ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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更新日時、大嘘ついてほんとごめんなさい。(土下座
週に二、三回は更新したい……。


展開…だと…!?

 ――そいぽんに攫われた。

 

 

 完璧に想定外である。

 え、君、俺の味方して大丈夫? 

 

 幸いにも彼女の活躍の場は夜一さんとの決闘と双極の丘だ。

 

 ここで俺に付いてきても……夜一さんとの戦闘は? 

 

 あれ、どうなんだろ。巻きで入る感じ? 

 いやまあ、まだ夜一さんは瀞霊廷にも入ってないだろうけれど。

 

 えっと、確か苺たちの行動スケジュールは流魂街で一日、空鶴邸で一日をそれぞれ過ごしてから瀞霊廷に侵入。

 その後は瀞霊廷で二日くらいドンパチしてから卍解の修行で三日。

 

 そんな感じだった気がする。

 

 なので、今日含め三日くらいは余裕がある、と思いたい。

 ……俺がこっちに残ってんのに流魂街とかでのんびりするかなぁ。

 

 しかも六車さんの修行の成果で苺は霊力のコントロールは出来てるだろうから、多分空鶴邸での修行らしきものもいらないと思われる。

 

 早けりゃ明日くらいには突っ込んでくるかもしれん。

 

 

 でも、俺が良い感じで隠れられる機会を得られたのは素直に嬉しい。

 ここはそいぽんと二人で苺観賞でもしてみるかな? 

 

「那由他姉様、しっかりなさって下さい!」

 

 え、砕蜂に呆れられた……。

 俺ってそんなにしっかりしてない感じに見えるんだな。知ってはいたんだけどさ。

 

「傷は深いですが、急所は外れております!」

 

 もう回道で回復してるよ? 

 

「私が那由他姉様を決して死なせません!」

 

 なんかメッチャ覚悟決まった顔をしていらっしゃる。

 そりゃそうか。

 護廷に背いた形だもんね。背水の陣だ。

 

「双極の丘の下まで行って下さい」

「かしこまりました!」

 

 全肯定マシーンそいぽん。

 昔を思い出すね~。何言っても「はい!」しか言わなかったんだよな、この子。

 ちょっと面白くなって無理言っても実行しようとするから夜一さんに怒られてたっけ。

 

 なんてしみじみと回想していたらあっという間に目的の場所についた。

 

 苺の卍解修行でおなじみの温泉だ。

 

 浦原さんと夜一さんが現役だった頃に何度もお邪魔していたので場所はしっかりと把握している。

 

「ここは……」

「秘密基地です」

「私と姉様の……秘密!」

 

 そいぽんが千切れんばかりに尻尾を振っている。(幻視

 

 何故かは知らんが喜んでくれたようで何より。で、なんで? 

 まいっか。

 

「しばらくここで傷を癒しましょう」

「はい!」

 

 て訳で二人で温泉に入った。

 そいぽんが鼻血を噴射して大変だった。(小並感

 

 や、他に語る事もなくてね……。

 

 とりあえず苺たちがやってくるまでのんびりと温泉旅行気分を満喫していた。

 そいぽんはずっと幸せそうだった。

 実は君、温泉好きなんじゃろ。(名推理

 

 一応、今後の行動方針についても相談しておいた。

 

 まず、夜一さんとは仲直りして欲しいので彼女が来ている事を伝え二人で少し話をするように説得。

 次いで苺たち旅禍は自分の大切な子たちだから陰からフォローして欲しい事を。

 

 だって隊長格強いんじゃもん。

 

 出来れば介入はしたくないのだが、何かあってからでは遅い。

 もしかしたら過保護かもしれんけど……死んで欲しくはないし流石に放置は少し怖い。

 

 なお、俺の口下手で分かるように説明するのに一昼夜かかった。

 根気強く付き合ってくれたそいぽんには感謝だ。

 

 後、その際に砕蜂から浦原さんの事を聞いたのだが驚いた。

 もう極悪人なんて言葉でも生温いほどの恨みを買っているようである。

 

 しかも何か俺のせいっぽい。

 

 いや、諸悪の根源はお兄様なんだけどさ。

 

 浦原さんは現世に尸魂界のアイテムを入荷してるくらいなんだから、こっちの情報にも精通してるだろうしね。

 そりゃ目立つ感じで死神の前に現れたくない訳だよ。把握した。

 

 って事で、とりあえず砕蜂の誤解は頑張って解いておいた。

 ついでに俺がお兄様を止める気だと言う事も。

 

 いきなり泣き出したそいぽんにはマジで困惑したが、なんとか伝えるべき事は伝えられたかな? 

 

「私が、私が那由他姉様を支えますから……! ですから、ですからどうか御一人で全てを背負わないで下さい……!」

 

 もうボロ泣きそいぽんである。

 どうすれば良いのだろう……。

 

 分からんから頭撫でといたら俺の膝枕で寝ちゃったし。

 

 まあ、苺たちが来るまでは暇だし一昼夜話に付き合ってくれたし、私は一向に構わん! 

 

 なんてボンヤリとそいぽんの寝顔を眺め俺もウトウトとしていた時だった。

 

 

 ──ガン! ガン! ガン! 

 

 

「この音はっ!?」

「侵入警鐘ですね」

「という事は」

「はい」

 

 無言で頷くそいぽんが凄い頼もしい。

 

 俺の前では何かポンコツ臭が凄いが、彼女はこれでも夜一さんの後を継いだ隠密機動のトップだ。

 陰から支援する事に不安は全く感じていない。

 

「お願いします」

「お任せ下さい! 必ずや、憎き藍染惣右介を私が打ち倒してみせましょう!」

 

 ……分かってるん、だよね? 

 君はまだ表に出ちゃ駄目なんだよ? 

 一気に不安になってきた。

 

 しかし、本当に一日でやって来ちゃったよ。

 

 双極の丘のイベントとの時間差大丈夫かなぁ……。

 

 兎にも角にも、俺とそいぽんは揃って温泉宿を出立。

 彼女には夜一さんを探してもらいながら苺以外を任せる。

 

 俺? 

 

 

 もちろん苺の鑑賞に決まってんだろ? 

 

 

 という事で、二日間。

 俺はたっぷりと苺の雄姿を目に焼き付ける事が出来た。大変に満足です。

 

 苺が一角と戦った時に浦原さんの情報が回って瀞霊廷が予想以上に混乱していたが、その他は概ね原作展開通りである。

 

 たつきちゃんも微妙な不安要素だったんだけど、なんかいつの間にか捕まっていた。

 雨竜くんとチャドと同じルートである。

 

 で、いざ苺がルキアの元へ着いたら立ちはだかる白哉ですよ。

 助けに来たのが夜一さんだけじゃなく砕蜂もいた時点で無事仲直りは出来たようだ。

 

 では、いざ卍解の修行パートですな! 

 

 ルキアの処刑よりも一日くらい早いんだけど、時間が余ったら適当に戦闘訓練でもしとけば良いじゃろ。(思考放棄

 

 

「お待ちしておりました」

「那由姉!」

 

 先回りして秘密基地に着いていた俺は苺たちを無表情で出迎える。

 苺なんかは素直に俺が無事で喜んでいるみたいだ。夜一さんもどこかホッとしている。

 嬉しいね~。

 

「砕蜂から聞いておったが、目で見るまでは安心できなくての。無事なようで何よりじゃ」

「そちらも」

 

 ボロボロな苺は俺を見ただけで元気が回復しているんだから可愛い。

 より一層ルキア救出のために目を燃え上がらせていた。

 

 

 

 ──そして、卍解修行の一日目が終了した。

 

 

 

 まあ、原作通りで特に語る事もない。

 苺が斬月のおっさんにフルボッコされながらも戦闘能力が上がった感じだ。

 

「ここの温泉に入って下さい」

「こんなところに……」

 

 まあ、初めて見ればビビるわな。

 

「効果効能は折り紙付きです」

「へえ」

 

 そして、何故か俺の方を向く苺。

 ん、どったん? 

 

「……や、俺、入るから」

「どうぞ」

「どうぞじゃなくて、だから……」

「お気になさらず」

「気になるわっ!?」

 

 ちっ、しょうがねぇ。ここは一時撤退だ。

 

 どうせ後で夜一さんが揶揄いに行くだろうし、その時にでも一緒しよ。

 

「ぜってぇ覗くなよ!?」

女子(おなご)みたいな事を言う奴じゃのぉ」

「この人は前科があるんだよ!」

「那由他、お主……」

 

 そんな目で見るなよぉ。

 

「ならば、私も一緒に入りましょう」

「お願いだから止めて下さい、ほんと」

「昔はよく一緒に入ったではありませんか」

「何年前の話だよっ!?」

 

 いーじゃん、一緒に入ろうよ~。

 心は男の子なんだから恥ずかしくないよ? 

 

「なら儂も」

「はぁぁぁああ!?」

 

 ナイスフォローです、夜一さん! 

 

「早く入らないと傷に障りますよ」

「誰のせいだよ!」

 

 ギャーギャーと喚いている苺の目の前でストリップを開始する俺。

 真っ赤になった苺はすぐにそっぽを向いてしまった。

 

 うん、ほんと揶揄い甲斐があるなぁ、この子。

 

 しかし、夜一さん。

 いつ見てもナイスバディである。

 

「夜一さんは良い体付きをしておりますね」

「うん? 現世で鈍った分、少し引き締まりがなくなったんじゃがな」

「腰や手足も細いですし」

「スピードを出すためには体重は出来るだけ落とした方が良かろ」

「胸もご立派」

「そういう話かい」

 

「おい、黒崎一護。もし後ろを見てみろ。貴様は二度と光を見る事が出来なくなると思え」

「見ねぇよ!?」

 

 そいぽんが苺とじゃれている。

 いつの間に仲良くなったんだ、この二人。

 

 ついでにそいぽんも揶揄ってみようかしら。

 

「砕蜂、貴方も」

「はっ! ……は?」

「入りましょう」

 

 無言で鼻血を噴射した。(二度目

 

 あ、そっか。憧れの夜一様がいるもんね! 

 これは失敬。それに苺相手に肌は晒したくないか。

 

「よ、夜一様と那由他姉様のきょ、巨峰が……!」

「やめろ! マジでやめろ! 実況しないでくれ!?」

「別に裸くらいどうという事もないでしょう」

「那由姉の価値観どうなってんだよ、夜一さん!?」

「儂よりお主の方が詳しそうじゃが……一言で言えば、鈍い」

「知ってる情報しかねぇ!」

 

 

 非常に楽しかったです。(微愉悦

 

 

 何とか落ち着いて皆で温泉タイム。

 

 何だかんだ一緒に入ってくれる皆が好きです。

 

「黒崎一護」

「分かってるっつの!?」

 

 苺は岩の向こう側にお隠れになってしまった。

 ダンスでも踊れば出て来てくれるだろうか。ちょうど裸だし。天鈿女命ごっこでもしてみる? 

 

「やめよ、はしたない」

 

 立ち上がったら夜一さんに止められた。

 この人から「はしたない」とか言われるのは地味にショックだった……。

 

 苺以外にはこんな事しないんだからセーフでしょ……? 

 

 今まで隠してた事とか、これからへの期待とか、久々に一緒のお風呂とかでテンションがちょっと迷走しているだけなんだよ。

 

「ここ、あそこに似てるな。“勉強部屋”」

 

 とか一人でスンスン心の中で泣いていたら苺がポツリと零すように言葉を漏らした。

 

「そうじゃろうな」

「あの人──浦原喜助さんって何者だ?」

 

 その後、苺は瀞霊廷で戦った猛者たち皆が反応したという『浦原喜助』についての疑問を夜一さんに問いただした。

 

 そして、夜一さんは答えた。

 

 意外だったのが、浦原さんが『何故、現世にいたのか』という事まで含めて説明した事。

 俺が現世にいる理由も同時に説明された事だった。

 

 つまり、

 

「これらの事件を起こし、儂らを現世へと追放させた人物。その名は──」

 

「お待ちください」

 

 

 ネタバレじゃん!? 

 

 

 駄目だよ、双極の丘でバラすんだから! メッ! 

 

「那由他……」

「那由他姉様……」

 

 何故か二人が厳しい目で俺を見てくる。

 な、なんだよぉ、そんな目で見るなよぉ……。

 

「まだこの子が知るべきではありません」

 

 だから、俺は端的に意見を伝えた。

 

「……お主がそう言うなら伏せよう。しかし、いずれ知る事になるぞ」

「構いません」

「……まだ迷っておるのか?」

 

 何を? 

 

 キラーパスは止めて欲しい。

 話題に付いていけているようで付いていけていない。

 

「いえ」

 

 とりあえず否定しておく。

 肯定しても碌な事にならん。俺はノーと言える日本人なんだ。

 

『……』

 

 何故か微妙な雰囲気になってしまった。

 

 やっぱり肯定しておいた方が良かったかなぁ……。

 

「先に出ます」

「砕蜂、お主」

「那由他姉様を曇らす奴を、私は許す事が出来ません……鍛錬をしております」

「ほどほどにの」

 

 奴って、誰……? 

 

 え、俺が曇らされてるの? 

 予想外過ぎるんじゃが。

 

 まあ、なんとかこの場は乗り切ったっぽいから、ヨシ! 

 

 

 

 その後、苺の修行は順調に続き三日目。

 

 

 ──遂に苺は卍解を習得した。

 

 

 無事、育成目標達成! 

 一安心である。

 

 途中で恋次が来たのは予想通りだったが、何故かワンちゃんとかも来た。

 

『手紙、拝見いたしました。……その心に、今度こそワシは寄り添うと決めたのです。そして、見事逆賊を討ってご覧に入れます』

 

 何を言っているのかチンプンカンプンだった。

 とりあえず頷いておいた。この間は否定したら微妙な空気になったしね。

 イエスと言うのが基本スタンスな日本人は俺です。

 

『藍染元七番隊隊長。“義”によってお助けいたします』

 

 で、なんで要っちも来るんですかね? 

 剣八戦どうした? 

 

 修兵くんとかも来るしさぁ……原作どこ行ったし。

 

「姉御!」

「鉄左衛門」

「へい!」

「参りますよ」

「御供致しやす!」

 

 一番意外だったのが、恋次とほぼ同じタイミングでやってきた七番隊の副隊長・射場鉄左衛門。

 

 剣八戦がスキップされた時点でもうどこにいても同じでしょ?(諦め

 彼の活躍っていうか行動は殆ど覚えていなかったので好きにさせてあげていたのだが、彼は俺を『姉御』と呼ぶ。

 俺が隊長だった頃からだ。

 

 無理矢理十一番隊から引っ張ってきたから嫌われるかなぁ、と思っていたんだが、何故か好かれているっぽい。

 ワンちゃん同様に色々面倒を見てあげただけなんじゃが。

 

 君たちは俺がいなければ七番隊の隊長格になる人材なんだし、面倒見るのは当然じゃん? 

 

 まあ、苺の修行も裏方みたいに手伝ってくれたし無碍にも出来ない。

 俺の背後にピッタリと付いて来るのは地味にプレッシャーだったのは言うまい。

 

 

「那由他様」

 

 

 そんな感じで苺の卍解修行がひと段落した時だった。

 

 そいぽんからの情報でルキアの処刑が更に早まり明日になったのは天啓(師匠の修正力)かと感動していた俺に要っちが話しかけてきた。

 

「今夜、“例の場所で待つ”、と」

「分かりました」

 

 ここでお兄様からの呼び出しか……。

 

 殺されないよね? (震え声

 

 射場さんには付いてこないように言い含め、俺は指定された日時にいつもサバトが行われている場所へと向かった。

 

 

「久しぶりだね、那由他」

「お兄様も」

 

 普段と変わらぬ微笑が怖い。

 

 要っちが秘密基地に来た時点である程度お察しだったが、これからどうなる事やら。

 もうなるようになれ、としか考えていない俺である。

 

「君の舞台の手伝いをしよう」

「ありがとうございます」

 

 礼節は大事。

 条件反射みたいにお礼を言ったけど……どういう事だってばよ。

 

「君が望む未来への一助に手紙を出しておいた。今夜にでも雛森くんが動くだろう」

 

 ふぁっ!? 

 

 どうして桃ちゃんの事を知っているんですかね!? 

 

「何、簡単な事さ」

 

 もう頭脳が異次元過ぎて訳ワカメ。

 原作展開に一番貢献しているのはヨン様だと確信しましたわ。

 

 どうやら、俺が桃ちゃんを可愛がっており、彼女がヨン様に心酔している事から展開を予想。

 戦力分散の一つとして利用する事にしたようだ。

 

「まあ、君が必要十分に戦力を分散してくれたから、あまり必要性は感じなかったんだけれど……せっかく用意した駒だからね、有効活用しよう」

 

 正に外道。

 

 それ以外の感想が思い浮かびません。

 

「君は一度僕と敵対している姿を誰かに見せた方が良いだろう」

「四十六室ですか」

「流石だね」

 

 なんだろう。お兄様の矜持的に妹を殺す理由はやっぱり欲しいのだろうか。

 今更そんな、わざわざ演出して下さるなんて。

 

 ありがとうございます! 

 

 桃ちゃんの話から続いた話題なんだからと思って当てずっぽうで言ってみたが、どうやら正解だったようだ。

 寿命が延びた。ここで変な事言っていたら「用済みだ」とかいって斬り捨て御免されてたよ、きっと。

 

「ギンの場所へ向かってご覧。きっと面白い事になるだろう」

「分かりました」

 

 これは理解した。

 

 桃ちゃんが冬獅郎きゅんを殺そうとする場面じゃろ! 

 ルキアの処刑が明日って事から、恐らく桃ちゃんリョナシーンはその直後! 

 

 つまり! 

 

「桃さん、冬獅郎くん、乱菊さんを四十六室へ促せば良いのですね」

 

 これにはヨン様もニッコリ。

 

 正解を引き当てたぜ! 

 ほぼ原作知識だけの綱渡りだけどな! 

 

 って訳で射場さんには付いてこないように言い含め、俺は桃ちゃんのとこへ向かった。

 

 

 

 おうおう、良い感じに場が盛り上がってますね。

 

 桃ちゃんの悲壮な顔はゾクゾクします。

 冬獅郎きゅんの歪んだ顔もキュンキュンしますね。

 

 いや、俺の本命は苺とルキアの顔! 

 

 ここはヨン様の助言に従い、よく分からんが介入すべし。

 

「よく頑張りましたね」

 

 割って入ったは良いけど、どう止めたら良いかはよう分からんかった。

 迷っている内に桃ちゃんに斬られちゃったし。別に大した傷じゃないから良いんだけど。

 

 剣八みたいに霊圧差で弾けば良かったんか。

 

 なんかもう霊圧抑えるのが癖になっちゃってるんだよね。

 

 ワナワナ震えてはらはらと涙を流す桃ちゃんを必死に慰める。

 こういう時は無表情先生は不便です。

 

 これから悲しい事が起こるの確定演出なんだからさ、こんな時くらいは元気になって欲しいじゃん。

 

 ただ、俺がお兄様の話題を出した瞬間に飛んで行った。

 これがお兄様のカリスマよ。流石です。

 

「私たちも追いましょう」

「あ、ああ!」

 

 冬獅郎きゅんを促し俺たちは四十六室へ。

 やっぱり惨状と化していた。

 

 その様子に驚く冬獅郎きゅんに合わせてのんびりと周囲を眺める。

 

 お兄様と市丸くんの霊圧を奥から感じる。

 

 さっき冬獅郎きゅんと一緒にいたのは別人だったからね。

 鏡花水月でしょ、どうせ。

 

 戦闘になったらすぐバレたんだろうけど、その対策に俺を呼んだ訳か。さすヨン。

 

「随分と早いご帰還だね」

 

 あ、お兄様だ。

 

「すんません、那由他さんの引き付けが甘かったみたいで」

「何の話を、してるんだテメェら……」

 

 冬獅郎きゅんが驚愕しながらもヨン様の暴露を聞いていく。

 そして、奥で倒れている桃ちゃんに気付いた。

 

「知ってるはずだ、雛森はテメェに憧れた。てめぇの役に立ちたいと、それこそ死に物狂いで努力して」

「知っているさ。自分に憧れを抱く人間ほど御しやすい者はない。良い機会だ、一つ覚えておくと良いよ

 

 

 

 

 

──憧れは、理解から最も遠い感情だよ」

 

 

 

 

 

名言キタ──!! 

 

 俺は思わず感動で硬直してしまう。

 

 

 

「藍染、俺はてめぇを──殺す」

 

 

「あまり強い言葉を使うなよ──弱く見えるぞ」

 

 

 

 キャ──!? 

 

 名言のオンパレード! 

 もう感無量です! 

 このシーンを生で見れてアドレナリンがドバってる! 

 

 なんて放心していたら冬獅郎きゅんが九曜縛された。

 卍解すら使わせてないんじゃが……どうなんの、こっから? 

 

「なっ!?」

「所詮、君の実力なんてその程度のものなんだ。そこで大人しくしていてくれたまえ──さて」

 

 驚愕に目を見開く冬獅郎きゅんを放置してヨン様が俺の方へ向く。

 

 ど、どうすればええん……? 

 

「待たせたね、那由他」

「お兄様」

「ここから、君はどうするんだい?」

 

 

 ええぇぇぇぇ!? 

 

 俺に丸投げすんの!? 嘘でしょ!? 

 

 

 

「止めます」

 

 もうここは初志貫徹! 

 どうせ殺されるんなら抵抗してやるわボケェ!? 

 

「君にはまだ死んでもらう訳にもいかない」

 

 え、そうなん? 

 

「だから、倒れてもらおうか」

 

 

 それって精神的にって事ですかね?(困惑

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 俺──日番谷冬獅郎は藍染にかけられた縛道を解く事も忘れ、目の前の光景に見入っていた。

 

「なんだ、これ……」

 

 思わず漏れた言葉だった。

 

 しかし、そう言わずにはいられない戦闘だった。

 

 

「彼方を駆けよ──”天輪”」

 

 

 那由他が始解し、当初は那由他が優勢。

 

 その圧倒的な霊圧で他を凌駕する能力を披露していた。

 

 

「光牙堕衝」

 

「甘いね」

 

 

 那由他が出した光の帯は周囲を縦横に駆け巡る。

 

 その力の始点は剣先だけでない。

 空間のありとあらゆる場所から何条もの光線が相手を蹂躙せしめんと交差した。

 

 しかも、周囲への被害は皆無。

 

 藍染に触れた瞬間のみ燃え盛るような焔が立ち上る。

 これがあの時に言っていた力か! 

 

 という事は、

 

 

()()──衝天(しょうてん)牙月(がげつ)

 

 

 これが視認不可能の攻撃!? 

 

 先ほどまで乱舞していた流星が一斉に姿を消す。

 そして、周囲の空気が圧縮したような爆発的な衝撃破が周囲を襲った。

 

 

「”反転”か。久々に見るね」

 

 

 藍染はそれでも余裕の表情を崩さない。

 

 

「最後に見たのは1()1()0()()()かな。エネルギーの反転──これならば元柳斎重國の流刃若火すら抑え込める可能性がある」

 

 

 圧縮ではなく拡散。

 ビッグバンのような力の奔流で俺を捉えていた縛道にも亀裂が入った。

 

 これなら! 

 

「冬獅郎くんは動かない方が」

「なっ、どういう事だ」

 

「分からないかい? ──足手まといだって那由他は言っているんだ」

 

 藍染の言葉で腸が煮えくり返る。

 

 こいつは今まで優しい顔で皆に接し、その裏で雛森や俺たちを騙していたのだ。

 そして、その事実に那由他は気付いた。

 こいつの悪事を白日の下に晒す機会を虎視眈々と見計らっていたって事だろう。

 

 しかし、

 

「卍解!」

 

 俺だって、伊達に隊長をやっている訳じゃねぇ! 

 

 

「愚かだね」

 

 

 声が聞こえた。

 

 その瞬間、俺は斬られた。

 

 何も、察知出来なかった。

 

 幸いにも傷がそこまで深くないのは、地べたに倒れ伏した俺の頭上で藍染の刃を受け止めている那由他のおかげなのだと、簡単に理解できてしまう。

 

 

「言っただろう? 君は足手まといだと」

「お兄様」

 

 

 那由他が藍染の口上を遮る。

 その瞳には必死な色が伺えた。

 

 

 俺の、これまでの努力は、藍染には何一つ届いていなかった。

 

 

 

 そこから、那由他と藍染の戦いは長かった。

 

 恐らく、外では既に処刑の時刻が近づいているだろう。

 

「はぁ、はぁ……」

「どうしたんだい、那由他。卍解を見せてくれても良いんだよ」

 

 あの那由他が押されている。

 

 俺たち隊長格を一人で完封した、あの那由他が。

 

 それだけで、藍染の実力は嫌と言う程分かる。

 なんとか苦手な回道で傷も癒えてきた頃、俺は再び刀を持って立ち上がる。

 

 倒れてから藍染の追い打ちで縛道をかけられ随分と時間がかかってしまった。

 

 例え俺の実力が足りなかろうと、ここで指を銜えて見ている事なんか出来ねぇ。

 

 

「やはり此処でしたか、藍染隊長。いえ、もう隊長と呼ぶべきではないですね」

 

 

 すると、一人の女性の声が凛と響いた。

 

「大逆の罪人、藍染惣右介」

 

 四番隊の隊長、卯ノ花だ。

 

 そこからは答え合わせのようだった。

 

 藍染が自慢気に語ったのは『鏡花水月』の真の能力──完全催眠。

 発動条件は始解を目に入れる事。

 

 そこまで聞き、察した。

 

 

「つまり最初から──東仙要は僕の部下だ」

 

 

 こいつらのグループが、市丸以外にもいたという事を。

 

「お兄様」

「なんだい、那由他」

「止めます」

「なら、待っているよ」

 

 

 そう言って、藍染は布のような物を展開し姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

「な、ここは……!?」

 

 

 俺──阿散井恋次は周囲の光景に言葉を無くした。

 

 そこは、先ほどルキアを連れて逃げた双極の丘そのものだったからだ。

 

「朽木ルキアを置いて、退がり給え」

 

 耳に聞こえる声もどこか現実感がない。

 確か、俺は東仙隊長と会って、そんで今は目の前に藍染隊長と市丸隊長がいる。

 

 どう、なってるんだ……? 

 

「仕様の無い子だ、二度は聞き返すなよ」

 

 藍染隊長はいつもの柔和な笑みを浮かべている。

 

 いや、そもそも、なんで、生きて。

 

『護廷十三隊各隊長及び副隊長・副隊長代理各位、そして旅禍の皆さん。緊急通信です──』

 

 信じられなかった。

 

 四番隊の虎徹副隊長からの天艇空羅。

 そこから伝えられた情報は、現実という物を嫌でも理解させられるだけの暴力を持っていた。

 

 つまり、

 

「……何?」

「断る、って言ったんです」

「成程」

 

 藍染隊長(この人)は、敵って事だな……! 

 

「僕も君の気持ちを汲もう。朽木ルキアを抱いたままで良い──腕ごと置いて退がり給え」

 

 圧倒的な霊圧が吹き荒れる。

 なんだよ、これ。

 こんな霊圧、朽木隊長からも感じた事がねぇ。

 

 必死に避ける。

 

 それでも避けきれない。

 

 腕から血が流れる。

 

 胸元のルキアが焦った声を上げる。

 

 それがどうした。

 

 ここで、こいつを見捨てるなんて、俺に出来る訳がねぇ。

 

「やはり君は厄介だよ。朽木ルキアを離し給え」

 

 静かな声が聞こえる。

 

 膝を地面に着く。

 腕が上がらねぇ。

 折角、ルキアを助けられると、思ったのによぉ……!? 

 

 それでも、

 

 

「誰が、離すかよ……!」

 

 

「そうか、残念だ」

 

 

 そんな時だ。

 

 あの人の声が聞こえた。

 

 そして、あいつの声も。

 

 

 

 

 

「よぉ、しゃがみ込んでどうした」

 

 

 

 

「大切なこの子たちを、殺させはしません」

 

 

 

 

「随分とルキアが重そうじゃねぇか」

 

 

 

 

「私の全力全開です」

 

 

 

 

 

 

「手伝いに来てやったぜ、恋次!」

 

「助けに来ましたよ、恋次くん」

 

 

 

 

 

 俺たちの希望の光とも言える、それだけのものを残していった二人だった。

 

 

 

 

 

 

『 卍 解 ! 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“天鎖斬月”!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“無窮天輪”」

 

 

 

 

 

 

 


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