ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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接触…だと…!?

 

 はい、雨竜くんの撒き餌入りましたー! 

 

 と言う訳で、俺はある程度の距離まで上空へ上がった状態で霊圧遮断コートを纏い皆の活躍を観察していた。

 

 

 お、チャドぉ! 

 

 彼の右手が真っ赤に燃えるぅ! 皆を護れと轟き叫ぶぅ! 

 いや、色的には真っ黒なんだけどさ。気分的には真っ赤。真っ赤な誓い的な。

 的な的な? 

 

 あ、今度はたつきちゃんが覚悟を決めたようだ。

 

 今までにない霊圧の上昇を感じる。

 でもなぁ、君はなあ……。

 尸魂界までルキアを一緒に助けに行くとか言い出したらどうしよう。

 まあ、もう既に結構な原作ブレイクが起きている気がするので今更ではあるが。

 

 そして織姫ちゃんが ”盾舜六花 ”を発動! 

 

 ”しゅんしゅん”って響きがなんか可愛いよね。織姫ちゃんっぽい。(個人的な感想

 でも能力はぶっ壊れチートなんだよなぁ。

 やってる事はヒーラーなんですけれど。

 

 ただ、六車さんとの稽古の経験で、後々にもしかしたら別の使用法を思いつく可能性はある。

 

 織姫ちゃんは強キャラの素質あるからねー。

 

 

 あ、大虚(メノス・グランデ)だ。

 

 

 よっしゃ、苺! 

 やったれー! 

 

 なんて心の中で皆の活躍をキャッキャしながら見守り俺は周囲の虚を狩っていく。

 

 だってねぇ……。

 雨竜くん、これで一般人に被害出たらどうする気だったんじゃろ。

 とりあえず、俺がカバー出来る範囲は何気に広いので可能な限り虚を駆逐していく。

 

 鬼道とか使ったら即バレしそうなので瞬歩と斬魄刀による一刀両断だ。

 

 俺の瞬歩は当時二番隊隊長を務めていた”瞬神”夜一さんとタイマン張れる練度である。

 流石に瞬閧は出来ないけどね。

 ……もしかして今なら出来る? 

 や、試す機会とかないけどさ。

 

 なんて呑気な事を考えていたら一護の霊圧の上昇を感じた。

 

 うんうん、良い感じに刺激されたようで何より。

 斬月のおっさんもこれで諦めてくれたかな? 

 なんか予想よりも覚醒が遅いんだよね。原作通りではあるけれど。

 

 六車さんとの特訓で基礎は出来てるし、霊力の知覚も把握している。

 霊圧コントロールは上手くないけど、でも全く出来ていない訳でもなし。

 

 ただ、霊圧の気配が俺のに酷似していたから、まだ斬月のおっさんは力を貸していなかったのだろう。

 

 今の霊圧は俺とは結構違う。

 まあ、部分的に似てるなって気配ではあるんだが、今までとは毛色が異なる感じだ。

 ルキアに貰った時も変化は起こっていたが、今ほど大きなものでもない。

 

 とりあえず、これで浦原さんとの特訓で”斬月”の名くらいは聞けるだろう。

 

 しかし、結局ルキアを浦原さんに紹介出来なかった。

 

 このイベントが起きたってことは今日か明日あたりにでも白哉と恋次がルキアを攫いに来るんでしょ? 

 浦原さんが必死になってルキアから逃げまくるから、どうしても紹介するタイミングが掴めなかった。

 

 良いのか? 

 

 ま、いっか。

 もうどうしようもなさそうだし。

 

『絶対に恨まれてます、殺されます……。一心サンに対する朽木サンの反応見たでしょ!?』

 

 なんて弁明があまりに必死だったので「お、おう……」なんて心の中で戸惑った肯定をする他なかった。

 

『那由他サンは言葉が足りません! 知ってましたけど、知ってましたけどね!?』

 

 俺がなんで説教紛いの愚痴を聞かされるのかは分からんかった。

 そんなん200年間そうなんだから、今更変えられんわ。

 これには鉄裁さんも苦笑い。

 

 いつの間にか浦原商店に住んでいたジン太くんと(ウルル)ちゃんはポカンとしていた。

 

『おい、店長。那由他に迷惑かけてんじゃねぇよ!』

 

 少し前まで近所のクソガキに混じって俺に水鉄砲を向けていたジン太くんも少しは俺を大事にする気になってくれたようで何よりです。

 健気に俺を庇ってくれる姿に思わずキュンときてしまったので頭を撫でてあげたら真っ赤な顔して手を払われた。

 ええぇ……。

 

 雨ちゃんには俺の無口・無表情・不愛想な圧が怖かったらしく、当初は相当避けられていた。

 すごく、悲しいです……。(小並感

 ただし、最近では自分と同じ人見知りなのだと、逆に親近感を持たれたようで懐かれ始めている。

 すごく嬉しいです! 

 

 まあ、そんな感じで原作では苺の助っ人に登場した浦原さんは俺にその役目を丸投げ中である。

 

 俺が雨竜くんの前に登場しなきゃ駄目なんかなぁ……。

 苺が大虚を倒せても有象無象のフォローはしてあげなきゃいかんしなぁ。

 

 まずは雨竜くんと苺が友情を育むまで待とうか。

 俺の活躍なんて必要最小限で良いのだ。

 

 苺も原作より強いし、もしかしたら俺の助けもいらんかもしれ──あ、マズイ。

 

 

 俺は最高速度で苺たちの元へ隕石の如き勢いで突撃。

 

 苺と雨竜くんのカバーしきれそうにない虚を粉々に粉砕した。

 あ、やべ。

 ちょっと焦って勢いつけすぎたわ。

 

 

 めっちゃ派手な登場になってしまったんご……。

 

 

「な!?」

 

 苺が俺の登場に目を丸くしている。

 まあ、驚くよね。

 

 それでも君の相手は大虚だ。

 

 

 余所見してると──死んじゃうよ? 

 

 

「ぐっ!?」

 

 そら見たことか。

 苺は大虚の蹴り一発で数メートルを吹き飛ばされる。

 

「この、やろっ!」

 

 それでもすぐに立ち上がる姿は非常にカッコイイ。惚れるわ。

 さっきも雨竜くんから聞いたお爺ちゃんの話で啖呵をきってたし。

 雨竜くんも自分の間違いと苺の真っ直ぐな態度で少しは彼を見直せたようだ。

 

 良いよね~、これぞ主人公って感じだよね! 

 

 さて。

 大虚相手に吶喊繰り返しても今の君の霊圧じゃ少し厳しいかなー。

 今の時点でも大虚も痛がってはいるようで攻撃は効いてるみたいだけど、倒すには随分と時間がかかりそうだ。

 原作よりは明らかに強いんだけど、流石に大虚に楽勝なんてレベルではない。

 

 近くを確認してみると、ルキア、チャド、織姫ちゃん、ついでにたつきちゃんの霊圧を感じる。

 少し遠くからは浦原さんをはじめとした皆の霊圧も。

 

 つまり、ちゃんと苺の活躍を皆が見れている状態にはなれたわけだ。

 重畳、ちょうじょー。何とか原作展開っぽい感じにはなってはいるので結構です。

 細かい点は見て見ぬフリだ、いいね? 

 

「一護、制御がなってません」

 

 とりあえずアドバイスっぽいものだけしてあげる。

 

「くっそ! 黙って見てろよ!?」

 

 男の子だねぇ。

 何? 俺にかっこつけたいの? か~わ~い~い~!! 

 手伝いたくなっちゃうから止めてよ~! 

 

「黒崎ではアレに勝てない! 那由他さん、でしたよね。ここは一先ず撤退して……!」

「何を言っているのですか」

「え……?」

 

 今逃げたら苺のカッコイイシーンが見れないだろぉ!? 

 

「信じなさい」

「信じ、る」

「私の一護は、強いですから」

 

 や~ん! ”私の”、なんて言っちゃったぉ~! 

 ちょっとテンションが可笑しくなってきてる。

 完全に心が乙女モードだ。

 ……何かキショイな。

 

 ええい、細けぇ事は良いんだよ! 

 

「何故、信じられるのですか? 貴方は死神だ! 人間じゃない!」

 

 おん? 

 何言ってんじゃこいつ? 

 

 まだこの時期の雨竜くんは捻くれてるからなぁ。

 他の人を巻き込んででも死神より優れている自分をアピりたかったんじゃろ? 

 まあ、誰に? って疑問はあるんだが……。

 自分の中の誇りやケジメみたいなもんかね。

 

「死神が”人”を信じたら駄目なのですか」

 

 ここは俺の苺愛について語ってやろう。

 そうすれば、君も原作みたいに苺との仲間意識を持てるでしょうさ。

 

「理屈よりも、大事な気持ちがあるのです」

「大事な、気持ち……」

「貴方は、何故、滅却師になったのですか」

「それは」

「お爺様と私は知り合いです」

「何だって!?」

 

 思い出すなぁ。

 竜弦さんと叶絵さんの結婚式の時、宗弦さんともお話ししたっけ。

 死ぬときは見てたけど、何かマユリ様が再利用するんでしょ? 

 下手にちょっかいかけて護廷に見つかっても嫌だったし。見て見ぬフリをしてしまった。

 ゴメンよぉ、宗弦さん……。

 

 しかし叶絵さん……あ、なんかちょっと悲しくなってきた。

 

「私にとって、とても尊敬できる方でした」

 

 叶絵さん、めっちゃ良い人だったからなぁ。

 亡くなった時は普通に悲しかったんよ。原作通りだけどさ。

 

「ならば! 何故、助けなかった!!」

 

 雨竜くんが吠える。

 

「助けたかった」

 

「なん、だと……?」

 

 でも叶絵さんって体が元々弱かったし、元気な真咲さんも結局救えなかったし……。

 俺の力じゃ無理だったんだ。

 運命力って言うんかな。

 ”オレ”も”天輪”も亡くなって当たり前、みたいな感じだったしさ。

 

「私の力不足です。しかし、無かった事にする気はありません」

「貴方ほどの力でも、救えなかったのですか……」

「私は神ではありませんので」

 

 あの人の微笑みを覚えている。

 あの人の優しさを覚えている。

 あの人の慈しみを覚えている。

 あの人の悲しみを覚えている。

 あの人の温かさを覚えている。

 あの人の愛しさを覚えている。

 あの人の苦しみを覚えている。

 

 あの人の、遺言を覚えている。

 

 

『那由他さん、竜弦様と、雨竜を……よろしくお願いいたします』

 

 

 俺は貴方の願いを叶えるよ、きっと。

 

 貴方の名前のように、絵に描いたような素敵な光景を叶えてみせる。

 

 それが、俺に出来るせめてもの手向けだ。

 

 

 

 だから雨竜くん、君には何としても苺の仲間になってもらわなければならん。

 

 

 

 やっばい。

 

 ちょーしんみりしてしまった。

 

 

「だから、貴方も目を背けてはなりません」

 

 雨竜くんは俺の言葉に従ったかのように、未だ果敢に大虚へと立ち向かう苺へと視線を向ける。

 弓の撃ち過ぎで血が滲んでいる拳をギュッと握っている。

 

 うんうん。

 これで少しは死神を信じる気にもなったでしょ。

 

「僕は、死神が嫌いです」

 

 せやろな。

 でも何だかんだ苺の事を仲間として信頼するから俺は君の事が好きだよ。

 

「でも、那由他さんの事は信じても良いと思いました」

 

 え、俺? 

 ちゃうやん、信じるのは苺やん。

 あれ、おかしいな……? 

 

「貴方が持つ高潔な精神は、僕の道に背きません!」

 

 そういうと、雨竜くんは苺の方へと走っていった。

 

 え、ちょ、ま!? 

 苺の邪魔せんといて!? 

 

「黒崎!」

「んだよ!?」

「那由他さんに、恥ずかしい恰好見せても良いのか!?」

「……あん?」

 

「死神は気に入らない! でも! 

 

 

 ──那由他さんを、僕は信じよう!!」

 

 

「……へっ! 当たり前だろぉが!!」

 

 ん~~~~!!?? 

 

 何か、思ってたんと違うんじゃがぁ!? 

 

 ハッ! そうか! 

 苺の良い点について語ろうと思っていたのに、結局は叶絵さんについてしか語ってねぇ!? 

 だから俺は計画立てちゃ駄目なんだよねぇ。行き当たりバッタリすぎる。

 

 これはお兄様も見限りますわ。

 

 あ、大虚の霊圧が高まってる。

 これはアレが来ますね。

 

虚閃(セロ)

 

「「!?」」

 

 俺の呟きみたいな言葉が二人の男子に届いたようだ。

 言葉の意味は分からないまでも、どうやら大虚が何かする事は分かったようである。

 

 

 

「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 

 

 結果から言おう。

 

 

 大虚、倒しちゃったぁ……。

 

 

 撤退じゃなく。

 

 

 しかも苺一人じゃなくて、何故か雨竜くんまで参戦。

 

 

 

 う~~ん。

 

 これだけの霊圧をバラ撒けば護廷には速攻で情報が届くだろうな。

 もしかして、今夜の内にでも白哉と恋次が来ちゃう? 

 原作だと次の日だった、気がするんだけど……。

 

 

 ま、なんとかなるやろ! (思考放棄

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

『俺の姉貴は、虚に傷つけられた』

 

 

 僕──石田雨竜は今日の出来事と黒崎の言葉を思い出す。

 

 実力の程は底が知れず、常に無表情で何を考えているのか分かりにくい人、藍染那由他さん。

 

 それでも、彼女が日々虚を倒す姿や今日の振る舞いを鑑みるに、彼女は相当強い。

 それこそ僕が足元にも及ばない程度には。

 

 そんな彼女が、昔大怪我を負った事があるという。

 

 初めは信じられなかった。

 

『なんて言うか……俺は俺の同類を作りたくねぇんだ』

 

 黒崎の言葉が蘇る。

 

『私の一護は、強いですから』

 

 那由他さんが黒崎に寄せる信頼に胸が苦しくなる。

 

 あの時は咄嗟の事でつい下の名前で呼んでしまったが、今振り返ると恥ずかしい。

 僕が女性を下の名前で呼んでしまうなど今まで一度もなかった。

 かと言って、今更上の名前で呼ぶと不自然だろうか。

 

 僕らしくない悩みに頭を振ってしまう。

 

「はあ……僕らしくない」

 

 本当にそうだ。

 あの家族には振り回されてばかりいる気がする。

 

 何だかジッとしていられず家を飛び出し、何とはなしに夕飯を買いに出てきてしまった。

 

『那由他さんに、恥ずかしい恰好見せても良いのか!?』

 

 自分が黒崎にかけたセリフに今更ながら赤面してしまう。

 まるで僕もあの人に良い恰好を見せたいみたいじゃないか。

 

 那由他さんが黒崎を見つめる視線には、愛情がこれでもかと籠っていた。

 

 あまり彼女との接点はない。

 時々、虚を退治する彼女や黒崎たちと一緒にいた姿を見た程度だ。

 今日までは話したことすらなかった。

 

 だからこそ、彼女の感情が予想以上に大きなものである事に触れ、僕は動揺してしまった。

 

 何となく、あの人は僕の母に似ている。

 

 正直、あまり覚えてはいない母の姿。

 それでも時々思い出すのだ。

 母が僕に語ってくれた、親友とも呼べるような友人の話を。

 

『何か困った事があれば、那由他さんを頼りなさい。あの人はきっと力になってくれます』

 

 滅却師としての修行を始めたばかりの頃。

 病床に伏してしまった母へのお見舞いがてらで良く聞いた話だ。

 

 幼い時分は母が他の人の話をすることに軽い嫉妬を覚えていた。

 しかし、母が微笑みながら話す那由他さんとやらはどんな人なのだろうかとよく考えてもいたものだ。

 

 恐らく、今日あの人を下の名前で呼んでしまったのは母の影響だろう。

 

 またしても顔が赤面してくる。

 本当に僕らしくない。

 

 何なのだ、あの人は。

 

 死神のくせに……。

 

 いや、違うな。

 

 師匠の言葉も思い出す。

 

 あの人は、人と死神を分け隔てなく救いたいと思っていた。

 

 その意志を体現しているかのような彼女の姿に、僕は自分の浅はかさを思い知らされたんだ。

 

『石田。どんな理由があろうと、テメーが持ち掛けた勝負は山ほどの人間を巻き込むやり方だ』

 

 その通りだった。

 

 黒崎が静かに僕へ怒気を向けた表情は、彼の信念によほど反していたのだろう。

 僕だって同じはずだった。

 師匠の理念に憧れ、僕もそうなりたいと思っていたはずなのに。

 

 僕は今日、多くの人を危険に晒した。

 

 何故、あんなことをしてしまったのか。

 自分の短慮が招いた事態に苦虫を噛み潰したような顔をしてしまっているのが分かる。

 

 だからこそ、だからこそだ。

 

 

 ──今度こそ、僕は”人”を護ろう。

 

 

 師匠に”憧れ”るだけでは駄目だ。

 死神を目の仇にしても現実は変わらない。

 

 ならば、僕は僕に出来る事でもって、人を護ってみせる。

 

 そうしたら、那由他さんは僕の事も信頼してくれるだろうか……。

 

 

 そんな決意を固めた時だった。

 

 

「!?」

 

 少し離れたところから霊圧を感じる。

 かなり強い、しかも死神の霊圧だ。

 

「近くに……これは朽木さんか?」

 

 何が起こっているかは分からない。

 しかし、あまり良くない事のような、そんな直感を僕は覚えた。

 

「護る、か……」

 

 自分の傷ついた掌を見る。

 那由他さんに巻かれた包帯だ。

 

『よく、頑張りましたね』

 

 まるで子供のように頭を撫でられた。

 

 悔しかった。

 

 まるで僕も庇護の対象であるかのような態度。

 

 ──見返してやる。

 

 拳を握った。

 

 僕は護られるだけの存在じゃない。

 そのための力だ。

 そのために努力して手に入れた力だ。

 

 ならば、今度こそ間違えない。

 

 

 静かな決意を胸に灯し、僕は感じた霊圧の方へと駆けだした。

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 ──恋次が一護を切り裂いた。

 

 

 私──朽木ルキアのせいで、大切な友人が傷ついていく。

 

 先ほど現れた石田雨竜も私のせいで今は地に伏している。

 

 

 私の、せいだ。

 

 

 私が軽率に一護へと死神の力を与えたから。

 簡単にあやつへ頼ってしまったから。

 那由他殿と再会出来て舞い上がってしまったから。

 

 多くの人へ迷惑をかけている。

 

 そんな現実に、打ちひしがれる思いだった。

 

 

 いずれ離れなければならぬ場所なら、思慕も信愛も友情も、どれも枷にしかならぬ。

 

 

 分かっていたはずだ。

 

 

 本当に、本当に面倒な事だ。

 

 

 

 ましてや、それを羨んでしまうなど……。

 

 

 

「ワリーな、ここで死んでくれ」

 

 

 

 恋次──幼馴染である阿散井恋次の声が聞こえる。

 

 しかし、その音はどこか遠く感じた。

 

 私は重罪を犯したのだ。

 

 人間である一護に死神の力を与えたのだ。

 尸魂界で裁かれる事など分かっていた。

 

『貴方は私が護ります』

 

 あの日、那由他殿から声かけられた慈愛溢れる言葉に、私は安堵してしまっていた。

 この人に任せれば全て大丈夫だと、思考停止して安寧に身を委ねていた。

 

 恋次の斬魄刀が目に入る。

 

 既に始解した形状だ。

 

 斬魄刀は己の魂の半身。

 その名を聞く事によって、己の力を具象化した形へと姿を変える。

 

 一護はまだ、その領域まで達していない。

 

 当たり前だ。

 つい先日死神としての力を自覚したばかりなのだ。

 如何に才能があろうとも、始解した者とそうでない者の霊圧は数倍にも違う。

 

 今の一護では、恋次には勝てない。

 

 圧倒的な実力差、というほどのものではなかった。

 恋次も多くの負傷を負い、その身は既に満身創痍だ。

 

 しかし、立っているのも恋次だった。

 

 一護は肩口を大きく切り裂かれ地面に膝をついている。

 それでも逃げるぐらいの余力は残っているはずだ。

 傷の浅い内に逃げてくれ。

 

 そう、願っていた。

 

 だが、一護はこんな状況で逃げだす事もないだろう。

 

 それも分かっていた。

 

 

「ハッ! 案外大したことねーな……!」

 

 

「何?」

 

 一護の挑発に恋次が額に青筋を浮かべる。

 

 何をしている。

 

 いくら貴様とて、恋次だけでなく隊長には手も足も出まい。

 

 

 

 

 まだ、後ろに()()()()()()()()と思っている!? 

 

 

 

 

 

「那由他姉様はどこだ! 今すぐに吐けぇぇ!!」

 

 

 

 

二番隊隊長・砕蜂

 

 

 

 

「ねぇ、ボクらって来る必要なかったんとちゃいます?」

 

 

 

 

三番隊隊長・市丸ギン

 

 

 

 

「……」

 

 

 

六番隊隊長・朽木白哉

 

 

 

 

「浦原喜助の姿は……見えんか」

 

 

 

 

七番隊隊長・狛村左陣

 

 

 

 

「チッ! 朽木の霊圧が消えた時点で動いたと思ったが……少し早すぎたかもしれねぇな」

 

 

 

 

十番隊隊長・日番谷冬獅郎

 

 

 

 

 

 

 明らかな過剰戦力だ。

 

 私の霊圧を尸魂界の方で探知できなくなったとしても、これだけの大御所が一度に現世へ訪れるなど通常あり得ない。

 

 隊長格の霊圧は護廷隊士の中でも別格だ。

 その存在だけで現世の霊魂に影響を与えると言われている。

 

 そんな人たちが……5人? 

 

 何かの悪い冗談のように思えた。

 

 勝てる訳がない。

 

 このままでは一護が、殺されてしまう……! 

 

 

 

「お、お待ち下さい!!」

 

 

 

 私の悲鳴じみた声が響く。

 

 もはや周囲に気を使っている余裕はなかった。

 

「何だ」

 

 白哉兄様が答える。

 

 他の隊長格もチラリとこちらへ目線を向けた。

 

「い、一護は既に抵抗するだけの余力を残しておりません!」

「こいつが浦原と繋がってる可能性があんだろ」

「あり得ません!」

「何故、そう言い切れる?」

 

 日番谷隊長、狛村隊長と続く言葉に私の体が幾分か重くなったような気がした。

 

 霊圧を当てられている。

 

 余程殺気立っているようだ。

 

「な、馬鹿野郎! 俺はまだ戦える!」

 

 

 

「人間の分際で、隊長方の話に割り込むでない! 身の程を知れ!!」

 

 

 

「!?」

 

 一護の驚愕の顔に胸が締め付けられる。

 

 お願いだ。

 黙っていてくれ。

 生きてくれ。

 

 私のために傷ついた一護に対し、私はなんと無様で恥知らずな行いをしているのだろう。

 

 済まぬ。

 涙が溢れそうになる。

 

 それでも! 

 

 

 私はもう、誰も犠牲にしたくないんだ──! 

 

 

「なるほど」

 

 白哉兄様の言葉重く広がる。

 

「確かに、この小僧は──()に良く似ている。そして霊圧は()()()に」

 

 息が詰まる。

 

 そうなのだ。

 一護は、海燕殿に似ているのだ。

 

 父は一心殿なのだから、そこまで不思議な事でもない。

 

 そして母は那由他殿。

 

 

 そうなのだ。

 

 

 あの二人の面影をこれでもかと残している一護に、私は情を移し過ぎたのかもしれない。

 

 

「だから俺は──!」

「その場から一歩でも動いてみろ!」

「!?」

 

 

「私は貴様を、絶対に許さぬ……!」

 

 

 一護の表情が変わった。

 

 一瞬だけ呆然とした後、彼は斬魄刀を杖にゆっくりと立ち上がる。

 

 お願いだ。

 止めてくれ。

 

「泣きそうな顔で、そんなセリフ吐いてんじゃねぇよ……!」

 

 恋次に対しては勇勢であった時点で十分だ。

 これだけの隊長に立ち向かっては駄目なのだ。

 

 何故、分かってくれないのだ……。

 

「俺は決めたんだ!」

 

 一護が立ち上がる。

 

 手に持つ斬魄刀を構え、その矛先をこちらへ真っ直ぐと向ける。

 瞳は揺るぎない信念を宿し、その足はしっかりと大地を踏みしめた。

 

 

 

 

「もう、俺の実力不足で、大切なもんを手放さないってなぁ!!」

 

 

 

 私の目から、一筋の涙がこぼれた。

 

「そうか」

 

 視界の端が揺らいだ気がした。

 涙のせいではない。

 何故、私如きの実力で気付けたのかも分からない。

 恐らく、勘のようなものだろう。

 

 それでも、白哉兄様が動いたのが分かった。

 

「おやめください!」

 

 この言葉だけでは止まらない。

 

 すぐに一護の鎖結と魄睡が砕かれた。

 

 このままでは一護が死んでしまう。

 

 なんとしても止めなければ、何か、何か……!? 

 

 

 

 

 

 

「こ奴は──那由他殿のご子息です!!」

 

 

 

 

 

 

 白哉兄様の切っ先が一護の喉元でピタリと止まった。

 一護は反応すら出来ていない。

 目を見開いたまま、驚きの表情で固まっている。

 

 

 

 そして、周囲の空気も固まっていた。

 

 

 

 兄様がギギッと音がしそうな程の歪な動きでこちらを振り返る。

 

 初めて見るような姿に、場違いにも私も驚いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『なん……だと……!?』

 

 

 

 

 

 

 皆の言葉がハモる。

 

 ど、どうすれば良い、この空気……。

 

 何か思っていたのとは違うが、とりあえず殺害は阻止できたから良しとするか……? 

 

 

 

 

 

 

「一護を殺されるのは困ります」

 

 

 

 

 

 凛とした声が響く。

 

 

 スタッと軽やかな音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「私の()()()()()を──」

 

 

 

 

 

 抑揚のない声。

 

 

 一瞬で白哉兄様が距離を取りこちら側へと戻ってくる。

 

 

 

 

 

「殺すつもりならかかってきなさい」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、隊長格すら遥かに凌駕する、圧倒的な霊圧の暴風が巻き起こった。

 

 

 

 




ヨ「甥ではない、認めん」
カ「……」
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