時間が経つのは早いもので。
俺が浦原さんのおかげで霊圧のコントロールに成功してから数十年が経った。
人間の頃なら随分と長い時間だと感じたものだが、霊圧の解放(腕輪付き)が許された反動でヒャッホイ斬拳走鬼をしていたおかげか驚くほど速く時が過ぎた。
光陰矢の如し、とはよく言ったものだ。
そして、お兄様は”副隊長”なんて役職になっていた。
──原作における過去編が始まるのも近いのだろう。
その間に変わった大きな出来事としては俺も”死神”になった。
もちろん平。
随分と悩んだ……なんて真面目な答えを言えたら良かったのだが、俺が死神になった理由としては『やっぱ斬魄刀が欲しいわ!』という至極単純な理由である。
欲望に負けたクズゥ……。
ちなみに見た目も二十台前半くらいにまで成長した。
外見年齢で言えばお色気担当乱菊さんと同じくらいである。
そこ、リョナの人とか言わない! リョナは桃ちゃんと蟹さんとハリベる人でしょ! BLEACHのリョナ枠多すぎんよ……。
色気に関しては……胸はどちらかと言えばある方、だと思う。
BLEACHで言えば七緒以上チルッチ未満って感じ。分かりにくいな……。
でもでも、TS転生したんなら気になるところやろ?
幸い筋骨隆々なメスゴリラになる事はなかった。
むしろスレンダー系。
肩幅とか腰回りとか腕や手首の細さとか。強く抱いたりしたら折れそう、ってくらいには華奢。
これは死神になるまでヒッキーだったから仕方ないとは思うけれど。
しかし、浦原さんに霊圧抑制装置を貰ってからは普通に斬拳走鬼の修練してたんだがなあ……。
霊圧これ以上上げてどうすんじゃいって総隊長他隊長格みんなに怒られてからは控えてるけど。
鬼道とかなら良いじゃん?
黒棺とか出したいじゃん?
じゃん?(涙目)
つまり、スタイルはとてもよろしい。
性能(パイオツ)の差が戦力の決定的差ではないと教えてやる!
誰に? 知らん。
心が男なのに男に恋する訳ないやろ。(真顔)
あと、顔面は相変わらず女神である。
無口・不愛想・無表情でキッツイ顔した女神だ。
異論は認める。むしろ反論して欲しい。
そして身長は既に170を超えた。
でけぇ……。前世の俺と同じくらいある……。地味に虚しい。
話を戻そう。
死神になる事に親は大反対だったのだが、そこはお兄様のおかげである。
口でヨン様に勝てる訳ないんだよなぁ。
なんで味方してくれたのかは謎だけど。
どうせ布石でしょ? (達観)
んで、俺の学生時代はカットしよう。
ぶっちゃけ特に話す事もない。
特の一組だったが可もなく不可もなく。
その時はお兄様も席官に入った程度の権力しかなかったので、特に親族贔屓という特典もなく。
ふつーに六年かけて卒業、からの入隊である。
マジで普通。俺の人生みたい。
笑える。
いや、ヨン様の妹って時点で普通じゃないか。
笑えん。
しかし、実際これからどうするか。
本当に予定は未定である。
行き当たりばったり。お先真っ暗、五里霧中、君に夢中。
ヨン様に夢中にならざるを得ないんだよなぁ……。
良い事って言えば、曳舟さんが零番隊に行く前に少し俺の体の様子を見てもらえた事だろうか。
俺特製の義魂丸なんか作ってもらえた。デジマ?
魂魄の強度を治すような薬ではなかったが、
自分の本気をチートとか言うのも少し恥ずかしいが、もう泣いて喜んだね。
ヨン様もこれにはニッコリ。(暗黒微笑)
どうやら義魂と俺の魂魄を共存させることで疑似的に魂魄を二つに増やして霊圧に耐えうる強度にしているらしい。
しかも、曳舟さん曰く重度の副作用らしいが、意識が二つに増えるようで、ラノベみたいな並列思考も可能ときた。
聞いた話では魂魄クローン技術に近いようだ。
だから使うと俺の魂魄が疑似魂魄から影響を受ける可能性もあるとのこと。
それマ? だいじょび?
『あんまり気軽に使わないように』
なんてグラマラスボディになった曳舟さんから言われてしまった。
飲んだら霊圧のステージ上がっちゃうんだろうか……。
しかし、俺の霊圧に関しては結構有名だったらしい。
あのお兄様が他人の目に触れるように調べまわっていたとか。
はたから見たら「妹想いの優しい兄」だ。
これ絶対本命暗躍の隠れ蓑に使われただけじゃないですかやだ~。
なんて思いつつも、こっからヨン様陣営に付くか護廷十三隊サイドに付くか。
その辺りが未だに自分の中でも決まっていない。優柔不断である。
そんなだから始解も会得できないんだよー。
始めはさ、ヨン様の味方で良いかなって思ったの。
でもね、俺の魂魄について親身になって相談に乗ってくれる人の多い事多い事。
「久しいの那由他! どうじゃ、仕事は慣れたか?」
いつの間にか二番隊の隊長になっていた夜一さん。
「お、藍染の妹やないか。どや、風船みたいに破裂しとらんか?」
五番隊の平子隊長。
「ふむ。良い顔をしておる。……六番隊に来る気はないか?」
「父上、初対面の相手に威圧感を出さないで下さい……」
六番隊の朽木親子こと銀嶺隊長と蒼純副隊長。
「いやぁ、君みたいに可愛い子がそんな霊圧持ってるなんて凄いよね~」
「隊長、女子に色目使う暇あったらはよ仕事してください」
八番隊の京楽隊長と矢胴丸副隊長。
「ま、稽古つけて欲しい時は言え」
九番隊の六車隊長。
「おお、体調良い時は外に出てみるもんだな! お互い体には気を付けてな!」
十三番隊の浮竹隊長。
「辛気臭ぇ顔してんなー、那由他!」
「女の子の味方、志波一心です! よろしく!」
ルキアの心の師匠・志波海燕さんと苺パッパこと一心さん。
てかこの二人と縁を持てるとは思っていなかったから結構ビビった。
二人とも俺と同じ平の時代なんだから、何となく歴史を感じる。
海燕さんも異様に気さくだし。
「お主は死神の中でも特殊じゃ。体に異常を感じた際は直ぐに四番隊舎へと向かうように」
「私が直接見ますから、どうかお気軽にどうぞ」
総隊長とか初代剣八さんとか、気軽に行ける訳ないじゃん。
気遣ってくれるの嬉しんだけどね?
他にも三番隊の射場副隊長とか、まだ隊長になってないローズさんこと鳳橋さんとか。
ラブさんとか白ちゃんとかひよりちゃんとか。
大前田副隊長や山田副隊長からも声をかけられたのは凄いビビった。
流石に鬼厳城隊長は話しかけてこなかったけど。
それでも、俺が誰かとすれ違う度に何かしら声をかけてくる。
ちょっと俺の霊圧、有名すぎ……?
平の隊士の癖して異様に隊長格や席官方と親密に話してんだから、どうしたってやっぱり目立つ。
誰かに「お前調子乗ってんじゃね?」とかいじめられないか心配だ。
まあ本来はラスボスであるヨン様とタイマン張れる霊圧持ってんだから注目されるのも当然と言えば当然なんだが。
だって普通の隊長格よりも霊圧だけ見れば強いんだもん。
俺、平なんです。これでも。
困っちゃうな~! (ドヤァ)
本気出したら頭(と体)がパーン! なんですけどね。
致命的すぎるんだよなぁ……。
その中でも一番俺に声をかけてくるのが二番隊にて第三席まで出世していた浦原さんだった。
「おろ、那由他サンじゃないっスか」
「どうも」
俺は相変わらずの不愛想である。
しかし、俺の態度を気にする人は階級が上の人ほど少ない。
やはり人の上に立つ人は器も大きいのだろう。
「お加減はどうッスか?」
「問題ありません」
「そうッスか」
「はい」
か、会話が続かねぇ……。
分かってる。分かってはいるんだ。俺のせいだって。
浦原さんは俺が喋るの苦手だって知ってるから、無理に話しかけてこないだけなんだ。
本当はずっと喋っててくれた方が楽なんだけど、善意で無言の領域展開をしているんだ。
これぞ無言空処。いつまでたっても沈黙が終わらない!
「もう少しッス」
と思ったら終わった。
何がもう少し?
前後の説明省いても凡人の俺には理解できないんス。
「待ってて下さい」
ニヤッと悪戯小僧のような、けれども少しやつれた笑みを見せて、浦原さんは去っていった。
なんかだいぶお疲れのご様子ですが……結局何を言いたかったのかはさっぱりである。
天才は訳ワカメ。
はっきり分かんだね。
数日後、『崩玉』とか言う原初にして最恐のアイテムが世に生まれた。
そして、お兄様が俺のところへやってきたのは、さらに数日後だった。
▼△▼
浦原喜助が『崩玉』という物を創り上げた。
同じく世界に絶望していた『東仙要』を迎え入れ、有象無象を対象に実験していた最中の話だ。
すぐに詳しい資料を
こういう時のために副隊長という地位に就いたのだ。
素早く情報を整理し、必要なものだけを抽出していく。
そして、それは私の人生にとって二度目の敗北を決定づけるものだった。
──浦原喜助は『死神と虚の境界を無くす』ための道程を作り出した。
未だ私が至っていない領域に、後から参入した浦原喜助の方が早く正解へとたどり着いたのだ。
私は歓喜した。
やはり彼は私に比肩しうる。
むしろ、私が彼を追い越すべき壁と定められるのだ。
興奮した。
これほど興奮したのは那由他の目を見た時以来かもしれない。
私はすぐさま必要最小限の仕事を済ませ、二番隊隊舎へと飛んでいった。
しかし、浦原喜助の言葉は私の期待を大きく裏切るものだった。
彼が何を言っているのか分からない。
どうしてだ。
“それ”は我々を新たな霊格へと押し上げる事の出来る代物なのだぞ。
「“これ”は、自分で作っておいてなんですが……あまりに危険すぎまス」
……危険?
つまり、
「虚の力を手に入れた者の自我の崩壊は尸魂界にとって危険です。そうでなくとも魂魄の崩壊を招く恐れが高い。
どれだけ強大な霊圧があっても、
お前はまだ、
者
の
立
場
を
重
ん
じ
て
い
る
の
か
鏡花水月を駆使してでも手に入れた崩玉の資料。
それらを用いて、私は自身の手でも崩玉を創り上げる事にした。
もう奴に期待する事はないだろう。
これ以上の絶望を与えられる前に、私は自身から浦原喜助を切り捨てる事にしたのだ。
私はどれだけ他人から裏切られれば済むのだろうか。
──それでも、私は那由他を切り捨てる事だけはなかった。
あの子が弱者であるはずがない。
那由他は私に初めて敗北を教えたのだ。
初めて私に対して恐怖を見せたのだ。
初めて私を興奮させたのだ。
初めて私に並ぶ才を見せたのだ。
初めて他人への価値を教えてくれたのだ。
誰にも理解されないという孤独を、那由他は抱きこんでくれたのだ。
私の願いを知りながら、それに恐怖しながら、それでも私を兄と呼び、変わらぬ瞳を向けてくれたのだ。
私に対する天啓と思うほどだった。
分かるまい。
誰にも分かるまい。
要に話をした時には、私にはこの世を正しい方向に導こうという決意があった。
要の言う「正義」がこの世界にはあるのだと思っていた。
力ある者が弱者の上に立ち、自らの考える理想の世界を成す。
暴君ではない──それは己の欲望のみによって動く者だからだ。
独裁者でもない──それは己の恐怖によって支配する者だからだ。
私は、神となるのだ。
信仰され、崇拝され、畏敬の念を抱かれ。
そうして人々は私の下に、己があるべき姿を受け入れる。
人権や尊厳、権利に主張。
それらは全て弱者を守るための詭弁にすぎない。
自然の摂理に反している。
世の中は、世界は、全て一つの大いなる力によって支配されるべきだ。
そして、私はその支配を許さない。
自分でも嗤ってしまう。
矛盾している。
そう、私は矛盾しているのだ。
己に敗北を刻む者を求め、己の上に立つ者を堕とし、己の下に立つ者を安寧に導く。
地に這う事を許さず、見上げる事を嫌悪し、見上げられる事を唾棄した。
ならば私に安息を齎す存在とは、私の『横』にいる存在しかいないではないか。
しかし、私は並び立つ者なき天に立つと豪語した。
これを嗤わずにいられるだろうか。
ああ、そんな私を嗤ってくれるかもしれない人がいたな。
笑ってくれるだろうか、君は。
悲しみに顔を歪めてくれるだろうか。
恐怖に、憎悪に、喜悦に。
その藍色に輝く大きな瞳を、私に向けてくれるだろうか。
私の横に、いてくれるだろうか。
──那由他。
▼△▼
藍染様は、幼子だった。
不敬と取られても構わない。
しかし、
貴族の闇。世界の闇。霊王という存在。
今まで知らなかった真実を知り、私は藍染様に忠誠を誓った。
全ては「正義」のため。
では、正義とは何か。
──世界を正す事である。
では、藍染様は世界をどのような形へと正そうとしているのか。
全ての罪も、正義も。
贖罪も懺悔も。
暴力も慈愛も。
喜びも悲しみも。
生も、死も――。
全ての責を
微笑みの奥に揺らめく業炎を垣間見た。
藍染様の導く果ての世は、遠く見えぬ理想郷。
果てどころか縁もが見えぬのだ。
どこまでも続く地平線。遠い彼方。
されども、決して迷わぬ。
どれだけ時間がかかろうとも、いつかたどり着けると信じて。
そして、その背は哀愁に包まれていた。
何故、この人はここまで悲しい背をしているのだろうか。
理想を目指す、燃えるような願望を持っているのではないか。
仲間すら見捨てる非情さを持っているのではないか。
私を殺してくれると言った言葉に嘘はなかった。
ならば、何故彼はここまで必死なのだろう。
まるで見捨てられないように。
まるで母親の背を追うように。
まるで絶望から逃れるように。
何故、藍染様は、時折後ろを振り返る。
まるで付いてくる者がいるか確認するように。
まるで亡くした長年の友を想い返し悼むように。
まるで振り切り置いてきた恋人の幸せを願うように。
私には分からない。
しかし、あのお方がこの世界に絶望している事だけは、はっきりと分かった。
ならば、私は『正義』を成すまで。
『正義』とは何か。
▼△▼
突然ヨン様がやってきた。
キョドった。キョドるわ!
特に何かある日でもなし。俺から用事がある訳でもなし。
ヨン様の用事?
分かる訳ないだるおぉぉぉっ!? (必死)
こちとら霊圧の高さと『あの藍染惣右介の妹』っていうネームバリューだけで生きてんだ。
察しの良さを期待されても困る。
ほんと困るんですぅ……。
「粗茶ですが」
とりあえず出した茶。
必要か? 多分必要やろ。
そもそもここは紅茶だったか?
混乱の極み。二重の極み。ア゛ァーって叫んでも良い?
「いきなり押しかける形になってしまって済まないね」
「いえ」
そう思うんだったら遠慮して欲しい。
心の準備は必要。
慢心、環境の違い。
死神になって隊長たちからチヤホヤと気遣われて調子乗ってたかもしれない。
釘を刺されたのだろう。
──『所詮、君は私の手駒の一つでしかありえない』
とか言われそう。
オマケに暗黒微笑を添えて。
桃ちゃんと同じポジションだよ。
──『憧れは、理解から最も遠い感情だよ』
あ、それは言われてみたいかも。
ハリベってもいわれてみたい。
ハリベるなら何だかんだ生き残れるし。痛いの嫌だけど。
虚圏で余生を暮らしてみたい。畑とか耕してみたい。作物育たないだろうけど。
「君に言わなければいけない事がある」
俺の現実逃避が一周回ったあたりで一蹴された。
空気が重いよぉ。
いつもの朗らかな笑みを見せて?
俺、真面目は雰囲気ダメなの。
ふざけたくなっちゃうのん。
流石にヨン様の前でふざける勇気はないが。
姿勢を正す。
お兄様がわざわざ前置きをしてまで言いたい事だ。
絶対に碌でもない事だ。
「那由他は……、体の調子はどうだい?」
ヨン様が言葉を濁した……だと……!?
どれだけ重要な事を言うつもりなんだ。
というか、何故に俺に言うんだ。
妹だから? そんな訳ないだろ馬鹿野郎この野郎。
「普段通りです」
いつもの不愛想さんが良い仕事してくれました。
俺の混乱を抑え込んでぶっきらぼうな返答をオートで返してくれます。一家に一台レベル。
「そうか」
俺の出したモノホンの粗茶をズズッと啜るお兄様。
もうちょい良い茶葉にすれば良かった。
時々だけど総隊長とか来るから用意はしていたんだ。
ごめん、お兄様……。
「美味しいね」
嘘ぉっ!?
案外ヨン様は馬鹿舌?
いや、あのオサレなヨン様に限ってそんな事はありえない。
恐らく俺を気遣ってくれたのだろう。
なんで?
それだけの爆弾発言をするって事ですか?
大穴としては粗茶と思ってたのが実は上物。
ゆっくりと粗茶(暫定)を置くお兄様。
「那由他は、“強さ”を求めているかい?」
そして、言葉を発したヨン様の意味が分かってない凡骨は俺です。
ゴメン。
ヨン様の発した言葉の意味を分かってない凡骨が俺ね。
この凡骨めぇぇぇ!
脳内がスパークしてる。
スパーキングしてる。
空っぽの方が夢を詰め込めるらしいよ?
スパンキングじゃないから安心して。MよりもSな俺です。
そういう問題とちゃうよね、違うね。
本当に混乱してるの。
「どういう意味でしょうか」
努めて平静な声を出せる俺の体は本当に優秀だと心底思った。
でも確か俺のポーカーフェイスってヨン様に効かないんだよね。
ダメじゃん。万策尽きたわ。
「浦原三席が先日創り出したモノは知っているだろう?」
微笑を絶やさないお兄様だが、何かいつもと違う。違和感だ。
不思議、というよりも不自然である。
あのヨン様がこんなあからさまな演技をしているのだ。
俺はしばらく蝙蝠のようにヨン様と護廷十三隊の間をフラフラとしていたかったが、お兄様の言っているモノとは『崩玉』の事だろう。
年貢の納め時だろうか。
いい加減に決めなければならない。
俺がヨン様と護廷十三隊のどちらにつくのかを。
「私は──」
俺は、この時の選択を後悔していない。
しかし、時々思い返すのだ。
もし違う選択肢を掴んでいたら、と。
「お兄様と共に在ります」
ヨン様は、それはそれは邪悪な微笑みを見せてくれた。