ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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日常…だと…!?

「これで歯車が回り始めた──って感じッスか?」

 

 

 一護とルキアの邂逅に胸を熱くしていた俺。

 

 少し離れたところから観察していたが、無事ルキアの力が一護に渡って本当に安心した。

 一護が予想以上に強くなってたから、かなり心配だったんだよね。

 

 いやぁ、良かった良かった! 

 

 なんてホッと一息ついた時だった。

 

 俺の側に帽子と下駄を履いた胡散臭い人が舞い降りる。

 なんかもうこの「お見通しですよ」って感じの雰囲気が胡散臭い。

 逆に凄いと思う。

 

 視線を少しだけ浦原さんの方へと向けるも、すぐ俺は視界の中心に一護の姿を収める。

 

 黒い死覇装(しはくしょう)

 肩に背負った斬馬刀が如き巨大な斬魄刀。

 ルキアは力を失ったのか、驚いた顔でその場にへたり込んでいる。 

 

「どうやら朽木サンの霊力を根こそぎ持ってったようッスね。たぶん、黒崎サンの想いに朽木サンが呼応しちゃったんでしょう。死神の力の譲渡は前例が殆どないですし、結構調整が難しいんスよ」

 

 へー、そうなんだ。

 なんか適当言ってる気がするが、まだこの時点だと崩玉の真の力みたいなものは誰も分かってなかっただろうし。

 メタスタ君事件でルキアがしっかり絶望していたって事かな?

 

 まあ、浦原さんの考えが妥当なラインなんだろう。

 よく知らんが。

 

「一番濃厚な線は“那由他サンが望んだから”ですが」

 

 ん? 

 何で? 

 

 俺が望んだら上手くいったんか。んな馬鹿な。

 

 浦原さんの頓智は俺には理解できんので謎かけはやめましょ? 

 

「まあ、これで黒崎サンは死神の力を覚醒させる事に成功しましたね!」

 

 ヘラヘラとした笑みで俺に声をかける浦原さん。

 やっぱり苺が特別ってもう気付いているのか。さす浦。

 

 まあ、真咲さんと一心さんの息子だしね。

 

 実際、鰤で出てきた技の全てを苺は行使できる才能を持っているわけだし。

 流石主人公、公式チートだね。

 そんなところも好き! 

 

 浦原さんの言葉をBGMに、俺の眼下では苺の無双劇が始まっていた。

 

 原作と違って虚が二体出た事には驚いたが……もしかしてお兄様?

 

 何か分からない事があったら大体はヨン様のせいやろ。もしくは浦原さん。(思考放棄

 

 しかし、元々の素質に加え、六車さんの稽古を6年も受けていたのだ。

 基礎は出来ている。

 既に相当強い。

 

 多分……護廷の副隊長くらいならもう倒せるんじゃ……? 

 

 霊圧だけなら隊長格と普通に渡り合えそうである。

 え、恋次大丈夫かなぁ。白哉も頑張れ!

 

 だだだ大丈夫! 今の苺は瞬歩もどきは出来ても鬼道とか全く知らんから!

 俺は白哉の“白雷”で鎖結と魄睡を打ち抜かれる苺の絶望顔に期待しているよ!

 死神の力の根本を破壊された後、その力を復活するための修行には俺も全力で付き合うつもりだったし。

 

 脳内でそんな風にこれからの展開に一人でキャッキャしている内に、苺はあっさりと二体の虚を蹂躙し一瞬で戦闘は終了した。

 

 

 さて、ここからどうすっかなぁ。

 

 

 まずは浦原さんに義骸を用意してもらうか。

 今後も諸々の備品は全て頼る事になる訳だし。

 原作通りルキアには浦原さんを頼ってもらうのが良さそうだ。

 

 でも、原作のルキアって何か初めっから浦原さんの事を知ってたっぽいんだよねぇ。

 

 尸魂界からの逃亡生活をしていたはずの浦原さんとどうやって知り合ったんだろ。不思議。

 

「とりあえず、義骸は用意しときましたよ」

 

 準備が良いなー。

 予測してましたってか? 

 胡散臭さに磨きがかかってますね。

 

「ルキアが義骸を受け取りに行くはずです」

「いや、それはないッスね」

 

 速攻で否定された。

 

 え、だって原作の雰囲気だとそんな感じじゃなかった? 

 

「アタシッスよ? 尸魂界から大罪人として追われてるんスよ? 朽木サンがアタシの所在を知ってる訳ないじゃないッスかー。見つかってたら打ち首獄門ッスよ」

 

 いや、確かにそうだとは思うんじゃが……。

 

 ああ、閃いた。

 

 人間に死神の力を譲渡した時点で既に魂魄法における重罪。

 一護と別れた後で困っていたルキアに手を差し伸べたのが浦原さんって寸法だったのかな!

 この時点でルキアは既に尸魂界からは行方不明扱いだし。

 雨竜くんが撒き餌で大量の虚を呼び出すまで、そいぽん率いる隠密機動に見つかってないのも浦原さん頼みで行方をくらませてたんでしょ。さす浦。

 

 ……どうしよ。

 

「言ったッスよ。那由他サンにお任せって」

 

 思考を読んだ上に語尾に音符でも付けてそうな声色はやめい。

 でも、どこかのタイミングで浦原さんとは知り合う訳だし、早い方が良くない? 

 

「一緒に行きましょう」

「やめましょ?」

 

 結構必死な懇願になってきた。

 

「一心サンみたいに斬りかかられるのはホント勘弁なんですよ~!」

 

 別にそこまで恨まれてはないと思うけど。

 一心さんの時は真咲さんが虚化するタイミングが被ったからだし。

 

 あれ、でも一心さんが登場した時はまだしてなかった気が……。ま、いっか。

 

「分かりました」

「助かります!」

 

 本気で感謝された。

 

 ぜってぇその内紹介すっからな! 

 待っとけよ! 

 

 では、とりあえずルキアの回収と、その後に苺に説明かなぁ。

 一心さんとも顔合わせてるっぽいけど、原作だと何故かスルーだったし俺も余計な事は言わない方が良いんかな。

 

 なるようにな~れ♪ 

 

 という訳で、俺は霊圧遮断コートを羽織った後に霊子変換装置を使い死覇装姿へと変わる。

 最近ではもう義骸との結びつきが強すぎて簡単に着脱できないんだよねぇ。

 この姿だと義骸本来の霊圧抑制も働くから大した力は出せないのだが、まあ、義骸をそこら辺に放置する訳にもいかんし。

 便利な道具を開発してくれた浦原さんに感謝である。

 

 ピョンと飛び降りる形で空中へと踊りだし、瞬歩を使ってルキアたちの元へ。

 

「え? 今すぐ行くんですか……?」

 

 なんて浦原さんの困惑の声を背に、俺は思考停止して苺たちの元へ飛んで行った。

 

 

 

「な……那由他殿ぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 俺が姿を現した後、一瞬の静寂が場を支配する。

 そして、いの一番に俺へと飛び込んで来たのはルキアだった。

 おお、愛い奴よのぉ~。

 

 俺の胸に顔を埋めるルキアの頭を優しく撫でる。

 えぐえぐと泣き始めたルキアに、俺の心は更なる満足感を充填できた。

 

 おっと、“オレ”。今はお前の出番じゃない。

 

「久しぶりですね、ルキア」

「な゛ゆ゛た゛と゛の゛ぉぉぉぉ~~~!!」

「綺麗な顔が台無しですよ」

 

 内心では素敵すぎて小躍りしているが。

 

 と、俺の登場に斬魄刀を構えたままポカンとしていた苺が再起動する。

 

「その恰好、コスプレ……じゃねぇよな」

 

 どう? 似合う? 

 

 苺に初めてお披露目した晴れ姿を見てもらいたくて両手を広げてみる。

 霊圧遮断コートを着ているから今一つ見栄えは良くないが。

 

「バッカ!? もう俺は高校生だっつうの! 飛び込む訳ねぇだろ!?」

 

 え、コメントは無し? 

 お姉ちゃん寂しい……。

 

 ズビズビと鼻水まで流し始めたルキアの感激ぶりに言葉を暫く失い、苺はそのまま気まずそうにそっぽを向いた。

 

 え~、一言くらい何か、何かないのぉ~。

 本当は苺に褒められたくても我慢してたのにぃ。

 折角の初披露なのにぃ。

 

 やはり俺には圧倒的にOSR値が足りない。知ってた。

 

「なに不満そうな顔してんだよ……」

 

 遂には呆れられ始めた。

 しどい……。

 

「てか、このタイミングで来たって事は──説明してくれるんだろうな?」

「そ、そうです! 今まで何があったのですか、那由他殿!?」

 

 苺の言葉にガバリと顔を上げたルキア。

 その表情は涙等々で色々と崩れていたが瞳は真剣そのものだ。

 

 まあ、説明するつもりで出てきましたし。

 

「まずは傷の手当を」

 

 回道を使ってササッと二人の傷を治してあげた。

 その後には一心さんや遊子ちゃん、夏梨ちゃん。

 浦原さん謹製の記憶置換装置も忘れない。

 

 記憶置換を一心さんに使うかは迷ったが……何かルキアの気迫が凄かったので止めておいた。どしたん、君。

 

 応急処置とは言え家の穴も木材で適当に塞ぎ、とりあえず外からの目が気にならない環境を整える。

 本当は浦原商店にでも連れて行こうかと思ったが、浦原さんの悲痛な叫び声を幻聴したので止めておく。

 遊子ちゃんたちを放置するのも不味いだろうしね。

 

「さて」

 

 どこからどう話したもんか。

 

 やっとこさ一息つけた時には深夜を回っていた。

 遊子ちゃんと夏梨ちゃんはベッドへと運んだが、一心さんは何故かルキアと苺に蹴り起こされていた。父親の扱いが不憫すぎる。

 

 思わず「大丈夫ですか」なんて俺が声をかけたらルキアが凄い複雑そうな表情をしていた。

 君、そこまで一心さんの事が嫌いだったっけ……。

 俺がいなくなった後、一体何が二人の間に起きたんだ。

 

 一心さん。まさか俺のルキアに変な事してないよねぇ──? 

 

 再び義骸の姿へと戻った俺含め、三人からの圧力にしどろもどろになっている一心さんは役に立ちそうにない。

 ここは俺が話さなければならないだろう。

 でも俺口下手なんだよねぇ。大丈夫かしら。

 

「一護」

「おう」

「隠していてすみませんでした」

「……俺が弱かったからだろ」

 

 不貞腐れたように拗ねる苺の顔にキュンとしてしまう。

 いかん、話が進まん。

 

 えーっと、この時点で苺とルキアに開示して良さそうな情報は……。

 

「私は一心さんたちと、この家に住んでいます」

「どのくらいですか!?」

 

 速攻でルキアが食いついてきた。

 心配かけてごめんね。でもその顔が好きなのぉ……。

 

「15年ほど」

「一護、貴様はいくつだ!」

「は? 15だけど」

「ぐぅっ!?」

 

 何故かルキアがショックを受けている。

 なんなん?(困惑

 いや、ルキアの焦燥顔は好きだけどさ。理由が分からないと如何とも反応出来ない。

 

「出来、婚……」

 

 そういう知識は持ってんのね。

 まあ、女の子だし。耳年増というような年齢でもないが。

 

「いえ、違います」

「と、言うと?」

「愛し合っていました」

 

「ガッハァ!!」

 

「ルキア!? ほんとお前どうした!?」

 

 いきなり仰向けに倒れたルキアを仰天しながらも苺が支える。

 うんうん、苺は優しい子に育ったねぇ。お姉ちゃん嬉しい。

 

 で、ルキアどったん。

 

 真咲さんと一心さんが愛し合っていたのは当たり前でしょ。

 目の前に愛の結晶がいるんだし。

 

「しかも、愛し合って……()()!?」

 

 ルキアがよろけながらもゆっくりと立ち上がる。

 何か語尾に殺気を感じる。

 

「一心殿……これはどういう事か……? 今では愛していないとでも……?」

 

 一心さんは俺が渡した義骸に入ったルキアの姿を既に視認出来ている。

 ただ、それでも一心さんも訳が分からないといった表情をしていた。

 俺の顔面が動いたら同じような顔になってるよ。

 

「親父、ルキアに一体何したんだよ」

 

 流石の苺もこれには疑惑の視線を父親にぶつける。

 

「俺には何も情報入ってきてないんですけどぉ!? 理不尽すぎない!?」

「愛していないのか、と聞いています、一心殿……」

「お、俺は家族皆を愛してるぞ? 亡くなった母さんの事もな!」

 

 

 ──そうなのだ。

 

 

 真咲さんは、苺が高校に上がったとほぼ同時に亡くなった。

 苺の高校の制服を見て、満足そうに微笑んだ、その晩の事だった。

 

 遊子ちゃんや夏梨ちゃんは泣きじゃくっていたが、苺は泣かなかった。

 

 ただ強く、強く拳を握りしめ。

 火葬場で灰となっていく真咲さんを見送るように昇る煙を、ただジッと見つめていた。

 

 強い子になった。

 本当に、強い子になったね、苺。

 

 俺の方が泣きそうだったよ。

 やっぱり無表情先生は欠勤してくれませんでしたが。

 

「亡くなった……?」

 

 そこでルキアは動きをピタリと止めると胡乱気な視線で一心さんを射抜く。

 迫力凄いなぁ。ちょっと霊圧当ててるし。

 

「あ、ああ。俺の奥さん、真咲っつうんだけど、ついこの間にな、病気で亡くなった」

 

 少し空気が重くなりかけるが、一心さんがハッハと笑って誤魔化す。

 下手したら貴方が一番辛いでしょうに……。

 

「私もいます」

 

 ちょっと心配になって一心さんの側に寄る。

 

 この家にはまだ俺も、苺も、遊子ちゃんも夏梨ちゃんもいる。

 一家の大黒柱として変わらぬ馬鹿と笑顔を振りまいている一心さんだが、真咲さんが亡くなったのはつい先日だ。

 そこまで簡単に割り切れるものでもないだろう。俺だって結構辛いんだし。

 

 原作展開だと思ってはいても、出来るならば救いたかった。

 

 竜弦さんに話を聞きに行ったり、浦原さんに何か出来ないか相談もしてみた。

 それでも運命って奴のせいなのか、俺の願いは叶わなかった。

 

 いや、違うな。

 

 俺はどっかで諦めていた。

 これが既定路線なんだ。

 叶絵さんも亡くなったんだし、逆にここまで延命できただけでも良い事だ。

 

 そんな想いが胸の片隅で魚の小骨のように俺をずっとチクチクと刺激していた。

 

 だから、真咲さんが死んだ時も「やっぱりかぁ」なんて気持ちもあったのだ。

 

 

 そして、逆に言えば苺たちをしっかりと育てなければならないとも感じた。

 

 

 6年前なんて、遊子ちゃんと夏梨ちゃんはまだ5歳だ。

 母親に甘えたい盛りだろう。だから、せめてその寂しさを紛らわしてやりたいと思った。

 夏梨ちゃんには少し鬱陶しく思われてるっぽいけど……。

 

 それでも、俺は黒崎家へと居座り続けている。

 

 原作展開を考えるならば、俺はルキアと出会わないように家を出るべきだったのかもしれない。

 ここで俺とルキアが出会えば、尸魂界を出てからの事を追及されるなんて自明の理だ。

 その点を踏まえて浦原さんに対処して欲しかったんだが、まあ今となってはどうしようもない。

 

「那由他さん……」

 

 一心さんが肩にそっと添えた俺の手に自身の手を重ねる。

 流石にこの程度の身体的接触でギャーギャー言うほど狭量ではない。

 今までに育んできた家族としての絆もある。

 一心さんも女性として愛しているのは真咲さんただ一人。俺はそれが分かっているからこそ、こういった気兼ねない関係性を築けていると思えている。

 

 

「そんな、馬鹿な……ここまで一途……他の女に盗られ……つまり都合の良い、後妻……!?」

 

 

 五歳? 

 

 なんのこっちゃ。

 

「志波一心」

 

 ルキアは腰に一瞬手をやり、そこに何も無い事に気が付くと、今度は人差し指と中指を立てた握りこぶしを一心さんに向ける。

 おん? それ原作で見た事あるルキアの鬼道ポーズ。しかもいきなり一心さん呼び捨て。

 

「覚悟は良いか?」

 

 地を這うようなルキアの怨嗟の声が響く。

 

「え、何の……?」

 

 皆がキョトンとする中、

 

 

 

「死に晒せ! この女の敵がぁ!!!」

 

 

 

 ルキアの暴走で話は中途半端なところでお開きになった。

 

 流石に力を失ったばかりの彼女に鬼道を放つだけの霊圧は残っていなかったよう。

 ただし、それでも諦めず一心さんに殴りかかる彼女を必死で止める俺と苺。

 その様子を一心さんは怯えてガクガク震えながら見ていた。

 

 そらな。いきなり年下の女の子に呼び捨てにされて親の仇でも見るような視線で射抜かれたらそうなるわ。

 

 

 

 その後、俺の部屋にルキアが寝泊まりする事となった。

 

 

 就寝前に「那由他殿を悪鬼共の手から必ず私が護ってみせます!」とだけ意気込んだ彼女だったが、布団にくるまったらすぐに寝てしまった。

 何か追及されるかと思っていたが、どうやら結構な疲れがたまっていたようだ。

 

 明日はルキアの転校手続きとか諸々を朝に済ませてしまおう。

 その後に折を見て浦原さんを紹介するか。

 どのタイミングが良いんだろ。わっからんわぁ。

 

 

 次の日からルキアも空座第一高等学校に通い始めた。

 

 ルキアは昨日の夜に家へやってきた親戚、なんて都合のよすぎる記憶置換が発生したせいで遊子ちゃんと夏梨ちゃんもルキアが家にいる事を疑問に思っていない。

 ルキアはルキアで遊子ちゃんと夏梨ちゃんを猫可愛がりしているし、反して一心さんには生ゴミを見るよりも酷い視線を向けている。

 

 一心さんは泣いて良いよ……?

 

 俺で良かったら慰めるからさ。胸くらいならいつでも貸すよ。

 

 一応一心さんのフォローをしておこうと思ったが、ルキアは「分かっています」とでも言うような決意の籠った目で俺の下手くそな会話を遮るだけだ。

 

 苺も文句をグチグチと言ってはいたが、詳しい事は何故か聞いてこない。

 

 

 あれから結構日にちが経ったにも関わらず、結局何も話せていない現状の出来上がりだ。

 浦原さんも紹介できてないし……。

 そもそも、何で浦原さんと知り合えていないルキアの追手が来ないのか。

 

 

 まあ、都合良いからいっか!

 

 

 雨竜くんと苺が和解して、チャドと織姫ちゃんが覚醒して、後は白哉と恋次がルキアを回収してくれたらもう何でも良いよ。(遠い目

 

 

 

 

 ……結構あるなぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

「転校生驚いたねー。黒崎くんと仲良かったんだぁ」

 

 あたし──有沢たつきは今、織姫の部屋にいる。

 

 呑気に言葉を漏らす親友だが、それで良いのか? 

 

「馬鹿じゃないの、アンタ!?」

 

 思いっきりツッコんでしまった。

 いや、だって、ねぇ? 

 

「織姫、一護のこと好きなんでしょ? なんでそこでチャンスを無駄にするかな」

 

 そうなのだ。

 あたしの親友──井上織姫はあたしの幼馴染、腐れ縁? の一護に好意を持っている。

 正直あたしからしたらアイツのどこが良いのかよく分からないが、まあ人の好みにケチをつけるつもりはない。むしろ応援している。

 

 あいつ、シスコンの気があるからなぁ……。

 

 これを機会にいい加減姉・妹離れをすれば良いと思う。

 

 まあ、家族を大事に想う一護の気持ちも分かっちゃいるんだけどさ。

 

「や、やっぱりそうなのかなぁ……」

 

 織姫はあたしと違って凄く女の子らしい。

 実はちょっと羨ましくも思っている。

 

 顔も整っているし、何より乳がデカイ。

 

 高校生男子にとっては目に毒なレベルだ。

 そんなもんをぶら下げてるんだから、一護に迫れば一発だと思うんだけど。

 まあ、そこであまり積極的になれないところも織姫の良い点と言えば良い点だ。

 

 なんて、今後の一護に対するアプローチについて織姫と語り合っていた時だった。

 

 

 

 ──バスン! 

 

 

 

 突然、織姫の後ろの方から何かが裂けるような音がする。

 

 驚いて音の方へ視線を向けると、そこには一体の人形が落っこちていた。

 

「ああっ! エンラク~!?」

 

 どうやら織姫のお気に入りの人形だったらしい。

 悲し気な表情と情けない声を響かせ、床に落ちた人形のところまで小走りで駆け寄っていった。

 

「ひどい~! なんでこんな裂け、てるの……?」

 

 織姫が拾い上げたエンラク(?)の顔は綺麗に裂けて中から綿が出ている。

 

 けれど、少し不自然な形だ。

 

 布の劣化ならばこんな鋭利な切り口にならない。

 

 そして、織姫が何か違和感を感じ取ったように言葉尻をすぼめさせた時だった。

 

 

 

 人形の裂け目から、化け物の手が伸び彼女の胸を貫いた。

 

 

 

「なっ!?」

 

 一目で分かった。

 

「“虚”!?」

 

 どうやってここに来たのか分からない。

 いや、たった今現れたのだ。

 しかし、どうして人形から現れたのか。どうして織姫の家に現れたのか。

 

 今まで見たのは外を徘徊していた。

 

 つまり、この虚は初めから()()()()()()ここに現れた! 

 

 師匠に聞いた。

 虚は霊的濃度の高い者のところへ現れると。

 織姫も数年前から師匠の鍛錬を受けている。

 護身術を基本とした型のようなものだが、それでもこうも突然襲われたら防ぐのも難しい。

 

 くそっ! 

 もっと普段から霊圧探知でもしてれば良かった! 

 

 ここにはあたしも含め二人の霊的濃度の高いらしい人間がいるのだ。

 襲われる可能性はむしろ高い。

 

 でも、

 

「なんで織姫を……?」

 

 咄嗟に距離を取るも部屋の中は狭い。

 見えた虚の手の大きさから考えて、ここでは碌に動けないだろう。

 

 そして、一番の疑問が織姫よりも霊圧の高いあたしを最初に狙わなかった事だ。

 

 織姫の方が狙いやすかったというのも分かるが、あれは完全な不意打ちだった。

 だったら、先にあたしを無力化した方が効率も良い。

 

 虚にそこまでの知能があるかは分からないが、あたしが立ち向かった虚は人語を介する奴の方が多かった。

 

 

『虚は元人間だ』

 

 

 師匠の言葉を思い出す。

 

 

『心を失った虚は心を求める。自分にとって大切な(もん)を、大切な人から真っ先に奪う。そういうバケモンになっちまった存在だ』

 

 

 何故、今この言葉を思い出したのか。

 

 認めたくないと心が叫ぶ。

 

 しかし、あたしは見てしまった。

 

 虚の仮面が一部割れている。

 

 もしかしたら、一護が既に交戦した後なのかもしれない。

 

 なんでよりにもよって()()()なんだよ。

 

 

 この人が、何で織姫を襲うような事をしてんだよ! 

 

 

 あたしはまだ弱い。

 

 才能はあるみたいだけど、それは人間としての限界を伸ばすものではない。

 あくまで霊力を持つ人間にしては強い、という意味だ。

 

『これを飲んだら、もう有沢サンはただの人間ではいられなくなります』

 

 胡散臭い男から貰った一粒のキャンディをポケットの中で握る。

 

 言っている意味は良く分からなかった。

 それでも、これは最後の手段にしろと伝えたい事くらいは分かった。

 

『何故、お前は強くなりたい。強くなってどうしたい』

 

 師匠は事ある毎に聞いて来る。

 

 あたしはその明確な目的を今まで持てずにいた。

 ただ、一護に負けたくないという、反骨心のようなものだ。

 

『これを飲んだら、貴方は霊体となります。そして、肉体の制限から解放された有沢サンの実力は、今の数倍にまで上がるでしょう』

 

 目的も朧げで、力に溺れる訳にはいかない。

 理想もなく、ただ駆ける事しか出来ないあたしに、今までこれを使うような覚悟は無かった。

 

『ただし、これを飲んだら()()()()()から命を狙われる、くらいの事は覚悟してください』

 

 目の前で織姫が倒れる。

 体から繋がった鎖を残し、織姫の魂だけが肉体から抜け壁へと叩きつけられた。

 

 虚が現れる。

 

 

 その虚は、三年前に死んだ──()()()()の顔をしていた。

 

 

 この虚に、この人に。

 あたしは拳を向けられるのか。

 別にお兄さんと親しかった訳ではない。

 それでも、無関係であった訳ではない。

 

 知り合いを、あたしは殺意で殴れるのか──? 

 

 永遠とも思える一瞬の迷いの時間が生まれる。

 戦闘においては致命的な差だ。

 

「あ」

 

 あたしの間抜けな声が虚ろに響く。

 

 戦場で迷うのは命取り。

 

 師匠、ごめんなさい……。

 

 

 

 

 

「てめぇ、何やってんだ! たつき!!!」

 

 

 

 

 あたしを掴むはずだった手は何かによって弾かれる。

 

 いや、分かっている。

 

 一護だ。

 

 ああ、あたしは一護に助けられたのか。

 

 どうしてだろう。

 悔しさよりも安心感が勝る。

 

 そして、それ以上の不甲斐なさがあたしの胸を貪った。

 

 一護は虚に怒りを示したのではない。

 あたしに怒ったのだ。

 親友を目の前で傷つけられ、対抗できる手段もあったのに。

 

 それでも拳を握れなかった、あたしに怒ったのだ。

 

 その時に理解した。

 

 

 

 

 

 ああ、甘えん坊だったのは──あたしだったか。

 

 

 

 

 

 

 その後、一護は織姫のお兄さんを助けた。

 

 最後は織姫の声で正気を取り戻したようだが、その光景をあたしは呆然と見つめている事しか出来なかった。

 

 あれだけ馬鹿にして嫌っていた一護が、ライバルになり相棒になって。

 あたしはいつの間にか満足してしまっていたのかもしれない。

 

 ははっ。

 

 今のあたしじゃ、あいつの横には立てないわ。

 

 

「たつき」

 

 

 一護があたしの目の前に立つ。

 

 その側にはこの間の転校生、朽木さんも立っていた。

 

 そういえば、“死神”って存在なんだっけ。

 あんまり理解できてないけど、一護の霊圧が増したのは朽木さんの影響らしい。

 

 あたしももっと強かったら、何か違ったのかな……。

 

 織姫は困惑しながらも成り行きを見守っている。

 あたしに失望したかなぁ……。

 

「おまえ、何で構えてなかったんだよ」

 

 一護の声が胸に刺さる。

 

 力を持っても、振るう勇気がなかった。

 

 6年前に『一護の強さを一番知っているのはあたし』なんて豪語しておいて、アイツならあたしの横に立てるなんて調子乗って。

 

 

 

 

 

 ほんと──なっさけないなぁ……あたし。

 

 

 

 

 

「ごめん」

「謝って欲しい訳じゃねぇ」

「ごめん」

「井上の兄貴だったからか」

「ごめん」

 

 

 

「後悔してんなら、謝るよりも前を向け!!!」

 

 

 

 一護があたしの胸倉を掴む。

 

 思わず跳ね上げた視線がカチ合った。

 

 

 

 

「てめぇの強さは俺が一番知ってんだ! 

 

 

そんな情けねぇ面を、俺はぜってぇに認めねぇ

 

 

誰よりも、俺の()()()()は強ぇんだ!!!」

 

 

 

 

 ポカンとした。

 

 ライバル、って……相棒じゃなくて? 

 

 いや、あたしも結構ライバルとして意識してたのは認めるけどさ。

 

 もっとこう、意気消沈の女子にかける言葉はあるんじゃない? 

 

 らしくない女々しい考えに笑いそうになる。

 

 

「相棒じゃないんだ」

「違ぇ。相棒は隣に並ぶやつだ。でも、ライバルは追いかけて、追い抜きてぇ奴だ。──相棒は気にかけても、ライバルは俺が心配するような奴じゃねぇ

「護りたい人は?」

「全部だ」

 

 一切の迷い無しに言い切れるこいつは凄いよ、ほんと。

 二人三脚で肩組んでる人が相棒で、徒競走の相手がライバルって感じかね。

 

 でも結局ライバルも守りたい中に入ってんじゃん。

 自分の言ってる事が矛盾してるって分かってんのかね。

 

 あたしの悩みがちっぽけなものに見えてきた。

 

 そうだね。あんたのライバルなら、ライバルらしくしなくちゃね。

 

「じゃあ、仲間は?」

「あ?」

「仲間よ、仲間」

 

 一護は面倒臭そうな顔をする。

 別に口が上手い訳でもないしね。

 

「背中を預けられる奴だよ」

 

 ぶっきらぼうに返される。

 ちゃんとした言葉で返ってくるとは思っていなかったので少し驚いた。

 

「じゃあ、あたしはライバルで仲間なのかー」

「くそっ、何か馬鹿にされてる気分だ」

 

 すっかり調子を取り戻したあたしに、一護は憎まれ口を叩く。

 

 

「ありがと」

 

 

「あん?」

 

 一度しか言わないっつうの。ばーか。

 

 

 

 

 

 

 その後は騒がしくも平穏な日常が過ぎた。

 

 

 何か改造魂魄とかインコに宿った子供の霊とか──6年前の事件を起こした虚退治とか。

 

 一護とあたしだけじゃなくて、那由他さんを傷つけた虚と知ったルキアさん含めた三人がかり。鬼の形相で返り討ちにしてやった。

 

 一護は本当は自分一人で仇を取りたかったみたいだけど、まあ那由他さんは今も元気だしね。

 確実に倒せる方法を選んだみたい。

 

 虚の方も「逃げ場なんかないんだぁぁあ!」みたいな悲壮な雰囲気で向かってきたが、何だったんだろうか。

 

 那由他さんも呆れたような諦めたような、妙な悲壮感を漂わせた顔(無表情)をしていたのを覚えている。

 そこら辺は付き合いが長いので雰囲気だ。

 

 ただ、その時は本気で嘆いていたようで、

 

 『あぁ、名シーンがぁ……一護の誇りがぁ……』

 

 なんて一生に一度見れるかレベルで凄い落ち込んでいたので、皆して焦ったものだ。

 

 

 

 そんな感じで過ごして数か月。

 

 

 一学期の期末考査が終わった後の事だった。

 

 

 あの日は今でも覚えている。

 今までの日常だとか、護りたいもののために頑張るだとか。

 毎日を精一杯に生きていたあたしたちの運命がガラッと変わった日だった。

 

 

 

 

 あたしはその日、“滅却師”という存在を知った。

 

 

 

 

 成績優秀な優等生で、取っつき辛い不愛想なクラスメイト。

 

 

 

 

 ──石田雨竜の“力”を知った。

 

 

 

 

 




グランドフィッシャー……
彼は尊い犠牲となったのだ、ヨン様の手によって。

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