ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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本当におまたせして申し訳ありません(土下座

ちょっとプライベートがゴタゴタしていたもので……。
これからは以前のように毎日とはいきませんが、少しずつでも更新を再開したいと思います。
コメント等で応援してくださっていた方、ありがとうございます。
よろしければ、これからもご愛読いただけると幸いです!


現世…だと…!?

 俺が番外刃(フエラ・エスパーダ)となってから数日。

 

 まあ、割と落ち着いた日々を過ごせました。

 破面のみんなとキャッキャしていただけである。

 

 まあ、一応苺とかの様子を探ってみたりはしたけどさ。

 

 劇団員の役割分担ガバガバ過ぎんよ。よく要っちは統括官とかやれるな。

 俺はそんな責任だけある役職なんて御免である。

 

 肩書あるじゃんって? 

 

 番外とか、つまり破面に目を配っとけばなんとかなるのだ。

 つまり、自発的になんかする事は全くと言って良いほどない。

 

 ガハハ、勝ったな! 

 

 何に?(迷走

 

 とりあえず、手始めに十刃の序列を原作通りに整理しといた。

 十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)となったドルドーニとチルッチちゃんは泣き崩れていて罪悪感がマッハである。

 えぇ……、だって原作だとそうだったんだもん……ごめんよぉ。

 それ以外の理由とかないからさ、別に君たちはいらないとか言うつもりはないし。

 

「貴方たちは必要です。努々(ゆめゆめ)忘れぬように」

『ハッ……!!』

 

 だから何でそんなに決意込めた返事するん? 

 大丈夫、苺たちが虚圏に来たら大活躍してもらうからさ! 

 

「那由他様、本日はどうされますか?」

 

 俺が何をするでもなく入れ替わっていたネリエルなんかは普段通りなのだが。

 いや、なんか専属メイドみたいな雰囲気で接してくるのは違和感すごいんじゃがね。

 

 でも、これじゃネル・トゥにならなくない? マズくない? 

 え、君ちゃんと苺のとこに行くんだぞ? 

 俺は信じているからな? 

 

 ……ここはテコ入れしといた方が良いか? 

 

 つっても俺がノイトラとザエルアポロに変なプレッシャー与えたせいで改変しちゃったっぽいし。

 本当に余計な事しかしないな、俺! 

 

 そんな感じで「どうすっぺー」といつものように悩んでいた時だった。

 

 

「現世へ行ってきてくれるかい、那由他」

 

 

 ヨン様から言われた事に一瞬だけポカンとしてしまう。

 

 あ、そういやそれらしき事を言ってたわ。

 すっかり忘れていた。

 

「供にはウルキオラとヤミーでも連れて行くと良い」

 

 原作通りの人選だけどさ、俺はいなくても……でも苺たちに精神的負荷かけるなら上策なんだよなぁ。

 

「分かりました」

 

 そもそもヨン様が言ってんだ。俺に断る選択肢はない。

 ハリベる心配はどうやら無さそうだが、こんなところで不興を買う必要もないし。

 

 

 という訳で俺はウルキオラくんとヤミーくんを引き連れて遠足に出かける事になった。

 

 

「で、那由他様よぉ」

「なんですか、ヤミー」

「結局俺らは何をすりゃいいんですかい?」

「……」

 

 

 

 

 何すりゃええのん……?(困惑

 

 

 

 

 やっべ、「行け」からの「はい」しかヨン様とやり取りしてねぇじゃん。

 何のために現世に行くんだろぉ……。

 

 なんか原作だと目的があったはずなんじゃが、記憶にございません。

 

 ととととにかく苺に会って原作再現すれば問題ないじゃろ! 

 おっと、俺がいる時点で原作展開と違うんだよなぁ。

 

 では、何故に俺は現世に向かうのか?(哲学

 

「黒崎一護の実力を測りに行きます」

 

 なんかそれっぽい理由を無愛想先生が答えてくれました! 

 いや、俺なんだけどね。

 頭が真っ白になっても口が勝手に動く事ってない? 

 

「黒崎、一護……?」

「ヤミー、お前はもう少し資料の内容をその小さな頭に入れる努力をしろ」

「俺の頭はテメェよりデケェだろがよぉ、ウルキオラ!」

「……度し難い程のアホだと言ったのだ」

「んだとテメェ!?」

「止めなさい」

「「ハッ!」」

 

 う~ん、この。

 仲が良いのか悪いのか。

 それと俺の一言で静かになるこの忠犬っぷりよ。

 

 ちょっと楽しくなっちゃうじゃん、やめてよ~。

 

「ヤミー」

「は? あ、ハイ!」

「現世勢力の炙り出しを行います。──ある程度なら暴れても構いません」

「マジっすか!? ヘヘッ! 那由他様は話が分かるぜ!」

「ウルキオラ」

「ハッ。門、開きます」

 

 魂吸シーンくらいは再現して傷心した俺を慰めよう。

 

 うん? 

 そういやアレって人が普通に死ぬんじゃね? 

 

 あ、それは良くない。

 

 俺は別に人の命を何とも思っていない訳じゃないんだ。

 もう既に原作シーンが崩壊しているのなら、殺しをしてまで再現したいとは思わないわ。

 

 苺とルキアの輝くシーンを見るためには、ある程度原作に沿った展開へ誘導した方が俺がニアミスする事がなくなるだろうという我欲まっしぐらな思考である。

 これぞクズゥ……。

 

「ヤミー、やはり」

「来たぜ現世! じゃあ、早速」

 

 ちょっと待ってぇ!? 

 

 思い切りよすぎない? 俺のせい? せやな。(諦観

 

 あ、それと俺まだ“死覇破面(アランカル・パルカ)”してない。

 これじゃ普通の『藍染那由他』だ。こんなとこ見られたら不味い。

 

 口下手な俺じゃ無理なので、申し訳ないが斬魄刀を抜き放ちヤミーの首元に添える。

 でも少し吸っちゃったぽいなぁ……。

 

「へ? な、那由他様……?」

「許す必要がなくなりました」

「おいおいおい、そりゃねぇだろ……?」

 

 おっと、ヤミーくんの憤怒ボルテージが上がっております。

 そらそやろ。俺でも理不尽だと思う。本当にごめん……。

 

 ウルキオラくんは黙ってこちらを見つめているだけだ。

 図らずも何か俺vsウルキオラ&ヤミーみたいな立ち位置になってしまった。

 

 ま、まあとにかく破面化しとこ。

 

 俺は頭に手を添えると顔を隠すように少し俯く。

 この瞬間は地味に緊張するのだ。

 “オレ”と融合するようなもんだからね。

 

 

『ん? 呼んだ?』

 

 ──呼んだ呼んだ、アレやっぞ。

 

『お、やるか! 憑依合体!』

 

 ──地味にどっかの版権に引っかかりそうで怖いから、それあんま言わんといて。

 

 

 ゾアッと自分の霊圧が混ざり合うように周囲へと溶け出す。

 不機嫌そうだったヤミーも俺の変化に瞠目すると、少しだけ後ずさった。

 

 自分で言うのもなんだけど、これやると()()()()()()()からねぇ。

 

 ちなみに、俺は既に死覇装ではなく、あの破面編でヨン様陣営が着ている白い服を着ている。

 

 露出はそこそこで、胸元が大胆に出ている。ハリベルほどじゃないが。

 あれだ、某英霊召喚ファンタジーにおける乳上みたいな感じ。

 ただし、上半身は割と体にピッタリとしたタイプだが、腰から下はロングスカートみたいになっている。

 上には白いロングコートらしきものを着ているから、なんか全体的な構図はヨン様に近い。

 シンプルなんだけど女性らしく体の曲線が出ているのはお兄様の拘りか何かだろうか。

 いや、まあだから何だって話だけど。

 

 ただ、一つ困った事がある。

 

「おい、アレってなんだ……コスプレか?」

 

 まだ義骸に入ってるから一般人から丸見えなんですよねー。(白目

 

 霊界にいるときは体を霊子で再構成しているんだが、現世にくると見た目だけは普通の肉体っぽくなる。

 

 浦原さんに施された処置はやはりと言うべきか複雑だったようだ。

 結びつけは真咲さんだったから、今更義骸から出ても問題ないみたいなんだけどね。

 単純に魂魄と義骸の結びつきが予想以上に強固になっていたらしい。

 

 しかも、今の俺の霊圧がちょっと予測できないのだ。

 ほぼ虚となった俺が死神の姿を維持できているのは義骸のおかげでもあるのである。

 ある意味、安全装置のような役割を期せずして担っているようなもの。

 

 だからこその“死覇破面”なんだが。

 

 これは俺の虚の能力やら力を()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 気分的にはコスプレのようなものである。実際、変化した後の姿は個人的な趣向全盛りである。

 オタク的よくあるやーつ。みんな好きやろ? 的な。いや、煽るまでもなくこの世界だと他人に伝わらないネタなので勝手に楽しんだ結果なんだ。(ここだけ早口

 ただ、普段から虚の霊圧を抑えていた俺の霊圧が急激に虚寄りになるため、周囲から見れば異常な変化に見えるらしく、ヨン様も大変喜んであらせられた。(白目

 

 つまり、簡単に言えば──俺の霊圧・外見・威圧感が大変身する、らしい。

 

 自覚ないからなんとも言えん。

 

「わ、分かった……。アンタには逆らわねぇ」

 

 ちょっと遠い目で“死覇破面”について思いを馳せていたら、ヤミーが青い顔で声を漏らしていた。

 そこまでビビらんでもええやろ。

 

 なんて考えていたからだろうか。

 

 俺は近くにいる見慣れた霊圧に気づいていないというポカを早速やらかしてしまっていた。

 

 

 

「なゆ、た……さん?」

 

 

 

 おん? 

 

 あれ? たつきちゃんじゃーん! おひさー、元気そうで何よりです。

 

 

 

 

 

 ……おん? 

 

 なんでいるの? 

 

 あ、そういえば原作だと、ここでヤミーに半殺しにされてたね、君。

 

 

 

 

 おん!!?? 

 

 

 それはヤバない!!?? 

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

「平子真子でぃす。よろしくーゥ」

 

 いきなり()()()が転校してきたのは、俺──黒崎一護が現世に戻って少しの時間が経った頃だった。

 

 驚きで一瞬強張り大声を上げそうになったのをなんとか堪える。

 

 間違いない。

 

 

 ルキアが尸魂界へ連れて行かれる時に、那由姉と一緒に俺と石田を助けた人だ!! 

 

 

 これには石田も気づいたようで、一見冷静そうにしていてもソワソワとしていたのが分かった。

 那由姉の関係者がこのタイミングで転入してくる。

 俺たちと無関係とは到底思えない。

 しかし、学校でそう簡単にこんな話題を出すわけにもいかない。

 

 俺は放課後までの時間を焦れったく感じながらも待ち、すぐに平子を呼び出した。

 

 

「なんや、黒崎くんはせっかちやなぁ」

「御託はいいんすよ。さっさと目的を言っちゃくれねぇすか」

「俺たち同級生やで? 慣れてない敬語モドキなんて使わんでええで?」

「……なら、そうさせてもらう」

 

 逸る心をなんとか押し込める。

 もしかしたら、この閉塞した状況を打開する一手を持っているかもしれないのだ。

 なんとか情報を聞き出さなきゃなんねぇ! 

 

「焦んな言うとるやろ」

 

 しかし、当の平子はのんびりとした調子を崩さない。

 ここには俺含め、この間の騒動の関係者全員が集まっているのだ。

 表情を険しくするも何とか言葉を飲み込み、平子の次の言葉を待つ。

 

「……はぁ。分かっとったけど、こらアカンな」

 

 平子はわざとらしく額に手を当てかぶりを振る。

 

 これにはついに、たつきがキレた。

 

「──吐け」

 

 仁王もかくやという怒気を撒き散らしながら、たつきは平子の胸元を握り詰め寄る。

 

「落ち着きぃ」

「吐け」

「言葉が通じないんか?」

 

 

「吐けって言ってんのが分かんないのかよ!?」

 

 

「たつき、落ち着け!」

 

 流石にヤバイと思い、俺はたつきを羽交い締めにして平子から引き剥がす。

 しかし、この場にいる皆の気持ちがたつきと同じである事も事実であった。

 

「……まぁ、気持ちは分かるつもりやで」

 

 対して、平子の態度は変わらなかった。

 シワの寄った胸元をホコリを払うように軽く叩き、これまた軽い調子で言葉を続ける。

 

「せやけど、今のままのお前らじゃ力不足も甚だしいわ」

「んなこと言われなくても分かってる……!」

「ま、当たり前っちゃ当たり前やな。そこから説得せんで助かるわ」

「……説得?」

「せや」

 

 平子はグッと俺へ顔を近づけると、下から覗き込むように見上げてきた。

 その顔には、言いようもない覚悟と決意、そして狂気を感じた。

 

 

「お前、自分の中に眠っとる力の片鱗に気づいとるんやろ?」

 

 

 極力表情を変えないようにしたつもりだったが、平子は俺の変化を感じ取ったのか、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「後ろの、ええと、たつき、やったか? あんたもな」

「……」

 

 先程までの烈火が如き感情の流出が嘘のように静かな雰囲気を纏うたつき。

 あいつが何かをしようとしていたのは知っていたが、その内容までは知らなかった。

 まさか、俺と同じような感覚を持っていたのか……? 

 

「どうやら、たつきの方が自覚……というよりも、自ら望んで足を突っ込んどるようやな」

「浦原さんから話でも聞いたの?」

「そないな怖い顔せんでもちゃんと教えたるわ」

 

 あくまで飄々とした態度を崩さない平子だったが、

 

 

「俺たち──“仮面の軍勢(ヴァイザード)”が使い方を教えたる。那由他を救う力の使い方を、な」

 

 

 その時の目は、真剣そのものだった。

 

 

 

 

 ▼▽▲

 

 

 

 

「たつきサンが、ちょっと思いつめてましてねぇ。どうしましょ」

「それを俺に言われても、俺はもう死神の力なんてないぞ?」

 

 アタシ──浦原喜助が訪れたのは、日中で人のいない黒崎医院です。

 

 目の前で頭をボリボリと掻き、難しい表情をしているのは一心サン。

 

「俺だって那由他さんには数えるのも馬鹿らしいほどの恩があるんだ。手を貸すことに躊躇いなんかねぇ。だけどなぁ……」

 

 一心さんへ「義骸に入る事で死神の力を発揮できなくなる」と説明したのは15年以上前の事。

 今では色々と変わっているんスよ。

 状況も、技術も、ね。

 

「ハイ! という訳で! ジャジャーン!」

「一気に胡散臭くなったな」

「一言以上に余計な茶々ありがとうございます」

「で?」

 

 更に渋くなった顔で覗き込むのは、アタシの差し出したビー玉みたいな球形の物体。

 

「ぶっちゃけ、ただの義魂丸です」

「はぁ」

「気のない返事っスねぇ」

「いや、どう反応しろと?」

「今から説明するっスよぉ」

 

 簡単に言うと、一心サンを義骸に縛り付ける要因であった黒崎真咲サン、そして那由他サンがどちらも近辺から離れて異常が起きていない以上、普通の手段で死神に戻れる可能性が高いのです。

 あくまで“可能性が高い”だけですが。

 他に例のない稀なケースですからね、断定はできません。

 

 しかし、

 

「それならもらうわ」

 

 この即断即決が一心サンの魅力とも言えますねぇ。

 

「藍染サンは双極の丘であんな事を言ってましたが、恐らくあれはブラフでしょう」

 

 アタシの言葉に一心サンは無言で頷きます。

 

 

『もう崩玉も手に入った。中途半端に死神だから那由他もこうなってしまったのだろう。自我を失ってしまうまで虚化を繰り返し、加えて虚を食べさせれば良い具合に僕の贄と成りうる』

 

 

「あの藍染サンが那由他サンをそう簡単に切り捨てるとは思えません。真咲サンが襲われた時もそうですが、那由他サンを本気で殺そうとしていたならば、もっとチャンスはあったはずです」

「それは浦原さんから話を聞いた時から思っていた。あの藍染が那由他さんを切るにしても、あまりにタイミングが悪すぎる」

 

 そうなのです。

 那由他サンを殺すにしても、まるで見せつけるように彼女を痛めつけていた。

 この事から考えられるのは、

 

「恐らく、那由他サンの“霊王の目”を、崩玉を使って覚醒させ超越者へと至らせようとしているのだと思います」

 

 双極の丘での言葉は、その目的から我々の目を逸らすための布石。

 そう考えた方がしっくりきます。

 

 まぁ、分かったところで対抗するのは難しいのが現状ですが。

 

「100年前に那由他さんとお茶しただけで十番隊舎まで俺に釘刺しにくる人だぞ? あの人を切り捨てるなんてありえねぇだろ」

 

 一心サンは真剣な顔で言っているのですが、内容だけで見ると完璧にシスコンで面白いんですよねぇ……。

 

 っと、本題から少しズレてしまいました。

 

「そのため、藍染サンはまず虚を使って実験を行うはずです」

「虚で? なんでだ?」

「はい。尸魂界で仮面の軍勢や那由他サンに死神からの虚化を施した過程を鑑みるに、次は虚の死神化を段階として想定しているはずです」

「虚の死神化……“破面(アランカル)”か!?」

「はい。今までもそれっぽいモノたちが現れていましたが、今後の完成度は崩玉を手に入れたのですから段違いでしょう」

「こりゃ藍染を抜きにしたって俺の手も借りたい訳だ」

「そういう事です」

 

 理屈よりも直感で物事を判断する一心サンは戦場において無類の強さを発揮します。

 そんな彼に手を貸してもらわない訳もありません。

 

「そして、黒崎サンたちのレベルアップも必須事項ッス。そのための手は既に打ってるので、後は報告待ちッスねぇ」

「……あのさ、前から思ってたんだがよ」

「なんスか?」

「なんで一護の事を“黒崎さん”って呼ぶんだ?」

 

 少し以外な質問でした。

 思わず目を丸くしてしまいます。

「いや、特に深い意味とかねぇけどよ」なんて言っていますが、何となく気にかかるのでしょうね。

 

「それこそ、大した理由じゃないですよ」

 

 一拍おいて、

 

 

「那由他サンが見出した次代の英雄に、自分なりの敬意を表しているだけッス」

 

 

 平子さんたち、しっかり教えてあげてくださいね。

 

 “虚化”という新たな力を。

 

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 僕──石田雨竜は、平子真子から「俺が教えられんのは“虚化”だけや。滅却師は畑違いやから()()()()()()()()()で」と言われた。

 

 今頃、黒崎と有沢さんは平子から特訓を受けているのだろう。

 その内容は分からないが、“虚化”という言葉から何となくは想像できる。

 

 自分の力を自覚し、コントロールする訓練だ。

 

 僕とは真逆と言っても良いだろう。

 尸魂界での戦いによって、自身の力を燃料として燃やし尽くした僕には、既に大したものなど残っていない。

 ならば、これからどのようにして成長すれば良いのか。

 

 本音を言えば、僕は途方にくれていた。

 

 しかし、未だ上を目指すことを諦めない気持ちは皆と同じつもりだ。

 ただ、その方法が分からない。

 

 この苛立ちは自分自身に対するものであり、ヒントとなると思えた平子から門前払いされた怒りでもあり、別に頼んだ人が誰かも分からない困惑であった。

 

 そんな気持ちを誤魔化す様に、僕は夜の街を徘徊していた。

 

 そういえば、那由他さんと初めてまともに話したあの日。

 黒崎に勝負を持ちかけた後も、このように夜に家を飛び出したな、そんな事を思い出す。

 

 あの時は滅却師としての在り方と目指す方向性や目標が揺らぎ、自身の根幹に自信を持てなくなった時だったな。

 思い返すと、何となく今の状況と似ている気がする。

 だからだろうか。

 

 予兆でも無く、珍しく勘で存在を把握できたのは。

 

「──!」

 

 振り向きざまに、僕は懐に隠し持っていた銀筒を中空へ投げつける。

 その先には、空間を割るようにして現れた虚──大虚(メノス・グランデ)がいた。

 

大気の戦陣を(レンゼ・フォルメル・ヴェント)杯に受けよ(・イ・グラール)! ──聖噬(ハイゼン)!!」

 

 修行の合間に霊力を溜め込んでおいた旧式の道具、銀筒。

 これを使えば、倒せないまでも戦える! 

 

 しかし、僕の予測を楽観視とでも言ってあざ笑うかのように、大虚は欠損部位を超速再生で回復してしまう。

 

「くっ!?」

 

 やはり、今の僕は無力なのだろうか? 

 

 那由他さんどころか、黒崎にも、茶渡や井上さん、有沢さんの背中も──遠い存在なのだろうか? 

 

 

『護りたくても護れなかったという楔』

 

 

 唐突に、那由他さんの言葉が聞こえた気がした。

 

 

『彼を今でも苛んでいます』

 

 

 そうだ、僕は抗うと決めたではないか。

 

 最初から最後まで、人々を守ると決めたではないか。

 

 迷っても、悩んでも、それでも前へ進むと決めたではないか。

 

 こんな相手に背を向けて、それで僕の誇りを貫けるのか? 

 

 いや、違う。

 

 僕の誇りではない。

 

 

 僕()()の、誇りだ! 

 

 

 

 

「やれやれ、──無様な姿だな、雨竜」

 

 

 

 

 一条の光閃が対峙する大虚を貫く。

 

 一瞬呆然としてしまうが、すぐにその発生源へと視線を向けた。

 

 そこには、

 

 

「とう、さん……」

 

 

 父・石田竜弦の姿があった。

 

 

 ピクリと眉を動かすも、表情は冷徹無比。

 肉親への情など無いように見える。

 

 いや、今までの僕だったら間違いなく「無い」と判断したはずだった。

 

「父さん、か。……これも、あのお節介な奴の影響だろうな」

 

 小さく呟いた竜弦の声をハッキリとは聞き取れなかった。

 しかし、それでも彼が那由他さんの事について愚痴めいた言葉を発し、口元が少し緩んでいたのを見た。

 

 ──Gruoooooooooooo!!!!! 

 

 その時、攻撃を受けた大虚が怒りの籠もった狂声を上げる。

 

「とうさ、ん……!」

 

 未だ抵抗が残るにも関わらず口から出た自分の言葉に驚く。

 僕があいつを心配しているとでも言うのか……? 

 

 いや、きっと心配しているのだろう。

 

 そんな僕の様子にフッとニヒルな笑みを浮かべた竜弦──父はこう言った。

 

 

 

「これから、稽古を始める」

 

 

 

 言葉は少なかった。

 

 しかし、彼の行動を、見逃すまいとする僕の心は、なぜか高ぶっていた。

 

 

「虚の超速再生など取るに足らん」

 

 

 父は構えた動作すら無い、ただ片手で弓を掲げただけにしか見えない姿勢で、万雷が如き撃鉄を起こした。

 

 

 

「それをさせる前に、──片付ければ良いだけの事だ」

 

 

 

 そして、驟雨(しゅうう)のような怒涛の光条が煌めく。

 

 時に優しく、そして激しく。

 敵に動く暇すら与えず、流星群のように降り注ぐ。

 動かぬ敵はただの的だ。

 

 彼は、竜弦は、父は、その極技を、滅却師の極技を体現するように、僕に秘奥を見せつけた。

 

「どうして、父さんが、滅却師の能力を……!?」

 

 彼は滅却師を毛嫌いしていた。

 その理由は分からないが、その能力はとっくに捨てたと察する程に嫌悪していた。

 

「だからお前は馬鹿だと言ったんだ」

 

 父は先程と変わらず、片手で持っていた弓をゆっくりと下ろす。

 

 その姿は、祖父・石田宗弦を彷彿とさせる、威厳と覚悟に満ちていた。

 

 

「石田竜弦。それは、先代・石田宗弦から全ての能力(ちから)と技術を継承し」

 

 

『滅却師は多くの人を救ったが、多くの死神を殺した。そして多くの虚も()()()んじゃ』

 

 

「“()()()滅却師”を名乗る事を許された」

 

 

『復讐の輪廻は止めねばならん。だから竜弦や、お前は今までの滅却師ではない、人を守護する新たな形を模索せよ』

 

 

 

「──ただ一人の男だ」

 

 

 

 圧倒的な尊厳と自負。見合うだけの実力。

 滅却師としてのあらゆる面で僕を凌駕する姿に、僕は目を離す事が出来なかった。

 

 

「雨竜、お前は未熟だ。未熟なまま尸魂界へと向かい、その未熟な力すらも失って戻ってきた」

 

 

 彼の言葉にハッと我に返る。

 平子の「別の奴に頼んだ」という言葉の意味を理解したからだ。

 

「私なら、お前の失った能力を戻してやる事ができる。……しかし、それで満足か?」

 

 父の目を強く見据える。

 

「守るべき者、護りたい者。守護し、自身も生還するために、果たしてそれで十全と言えるか?」

 

 これは、踏み絵だ。

 ちっぽけなプライドや意地を捨てられるか。

 

 そう、聞かれている気がした。

 

「僕は」

 

『お前は今までの滅却師ではない、人を守護する新たな形を模索せよ』

 

 祖父の幻影を追いかけ、誇りを捨てた父を嫌悪し、母の温もりを求めた子供だ。

 

 だから! 

 

 

「強く、なりたい……! 

 

 人を、友を、大切な人たちを守れるように……!!」

 

 

 父は口角を少しだけ上げた。

 

 そうか。

 

 この人は、不器用なだけなのか。

 

 

「ならば教えよう。私の力と技術の全て。そして、6年前の事件を」

「6年前の、事件……?」

「お前の母が死んだ原因だ」

「!?」

 

 

「滅却師の始祖にして王。運命を司る、神と驕っている男の話だ」

 

 

 

 そして、僕は父の弟子となり──那由他さんの運命を呪った。

 

 

 必ず助けるという灯火を胸に宿して。

 

 

 

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 

 

 アタシ──有沢たつきは、その日、久々の休日だった。

 

 

 本当は「休んでる暇なんてない!」なんて言って暴れていたんだけど、六車の師匠にゲンコツをもらって少し冷静になれた。

 得難い存在だ、師匠は。

 

『疲れてる時に敵と戦って、それで勝てるほどテメェは強いのか? アァ!?』

 

 なんて言われてシュンとしたアタシの姿には一護も目を丸くしてたっけ。

 自分の事だけどアイツの顔を思い出しただけで少し笑えてくるのは助かるわ。

 

 平子って人が現れてからは虚化の特訓に明け暮れてて、そういえば普通の生活なんて送ってなかった。

 

 

 那由他さんが一番望んでいた風景を、アタシは忘れていたんだ。

 

 

 一護と同じ道場の腐れ縁ってだけなのに、あの人は本当にアタシを可愛がってくれた。

 幼い記憶の欠片には、あの人の姿が多く残っている。

 

『貴方を可愛いと思う事に理由は多々ありますが、可愛くあるべき理由など無いのです。貴方は貴方なのですから』

『喧嘩は程々に、相手の体と貴方の心が傷つきます』

『外面を繕わなくとも、貴方を大切に思う人はいますよ。少なくともここに』

 

『よく出来ましたね』

『素晴らしいです』

『格好良かったですよ』

『流石ですね』

 

 

『たつきさん』

 

 

 思い出しただけで心が暖かくなり、そして悲しみで張り裂けそうになる。

 

 どうして、アタシは気付けなかったのだろう。

 あの人の悲しみに。

 あの人の苦しみに。

 あの人の切なさに。

 

 どうして、アタシは気付けなかったんだろう。

 あの人の幸せに。

 あの人の望みに。

 あの人の笑みに。

 

 そんな、罪悪感ともとれる焦燥感が、尸魂界から帰ってきたアタシを苛んでいた。

 

 

 頭を振る。

 

 そうだ、こんな考えを見透かされたからゲンコツを貰ったんだ。

 

 ペシペシと頬を軽く叩き気合を入れ直す。

 

 と言っても、今日は普通の部活に参加しランニングの最中である。

 久々に顔を出したアタシにも嫌な顔をせず迎えてくれた仲間のおかげで少し気持ちも軽くなった。

 今日は軽く運動して、家で美味しいご飯を食べて、そんでたくさん寝よう! そうしよう! 

 

 

 

 ──なんて、少しでも気分を上げる考えをしていた時だった。

 

 

 

 少し離れたところから凄まじい轟音と地響きが伝わり、一緒にランニングをしていた皆と共に足が止まる。

 

 

 

 

 

 

 そして、途轍もない霊圧がアタシを襲った。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 周囲の人も困惑しているようだが、野次馬根性で音の出所へ移動し始めたようだった。

 止めるべきだ。

 この霊圧は、ヤバイ! 

 尸魂界でも中々感じることが出来ないような重圧。

 

 確実に隊長格以上だ……!? 

 

「ま、まっ……!」

 

 声が思うように出ない。

 ビビってる? 

 嘘。

 嘘でしょ、アタシ? 

 

 だったら、アタシが今までしてきた訓練って何なの? 

 

 膝に拳を一発入れる。

 

 結構良い音がしたのか、何人かがギョッとした顔でこちらを見るが関係ない。

 このままじゃマズイという、アタシの生存本能みたいなやつがガンガンと警鐘を鳴らしてんだ。

 

 走った。

 

 音の元凶へ。

 

 そして、

 

「え?」

 

 

 

 そこには、知らない男二人と、──那由他さんがいた。

 

 

 

「な、なゆ」

 

 上手く声が出せない。

 

 無事だった。

 生きてる。

 良かった。

 

 様々な感情が混ざり合って、音が意味を成さなかった。

 

 しかし、男の一人、巨漢の方がスゥッと息を吸った瞬間に多くの人が目の前で、倒れた。

 

「は?」

 

 理解が追いつかない。

 何が起きた? 

 

 そして、アタシの力もスッと少し抜ける感覚を覚える。

 

 これは、霊力? 生命力? よく分かんないけど、何か大切なモンが取られている!? 

 

 咄嗟に師匠から教わった霊圧コントロールで魂魄の制御を行う。

 おかげで大事には至らなかったけど、くそっ!? 

 

 それよりも、那由他さんだ! 

 

 慌てて視線を向けると、さっきの巨漢の男に刀を抜き放ち首元に添えている那由他さんの姿が見えた。

 やっぱり那由他さんは無事だ! 

 前と変わらぬ姿に安堵し、すぐに助けに行こうと一歩を踏み出した時だった。

 

 おもむろに俯き顔に手を当てた那由他さんの霊圧が一変する。

 

 背筋を蛇が這うような悪寒を感じ、全身に鳥肌が立つ。

 なんだ、あれ……? 

 

 感じるのは濃厚な虚の霊圧。

 側にいる男二人よりも、より高く、禍々しく。

 狂気に直接内臓を撫で回されたような怖気と恐怖。

 

「う、そ」

 

 あれが、那由他、さん……? 

 

 あの、優しかった? 

 あの、温かかった? 

 

 

 あの、包み込んでくれるような愛情は、全く別のモノに変貌してしまっていた。

 

 

「うそ、だ」

 

 瞳から勝手に涙がこぼれ落ちる。

 誰だ。

 あの人をこんなバケモノのような姿にしたのは。

 

 外見的にはそこまでの変化はない。

 

 左側の額に般若に似た面を被る形で破面が現れ左目が隠れており、右の目は綺麗な藍色から爛々と輝く紅に。

 頭の横で結っていた髪はハラリと地面に垂れ、霊圧のせいか、まるで蛇のようにユラユラと蠢いている。

 髪色は陽の光を反射する茶から、血が通っていないような白銀へと変わったのが一番大きな違いだろう。

 

 しかし、纏う雰囲気や霊圧は別人のそれだった。

 

 

「なゆ、た……さん?」

 

 

 思わずといった形で漏れた言葉。

 

 クルっと向いた那由他さんの目を見て戦慄する。

 

 

 

 

「あっれ? たつきちゃんじゃーん!」

 

 

 

 

 静かな水面を思わせる“あの目”は無く、下等生物と見下すような目だけがそこにあった。

 

「あ、あ」

「お? どした? あれか? 緊張してんの? 久々に会ったお姉さまだからねー!」

 

 何が面白いのかケタケタと笑う那由他さん。

 いや、()()は那由他さんなんかじゃない。

 

「私の体で、好き勝手しないで、下さい」

「おん? “俺”は心配性だなぁ。これくらいのが、後々楽しいぜ?」

「後で、くっ……。この()が厄介、ですね」

「まぁ、帰刃(レスレクシオン)は“オレ”が素直に従ってんだから、この時くらいは楽しませてーな」

「だから、あまりやりたく──」

 

 目の前の霊圧が揺らぎに揺らぐ。

 発している言葉も一人芝居のようである。

 まるで2つの別人格がせめぎ合っている感じだ。

 

「那由他、さん? そこに、いるの?」

 

 縋るような声が溢れる。

 そうでもしないと、アタシの心が壊れそうだった。

 

「あん?」

 

 一瞬だけ虚空を見つめていたヤツがこちらへと反応する。

 

「あぁ、()()()ね、うん。いるよー。今は“オレ”の中でオネンネしてるけどねー」

 

 何が可笑しいのか、ヤツはクスクスと笑う。

 

「その顔で笑うな」

「あ?」

 

 

 

「その顔で、笑うな」

 

 

 

 アタシの限界はとうに超えていた。

 ただ、目の前の存在が那由他さんなのかもしれないと、そんな希望に縋っていたかったアタシの弱さが二の足を踏んでいた。

 

「那由他様、こりゃオレ様の獲物にしていいか?」

「お下がりを」

 

 何を護るような言葉を言ってんだ? 

 

 

 

「師匠。アタシ、いきなり約束破ります。ゴメンナサイ」

 

 

 

 不審気な顔をした巨漢と眉間にシワを寄せた色白の男を無視して、()()()()()()()目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

「助けます」

 

 

 

 

 

 

 

「何を言ってんだぁ? この(アマ)ぁ……?」

「……構えろ、ヤミー」

「あん?」

 

 

「……これは、藍染様へも報告が必要だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来刃(リソルシオン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『破面の斬魄刀は、「虚としての本来の力を刀の形に封じたもの」であり、死神の斬魄刀とは根本的に異なる。……しかし』

 

 

 

 

 ──師匠、アタシ、やるよ。

 

 

 

 

『そもそも虚でも死神でもないたつき(おまえ)が虚化した場合、その余剰霊力はどこに行く? 破面化? おまえの力はそんなモンじゃねぇ! だからこそ、無闇に使うモンでもねぇ』

 

 

 

 

 ──アタシの、新しい力で!! 

 

 

 

『お前が掴み取った能力(ちから)は、()()()()()()()()()()、魂魄の想いに斬魄刀とは別の形で応えた“力”だ!!』

 

 

 

 

 ──那由他さんを、救ってみせる!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天頂(テッペン)穿て──『暁光出船(ルナ・ガレオン)』!!!」

 

 

 

 

 

 




たつきちゃんに関しては賛否両論ありそうですが……。
実は初期からの構想で「死神と虚の境目を壊す」のが『虚化』なら、「人間と虚の境目壊したらどうなんじゃろ」という思いはありましてこうなりました。
”三界”って言うくらいだから、そこまでありえない発想じゃ無いと思うんですよねー。

次回は今週中に上げます!

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