ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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そういえばで申し訳ないですが、お気に入り1万突破してまして。
本当にありがとうございます!(土下座


立場…だと…!?

「お待ちしておりました、那由他様」

 

 俺がボッロボロの状態で連れていかれた先は虚夜宮(ラスノーチェス)

 劇団員みんなのおうちだ。

 

 そんな場所で待ち構えていた破面の方々に言われたのが最初のそれよ。

 

 おう、どったん……? 

 

 1番さんから10番さんまで勢揃い。壮観です。

 

「この度のお勤め、ご苦労様でした」

 

 わあ、シャバに戻った人みたーい。

 

「いえ」

 

 ここは「おう」みたいなセリフを言った方が良かったんかな? 

 一応、それっぽく振舞うために背筋伸ばして返事したけど、もう体中が痛い。

 

 知ってた? 

 今の俺、胸元に穴開いてんでっせ。破面かよ。

 

「那由他、もう傷を治しても良いよ」

 

 あ、そう? 

 

 そんな俺へ微笑みかけてきたお兄様の言葉に甘えて、俺はサクッと()()()()()()()体の傷を治す。

 

「……え、那由他ちゃん、それ出来るん?」

 

 ポカンとした顔の市丸くんにニヤリと内心で笑みを浮かべる。

 

 伊達に虚を喰っちゃ寝ハピハピしてないでござんす。

 虚の能力なら大体使えましてよ。

 

 でも痛いのは本当なので、そもそも怪我したくない。(真顔

 

 今回はお兄様に殺されるかどうか分からんかったから当初抵抗はしたけど、何か途中から気付いてしまったのだ。

 

 

 ──あ、これ手加減してるわ、と。

 

 

 だったら俺も合わせて力をセーブした方が良いじゃろ。

 

 そんなアドリブに溢れた演劇だったのだが、苺とルキアの顔を見た限り問題なかったんだと思う。思いたい。

 俺とお兄様が()()()()()()もっと周囲の被害が甚大やったし。

 

 確実に原作よりも強くなってんよね、ヨン様。

 

 市丸くんとか見てたら何となくそうじゃないかと思っていたし、だからこそ覚悟ガン決まりで挑んだんだけど……。

 

 

 

 

 

──だって俺、未だに鏡花水月かかってないもん。

 

 

 

 

 双極の丘でお兄様と斬り合った最初の一合。

 

『……速いね。私一人では厳しそうだ』

 

 このセリフで何となく察した。

 

 ヨン様があんな美味しい状況で他に頼る訳ないじゃん。

 しかもあの時俺、ヨン様の斬魄刀触ってたんよ? 

 

 その時に鏡花水月を発動したのに気付けた。

 

 あとは何かヨン様が目線で合図した方へ適当に攻撃放ってた。

 そうしたらあの場面の出来上がりよ。

 俺はただ目線の指示に従ってただけだけど、まああのスピードについていける人はあの場にもいなかっただろうしね。

 

 これが兄妹のコミュニケーションよ! (ドヤァ

 

 疑っててほんとすいませんでした。

 要っちも良いタイミングで卍解解除してくれてありがとうございます。

 

 ただし市丸、テメェは別だ。

 

「ギンくん」

「なんですか?」

「随分と楽しそうでしたね」

「まさかー。ボクも心が痛かったですよ?」

 

 おいこら、テメェ。分かってんぞ。

 

「私の急所を容赦なく狙ってきておいて良く言います」

 

 あと「こっれぽっちも好きじゃない」発言は地味に傷ついたんだからなぁ!? 

 これ演技じゃなくね? って流石に察したわ! 

 

「ボクは藍染隊長ちゃいますもん。そないに上手く誤魔化せる自信なんてあらへんてー」

 

 ……まあ、そうかもしれん。

 

 あれ? 

 じゃあ俺の勘違い? 

 俺の実力を信じて心を鬼にし、内心で涙しながら俺に刀を向けていた? 

 やだ、ちょっと可愛いんじゃが。

 

 なーんだ、市丸くんは分かりにくいぞー☆

 

「なら良いです」

 

 とりあえず双極の丘での出来事は良いや。

 苺とルキアの曇り顔とか言うご馳走を貰ったお礼だ。とやかく言うまい。

 

 それよりも今後ですよ、今後。

 

「お兄様」

「うん、そうだね」

 

 これぞ阿吽の呼吸である。

 口下手な俺の意思を一瞬で汲み取るこの頭脳と気遣いよ。

 

 

 

 

「今後は君が十刃のトップだ」

 

 

 

 

 ……? 

 

 おっと、難聴かな? 

 

 

 

「”番外刃(フエラ・エスパーダ)”。それがこれからの肩書だよ」

 

 

 

 んんんんんん!? 

 

 ちょっとどころではなく思ってたんと違うんじゃがぁ!? 

 

 

「いい加減()()()()()をするのにも飽きただろう。もう我慢する必要はないさ」

 

 

 マジでヨン様が何を仰っているか分からんちん。

 

 つまり、えっと、どういう事だってばよ。

 

 

君の本質は既に“虚”へと成っている。今まではそれに気付かれないように虚の霊圧を抑えていたようだが、もう十分だろう。それに十刃(かれら)へ君の実力を示す良い機会だ」

 

 

 デジマ……? (白目

 

 

 

【悲報】俺氏、既にほぼ虚だった件について【速報】

 

 

 

 確かにさ、虚を喰らって力を奪えるし? 

 霊圧の半分以上は虚だし? 

 虚に能力の割譲とか出来るし? 

 最上級大虚を霊圧だけで黙らせられるし? 

 仮面を出さずに虚化して、虚化以上の力を引き出す死覇破面(アランカル・パルカ)とか編み出しちゃったし? 

 帰刃も刀剣開放第二階層(セグンダ・エターパ)まで使えるし? 

 むしろウルキオラに教えたの俺だし? 

 ヤミーの憤怒(イーラ)による0刃(セロ・エスパーダ)の能力とかも俺があげたし? 

 元0のザエルアポロから能力獲ったの俺だし? 

 アーロニーロにもメタスタ君あげたし? 

 ハリベル部下の三人娘とか結構好きなキャラだったから特別に目をかけて育ててたし? 

 ネリエル追放したくない~って駄々こねたし? 

 ノイトラまだ何もしてなかったのに八つ当たりでボコって大人しくさせちゃったし? 

 

 ……ん~? 

 

 案外やらかしてますねぇ。(小声

 

 ちなみに、これらは虚圏を放浪してた2年くらいの間の出来事だ。

 破面のみんなからは感謝される事が多かったから気にしてなかったわ。

 

 特に変態紳士(ザエルアポロ)

 

 なんか彼は力よりも知能が欲しかったみたいだからね。

 俺の中の“知識の力”とトレードしてあげた。

 

 はい、「だから余計にアホになったんじゃ?」とか思った子。怒らないから前に出なさい。

 

 まあ、“知識の力”とか言うと分かりにくいが、ようは俺の()()()だ。

 俺なら絶対にいらないけど、ザエルアポロが何か凄い興味深々だったから手術して摘出させてあげた。

 もう魂魄が虚とか諸々でしっちゃかめっちゃかになってたからさ、考えるのが億劫だったんだよね。

 

『分離しても那由他様との接続は絶えないように処理させて頂きます』

 

 とか言ってたから、あんま意味なかったけど。

 頭が少し軽くなったくらいだ。

 

 

 ……とか当時は思ってたんだよ。

 

 

 グロすぎ、マッドすぎ、意味分からん。

 貰うザエルアポロもだけどさ、普通に「良いですよ」とか頷く俺も相当だ。

 

 うっ、今更ながら吐き気が……。

 俺の頭ん中はアイツが持ってんですぜ? 

 思考回路の分析してるらしいけど。

 

 え? 

 

 じゃあ、俺のアホな思考全部バレてんの? 

 何それ鬼畜すぎ怖い。余計な事考えんとこ。

 

 

「君の“死覇破面”は見た目では破面化した虚と変わりない。これは今後の計画を進める上で非常に効果的だ」

 

 おっと、お兄様の言葉を聞き逃すところだった。

 

 過去の過ちを気にしてはいけない。

 俺は未来に生きるんだ。

 ちょっと未来に行き過ぎて周りがついてこれないだけなんだ。

 

「君の新しい衣装も用意している。那由他に合ったものを私自らデザインした。いつまでも死神の恰好をするのも護廷の所属のようで良くない」

 

 ……ちょっと先取りすぎぃ?

 

「それと、少し現世に行って黒崎一護たちに刺激を与えよう。あまり悠長に過ごしているとは思わないが、君の現状を見せて危機感を煽るのも良い。もう君は私のモノだとも知らしめられる」

 

 ドSか。

 なにそれ楽しそうとか思う俺はもう真っ黒である。

 暗黒面にドップリだ。

 

 肉体的に傷つけたいんじゃなくて、精神的に追い詰めたいのだ。

 

 この違い分かる人いる? 

 いたら俺と握手! 

 

「そのためにも、君には十刃以上の破面の頂点である事を見せつける必要がある」

「つまり、外で模擬戦を行えば良いのですか」

「ああ、構わないよ」

 

 お兄様の言葉に頷くと俺が振り返る。

 そこには一様に顔を青くしている破面の皆さんがいた。

 

「という事ですので、皆さま。お時間を頂きたく」

 

 反抗期まっしぐらのノイトラくんもガクガク震えているのは少し笑った。

 

「大丈夫です。殺しはしません」

「必要ないと思ったら処分も構わないよ」

 

 おおぅ、ナチュラルにパワハラしますねヨン様……。

 皆一斉に決死の覚悟をした瞳をしていらっしゃいますよ? 

 

 でも俺は基本的にBLEACHキャラみんなが好きなので、そんな殺すなんてそんな。

 

 とりあえず、皆を瞬歩で外に運ぶ。

 いきなり景色が変わってビビっている子が何人かいたけど、十刃の人達はちゃんとついてきていた。

 

 何人くらいいる? 100くらい? 

 

 う~ん。

 久々に“オレ”を使うか。

 

『ちょちょちょ~い! オレの扱い雑じゃね?』

 

 ──そんなもんでしょ。

 

『泣いて良いっすか、自分?』

 

 ──とか言いつつ愉しみな癖に~。

 

『あ、分かる?』

 

 ──分かりますとも。だって“オレ”だもん。

 

『じゃあ、派手にやろーぜい!』

 

 ──あいあいさ~! 

 

 

 心の中でマブダチの“オレ”とキャッキャしてたら“天輪”がため息をついていた。

 

 

『貴方様、私の事もお忘れなきよう』

 

 ──君みたいなイケメン忘れる訳なかろう。

 

『……素直に喜べない』

 

 

 さてさて。

 あまりふざけてないでちゃっちゃと()りますか。

 

 

「あ、(あね)さん? 俺らさ、別にアンタに逆らう気なんて……」

 

 第一刃(スタークくん)が何か言ってるが問答無用である。

 お兄様の指示なんだから仕方ない。

 

 俺だって命が大事なの。

 

 大丈夫、ちょっとしたストレス発散に付き合ってもらうだけさ。

 

 苺とルキアの顔を見れて満ちてるけど、それとこれとは別の話。

 ボッコボコにされたら少しは溜まるでしょ、ストレス? 

 これでも結構自分は強いと思ってる方なんだ。

 

 ワザととは言え、フルボッコの汚名は雪がねば! (使命感

 

 まあ、正直に言えば念願の悲嘆顔見れてテンション上がってるの。

 

 飲みに誘われたと思ってさ、付き合って★

 

 

 

 

帰刃(レスレクシオン)

 

 

 

 

「あ、駄目だ、こりゃ……」

「スターク、覚悟を決めろ」

「いやいや。姐さんの恐ろしさだったらお前も知ってんだろ、ハリベル……」

「だからこそだ。胸を借りる良い機会と思え」

「むしろ、ここで儂があの小娘を捻りつぶそう」

「バラガン爺……そりゃ勇猛っていうか無謀だぜ?」

「ここならば第二階層でも問題あるまい」

「ウルキオラぁ……、ああくそ! やるしかねぇか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「彼方を廻れ──”天壌無窮(シエ・シエロス)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かい、ノイトラ?」

 

 俺──ノイトラ・ジルガはその声で意識を取り戻した。

 

 声の主を確認する事もなく、差し出されていた手を払う。

 

「……相変わらずのようだ」

 

 どこか諦めたような蔑んだようなため息。

 それだけでコイツが誰かが分かった。

 

「何だ? お得意の“愛”って奴か?」

「ノイトラ。君は私の“愛”を馬鹿にするのかね?」

 

 褐色の肌にスキンヘッド。

 十刃の中でも特徴的な外見をしている奴──ゾマリ・ルルーを傍目に俺は唾を吐いた。

 ベチャと地面に赤いシミが出来る。

 

「あのクソ女はどこに行きやがった?」

「その前に訂正したまえ。那由他様は既に我らが頂きだ」

 

 舌打ちをする。

 

 あの女の強さなんてもんは昔から知っている。

 知っているからこそ気に入らない。

 

 あれほどの強さを持ちながら、弱い者にこそ手を差し伸べる女だ。

 

 まるで俺の在り方を全て否定するようである。

 

 強さを求め、戦いの中で死ぬ。

 それを本望とし、強ければ弱くすれば勝てるという戦法。

 

 アイツは良しとした。

 

『何が悪いのですか? それが貴方の在り方でしょう』

 

 そんな事をのたまった。

 

 反吐が出る。

 

 強者たる堂々とした態度。

 比類なき力。

 底の見えない霊圧。

 

 初めは──憧れたんだ。

 

 俺もアンタみたいに成りたいと思った。

 でも、アンタは弱者こそに救いの手を差し伸べた。

 

 

 俺とは、真逆だ。

 

 

 頭を振る。

 

「……てことはアレか? 十刃が揃いも揃って負けたって事か?」

「予測してしかるべき事実。いや、もはや成るべくして成った現実だった」

 

 もう一度舌打ちする。

 

「番外の帰刃。──あれはもはや“愛”を超えた」

「分かるように言えや、クソが」

「“太陽”である」

 

 本当なら余計分からねぇと言いたかった。

 

 しかし、理解出来てしまった。

 

 

 あの女は──“太陽”なんだ。

 

 

 静かな月を思わせる霊圧と雰囲気に反して、奴の力は全てを燃やし尽くす。

 

 それだけでなく、皆を照らす。

 

 弱者も強者も関係ねぇ。

 遍く全ての万象を照らす。

 恵みを齎し、命を育て、神が如き視点から俺らを見下ろす。

 

 あの慈愛に満ちた視線が、とにかく気に入らなかった。

 

 だから俺は反発した。

 

 奴が虚圏にいる間、俺は虚の時に戦いを挑んだ。

 そして、あっけなく負けた。

 

『名は?』

 

 何の気まぐれか、俺にそう問いかけた女は、その日から俺の上司になった。

 

『ノイトラ、貴方は強いです』

『ノイトラ、貴方には成せるだけの力があります』

『ノイトラ、だから貴方は卑怯で良いのです』

 

 褒められてんのか貶されてんのか分からなかった。

 

 だから、初めは従順なフリをして力をつけてからアイツの寝込みを襲った。

 

 

 

『なんでだ……なんで抵抗しねぇ!!??』

 

 

 

 そんな俺を襲った虚無感を、どう表現したら良いだろうか。

 

 俺に腕を落とされ、足を落とされ、衣服を剥され、目玉をくりぬき、ありとあらゆる拷問を行った。

 それでもアイツは言ったんだ。

 

『満足しましたか?』

 

 全てがどうでも良くなった。

 

 絶望を、まさか無抵抗の女から与えられるとは思ってもみなかった。

 

『犯されるくらいは覚悟しましたが、貴方も紳士なのですね』

 

 しまいにはそんな戯言まで言って。

 あいつは泰然とした態度のまま俺を後目に去っていった。

 

 その後、今まで見た事が無いような憤怒の形相のネリエルに殺されかけたが……。

 まあ、どうでも良い。

 アイツならどうせ数秒あれば腕も足も生やせる。

 死神とか虚なんて枠を既に超えている化け物だ。

 

 俺は……認められたかったのかもしれない。

 

 あれだけの強者に、自分が強者であるという表明したかったのかもしれない。

 

 

 

 そんなある日、アイツは虚圏から姿を消した。

 

 

 

 憤慨した。

 

 激昂した。

 

 侮蔑した。

 

 俺の倒すべき姿が消えたのだ。

 

 そして、藍染様から聞いた。

 

 

『黒崎一護を庇い、那由他が負傷した。──グランドフィッシャー、何か言い分はあるかな?』

 

 

 殺そうと思った。

 

 アイツを傷つけるのは俺だ。

 

 俺だけがアイツを傷つけるのだ。

 

 グランドフィッシャー? 

 

 確かそんな名前の虚がいたと聞いたが……冗談だろ?

 

 そもそも、何でアイツがこんな雑魚に傷つけられた?

 

 ……ああ、義骸とか言うのに入ってんだったか?

 死神共に気付かれず、普通の人間として過ごしてんならそういう事もあるかもしれない。

 

 ただ、それでも信じられなかった。

 

 俺の目指した強者がそんな事で死ぬはずがない。

 

『お、俺、いえ、私は! 私は言いつけの通り黒崎真咲を襲ったのです!? そこに突然……!』

『自らに非はないと?』

 

 あの時の藍染様の迫力は類を見ないものだった。

 にこやかな笑顔を浮かべているが、その身から放たれる霊圧に十刃含め誰も顔を上げる事が出来ないほどだ。

 

『い、いえ……その……!?』

 

 必死になって弁解する奴を滑稽に思った。

 これが弱者の姿だ。

 

 俺は違う。

 

『藍染様。私に処分を』

 

 ネリエルが言った。

 俺を「弱い」と評しウザったく絡んでくるコイツを排除したかったが、アイツの顔が思い浮かんで止めた。

 

『いえ、私に』

 

 ハリベルが言った。

 実力があるにも関わらず、アイツの近侍なんて身分で満足していたこいつも気に入らねぇ。

 まあ、今はネリエルを倒して第3の地位を持ってるけどな。

 

『儂がやろう』

 

 バラガンが言った。

 虚の時は大帝と呼ばれ虚圏を支配していた王も、アイツのせいですっかり丸くなっちまった。

 まあ、実力は認めている。

 

『是非とも、私に』

 

 ドルドーニが言った。

 実力の伸びが悪くて今にも十刃を落ちそうな奴が何言ってんだ。

 ただ、その忠義心は本物だ。

 強くないから興味はないが、こいつが強かったらと思う事はある。

 

『いえ、私に!』

 

 チルッチが言った。

 こいつもアイツの強さに魅せられた一人だ。

 手段を選ばない訳ではないが、人一倍強さに対する拘りを感じる。

 

『なら、私の実験にでも』

 

 ザエルアポロが言った。

 こいつが一番いけ好かない。

 しかし、俺にとって一番有益な奴でもあった。

 強さよりも知識を求める姿勢は気味が悪いが、使える奴は使う。

 そんなコイツが考えているのも、どうせ部屋の中央にデカデカと置いてある脳味噌の事だけだろ。

 本当に気持ち悪い。

 

『あー、俺がやっても良いですけど……。他の奴だと酷い事になりそうですし』

 

 スタークが言った。

 実力に反してやる気の感じられない奴だ。

 しかし、その実力が本物だから俺は何も言えない。

 いつか俺がその座を奪うと密かにライバル視している奴だ。

 

 

 他にも色々な声が挙がる。

 

 それら憎悪の対象とされているグランドフィッシャーとやらは酷く顔を青くしていた。

 

 

 

『いや、彼には破面化してもらう』

 

 

 

 だからこそ、藍染様が言った言葉を皆が理解出来なかった。

 

『次の失敗は許さない、良いね?』

『は、ははぁ!!』

 

 誰もが納得していなかった。

 空気だけで分かる。

 しかし、藍染様の決定に異を唱える奴もいなかった。

 

 

『那由他様を傷つけたんでしょ!? 何で破面化を許されるの!?』

『アーロニーロ、気持ちは分かるけど……藍染様の決定だわ』

『でもネリエル!』

『分かってる、分かってるわ……私だって、今すぐにでも殺したいくらいよ』

 

 アイツの強さは力だけじゃない。

 

『まだモノに出来ていないのだが……次はいつ教えて頂けるのだろうか』

『おいウルキオラ、それ嫌味か?』

『何の話だ?』

『第二階層を出来るのがお前だけだって話だよ!』

『ヤミー、お前はもっと理路整然と主語をつけて喋れ』

『あいにくと俺様は人間じゃないからな。そういうのは苦手だ』

『那由他様が泣くぞ』

『あの人ずりぃよなぁ……、何で無表情なのに泣いたように見える時あんだよ。マジであの顔が苦手なんだよ』

『お前が不出来すぎるからだろう』

『ようし分かった、ちょっと訓練しようや。俺様の的な、お前』

『それは八つ当たりだ』

 

 あれだけ恐れつつも、皆がアイツを尊敬し、尊重し、憧れている。

 かく言う俺もその一人だってのが、余計に腹が立つ。

 

 自分で自覚しているんだから救えねぇ。

 

 あの人が虚圏にいたのはたったの2年だ。

 その後もちょくちょくと来ていたが、それでも多くの時間を過ごしていた訳ではない。

 

 それでも……。

 

 

 

 

 

「ノイトラ?」

 

 

 ゾマリの言葉にハッと我に返る。

 

 ちくしょう。

 

 俺は未だ塵の舞う周囲を見渡した。

 

「ゾマリ」

「何かね」

「俺は弱くねぇ」

「……知っているとも」

 

 

 

 

 

 

 ただでさえ荒野と称される虚圏。

 

 

 

 

 その世界をえぐり取るかのように、

 

 

 

 

 

 

 

「俺は強くなる」

「私もだ」

「テメェよりも強くだ」

「そうかね」

「そもそも、俺が一番強ぇ」

「……些か前後の話と矛盾してないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の倒れていた脇には、底の見えない虚無の穴が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ギ「なあ、この穴どないするん?」
カ「…そのままで良いだろう」
ギ「その心は」
カ「那由他様の力の象徴として使える」
ギ「統括官は大変やな~」
カ「いや、那由他様の方が忙しい」
ギ「ああ、そやね~…」

破「番外ーー!!!」(キラキラ
ナ(うわこっち来るなヤメロ!俺は保母さんじゃねぇ!でも可愛いから許す!)

ギ「どっかで見た事あんなぁ」
カ「ムツ〇ロウ」
ギ「それ」

ヨ「ふふっ、流石だよ那由他…」(コメカミピクピク

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