ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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第二章 原作開始・SS編
出会い…だと…!?


──空座町──

 

 

「この辺りか……」

 

 

 私──朽木ルキアは現世駐在隊士となった。

 

 ここに来るまでにどれだけの努力を行い、どれだけの苦痛に苛まれた事か。

 

 20年ほど前のあの日。

 私たちは大切な人を失った。

 

 しかし、それでもあの人は立ち止まらなかった。

 

 尸魂界を追われた身でありながら、現世の人々を救い続けている。

 直接この目で見た訳ではない。

 それでも、現世から届く報告を見ればあの人の善行である事が伺える。

 

 あの人は、那由他隊長はきっと変わっておられないのだろう。

 

 

 そして、数か月前のことだ。

 

 

『浮竹隊長! 私を、私を現世へ向かわせてください! 確かに、私は席官ですらないです。しかし、この二十年間を無為に過ごしてきたわけではありません!』

『……分かっているさ』

 

 前から打診していた現世への派遣。

 本来は隊の中でも下位の仕事であるのだが、とある場所ではその常識が通用しない。

 

『“空座町(からくらちょう)”。その特異性は朽木も分かっているだろう』

 

 浮竹隊長の重い声が響く。

 

 那由他隊長……那由他殿が追放されてから爆発的にその危険度と重要性が変化した地域、“空座町”。

 もはや席官でも上位の者が向かわなければ対処する事すら難しいほどの強力な虚がごまんと出る特異地だ。

 

『相変わらず、那由他の霊圧は確認できていない。確かに一番いそうな場所ではあるが……それは同時に那由他が狙われているという事だ』

『ですからっ!』

 

 だから私が行きたいのだ! 

 

 那由他殿を狙い虚を操る事が出来そうな奴など決まっている。

 

 

『私が必ずや、浦原喜助を討ちます!!』

 

 

 あいつのせいだ! 

 あいつのせいで……!! 

 

『無理だ』

 

 しかし、浮竹隊長は私の意見を一刀両断する。

 

『あいつはあれで元十二番隊の隊長だった。朽木の実力では返り討ちが関の山だろう』

 

 その通りなのだろう。

 だから、私は遮二無二な修練に励んだ。

 

 私だけではない。

 

 世話になった者みなが同じ想いを抱いて今まで生きてきた。

 

 三番隊の吉良副隊長。

 六番隊の兄様や恋次。

 五番隊の雛森副隊長。

 九番隊の檜佐木副隊長。

 十番隊の日番谷隊長と松本副隊長。

 

 特に、二番隊の砕蜂隊長や狛村隊長、射場副隊長を始めとした七番隊の人々の執念が凄い。

 狛村隊長は「いつか必ず! 憎き浦原喜助を討ち、隊長を連れ戻す!!」と口癖のように言っている。

 今では狛村隊長が七番隊の隊長なのだが、あの方は頑として七番隊の隊長は那由他殿だと聞かないのだ。

 

 分かっている。

 

 中央四十六室よりも上の王族特務案件で処分された那由他殿が、尸魂界へ帰ってくる事など不可能だと言う事は。

 

 皆が分かっている。

 

 では、この怒りは、切なさは、悲しみは、寂しさは。

 一体どこに向かえば良いのだろうか? 

 

 ただ、那由他殿の兄君である藍染隊長はあの日からでも変わらない。

 

 初めは随分と薄情な人だと思っていたが、雛森副隊長から話を聞き私は己の過ちを知った。

 

『藍染隊長は、以前にも増して仕事に取り組んでおられます。あまり夜も寝られていないようで……何と声をかけたら良いか』

 

 藍染隊長は隊長としての務めを果たし、覆せぬ理不尽に抗っていただけだった。

 己の目の節穴具合にはほとほと呆れる。

 

 

 それでも、私がこの時期に“空座町”へ向かいたい理由はあった。

 

 

『空座町にて、()()()()()那由他殿の霊圧が探知されたと噂になっております』

 

 

『人の口に戸は立てられぬ……かな』

『やはり!』

『ああ、そうだ』

 

 観念したのか、浮竹隊長は口を開き説明してくれた。

 

 本当に微弱──護廷の平隊士程度──な霊圧が十二番隊にて観測された事。

 那由他殿の霊圧に酷似していたが、不安定すぎて確証が持てない事。

 その時には、産まれたばかりの貧弱な虚の気配もあったが、そちらは一瞬で消えた事。

 

 そして、その他に未確認の霊圧が一つ感知された事。

 

『状況から判断して、恐らくは虚退治に出た那由他に第三者が介入。抗戦を避けた那由他が即撤退……というのが上の見方だ』

『那由他殿は、いつも霊圧を感じさせない徹底した隠密行動をしていたはずです。それが今回に限って微弱とは言え瀞霊廷に探知されたというのは……!』

『不意打ちで一発もらった……しかも浦原喜助の可能性があるな』

『ならばっ!!』

 

『……朽木みたいな奴が何人いるか知っているか?』

 

 私は口を噤む他になかった。

 

 平隊士である私が知っているくらいだ。

 皆がこの情報に飛びつき空座町行きを志願するのは目に見えている。

 

『今回の件は隊首会で審議した上で対応を検討する』

 

 浮竹隊長はそう言って、ゆっくりと部屋から出て行った。

 

 皆が願っている。

 あの人の無事を。

 あの人の帰還を。

 

 

 そして──浦原喜助の抹殺を。

 

 

 

「いかん……いかんな」

 

 私は思考を現在に戻し、思わず首を数度横に振る。

 

 例え殺したいほどに恨んでいようと、今の私の任務は現世の虚退治だ。

 表向きとはいえ仕事は仕事。疎かにして良い理由にはならない。

 

 隊首会で派遣者が私に決まったのは驚いたものだが、同時に私が認められたようで誇らしかった。

 

 ただ、恋次が悔しがるのは分かるが、砕蜂隊長がやたら敵視してくるのだけはどうにかして欲しい……。

 

 私は皆の期待と想いを背負ってここにいる。

 絶対に見つけてみせる。必ずだ。

 

 待っていろ、浦原喜助──! 

 

「強い魄動を感じる……が、何か不自然だな」

 

 私は瞬歩で夜の街の上空を渡りながら、虚の気配を辿っていく。

 

 虚は失った心を求め人を、霊的濃度の高い人物や“整”を襲う。

 だからその痕跡を辿ればある程度の出現場所は予測がつくのだが……。

 

 感覚的に私の霊圧探知が何か阻害を受けている印象を受ける。

 

 もしや、浦原喜助か……? 

 

 私は踏み込む足元に力を入れた。

 

 そして、一軒の家に入る。

 

 私は死神だ。人間などには見えない。

 傍から見たら不法侵入になるだろうが、見えない相手を不審者などという輩はいないだろう。

 気にするだけ無駄だ。

 

「近い……!」

 

 

 

「近い……! じゃあるかボケェ!!」

 

 

 

「!!??」

 

 私は唐突に背後から蹴りをくらう。

 な、何事!? 

 

「随分と堂々とした泥棒じゃねぇか、あぁ!?」

 

 驚き振り向いた先には派手な橙色の髪を持った男がこちらを指さし咆えている。

 

 え、見えている? 

 そんな馬鹿な。

 

「うるせぇぞ、一護ぉ!!」

 

 予想外の出来事にポカンと間抜け面を晒していた私に追い打ちをかけるように、また今度は別の男性が部屋に入ってきて男を膝蹴りする。

 

 な、何なんだ、一体……って!? 

 

 

 

「し、ししし志波隊長ぉぉぉぉぉ!!??」

 

 

 

 そこには、那由他殿とほぼ同時期に消息を絶った志波一心元十番隊隊長の姿があった。

 

 それほど親しい関係性ではなかったものの、那由他殿を通して面識くらいはある人物だ。

 那由他殿が追放された後は私の事を気にかけてもくれていた人物である。

 少々記憶よりも年を重ねているが、私が見間違うはずもない。

 

「志波……? こいつは俺の親父で黒崎だぞ? ってんな事はどうでも良い! おい親父、この家のセキュリティはどうなってんだ!?」

 

 男は私をもう一度指さしながら志波隊長に怒鳴りかける。

 

 親父? 

 

 父親? 

 

 こ、この男!? 一心殿の息子殿かぁ!? 

 

 え、え、え!? 

 

 一心殿に息子!? 

 

 現世で!? 

 

 死神が人間とこづ、くり……!? 

 

 前代未聞すぎて脳の処理が追い付かない。

 

「ん? 見ろって……何を見るんだ?」

「あ? 何ってこのサムライみたいな姿の──ん? そういやお前、なんか霊圧持ってんな」

「サムライ……霊圧……。あーお父さん、用事思い出しちゃったー!」

「「は?」」

 

 一心殿は焦ったように下手な棒読みで息子殿の部屋から出て行く。

 

「ちょ、ちょっと!? 一心殿!? 説明、説明をして頂こうか!?」

「親父には見えねぇよ。お前、幽霊だろ? 親父にはそういう奴は見えねぇから」

「何……?」

 

 息子がいるという事は一心殿は義骸に入っているのだろう。

 一体どこで手に入れたのかは分からないが、失踪する前に十二番隊から勝手に拝借でもしたのかもしれない。

 しかし、元護廷の隊長だぞ? 

 いくら義骸に入っているとはいえ、私の姿を認識できないとも思えない。

 

 一体、何が起こっている……。

 

 

「私は幽霊ではない。──死神だ」

 

 

 ここは情報収集した方が良い。

 私はそう判断し、何やら事情を知っていそうなこの男──黒崎一護に話をする事に決めた。

 

 

 

 

「なるほど。アンタは死神で、その“尸魂界(ソウル・ソサエティ)”ってところから虚を退治しに来てるってワケか」

「うむ」

「分かった」

 

 存外に理解が早かった。

 

 いや、これはある程度の情報を知っている者の反応だ。

 先ほど私を見て“霊圧”という言葉を漏らしていた事からも判断できる。

 

 そして、この知識をどこから得たかが問題だ。

 

 一心殿と一護の会話からは一心殿が説明したとは思えない。

 現世の隊士が話したならば報告が上がっているはずだ。

 

 

 であれば、浦原喜助に聞いたか、那由他殿に聞いたか。

 

 

 この二つが有力な候補だ。

 

 相手は一心殿の息子。浦原喜助との関わりがあるとは思えない。

 まずは那由他殿について探りを入れてみるのが得策か。

 

「今度はこちらが聞きたい」

「おう」

「藍染那由他、という名に聞き覚えは?」

「あん?」

 

 途端、一護の視線が厳しくなった。

 

 これは、当たりか! 

 

 私は思わず嬉しくなってしまう。

 あの方の知り合いにこうも早く会えるとは。幸先が良い。

 

「お前」

「朽木ルキアだ」

「あぁ、じゃあ朽木」

「ルキアで構わん」

「だぁあ! ルキア! てめぇ、あの人に何の用がある!?」

 

 短気な奴だ。

 騒々しい。

 

「先ほども言ったはずだ。今度はこちらが聞きたいと。質問には答えてもらおう」

 

 ここでみすみす重要な情報を逃す気はない。

 何が何でも喋ってもらうぞ、黒崎一護! 

 

 

「……俺の、お袋みたいな人だ」

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

「何度も言わせんな……」

 

 どこか照れた様子で頬を掻き視線を背ける一護の様子に、私は再び間抜けな反応しか出来なかった。

 

 

 

 お袋? 

 

 母? 

 

 

 

 

 

 は、はははははは母親ぁぁぁぁぁぁぁああああ!!??

 

 

 

 

 

 な、那由他殿が母親!? 

 

 と言う事は……那由他殿と一心殿が……? 

 

 マ、マズイ……私が砕蜂隊長に殺されてしまう……。

 

 これは絶対に口外しない方が、いやしかし、尸魂界へと帰れば報告しない訳にもぉ。

 そうか、那由他殿も義骸に入っていたから霊圧を見つけられなかったのか。

 義骸とは言え尸魂界の技術の粋を集めて創ったものだ。

 義骸同士でも致せば子供が出来るのだろう。

 

 知らなかったなー……。

 

 

 わ、私はどうすれば良いのだぁ!? 

 

 

「何一人で百面相してんだ?」

「するわ!?」

「おぉう!?」

 

 仰け反っている阿呆など気にしている場合ではないぞ! 

 本当にどうする! いや、分かってはいるのだ。報告する他ないと。

 いや、しかし……!? 

 

「そうだ、那由他殿!」

「あん?」

「那由他殿はどこにいる!?」

「あの人なら今日は用事があって出掛けるって……」

 

「「!?」」

 

 その時、恐らくは一護と同時に察知した。

 

 すぐ近くに虚の気配。

 

 こいつ、本当に霊圧の制御に成功してるのか。

 死神でもないただの人間が。

 

 ただ、両親が那由他殿と一心殿という事なら納得である。

 

 あの二人は元とは言え隊長格。

 ならば息子にその才能が受け継がれていても不思議ではない。

 

 いくら那由他殿が側にいると言っても、私は現世駐在隊士。

 私が対処するのが本来の筋だ。ここで動かぬ道理はない。

 

「貴様はここでじっとしておれ!」

「断る!」

「邪魔だと言うのが分からんのか!」

「へっ! この程度の奴なら俺一人でだって片付けられるんだよ!」

 

 明らかに調子に乗っている。

 

 言葉の節々に感じる自信から、どうやら一護は何度か虚を退治した経験があるようだ。

 なるほど。十二番隊が察知した“那由他殿に酷似した微弱な霊圧”というのはこやつのか。

 

 しかし、

 

「縛道の一! “塞”!!」

 

「──!?」

 

 まるでなっていない。

 

「て、てめぇ、何しやがった!」

「どうやら鬼道については教えてもらっていないようだな」

「鬼道……?」

「死神にしか使えぬ高尚な呪術だ。貴様は大人しくそこで転がっているが良い」

「くっそ!」

 

 ばたばたともがいているが、鬼道はその構築を読み取り構成を理解した上で相反する霊力を注ぎ込まなければ解除できない。

 如何に才能があろうとも鬼道の“き”の字も知らぬ若造に破れるような代物だとは思わぬ事だな。

 

「きゃぁっ!?」

 

「遊子の声だ……!」

 

 一護が私よりも素早く反応する。

 恐らく家族の一人なのだろう。

 このままでは不味い、早く虚を仕留めに行かなければ! 

 

「な、バカ! これを早く解け!」

 

 私はあやつの怒声を無視して扉を開ける。

 瞬間、虚の霊圧が私を襲った。

 

 昔の私だったら気後れするほどのものだ。

 

 しかし、今ならば問題ない。

 ただ、これほどの霊圧に気付くのが遅れたのが不可解だった。

 

 この霊圧の虚を「一人で片付けられる」と豪語していたな……。

 

 確かに、あやつの霊圧は高い。

 普段は抑えていたようだが、私の縛道を抜けようとした瞬間の霊圧は驚嘆に値するものだった。

 先ほどは「自力で解除するなど不可能」というような事を言ったが、あれでは保って数十秒だろう。

 

 流石、那由他殿のお子という事だろうか。

 無意識に口元が弧を描いてしまう。

 

 いや、いかん。

 

 まずは目の前の虚だ。

 

 急いで二階から一階へと移動。

 そこでは道路に面する壁に大きな穴が開き、一心殿と一人の少女が背から血を流している惨状が広がっていた。

 

 あの一心殿が不覚を!? 

 

 ちっ、どうやら霊圧制御の得意な虚だったか。

 油断できない。一護を置いてきてよかった。

 

 しかし、そのような虚相手に私がすぐに片を付けるというのも難しいか……。

 

 何を弱気になっている! 

 

 ここはあの那由他殿のご家族が住んでいる家! 

 

 

 私が必ずや護ってみせる!! 

 

 

 視線を穴の奥に向ける。

 そこでは、一人の少女が虚の手に捕まっていた。

 見る限り一護の妹君だろう。

 苦しそうに呻いている姿だった。

 

 ゆっくりと虚がこちらへと顔を振る。

 

 随分と余裕だな! 

 

 一足で虚の間合いへと入った私は斬魄刀を抜き放ち少女を掴んでいる腕を切り裂いた。

 

「Aaaaaaaaa!?」

 

 虚の悲鳴が鼓膜を震わす。

 

 くそ、切り落とすつもりであったが予想以上に硬い! 

 

 それでも虚は掴んでいた少女を手から離す。

 

「遊子!!」

 

 そこへ一護が滑り込むように入り込み、地面にぶつかる前の少女──遊子というらしい──を受け止めた。

 

 やはり大した時間稼ぎは出来なかったか……!

 

「てんめぇぇぇぇええええ!!」

「な、馬鹿者!?」

 

 家族を傷つけられ怒りが頂点に達したのだろう。

 一護は妹を優しく道路脇に横たえると、今まで抑えていたのか信じられないほどの膨大な霊圧を撒き散らし虚へと吶喊していった。

 

 死神の強さとは霊圧に直結する。

 

 これほどの霊圧を既に持っている一護ならば、問題なく打倒する事が出来るだろう。

 

 

 ──普段と同じであれば。

 

 

 あやつの手には何もない。

 当たり前だ。

 死神でもないただの人間が斬魄刀など持っている訳がない。

 

 つまり、怒りに身を任せた単なる特攻だ。

 

 霊圧を身にまとい、拳に特に霊圧を固めている様子から殴り掛かるようだが、

 

 

 

「後ろだ!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 虚が、()()()()()()事に気付いていない!! 

 

 

 

 その時の行動は咄嗟のものだった。

 

 後になって考えれば、私がもう一体の相手をすれば良かっただけの事。

 

 しかし、体が勝手に動いたのだ。

 

 

 那由他殿の背を追いかけ、その姿に憧れた。

 

 大きな不利を抱きながらも、誰もが認める実力と死神としての在り方を見せていた。

 

 あの人は()()()のだ。

 

 その背で人を護る、という事を。

 

 

 

「あああぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「お前!?」

 

 気付いたら、私は一護の背後から迫る一撃を、体でもって受け止めていた。

 

 馬鹿か、私は。

 

 噛みつかれた肩口に激痛が走る。

 一応だが構えていた斬魄刀で虚の口元を切り裂く。

 悲鳴を上げて虚は口を離し後ずさった。

 

「そのケガじゃ無理だ、お前は下がってろ!」

「どの口が言うか……貴様の短慮が招いた事だろうに……」

「……すまねぇ」

 

 一護は虚から目を離さずも、一度私を抱えて距離を取った。

 

 ようやく冷静になったようだな。

 怪我を負った甲斐があるというものだ。

 

 しかし、

 

「下がるのは貴様だ、一護」

「な、馬鹿言ってんじゃ」

「馬鹿を言っているのは貴様だ」

「なっ」

「いいか、よく聞け」

 

 死神とは何か。

 

 人を護るのだ。

 

 魂魄の調停者としての役目が重要なのは分かっている。

 

 では、何故その魂魄を護るのか。

 

 魂魄とは何か。

 

 

 

 ──“人”だ。

 

 

 

 護廷とは、この世を、ひいては人を護る組織である。

 

 人がいなければ世は成り立たぬ。

 

 それを言葉ではなく行動で教えてくれたのが、那由他殿だ。

 

「私は死神だ。貴様ら人間の中では、死神は“死”を運ぶそうだな。だが、死神とは“死を齎す者”ではない」

 

 一護の息をのむ雰囲気が伝わった。

 私の拙い言葉で、どれほどのものが伝わるかは分からない。

 それでも、今ここで一護に任せて見物するような奴が、“死神”を語る訳にはいかない。

 

 

 

 

「死神とは、

 

――“人の魂を守護する者”だ!!」

 

 

 

 

 足に力を入れる。

 上手く入らない。

 ガクガクと揺れる。

 くそっ。

 私はこんなところで、倒れる訳にはいかないのだ。

 

「悪かった」

 

 耳に一護の声が届く。

 驚くほど静かな声だった。

 

「お前も、護る事に誇りを持ってたんだな」

 

 何に共感したのかは分からない。

 けれども、一護にとって“護る”とは特別な意味を持つ言葉だったのだろう。

 

「だったら、お前の力を貸してくれ」

 

 一護は私と背中合わせに立つ。

 

「俺には一人相棒みたいな奴がいる。でも、そいつは護るっつうか、“プライド”みたいなモンを抱えて戦う奴だ」

 

 それが誰なのかは知らない。

 ああ、もしかしたら“未確認の霊圧”と聞いていた人物なのだろうか。

 そうか、あれは浦原喜助ではないのか。

 それを聞いて少し安心してしまった。

 

「俺はあんたの想いを受け止める。無碍にはしねえ。馬鹿にもしねえ――だから、この場だけは俺に任せろ」

 

 その言葉が、どれほど私の胸を打ったか。

 どれほどの美辞麗句を並べようとも伝えられる自信はない。

 

 それほど、私は嬉しかったのだ。

 

 

 那由他殿の息子に、私は認められたのだ。

 

 

 

「ならば、私の力を与える」

 

 

 

「何?」

「貴様の霊圧は大したものだ。しかし、その扱いはどこか不自然に感じる。恐らく、死神としての力を理解できていないからだ」

「死神なんて存在もさっき知ったからな」

 

「だから、私の力を預ける」

 

 私の覚悟を悟ったのだろう。

 虚と対峙してから、一護は初めて私の方を向いた。

 

「貴様の両親は偉大な死神だ。その力を貴様が受け継いでいるのは、その霊圧を見れば分かる。であれば、私の力を渡す事で、貴様はきっと死神となれる」

 

 虚は動かない。

 まるでこちらを待っているようだ。

 不自然ではある。

 しかし、わざわざこちらから仕掛ける必要もない。

 

 

「貴様に、死神としての責を背負う覚悟はあるか」

 

 

「貴様じゃねぇ。──黒崎一護だ」

 

「お前ではない。──朽木ルキアだ」

 

 

「へっ、ルキア。覚悟があるかだって? んなもん決まってんだろ」

 

 私は斬魄刀の切っ先を一護の胸元へと軽く添える。

 一護は私の意図を察したのか、不敵な笑みを浮かべたまま、その抜き身の刀身を右手で握った。

 

 

 

 

 

 

「そんな覚悟──6年前にはもうしてんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その日、新たな死神が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 




書いてて気づいた。
私は展開速度が遅い(今更

でもチャン一とルキアの出会いはファンとして描きたかったんじゃぁ……

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