まあ、たつきの立ち位置が変わっているんで全く同じって訳でもないんですが
「家まで付いて来る気かい? ──黒崎一護」
僕──石田雨竜を下手くそに尾行している男に声をかける。
父から軽く話だけは聞いていた。
死神代行が新たに生まれたと。
前任者を僕は知らないが、今回新たに生まれた死神代行とやらが同じクラスの黒崎である事はすぐに分かった。
彼の霊圧が前日とはまるっきり変わっていたからだ。
今までの霊圧とは赤子と大人ほども差がある。
先日に比べ相当に強くなっていた。
また、同じく霊圧を感じていた有沢さんからは特に変化を感じない。
井上さんも同様だ。
この三人からは出会った瞬間から霊圧を探知できていたのだが、彼らの反応を見る限り僕の霊圧に気が付いたのは有沢さんだけだろう。
僕が教室に入る瞬間は必ずチラリと視線を向けられる。
一応制御はしているのだが、それでも僅かな霊圧で気付かれているようだ。
彼女の霊圧探知能力は中々に高いようである。
対して、僕と同じ手芸部で接する機会も比較的多い井上さんは全く気が付いていない。
いつもニコニコと僕に笑いかけてくるが、死神を師匠と呼んでいる人と仲良くなる気にはなれなかった。
いや、それは彼女に限らない。
黒崎も有沢さんも、僕は友諠を結ぶ気にはなれないのだ。
──僕が小さい頃に、祖父が他界した。
寿命ではない。
虚によって殺されたのだ。
祖父──石田宗弦は立派な滅却師だった。
滅却師の在り方を僕にいつも説いてくれる師匠だった。
虚という人の敵に対して、人を護る術を教えてくれた尊敬すべき人だった。
そんな彼も死んだ。
死神に見殺しにされた。
彼が虚の気配を察知し向かった先には五体もの虚がいた。
一人では手に余る数だ。
それでも、祖父は立ち向かった。
『人でも死神でも、悲しむ顔を見るのは、わしゃ辛い』
そう言っていた祖父の顔は未だに鮮明に覚えている。
虚を滅却する者と、送る者。
その立場の違いによって争った過去を蒸し返し恨む事などしない。
けれど、現世に生きている僕たち滅却師の方が現世に現れた虚に対処するのも容易だ。
だから祖父は死神との協力体制を取ろうと努力していた。
──それを、死神は拒否した。
いつも駆け付けるのが遅い癖に、『邪魔をするな』としか言ってこなかった。
何故だ。
何故救いの手を差し伸べるべき人の安全を考えていた祖父が切り捨てられねばならなかった。
あの人が死ななければならなかった!
僕は死神を恨んでいる。
黒崎を恨んでいる訳ではない。
けれども、この町を護るのに、死神の力は必要ない。
僕は滅却師の力を磨いた。
祖父が目指した人の安寧を僕が護るために。
死神に頼らずとも、僕自身が救えるように。
しかし、この町には僕が感知するよりも早く虚を始末する死神がいる。
悔しかった。
まるで僕を嘲笑うかのようだった。
認めたくなかった。
己の無力を、僕は断じて認めたくなかった。
父は滅却師としての道を捨て、僕の師匠であった祖父は死神によって他界した。
既に滅却師として在る者は僕一人になったと言っても過言ではないだろう。
今この町にいる死神については、先日転校してきた朽木ルキアを挙げられる。
だいぶ力を失っているようだが、霊絡を見れば死神かどうかなど一発で分かる。
そして、黒崎一護が姉として慕っている藍染那由他。
彼女も死神だ。
恐らく、この人が町に出没する虚を退治して回っているのだろう。
迅速な対応においては、確かに感謝している。
しかし、僕は死神を認める訳にはいかない。
──祖父を見殺しにした死神など、認めない。
「勝負しないか、黒崎一護」
何か一人騒いでいる彼に僕は話を持ち掛ける。
彼が接触してきたのだ。
いい機会だろう。
「分からせてあげるよ。──死神なんてこの世に必要ないって事をさ」
僕はそう言い、手に持つ虚を呼ぶ“撒き餌”を発動させた。
▼△▼
俺──茶渡泰虎は先日、不思議な存在を認識した。
認識と言っても目に見えた訳ではない。
見えないが、いた。
そんな不可思議な存在だ。
そして、あの日──インコを助けた時以来、ぼんやりとだが他の人に見えないものが俺には見えるようになった。
恐らく、幽霊という奴なのだろう。
俺自身から関わる事は殆どなかったが、知人から預かったインコの事件によって俺の認識は少し変わっていた。
見えないけれど、分かる。
そんな相手に対して、俺はどうすれば良いのか。
助けを求められたら、俺には何が出来るのだろうか。
あの時は転校生の朽木と一護に助けられた、らしい。
中学の時から不良に絡まれやすい見た目をしていた俺と一護は相棒のような関係になっていた。
いつの間にかだ。
ただ、あいつは不良を退けても傷つける事は極力避けていた。
俺は体格が良く、普通の人間なら耐えられないような事にも耐えられる体を持っている。
だから無駄に暴力を振るう事を良しとしない。
一護のスタンスも俺と合致していた。
気が合う、というのも頷ける話だ。
『また人を殴ったのかい、ヤストラ』
──
俺は俺を傷つける奴らと、どう向き合ったら良い。
思い出す少年の日々。
あの頃は売られた喧嘩に対して、全て俺は暴力でもって応えていた。
『おまえのその、強く大きい拳が何のためにあるのか、それを知りなさい』
──
俺は貴方から大事な事を教わった。
貴方の存在そのものが、俺にとっての光だった。
だから考えたんだ。
俺を傷つけた人を、俺はどうしたいのか。
どうする事が、正しい道なのか。
『優しくなりなさい』
──
俺は傷つけられる人を、少しでも護りたい。
今ではそう考えられるようになったよ。
全て貴方のおかげだ。
そして、同じような考えを持つ相棒にも出会えた。
傷つけられるのは痛い。
傷つけられるのは嫌だ。
傷つけられるのは悲しい。
だったら、俺の知る理不尽から他者を護るためにこの拳を振るう事に、貴方は微笑んでくれるだろうか。
「バ、バカッ!? 来んな、アッチ行けぇぇ!!」
その少女の声で、俺の思考が今に戻る。
どうやら少し気を失っていたらしい。
目に映る景色は横向きだ。
倒れてしまっていたか。情けない。
そうだ。
今は何故か襲ってきたよく分からない幽霊のような奴と争っていたんだ。
俺を狙ってくる奴。
ならば、人気のない場所へ行けば周囲への被害も抑えられる。
そう考え人気のない空き地を目指したが、そこには一護の妹とその友人たちがいた。
どうやら、一護の妹にこの幽霊はしっかりと見えているようだ。
なんとか彼女らを護ろうと動いたが、しっかりと見る事の出来ない奴を相手にするには無理があった。
幽霊に殴られ地面へと転がり一瞬意識を失っている間に、その場にいた一護の妹の友人たちがこちらへと駆け寄ってくる。
きっと彼女を心配しての事なのだろう。
一護の妹は、そんな彼らを護りたいのだろう。
──皆がきっと、優しい心を持っているのだろう。
俺は護ろうとした。
顔も名前も知らない、けれども幼い命を護るべきだと感じた。
自分以外の者が、誰しも誰かを傷つける訳ではない。
自分よりも弱い存在は、この世界に多くいる。
そんな存在に暴力を振るう人物は確かにいる。
けれども、全ての人がそうではない。
誰もが心には大切な人を宿している。
護りたいと思う人がいる。
傷ついたら悲しむ人がいる。
自分よりも、尊いと感じる。
俺が振るう暴力よりも、この大きな体よりも、この大きな拳よりも。
よほど尊い存在だ。
だから、俺はその得難き理想を護りたいと思った。
俺の理想は見つかっていない。
自分の護りたい存在が分からないからだ。
命を賭けてでも護りたい大切な個人がいないからだ。
じゃあ、俺は何のためにこの拳を振るう?
さっきも考えた。
俺は、尊き存在を護るために拳を振るおう。
自分にはない輝きを持つ人のための盾となろう。
大きな体でもって、理不尽な暴力に立ち塞がろう。
困難な壁をこの拳で打ち砕こう。
──
俺は間違っていないよな。
俺にとって大切なのは人よりもこの気持ちなのかもしれない。
誰かを護るというこの気持ちこそが、俺の信念なのかもしれない。
人よりも恵まれた“力”を持つ俺は、“憧れ”なんて持っていないんだ。
何かに憧れ、追いかけるモノが見つからないんだ。
でも、何かを追いかける人を助けたいとは思うんだ。
家族を護る一護。
親友を護る有沢。
そんな奴らを助けたい井上。
皆が、目指す理想を、俺も一緒に歩んでいきたいんだ。
だから、俺が持つのは“憧れ”じゃない。
周囲の人を、この目の前の少年少女たちを、体を張って護る俺の行いはきっと、
分かってるよ。
俺の拳が大きいのは何故か。
俺の体がデカイのは何故か。
みんなみんな、分かってるよ。
『ヤストラ、お前は大きい、お前は強い。──だから優しくなりなさい』
──
だから少し、俺に力を貸してくれ。
▼△▼
「もー、こんな後片付け手伝わされるなら来るんじゃなかったなぁ~!」
学校の窓がいきなり割れた。
あたし──有沢たつきは自分がした訳でもない事の後処理を友人と一緒にしている。
まあ、この子が愚痴言うのも分かるけどさ。
霊圧探知をMAXまで上げる。
やはりいる。
体育館の屋根の上。
虚だ。
ただ、町のいたるところから虚の気配を感じる。
うじゃうじゃと、どんどん湧いてくる。
その濃厚な霊圧に少し吐き気を覚えるほどだ。
同時に一護とクラスメイトの石田の霊圧も感じた。
何が起こったのかは分からないが、どうやら二人は虚への対処を行うようだ。
一護は霊圧制御が下手くそ過ぎて近くにいると周囲の霊圧を探る際の邪魔になる。
いつもその馬鹿みたいに垂れ流している霊圧を何とかしろと言っていたが、先日から更に酷くなっていた。
転校生の朽木さんの影響なのだろう。
死神、だっけ。
簡単な説明しか受けていないが、どうやら師匠もその死神という存在だったらしい。
なんで話してくれなかったのかは知らないが、確かにいきなり話されても意味は分かんなかっただろう。
そう考えると、難しい事を考えずに修行へ打ち込めていた。師匠の気遣いに感謝するべきか。
あたしはもう一度チラリと体育館の方へ視線を向ける。
そこには織姫がボンヤリとした様子で空を眺めていた。
きっとこの子にも見えているのだろう。
空を割るようにして次々と現れる虚の気配が。
今すぐにでもこの場を放りだして、あたしも虚退治に向かった方が良いんじゃないだろうか。
そんな考えが頭をよぎる。
しかし、先日起こった織姫のお兄さんの事件が、未だにあたしの心に暗い影を残していた。
あたしは結局、自分の大切な人を護りたいだけなのだろう。
一護のように、皆を護ると言う覚悟を持てない。
織姫が危ない時ですら勇気を振り絞れなかったのだ。
あたしにはヒーローになる資質ってやつがないんだろうさ。
でも、それでも良い。
あたしは織姫を護りたい。
皆じゃなくて良い。
ただ、目の前で傷つきそうなこの子を護れればそれで良いのだ。
だから、ここで織姫から目を離すのも怖かった。
彼女も随分と強くはなったのだ。
霊圧のコントロールも上手くなっていたし、体術も少しは見れるようになってきた。
普段がのほほんとしているから向いていないと思っていたのだが、意外と才能はあるようだ。
それでも、あの子の基本は“守”だ。
自分から攻めたりする事には適性がない。
性格の問題だろう。才能的には攻めでも行けそうな気はしてるんだけど。
「ね、早く帰ろ!?」
織姫が突然な言葉を伝える。
空元気だろう。雰囲気で分かる。
さっきから感じる虚に怯えたのだと思う。
あたしだけならまだしも、ここには普通の人間が多くいるのだ。
虚が狙うのは霊圧の高い人間。
ならば、その筆頭候補であるあたしたちがここから離れれば、ここにいる人たちの安全はある程度確保できる。
「あたし道着のままだから着替えてくるわ!」
少しでも織姫を安心させてあげたくて、あたしはワザと何でもないような調子で言った。
流石にこの恰好のまま帰る訳にもいかない。
虚の気配は未だに濃いが、どうやら今学校にいる虚は自分から何かしでかすようなタイプではないみたいだ。
やる気ならさっさと手を出しているだろう。
静かにしている今の内に準備を整えた方が良い。
そう判断したあたしは急いで着替えるために小走りで部室の方へと向かった。
そして、あたしはこの判断が間違っていた事をすぐに思い知らされた。
着替えが終わるとほぼ同時。
学校中の窓が割れるような音と、何かが爆発したような振動が伝わる。
「織姫……? 千鶴?」
さきほどまで一緒だった友人の顔が脳裏をよぎる。
あたしは馬鹿だ。
馬鹿だ。
馬鹿だ!
どれだけ間違えれば気が済むのだろう。
どれだけ後悔すれば気が済むのだろう。
どれだけ──!?
「何してんだよ!? お前ら!!」
すぐに校庭へと戻ったあたしの目の前に広がっていた光景は、無数の生徒たちの群れだった。
皆が傷つき血を流し、目は虚ろ。
きっと正気ではない。
そんな奴らが、織姫に襲い掛かっていた。
彼女の制服は破れ、素肌の一部が露わになっている。
一瞬で頭に血が上った。
あの虚のせいか!
奴は自分が戦うのではなく、他者を操るタイプなのだろう。
今までに戦った事のない奴だ。
あたしは──あたしが許せない。
平和な世界に暮らしてきて、自分もそれなりに強いと思っていた。
でも、違うんだ。
平和なんてちょっとした出来事で崩れる。
あたしはそれをついこの間に経験したばかりだってのにさ!!
一護と初めて会った時を思い出す。
ヘラヘラとした、ムカつく笑顔。
男の癖にすぐに泣く。
でも、それは安心する場所がどこかはっきり分かってたからだ。
その場所が6年前に壊れた。
あの時の事を思い出す。
河原をうろつく一護の後ろ姿。
そんなアイツにかかる師匠の声。
『お前はこのままで良いのか? 大切なもんを護れなくて、それで良いのか?』
良い訳ないよね。
あたしだってそう思った。
でも、その決意は一護の方が圧倒的に強かった。
何で強くなるか、アイツは明確な意思を持っていた。
たぶんあたしは“憧れ”てたんだ。
あいつの真っ直ぐな瞳に。
あたしもそうなってみたいって。
──何で?
今まで何度も考えた。
何で強くなる。
何で。
何で。
何で。
何で。
答えは出そうで出てこない。
それも、この間の事件ではっきりした。
あたしは馬鹿だ。
腕力にものを言わせて殴る事しか出来ない。
だから、何で殴るのかを理解できたあたしは、もう振りぬく腕に躊躇いを持たない。
持っては、いけないんだ。
「そこのデッカイ奴! あんたケンカする相手を間違えたね!!」
あたしは校庭に降り立った虚に向かって叫ぶ。
アホみたいだな。
間違えてばっかなのはあたしなのにさ。
責任転嫁もいいところだ。八つ当たりと言われても反論できない。
でもさ、あたしは“プライド”持ってんだ。
一護みたいに護りたいもんがデカい訳でもない。
織姫みたいに傷ついた誰かに寄り添える訳でもない。
──じゃあ、あたしは何で強くなりたい?
瞳が燃える。
霊圧が吹き上がる。
決意が灯る。
拳を握る。
口元には笑み。
射抜く眼光に、迷いはもうない。
ああ、あたしは馬鹿さ。
馬鹿で何が悪い。
馬鹿なんだからさ、難しく考える事はないんだよ。
全部を護る事なんて出来ないんだ。
“憧れ”なんてクソ喰らえ!
犬の飯にもなりゃしないよ!
あたしが持つのは“覚悟”なんだ!
何がなんでも貫き通す、芯が今までなかったんだ!
だったら、一番大切なもんを護れば良い!
「かかってきな!」
あたしが護りたいもん。
別に修行を始めた段階で持ってたものから探さなくても良かったんだ。
今、あたしが、この場で!
いっちばん大事だって思うもんが、あたしの護りたいもんなんだ!!!
強くなる理由?
決まってんだろ!
「昔っから織姫を泣かす奴は、
このあたしにブッ倒されるって決まりがあんのよっ!!」
▼△▼
最初に思ったのは、「ここから離れなきゃ」。
次に思ったのは、「気付かなければ良かった」。
昔のあたしだったら、きっと「気付かなければ良かった」が先に思い浮かんだ事だと思う。
そうならなかったのは、多分黒崎くんやたつきちゃんたちと、何かを護るために強くなりたいと願い、そのための努力をしてきたからだと思う。
でも、あたしはあんまり強くなれなかった。
考え方が戦うって事に向いていないんだと思う。
それでもあたし──井上織姫は黒崎くんとたつきちゃんの力になりたかった。
あの日、お兄ちゃんが亡くなった時。
あたしは黒崎くんの優しさに触れた。
知り合いですらなかったあたしの心に寄り添ってくれた。
自分の経験を話してくれて、だから自分は強くなって、今度は俺が護ってやるんだって、そんな強い瞳で語り掛けてくれた彼の姿を忘れられない。
──あたしは、その時に恋をしたのだと思う。
ずっと眉間に皺を寄せて難しい顔をしているけど。
皆は乱暴者だって敬遠しているけど。
本当の黒崎くんは、人の痛みに気付ける人だから。
誰かのために立ち上がれる人だから。
どんな時でも前を向いて、真っ直ぐに進める人だから。
だから、あたしは彼を好きになったんだ。
そんなあの人に近づきたくて、あたしは“憧れて”いたんだと思う。
でも、黒崎くんは挫けない訳じゃない。
無敵のヒーローじゃない。
落ち込みもすれば、泣く事だってある。
お兄ちゃんを助けてくれたあの夜、黒崎くんが言ったんだ。
『兄貴ってのが、どうして最初に産まれてくるか知ってるか?』
考えた事がなかった。
ただ、先に産まれただけだって。
『後から産まれてくる……弟や妹を護るためだ!!』
お兄ちゃんもそうだったのかな。
あたしを護ろうと必死だったのかな。
ううん、知ってる。
お兄ちゃんは必死だった。
あたしを護るために必死だった。
だから、あの時の黒崎くんの言葉に、あたしは心が震えた。
あたしは、誰かに護ってもらう事を、当たり前だと思っていたのかもしれない。
『兄貴が妹に向かって“殺してやる”なんて……
この人は護れなかったんだ。
“姉”を護れなかったんだ。
だから妹は死んでも護る。
そして、強くなって姉も護る。
いずれ、大きな存在全てを護る。
その覚悟をしたんだ。
自らの弱さを知っているから、だから護りたいんだ。
──その瞬間、あたしはこの人を
あたしを護ってくれたのは黒崎くんだけじゃない。
たつきちゃんはあたしの手を引いてくれた親友だ。
お兄ちゃんはあたしの髪を綺麗だと褒めてくれた。
でも、中学の時に「その髪が気に入らない」って言われて同級生に髪を切られた。
お兄ちゃんを心配させないために気分転換なんて言ったが、その時は酷く傷ついた。
何がいけなかったのか。
何が悪かったのか。
何か気に入らなかったのか。
何がきっかけだったのか。
全く分からなかった。
ただただ、悲しかった。
そんなあたしを護ってくれたのがたつきちゃんだった。
あたしに向かって怒ってくれた。
あたしの話を真剣に聞いてくれた。
あたしの側にいつもいてくれた。
また髪を伸ばせたのもたつきちゃんのおかげだ。
あたしはもう髪を短くする事はない。
だって、あたしの髪の長さはたつきちゃんへの信頼の証だから。
目の前でたつきちゃんが苦しそうな顔をしている。
たつきちゃんの周囲にはたくさんの生徒がいる。
虚はその向こう側で気色悪い声で嗤っている。
なんでそんな事が出来るの?
虚だから?
人の心が分からないから?
だから、他の人を操って酷い事が出来るの?
分からない。
あたしには分からない。
でも、たつきちゃんは弱い人を傷つけない。
たつきちゃんは自分の事を卑下する事がある。
黒崎くんみたいにはなれないって、どこか諦めたような寂しそうな笑顔をする。
そんな事ない!!
たつきちゃんは凄いんだ!
あたしのヒーローなんだ!
だから、そんなたつきちゃんを助けたいんだ!
必死に誰かを護ろうとする黒崎くんも!
必死にあたしを護ろうとするたつきちゃんも!
あたしにとっては憧れで、大切で!
でも、それだけじゃ駄目なんだ!
あたしは護りたいんだ!
大切な大切な、あたしの大切な人たちを護りたいんだ!!
もう護られるだけじゃ、駄目なんだ。
あたしは前を向く。
たつきちゃんを見る。
正気を無くした生徒たちを見る。
奥にいる、虚を見る。
立ち上がる。
足が震えて笑っている。
だからなんだ。
あたしの願いは、想いは、──今ここで、固まった。
──“憧れ”だけじゃ、護れない!!
あたしの霊圧が吹き上がる。
あまり理解できていなかったモノが、今では手に取るように分かった。
『な、なんだい、コレ!?』
虚が喋る。
心を無くすってどんな感じなんだろうか。
あたしの今抱いている気持ちは分からないんだろうか。
少し悲しく感じる。
だから、きっと虚は心を求めるのだろう。
でも、この虚はやっちゃいけない事をしたんだ。
あたしの大切な人を、傷つけようとした。
今はそれだけで、あたしの気持ちは十分に前へ向かえる。
「たつきちゃんは言ってたね、ケンカを売る人を間違えたって」
『何が……!?』
「でもそうじゃない、あなたは傷つける相手を間違えたのよ」
前を見る。
前を見る。
前を見る!
怖気づくな!
震えても良い。
歩みを止めるな!
少しずつで良い。
後悔するな!
泣いても良い。
でも、
「たつきちゃんを傷つける人を、