ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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今回はシリアスという名のシリアル回。

*オリジナル鬼道や技が多く出ます、苦手な方はご注意下さい。


藍染…だと…!?

「“無窮(むきゅう)天輪(てんりん)”」

 

 

 その名が聞こえた瞬間、辺りに暴風とも言うべき霊圧の渦が巻き起こった。

 

「す、凄い……」

 

 私──朽木ルキアは恋次に支えられながら、目の前に立つ大きな背中を見上げる。

 

 卍解に伴って生まれたのだろう。

 その身にまとう死覇装は絹のように白い着物へと変化していた。

 

 凛とした姿に、その純白は私の目に酷く眩しく見える。

 

 そして、始解では掻き消えていた刀身が露わになり、その色は深紅。

 鍔と柄は漆黒に染まり、より刀身の色が映えている。

 

 何よりも特徴的なのは、その刀身の長さだ。

 

 物干し竿。

 

 一言で表すなら、かの剣豪・佐々木小次郎が操ったという長大な刀となるだろう。

 那由他殿のように研ぎ澄まされた波打つ刃文は美しくすら感じる。

 

 ただ、卍解にしては地味な刀。

 

 通常、卍解はその力に呼応するかのように肥大する傾向にある。

 確かに刀身は大きく伸びているように感じるが、それでも一見すればそこまで絶大な威力を誇るものには見えない。

 

 そして、それは一護の卍解においても言える点だった。

 

 巨大な出刃包丁のような見た目は鳴りを潜め、その卍解は実にシンプル。

 漆黒の衣装と刀から見るに那由他殿と同系統の進化を遂げているように思える。

 

 黒い一護に対し、白い那由他殿。

 

 やはり、親子なのだな……。

 

 私が現世で連れ去られる際には必死で否定した一護だったが、この姿を見れば分かる。

 

 この二人は、やはり似た霊圧なのだ。

 

 燃え滾るような一護の霊圧と深く沈むような那由他殿の霊圧。

 まるで正反対のように思えるが、それでもどことなく同じ気配を感じる。

 

 その頼もしい背中を見れば、なけなしのプライドで保っていた処刑への覚悟はガラガラと音を立てて崩れていくようだった。

 

「素晴らしい……。それが君の卍解かい、那由他」

 

 そして、その声でハッと我に返った。

 

 詳しくは分からないが、五番隊の藍染隊長が裏で暗躍していた、という事だけは理解できる。

 私がこのような事になっている事も、どうやらこの人の謀略のようだ。

 

「一護、那由他殿……」

 

 口から名が零れる。

 

 少し前から噂で聞いていた。

 私を助けるために、何名かが瀞霊廷へと侵入したと。

 

 こんな、私なんかのために……。

 

 死神の力を渡し、平穏な生活から一護を遠ざけてしまった。

 大切な子として、一護や皆の安全を第一に考えていた那由他殿を巻き込んでしまった。

 ただの女子高生だった織姫やたつき、大きくも優しいチャド、死神を恨んでいるはずの石田。

 

 皆が、私のために立ってくれた。

 

 その事実は素直に嬉しいと思う。

 しかし、それで危地へと招いたのは私なのだ。

 囚われの身であり、自分では何一つ手助け出来なかった。

 

 そんな現実に胸が張り裂けそうだった。

 

 

 それでも、この二人はここに立っている。

 

 

 自然と、私の瞳から雫が一粒零れ落ちた。

 

 

「すんまへん。男の方は止めよう思えば止められましたけど素通りさせました」

「何、構わないよ。──那由他が育てた者がどれほどの力を付けたか試す良い機会だ」

 

 その言葉に一護の霊圧が増す。

 

 いつの間にこれほどの力を……! 

 

 以前から確かに強いとは思っていた。

 しかし、今の一護の姿は昔とは異なる。

 

 卍解という、死神の頂きへ到達していたのだ。

 

 恐らく、那由他殿が稽古をつけたのだろう。

 それでもこの短期間で卍解へ至るなど、並大抵の努力と才能ではない。

 

「藍染隊長の強さは並みじゃねぇ、気を付けろ」

 

 あの恋次ですら一護を頼るような忠告を口にしている。

 

 もはや、一護の力は隊長格と同等。

 恐ろしい成長速度だ。

 

 私はその並ぶ背に、希望を見出してしまった。

 

 助かりたい。

 また一緒に笑い合いたい。

 人々の笑顔を護りたい。

 

 笑い、かけられたい。

 

 未来への未練とも言うべき渇望が胸中に渦巻く。

 

 

 私はまだ、この人たちと──一緒にいたい! 

 

 

「一護、那由他殿!」

 

 

 一触即発な空気の中。

 私はあらん限りの声で叫ぶ。

 

 

 

 

 

「勝ってくれ……!」

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

「任せろ!!」

「任せなさい」

 

 

 

 

 なんと、頼もしいのだろうか……! 

 

 

「お兄様──参ります」

 

 

 世界が歪み、視界が霞むほどの霊圧。

 ただし、卍解した直後は荒々しかった力の奔流も、今では嵐の前の静けさもかくや。

 

 慣れ親しんだ、あの波風一つ立っていない静かな湖面を思わせる静謐な霊圧が那由他殿の体に集まっていた。

 

 

 そして、一護が動いた。

 

 

 目にも止まらぬ疾風となって、藍染隊長へと切りかかる。

 

 

 次の瞬間には一護の振るう斬魄刀を指先で掴んだ藍染と、奴の斬魄刀を防いでいる那由他殿の光景が現出する。

 

 

 速すぎて私の目にはコマ送りされたようにしか見えなかった。

 恐らく、一護の腹を斬り裂くはずだった凶刃を瞬きの間に詰めた那由他殿が防いだのだろう。

 

「……速いね。私一人では厳しそうだ」

「ほな、お手伝いしますわ」

「……覚悟」

 

 ここで背後に控えていた市丸ギンと新たに現れた東仙要が参戦する。

 

 しかし、

 

 

 

 

「とうせぇぇぇぇぇえええん!!!」

 

 

 

 

 護廷は未だ健在。

 

 戦力は分散されたものの、その意志の起点と成りうる那由他殿がこの場で卍解をされたのだ。

 その霊圧は瀞霊廷中を巡りすぐに皆がここに急行するだろう事は予測できた。

 

 空から降って来た七番隊の狛村隊長と射場副隊長が東仙要へと絶大な威力を持つ一刀を振り下ろす。

 

 

「くっ……!?」

「東仙!! 貴公は無き友のために死神になったのではないのか!? 正義を貫くためではないのか!? 貴公の正義は、何処へ消え失せた!!! 

「言ったろう狛村。私のこの目に映るのは最も血に染まぬ道だけだ」

「ならば!」

「私の歩む道こそが正義だ」

 

「ギン……!」

「……なんや、乱菊」

「どうして、こんな……!」

 

「動くなよ」

「動けばその首、即刻刎ねる」

「おやおや、四楓院夜一に砕蜂隊長か」

 

 

 続々と集まる護廷の猛者たち。

 

 形勢は完全に逆転した。

 

 

「全く、僕は今大事な用事があるんだ。邪魔はしないで欲しいね」

 

 

 そして、藍染を捉えていたはずのお二人が地に沈んだ。

 

 

『なっ……!?』

 

「何を驚いているんだい? まさか、僕が隊長格二人程度に遅れを取るとでも?」

 

 圧倒的な実力。

 

 瞬間的に上がった霊圧を肌で感じ、私の体は自分の意思でどうこう出来るような物ではなくなってしまった。

 瞳孔が開き筋肉が弛緩する。

 支えてくれていたはずの恋次の腕からもスルリと抜け落ち、私は惨めにも地面へと尻もちをついた。

 

 

「湧き上がる静謐な祈り 高貴なる王の器 永久(とわ)の雷鳴 (いなな)く車輪 同道する歩兵の群れ」

 

 

 その時、あの人の声が静かに皆を包んだ。

 

 

「邪魔者には消えてもらおうか」

 

「誓い 栄光 喝采 黎明 根源に満ちる天上の宴 刮目せよ 胎動せよ 羽ばたき 己の力を知れ」

 

 

 

「破道の九十・”黒棺”」

 

「──反転破道・”白棺”」

 

 

 瞬間、黒と白の衝撃が辺りに散らばった。

 

「これはっ……! 鬼道相殺!?」

 

 あの藍染が驚愕に目を見開く。

 

 私たちを襲うはずだった破道は、霧散しその被害はゼロ。

 しかし、鬼道を発動させずに無効化する術など聞いた事がない……! 

 

 

 

「“無窮天輪”の能力は、光を操る事のみに非ず」

 

 

 

 何が起こったのかの理解が周囲に広がっていく。

 

「光とは“波”。その真価は──“同調”と“共鳴”」

「スペクトル解析……。解析と分解を霊力にも当てはめられる、といった感じかな」

 

 何かを言っている。

 しかし、頭が付いて行かない。

 

 私は防衛本能とでも言うべき体の震えを止める事が出来なかった。

 

 その背には私だけでなく、もう皆を負っているのだろう。

 

 

 これほど、この人を遠くに感じた事はなかった。

 

 

 どれだけ追い付こうとしても、いつまでも護られる側である。

 数十年前に決意した“誇り”すら、今の私にはあるかどうか分からない。

 

 

 今の私は、ただ震えて那由他殿に縋る赤子以外の何者でもなかった。

 

「わりぃ、那由姉! 助かった……!」

 

 悔しそうに顔を歪める一護も私と同じような想いを抱いているのかもしれない。

 それでも、この人は私たちを静かに照らし続ける。

 

「当然の事です」

 

 苦笑してしまう。

 なんて、大きな人なのだろう。

 

 力の入らなかった体に活力が戻って来る。

 

 那由他殿なら……そう思ってしまう自分は弱いのだ。

 

 けれど、この弱さがあるからこそ、私は上を目指せるのだ。

 

「しかし、それでは君自身の速さを説明できないね。それだけじゃないのだろう?」

「簡単な事です」

 

 那由他殿が藍染惣右介に向かって長い刀身を翳す。

 

 

 

「私自身が──“光”となるのです」

 

 

 

 瞬間、那由他殿の姿が藍染の後ろに現れた。

 

『!?』

 

 皆が驚く。

 一護もどうやら那由他殿の卍解は知らなかったようだ。

 

「驚いた。つまり──君は光の速度で動けると言う事かい?」

「それだけではありません」

 

 那由他殿の振るった刃を紙一重で避けられる。

 その顔には未だ張り付けたような笑みがあった。

 

 

「鬼道と斬魄刀を()()()()()()

 

 

 何を言っているのかはよく分からない。

 しかし、あの藍染惣右介が驚いたような表情をしているだけで那由他殿の凄さが分かる。

 

 対面しただけで霊圧に当てられる力持つ者に、那由他殿は一歩も引けをとっていない。

 

 

「光牙堕衝──」

「その技は既に知っているよ」

 

 

「一の閃、“地の彼方”」

 

 

「!?」

 

 

 地面が割れる。

 

 槍が如く鋭い石柱が立ち並び、藍染の進路を制限させた。

 

 

「二の閃、“空の頂き”」

 

 

 空から光撃が降ってくる。

 

 もはや逃げ場などない……! 

 

「甘いよ」

 

 しかし、それでも藍染は避けきった。

 なんという瞬歩の練度か。

 

 

「三の閃、“人の輪還”」

 

 

 那由他殿の姿がブレる。

 いや、違う。

 

 増えたのだ。

 

 これは、分身か? 

 光の操作による虚像? 

 もはや現実に起こっている事への把握で精一杯となる。

 

 

「四の閃、“虚空の果て”」

 

 

 幾人もの那由他殿が藍染を中心として一斉に斬魄刀を走らせる。

 流石の奴にも刀傷が無数に生まれた。

 

 

「ぐっ!? 実体がある、だと……!?」

 

 

「黄道 天座 星読みの巫女 蒼穹を駆ける光を堕とす 絶えず遠のく高天を見よ

 

──光牙(こうが)天翔(てんしょう)

 

 

 

 那由他殿の髪が皆燃え上がった。

 

 その色は蒼炎。

 

 翻る長い髪は、まるで彗星のように煌めき流れる。

 

 

 

 そして、藍染は血を吹き出し地面に伏した。

 

 

 

 そのあまりに強く高潔な姿に、その場の誰もが言葉を失う。

 

 これが、元七番隊隊長・藍染那由他の真の実力……! 

 

「あらら、藍染隊長やられてもた」

 

 不利になったにも関わらず泰然自若としている市丸ギンの姿には薄気味悪さすら覚えるが……。

 

 事ここに至っては奴に逃げ場などない。

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだよ、那由姉ぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 一護のその声が響くまでは。

 

 

 

 

 

 

 ──ドシュッ。

 

 

 

 

 

 嫌な音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

「砕けろ──”鏡花水月”」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄、様……」

「流石だよ、那由他」

 

 

 

 

 

『なん……だと……!?』

 

 

 

 

 場の空気が凍る。

 

 那由他殿の胸から生えた刃を握るは、その背後に現れた藍染惣右介。

 

「破道の詠唱で斬魄刀と共鳴させるとは、とても面白い見世物だったよ」

「馬鹿な!? 藍染はそこに倒れとるはずじゃ……!」

「哀れだね、射場鉄左衛門。僕が那由他と対峙するに当たり何も対策をしていなかったとでも思っていたのかい?」

「何じゃと!?」

「僕が何のために()()()()()鏡花水月の能力を君たちの前で披露したか。全てはその瞬間に那由他へ完全催眠をかけるためさ

 

 

 絶句。

 

 奴は、既に那由他殿すら手玉にとっていたというのか。

 

「テメェェェェェ!!??」

 

 一番初めに動いたのは一護だった。

 

 那由他殿の力が圧倒的に過ぎ、今まで誰も手だしする事が出来なかった状況が変わった。

 

 皆が一斉に斬魄刀を握り力を開放する。

 

 

『卍解!』

 

 

「“黒蝿天諠明王”!!」

「“大紅蓮氷輪丸”!!」

「“雀蜂雷公鞭”!!」

「“狒狒王蛇尾丸”!!」

 

 

 

「黙って見ていてもらおうか──卍解・“清虫終式(すずむしついしき)閻魔蟋蟀(えんまこおろぎ)”」

 

 

 

 瞬間、視界全てが暗闇に閉ざされた。

 音も聞こえず、自分が本当にこの場にいるかが不安定になる。

 

 これが、東仙要の卍解。

 

 触覚はなんとか生きているようだが、これでは手も足も出せないではないか。

 

 

 

 そして、私はグイと誰かに引っ張られ、胸に唐突に腕を突き立てられた。

 

 

 

“光牙天翔”

 

 

 

「これが“崩玉”。意外と小さいのだな。さて──君はもう用済みだ」

 

 何故か聞こえた那由他殿の声、次いで視界が晴れ、目の前には藍染が小さな球状の物体を持って私を見下ろしていた。

 

 何が、起こって……。

 

 未だ自由に動かない手足。私はただ、その光景を他人事のように呆然と眺めているしかなかった。

 

 目の前が真っ暗となる。

 迫る刃は光に陰りを与え、私は常闇へと落ちていく。

 

 そのはずだった。

 

「させ、ません……」

 

 頬に生温かいモノが落ちてくる。

 

 状況が理解できていない。

 

「君の卍解とはその程度のものなのかい? 未だ実力の半分も出していないだろうに」

 

 藍染惣右介の言葉が分からない。

 

「未だに僕の事を大切に思ってくれている、と言う事かな」

 

 何を言っているのか、脳が現実を拒絶する。

 

「ならば、所詮は君もその程度と言う事だ」

 

 飛沫が上がる。

 

 赤い。

 

 深紅の噴水が撒き散らされる。

 

「足りないよ」

「がっ、ぐ……」

 

 藍染惣右介が距離を取るように下がる。

 

 那由他殿が咳き込み、再び赤が視界を過った。

 

「要の卍解を()()()()()()という手段で打ち破ったのは流石だ。卍解に囚われながらも外の光すら操れるとは……効果範囲の広さが段違いだね」

「まだ、です……」

「その体でかい?」

「舐めないで、下さい」

「それは愉しみだ」

 

 那由他殿が駆ける。

 もはや動きを目で追う事すら叶わない。

 霊圧が上がっていく。

 

 もはや隊長格を遥かに越えた、超常の実力と評して過言ない。

 

「那由他隊長!」

「姉御!」

 

 虚ろな目を向けると、そこには地面に倒れ血を流している狛村隊長と射場副隊長がいた。

 いや、彼らだけではない。

 

 そこら中に護廷の隊長格が倒れている。

 

 感覚を奪われたとは言え、あの一瞬で全ての隊長格を無力化したと言うのか……? 

 

 

「もう君は十分に護廷に尽くした。今更罪の意識に苛まれる必要はない」

 

 

 何を、言って。

 一体、藍染は何を言っている!? 

 

 

「君は皆の幸せを願っている。その中には僕も含まれているのだろう。そして、だからこそこの100年間、君は僕を只管説得し続けていた。僕の行いを君は看過できず、さりとて僕を害する事も出来なかった」

 

 

 皆が那由他殿へ驚愕の表情を向ける。

 

 この人は……、

 

 

「その中で知り合ったギンへの想いは予想外だったが、尚更君は私たちを救おうとしていたね。──あまりにも傲りが過ぎる」

 

 

「藍染!!」

 

 誰かが激昂したような怒声を放つ。

 それでも藍染の顔は変わらず、張り付けたような笑みを覗かせていた。

 

「その傲りによって、君は大事な者を失うのさ。──ギン」

「なんです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒崎一護を、殺したまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました~。ほな、ゴメンな

 

 

 

       ──射殺せ・“神槍”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かを言う暇すらなかった。

 

 何故だ。

 

 どうしてそこまで、那由他殿を追い詰める。

 

 この人が、どのような想いで貴方の側にいたのか。その片鱗は先ほどの藍染の言葉で痛いほど分かった。

 

 

 

 

 

『私は、貴方たちの顔を見るために死神になったのかもしれません』

 

 

 

 

 

 遠い昔の記憶。

 

 那由他殿の誇りに触れた、とても尊く大切な思い出。

 

 

 それが──汚泥で穢された。

 

 

 

 

 

 

 

「那由、姉……?」

 

 

 

 

 

 

 呆然とした一護の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

「私が、貴方たちを、まも、る、と……」

 

 

 

 

 

 一護も多くの血を流し伏している。

 

 市丸ギンの斬魄刀を避けるだけの力は残っていなかっただろう。

 

 だからこそ、予想してしかるべきだったのだ。

 

 

 

 

 

「あらアカン。邪魔せんといて下さいな、那由他さん」

 

「ギン、くん……」

 

 

 

 

 

 

「……良い機会やから言っときますけど、ボク、

 

 

 

 

 別に貴方の事なんかこれっぽっちも好きやあらへんで?」

 

 

 

 

 

 そう言って、市丸ギンは那由他殿を再び切り裂いた。

 

 

 

「が、ぎ、ぐっ……」

 

 

「ええ加減倒れてくれへんかなぁ」

 

 

 

 皆が絶望に落とされるに、これほどの光景があっただろうか。

 

 

 純白であったはずの装いはボロボロとなり、その色はドス黒い赤に染まっている。

 

 綺麗だった髪も土埃と泥にまみれ、既に立っている事すら奇蹟のような重傷だと一目で分かった。

 

 

 大切な兄に刺され、想い人から心砕かれ。

 

 

 それでも、この人は大切な人々を守ろうとしているのだ。

 

 

「あ、ああぁ……やめて、止めてくれ……!?」

 

 

 たまらず私は叫んだ。

 

 

「私の身などどうなっても良い! だから、だからこれ以上那由他殿を傷つけないでくれ、お願いだぁ!?」

 

 

「あい、ぜん……!!」

 

 一護が最後の力を振り絞るように立ち上がる。

 

「囀るなよ」

 

 瞬間、一護が吹き飛ばされた。

 

 実力があまりにも違いすぎる。

 

「こんなでも彼女は僕の妹でね。いつまでも君に家族面されるのも御免だ」

「ち、っくしょう……!」

 

 

 

 

「もう良いよ、ギン。興が醒めた。この子にもまだ使い道はある。回収して“虚”にでもしてみよう」

 

 

 

 

『……は?』

 

 

 

 

 

「もう崩玉も手に入った。中途半端に死神だから那由他もこうなってしまったのだろう。自我を失ってしまうまで虚化を繰り返し、加えて虚を食べさせれば良い具合に僕の贄と成りうる」

 

 

 

 

 

 なんという、外道だろうか……。

 

 

 

 

 開いた口が塞がらず、改めて那由他殿の運命を呪った。

 

 

 

 

 どうして、どうしてこの人がそんな目に遭わなければならない。

 

 

 

 

 皆の笑顔を、ただ、ただ護りたいと願ったこの人に、一体なんの罪があると言うのだ……!!! 

 

 

 

「もう君たちの役目は終わりだ。そこで横になっていてくれたまえ」

 

 

 

 そこから藍染が語った事実を、私たちは呆然と聞く事しか出来なかった。

 

 常に発させる膨大な霊圧と体に負った傷が私たちを地面へ縫い付けていたのだ。

 

 

 ──全て、全てが奴の掌の上だった。

 

 

 私の処刑も、その救出に一護と那由他殿が現れる事も。

 崩玉という物を巡る藍染の壮大な陰謀を、私たちは黙って聞く事しか出来なかった。

 

 

 

「そこまでじゃ」

 

 

 そして、遅れてやってきたのは、京楽隊長、浮竹隊長、──総隊長・山本元柳斎重國殿。

 

 

 だが、もう、遅かった……。

 

 

「おや、随分と遅い到着だ」

「……無事で済むとは思っておらんな?」

 

「いや、残念ながら──時間だ」

 

 光の帯が天上から地上へと差し込む。

 

「ば、馬鹿な……!? 大虚(メノス・グランデ)!!」

 

 その光は那由他殿を小脇に抱えた藍染共々、市丸と東仙を包み込んだ。

 

 

「御免な、乱菊」

 

 

「何が、何がゴメンよ……! こんな事して、貴方は一体何を考えているのよ……!!」

 

 

「東仙!!!」

 

 

「さらばだ、狛村」

 

 

「大虚とすら手を組んだか……何のためだ」

「高みを目指すため」

「地に落ちたか、藍染……!」

 

 

「傲りが過ぎるぞ、浮竹。最初から誰も天に立ってなどいない。君も、僕も、神すらも」

 

 

「何を……!?」

 

 

「だが、その耐えがたい天の座の空白も終わる、これからは

 

 

 

 

 

──私が天に立つ」

 

 

 

 

 

 

 護廷史上における最大の裏切りと爪痕を残し、藍染惣右介は那由他殿を連れ去り、悠然とその姿を虚空へと消していった。

 

 

 

 

 

 




ヨ「素晴らしい演目だったよ、那由他」(オメメキラッキラ
カ「流石です、那由他様」(キラキラ
ナ「は、い……」(白目
ギ「  」(ドン引き


という訳でSS編・完!
こいつぁヒデェ……。

あと、感想だけでなく直接メッセで応援下さったりと本当にありがとうございます…!
これからも執筆続けていきますんで、簡単なものでも感想頂けたら嬉しいです!
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