。

 

 

 

 

 

 

 その後、表面上とは言え協力関係を築いた仮面の軍勢と那由他サンは、ひよ里サンのドロップキックを皮切りに那由他サンがボッコボコにされて纏まりました。

 

 彼女が抵抗しなかったのはせめてもの贖罪でしょうかね? 

 

 ボロ雑巾のようになった那由他サンを見たのは初めてなので、アタシは少し笑ってしまいました。

 勿論、その後は綺麗に治してあげましたよ? 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

「予想通りだ」

 

 

 私は那由他を映す画面を見ながら満面の笑みを浮かべた。

 

 やはり彼女は私を打倒しうる壁を用意するつもりだった。

 あの子の行動を全て好きにさせたのも、この確信を得るため。

 私を理解し、いと高き天へと座する試練を那由他は用意してくれるのだ。

 

 ──素晴らしい。

 

 

 那由他の“目”はたかが未来を見通すだけのものではない。

 

 

 もっと大きな特異性を内包している。

 

 私が超越者としての霊格に至るためには浦原喜助の崩玉が必要だろう。それは確かだ。

 

 しかし、その頂をどのように定義するか。

 霊王に代わり、世界を支配すれば済むのか。

 

 いや、違う。

 

 

 彼女の望む世界こそが頂だ。

 

 

 彼女が望めば、私は天に立てる。

 

 そして、那由他も立てる。

 

 本来はあり得ない、天に二物が立つ事を可能とする、究極的な“未来を選び取る力”。

 

 

 ──“自身の望む未来を引き寄せる”

 

 

 これこそが那由他が持つ“霊王の目”の本来の能力だ。

 

 彼女はその力を遺憾なく発揮している。

 

 全ての者を自らに好意的に誘導し、自らが望む未来を不自然なく取捨選択している。

 彼女が関わりたいと思った人物との縁が出来るように、世界は導かれているのだ。

 

 私すらもその呪縛からは逃れられない。

 

 そして、ギンが私や那由他に敵意を抱いているのも、全ては彼女がそう望んだから。

 

 逆を言えば、彼女は望んでいるのだ。

 

 

 私が天に立つ道を歩む事を。

 

 

 このまま彼女に導かれるままならば、私も那由他に絶望していたかもしれない。

 彼女こそが支配者であり、私が被支配者という構図が成り立つ。

 

 しかし、あの子は私に越えるべき壁を用意した。

 

 那由他の能力も十全ではない。

 あくまで不自然なく導く程度のものだ。

 周囲の願いを取り込み、己が望む世界を構築する。

 本人がそれを為すだけの力を持ち合わせていなければ叶えられる事もない。

 

 

 よって、私が那由他の力と壁を超える事も不可能ではない。

 

 

 那由他の指す英雄は黒崎真咲に連なるもの。

 私はその出現を待つ事としよう。

 

 そして、決めようではないか。

 

 君の用意した試練を乗り越え、私が君の支配すら手中に収めた時──。

 

 

 

 果たして、嗤っているのがどちらなのかを。

 

 

 

 私は那由他を手放すつもりはない。

 

 今までのあの子の行動を見る限り、那由他にとって“私”は重要なファクターと成りうるのだろう。

 そして、それはギンや要も同じだ。

 

 この神の戯曲を私が乗り越え、あの子の拵えた英雄が倒れた時、那由他は私のモノとなる

 

 そのためなら、私は君の敵となってあげよう。

 君に刃を振るってあげよう。

 君の愛するキャラクターたちを、私が存分に絶望させてあげよう。

 

 君の望みは分かっているよ、那由他。

 

 

 ──私を倒す英雄が見たいのだろう? 

 

 

 笑みが深まる。

 

 ここまで私を理解してくれる人物はきっともう二度と現れないだろう。

 

 私に並び立つ存在を用意してくれるというのだ。

 歓迎しない訳がない。

 

 英雄の精神を高めるため、実力を磨き上げるため、世界を導くために。

 私は丁度良い存在だったと言う訳だ。

 

 愚かだな、ギン。

 

 君の願いはきっと那由他によって叶えられるだろうに。

 それに気づかず彼女の成す事ばかりに目を囚われるからあの子の本質を君は見誤っている。

 

 那由他は、君の味方なのだよ、ギン。

 

 自身の命を狙う者すら抱きこむ包容力。

 未来を見通し、望む世界を創り上げる能力。

 私の願いを理解し、敵対という道を選ぶ判断力。

 

 

 ──全てが私の思い通りだ。

 

 

 最終的には、私が手に入れた崩玉に那由他の魂魄を取り込めば良い。

 

 彼女は私の中で永遠に生き続けるのだ。

 

 私は君を愛しく思うよ、那由他。

 

 

 

 

 

「実に、実に楽しみだ……そうだろう、那由他?」

 

 

 

 

 那由他の全てを手に入れるのは私だ。

 

 “英雄”などには渡さないよ……?

 

 

 私の言葉にビクリと肩を震わせる存在は、既に私の目に入っていなかった。

 

 

 

 




結論『那由他≒崩玉』


あと念のため。
本作は”愉悦”だけじゃなく”勘違い”タグもあります。

つまり本作は、あまり深く考えず「愉悦できたら良いな」程度の思いを抱いている那由他の目測をヨン様が深読みした結果、那由他が思ってた形とは違うもののちゃんと愉悦展開になる、っていう全体的な流れを意識して書いています。

その辺りを察して今後をご覧頂けるとありがたいです……!

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