お気に入り・評価・感想をわんさか貰ってしまい感動で震えております。
とか言いながら早速の遅刻で申し訳ねぇです……。
今後は週一くらいの更新頻度を目標にして書いていきたいと思ってますので、どうぞよろしくです!
今こそ動き出せ、
ここでやらなきゃ女が
自分の事を強いと勘違いしていた自分が滑稽だ。
そして、そんな弱い自分を何度も嫌ってきた。
那由他さんを呪うような、この間違いだらけの世界に絶望してきた。
それでも、
だから、もう貴方が泣かなくても良いように。
あたしは強くなりたいんだ。
それは、あたしが"あたし"でいるために。
あたしの親友やライバルが笑顔で過ごせるために。
絶対に必要な事なんだ。
胸中に宿るは、ただ那由他さんを護る想い。
そのためになら──
「
これは、今はまだ師匠から禁じ手と言われた技だ。
なにせあたしは、未だに"アタシ"を制御しきれていない。
様々な衝動が思考を埋め尽くし、狂ったように暴れてしまう時もある。
──それでも、ここで二の足踏んでんのは、あたしでも"アタシ"でもないでしょ?
『それもそうね』
心の中に、もう一つの声が響く。
『いつもは従え従えってウザッタイけど、他人に舐められてんのはそれ以上にムカつく訳よ』
──珍しく意見が一致するじゃん。
『だから、今だけは"アタシ"の力を貸したげる。せいぜい使いこなしてみせてよね』
ニヤリとした笑みを浮かべているだろう"アタシ"の顔が思い浮かぶ。
『"アタシ"の能力を
「
『尸魂界で死神と対等に渡り合っていたただの
「『
▲▽▲
目の前の女が俺──ウルキオラ・シファーを含めた三人の前で姿を変える。
体格こそ変化してはいない。
しかし、頭頂部から後方へと伸びるように生えた一対の角。
彼女の胴ほどの太さがある尾と、その先端に生えている鋭い二対の尾棘。
肩部を覆う装甲は外側へ向かって広がる掌骨のように刺々しい。
腕の肘関節から下には肉食獣を思わせる巨大な篭手。
前面はホットパンツに胸元を隠す程度の外装であるが、腰部には側面から後方へとロングスカート状に流れる形で炎が揺らめく。
そして、爬虫類を思わせる金地に黒い縦長の瞳孔、
そこには、一体の『
「この霊圧は……虚、だと?」
俺は思わず呟いてしまう。
こいつはただの人間だったはずだ。
死神でも、ましてや虚でもない。
さらに言えば、データ上での奴の戦闘能力は良くて護廷十三隊における上位席官ほどであったはずだ。
「おいおいおい、この見かけにこの霊圧って……」
ヤミーが呆けた声で瞠目する。
相手の力量を図る破面の『
那由他様も珍しく目を丸くしている。
無理もない。
那由他様によって虚の戦力底上げが成されたが、それでも存在自体が希少であり、虚の中でも頭一つ飛び抜けた力を持つ大虚。
「ゴミが
最上級大虚は、
その実力は護廷の隊長格と同等かそれ以上。
それら虚を那由他様が取り込み、しかし取り込んだ分だけ
十刃に名を連ねる者はアーロニーロ以外が元最上級大虚という事実が示している。
また、
那由他様が多くの虚を取り込む過程で偏った三界の均衡を、まさか"質"によって補完されるなど誰も考えていなかっただろう。
すなわち、それだけ珍しく強大な力を持つ存在こそが『最上級大虚』なのだ。
だが、
「それでも、不完全だな」
「あ? そうなのか?」
「……だから貴様は
片眉を上げてしかめっ面をするヤミーには既に動揺の色は見えない。
当たり前だ。
「元々が最上級大虚であった俺たちが破面化し力をつけ、更に那由他様によって研磨されたんだ。例え奴が完全な最上級大虚の実力を付けていたとしても、俺たちに負ける道理などない」
人間が虚にどうやって成れたのかは分からないが……そのような事などどうでも良い。
この女の霊圧上昇幅、成長率、共に標的となる黒崎一護に匹敵すると判断できる。藍染様への報告は必要だろう。
しかし、目下の敵勢力である護廷十三隊における隊長格に匹敵する霊圧には目を瞠るが、所詮は俺の敵ではない。
那由他様より授けられた
不思議なものだ。
俺には感情というものは無い。
にも関わらず、あの方の感情の変化を、何となくは察せてしまっている。
無表情という仮面の奥に眠る、那由他様の期待や悲しみ、驚きや喜びを。明確に"いる"のだと感覚で。
ただ、それがどのようなものかを未だに理解は出来ていない。
そして、俺にもそのような感情があるのかは分からない。
情報として、「このような行動を取れば、このような感情を読み取れる」という処理しかしていないのだ。
現世へ来る前にも、ヤミーへ「お前の不出来を見れば那由他様が悲しむだろう」と忠告した事があった。
それは単純に、あの方の反応を予測しただけに過ぎず、俺が感情を理解したわけではない。
だからこそ、俺は『心』というものが気になっていた。
那由他様によって齎された『力』の中に、『心』という存在があるのだとしたら。
俺はそれを理解できた時、さらなる『力』を手に入れられる。
そんな朧気な予感を持っていた。
そして、その『心』を持つが故に、俺たちへと立ち向かってくるのが目の前の女であり、黒崎一護たちなのであろう。
絶望を知ってなお、無謀と知ってなお、強者へと挑み続ける姿勢に共感も理解も出来ない。
俺に見せてみろ。
『心』とは何か。
俺に教えてみせろ……!
「ま、軽く遊んでやるよ。このオレ様がな!」
「……」
ヤミーは首を鳴らしながら悠然と歩みを進める。
女は先程までが嘘のように静まりかえっていた。
「おらぁ!!」
一気に踏み込み、超重量の拳を女に向けてヤミーは放つ。
あの体格差だ。そう簡単に受け止められるものでもない。
ならば、
「六車流拳術・
「!?」
振るわれた拳に掌を乗せ女は体を半回転。
そのまま体を中空で横にし、ヤミーの腕を駆け上るように攻撃をいなした。
そして、
「初の型・
回転の威力そのままにヤミーの横面に掌打、すれ違いざまに回し蹴りを掌打した逆側頭部へ叩き込む。
こいつ、かなり戦闘慣れしている。
「がっ!? クッソガァ!!」
しかし、ヤミーの耐久力は那由他様の折り紙付きだ。
スピードこそ無いものの、その巨漢に見合った体力と打撃力を奴は持っている。
勘で放っているであろう、ヤミーの裏拳は女の腹部へとまっすぐに伸びていった。
「弐の型・
途端、女の左肘から炎が噴射した。
反動で女が錐揉み回転しながら急激な方向転換を行い、ヤミーの攻撃は空を切る。
そして、そのまま女の左拳がヤミーへとアッパーカットを繰り出した。
「ゴッ、ガァッ!?」
「
ヤミーは仰け反り腹部が隙だらけだ。
思わず瞠目する。
「
地へと降り立った女の双掌打がヤミーへと炸裂する。
まともに食らったヤミーはその巨漢が嘘のようにまっすぐと横へと吹き飛ばされ、轟音と共に土埃の中へと消えた。
「さあ、残るはアンタと那由他さんの体を奪った奴。二人だけだよ」
静かな闘気と燃え上がるような霊圧。
なるほど。那由他様を「助ける」などと見当違いの言葉を吐くだけはある。
だが、
「おいおい、この程度でオレ様を倒したとか思ってんじゃねぇだろうな?」
口から血を流しながらも、口端を釣り上げた憤怒の形相でヤミーは女の左腕を掴んでいた。
「なっ!?」
これには女も驚いたのか、すぐさま掴まれた腕を振りほどき距離を取ろうとする。
「まずは一本な」
「え……?」
「次は足でもいっとくか?」
──女の左腕は、二の腕中頃から千切り取られていた。
「あ、ぐっ、あああああぁぁぁぁぁぁ!?」
絶叫が迸る。
確かに、この女は強者だろう。
しかし、俺たちからして見れば──ゴミでしかない。
「ったく、
「習得のため根気強く付き合って頂いた那由他様に感謝するんだな」
「へーへー、わぁってるよ」
ヤミーの言葉に眉間へ皺を寄せるが、隣の那由他様が楽しそうにニヤニヤとしているので良しとする。
やはり
「
「死神の瞬歩の破面バージョンみたいなやつだよー」
律儀にも答えてくださった那由他様へ、女は痛みに耐えながらも憎々しげな視線を一瞬向ける。
まだ諦めていないとは、理解に苦しむ。
これも奴が持つ『心』の影響なのだろうか。
「ガ、アアアアアアアアアアア!!!」
「なんだぁ?」
すると、唐突に女が咆哮を上げる。
ヤミーが訝しげな顔になるが、その答えは直ぐに出た。
──ズルンッ!
「おいおい、マジかよ」
再び女に驚かされたのはヤミーだ。
奴が最上級大虚相当の実力になった点から予測出来ていたが、まさか本当に出来るともあまり考えていなかった。
女は、虚の超速再生で失った左腕を生やしたのだ。
「これは能力解放中はマジモンの虚になったって事だねぇ。人間と虚の境を超えたら虚になるだけかと思ってたけど、そっか。『
那由他様の独り言が耳朶を打つ。
その音は、俺の何かを強く揺さぶった。
俺の求める何かの一端を、目の前の女が持っている。
そう言われた気がした。
「女、名は」
「……有沢たつき」
女は脂汗を流しながらも、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
「師匠の一番弟子で、那由他さんの妹分だ。覚えときな!」
そう言ってヤミーへと突撃する女、有沢たつき。
俺は、何かに手を引かれるように一歩を踏み出した。
「おっとウルキオラ」
「はい」
「君に『心』を教える存在は二人いるとオレは思っている。一人は黒崎一護、もう一人は井上織姫だ」
「……なぜ、その二人だと?」
一歩を踏み出した形のまま、目の前で繰り広げられる戦闘を眺める。
ヤミーが優勢であるものの、それはあいつの体力と硬度──破面の防御技術『
有効打撃自体は女の方がヤミーへ入れているし、ヤミーの攻撃を食らっても超速再生で何とか凌いでいる。
「オレとしては不屈の精神力で格上へと挑む一護と、女神バリの包容力と対等な関係を望む織姫ちゃん、二人から学び取って名シーンのクソデカ『心か』をやって欲しいんじゃが……」
今回の任務は黒崎一護の実力を測る事。
ここで時間を取られるのも得策ではないが、奴ならこの女が戦っている霊圧を察してここに来るだろう。
ここで俺が女と戦うメリットはあまりない。
分かってはいる。
しかし、この状態の那由他様はいつもよく分からない事を仰る。
「まぁ、既に色々と変な方向には進んでるし……いいんかなぁ?」
「つまり、那由他様は俺がここで手を出さない方が良いと考えているのでしょうか」
「あ? まぁ、うん、そうなんだけどぉ……ぶっちゃけたつきちゃんと織姫ちゃんの女性二人組から心を学ぶ展開も若干魅力に感じているオレがいる」
「……と、いうと?」
「行ってもいいよー」
「は」
やはり、何を言っているかは良く分からなかった。
ただ、俺が『心』とは何か探している事を。
何でも無いように、当たり前のように口に出すこの御方は、藍染様の妹御に相応しい深淵を持っていると感じた。
平時は虚無の仮面を持ち、破面化すると虚飾の仮面をも被る。
──この人の『心』を、俺が分かる日は来るのだろうか?
深い闇の中で育った俺が、まるで闇に落ちていくような錯覚に囚われる。
強大な力を持ちながらも、人も死神も虚すらも育てた御方、藍染那由他様。
その真意を理解している者は、誰もいないのかもしれない。
あの藍染様ですら。
いや、これは不敬かつ不要な思考だ。
思考を切り替え、改めて歩みを進める。
ヤミーへ放った一撃を俺が代わりに掌で受けた。
「なっ!? おい、ウルキオラ! オレ様の獲物を横取りすんじゃねぇよ!!」
「那由他様より了承を頂いている」
「ハァア!!??」
全身から血を流しながらも無駄に元気な奴だ。
「ヤミー。この後に来るだろう、チャドと織姫ちゃんと浦原さんと夜一さんは、ぜーんぶ君が相手していーからさ! ここは譲ってあげてー!」
「……チッ、仕方ねぇ」
「ツンデレかな? やはりオレのヤミーはツンデレハチ公説は間違っていない件について」
本当に何を言っているのか分からなかった。
▲▽▲
「たつきちゃん!?」
あたし──井上織姫は感じ取った霊圧に恐怖しながらも、茶渡くんと一緒に必死に現場へと駆けつけた。
そこには、血だらけになりながらも仁王立ちしているたつきちゃんがいた。
両腕を失い、片目は潰れ、見慣れない衣装の所々にもヒビや欠損が出ているようだ。
しかし、次の瞬間には両腕と目が嘘の様に元通りになっていた。
流した血は戻らないのか、フラフラとしながらもしっかりとした強い目で対峙している相手を睨んでいる姿は、今までの急かされた様なたつきちゃんと違って強い想いによって自ら立っているように見える。
ただし、傷だらけの様子には変わりない。
このままじゃマズイと思い、私は一瞬止まりかけた足を再び動かしたつきちゃんと相手の間に立ちはだかる。
「
たつきちゃんへ襲いかかってきた攻撃を受ける。
相手の表情は微動だにしないが、背後からたつきちゃんの驚いた気配が伝わってきた。
そして、今までたつきちゃんに気を取られて気がついていなかった事実に直面する。
霊圧が以前とは全くの別物になっていて、あの人だとは思ってもみなかったせい。
だけど、その顔を見れば嫌でも分かる。
「那由他さん……なの?」
攻勢に出ようとしていた茶渡くんも驚きで硬直してしまっている。
当たり前だ。
だって、こんな、この霊圧って、そんな!?
「うんうん、ちゃんとチャドと織姫ちゃんも来れたねー、えらいえらい!」
ニタニタとした気持ち悪い醜悪な笑顔を浮かべ、完全に虚の霊圧を漂わせる
「違う!!」
力強い声でハッと我に返る。
「あの人が、こんな姿が、那由他さんなんて、絶対に認めない!!」
威嚇するように牙をむき出して吠えるたつきちゃん。
姿は変われど、その心の真っ直ぐさは変わらないたつきちゃん。
どんな訓練をしていたかは分からないけど、黒崎くんと一緒に新しい力を得るために頑張っていたのはあたしだって知ってるんだ。
茶渡くんも、石田くんも、あたしだって。
那由他さんを取り戻すため、藍染惣右介って人を倒すため。
心に決意を宿してがむしゃらに努力して来たんだ。
なら、ここであの人の姿に惑わされちゃ駄目だ。
「井上、俺が時間を稼ぐ。その間に有沢を回復させてくれ」
「でも、それだと……!」
「あくまで時間稼ぎだ。俺たち二人だけじゃ、逆にやられる」
グッと拳を握る。
そう、あたしたち二人じゃ目の前の三人には敵わない。
霊圧を感じれば分かる。この人たちがとっても強いって事くらい。
「……
たつきちゃんの全身を満遍なく覆う。
見た目の傷は無いように見えるけど、中身はきっとボロボロだ。
これで少しでも。
「……回復術。いや、時間回帰か空間回帰か?」
ビクッと肩が揺れる。
色白な男の人が少し見ただけであたしの能力を分析している。
それでも、なんとか持ちこたえなきゃ。
せめて黒崎くんが来るまで──。
だめ。
どうして、すぐ黒崎くんに頼ろうとするの。
今、黒崎くんに負担はかけられない。
黒崎くんが悩んでいる事も少しなら分かる。
でも、あたしには完全に理解できていないんだとも思う。
あたしじゃ、黒崎くんを元通りの元気な黒崎くんにはしてあげられないから。
だから、黒崎くんに頼らずこの人達を倒すまではいかなくても、せめて追い返すぐらいはしなきゃ。
少しでも黒崎くんを安心させてあげなきゃ。
こんな姿の那由他さんを見たら、きっと黒崎くんは……!
「
今のあたしに出来るのは、きっとそれぐらい。
あたしの能力の中でも攻撃特化の椿鬼を呼び出して想う。
那由他さんを取り戻すための力もなく。
黒崎くんを立ち直らせる方法も分からない。
それでも、
「あたしがみんなを、守ってみせるから!!」
隣に茶渡くんが静かに並ぶ。
ありがとう。
あたしを尊重してくれて。
あたしを頼ってくれて。
あたしと肩を並べてくれて。
あたしは、皆の後ろにいただけなんだ。
みんなから守られる存在だった。
でも、もう、そんな立場は嫌なのだ。
『
『必死に誰かを護ろうとする黒崎くんも!
必死にあたしを護ろうとするたつきちゃんも!
あたしにとっては憧れで、大切で!
でも、それだけじゃ駄目なんだ!
あたしは護りたいんだ!
大切な大切な、あたしの大切な人たちを護りたいんだ!!
もう護られるだけじゃ、駄目なんだ。
──“憧れ”だけじゃ、護れない!!』
あの時の辛さを忘れるな。
あの時の絶望を忘れるな。
あの時の希望を忘れるな!
「
茶渡くんが駆ける。
中学時代は黒崎くんと背中を任せあっていた人が、今ではあたしに背中を託してくれている。
それだけで、あたしの中の勇気が燃え上がるように沸き立った。
「よぉし! こいつらはオレ様の獲物だな!」
全身に怪我を負いながらも楽しそうにしている大柄な男の人。
この人達を、乗り越えてみせる。
「"
「え?」
一瞬聞こえた那由他さんの声に惑わされず。
あたしの中の那由他さんを信じ、仲間を信じ、己の力を信じ。
皆を苦しめる"事象"そのものを!
「私は──拒絶する!!!」
▲▽▲
俺──黒崎一護は感じた膨大な霊圧に急かされるように駆けていた。
一瞬だけ感じた那由姉の霊圧は既に無い。
何が起こったのかは分からないが、今感じている虚の霊圧だけで藍染の野郎が何かしたのだと直感した。
しかし、俺の脳裏には家を飛び出す前に妹、夏梨に言われた事がこびりついていた。
『あたし、知ってるんだよ……! 一兄が、死神だってこと!』
どうして夏梨が知っているのか分からないが、飛び出す前に掴まれた服の袖を引っ張られる感触が未だに残っている。
『どこ行くの、一兄……!?』
普段は無愛想で男勝りで少し達観したところのある夏梨だが、あの時の縋るような瞳は忘れられそうにない。
那由姉が帰ってこない理由を上手く説明出来る訳もなかった俺だ。
俺まで帰ってこなくなるんじゃないか、なんて思ったのかもしれない。
それに、俺が死神だと知っているんなら那由姉が死神である事にも気づいていた可能性が高い。
「くそっ……!」
藍染によって那由姉を連れ去られてから、俺の心は乱れに乱れ、周囲の奴らにも要らない心配を与えてしまっている。
分かってはいるんだ。
ただ、どうしようもないのだ。
『今のお前の精神状態じゃ、内なる虚に飲み込まれんのがオチやで』
平子によって開始した特訓──虚化の能力を得る訓練も、たつきとは違って難航している。
たつきは特別な義魂丸によって無理やり起こされた、いや、内に取り込んだ虚の力を得る事に成功した。
なんか殴り合ってたらある程度認められたとか言っていたが……河原で決闘して友情が芽生えた不良漫画かよ……!
『たつきのは"虚そのものになる能力"だ。だから、お前とは違って屈服させるというか……一体化? みたいな感じなんだよな』
師匠も説明し辛そうにしていたが、難しい事は俺には分からねぇ。
ただ、たつきが俺よりも一歩先んじたってのは分かった。
しかし、俺には卍解がある。
那由姉と夜一さんの修行で身に付けた力がある。
藍染ではなく、その部下である虚には通用するはずだ……!
──この時の俺は気付いていなかったが、既にこの時点で随分と弱腰な思考を持っていた。
それは内なる虚に怯えてか、自尊心を守るためか。
その辺りは分からないが、現場についた時には「俺がやらなきゃならない」という、強迫観念に似た何かを抱いていた。
「たつき! チャド! 井上!」
そこには、血溜まりに沈むチャドと色白の男と決死の形相で殴り合うたつき。片腕を無くしながらも今にも井上を殴り潰しそうな大男。
そして、那由姉に似たナニカがいた。
「……黒崎くん」
「悪い。遅くなった、井上」
「ごめん……、ごめんね、黒崎くん。あたしがもっと強かったら……!」
今にも倒れそうな青い顔で謝罪を続ける井上。
ここで俺が情けない顔を晒すわけにはいかない。
少しでも安心させてやらないと。
「謝んねぇでくれ、井上。心配すんな」
自らを奮い立たせるように、俺は井上を屠るはずだった拳を受け止めている斬魄刀を払い相手を引かせる。
「俺がこいつらを……倒して終わりだ!!」
目の端にちらつくナニカに思考が逸れそうになるのを必死に堪える。
違う。
あれは那由姉じゃねぇ。
違う。
あれは、俺の知ってる人じゃねぇ。
あれは──虚だ。
「卍解!!」
「卍解だと……? おい、ウルキオラ、こいつ」
「ああ、オレンジの髪に黒い卍解。間違いない。──そいつが標的だ、ヤミー」
凶悪な笑顔を見せた巨漢が何かを叫びながら突っ込んでくる。
それを卍解した俺の斬魄刀、天鎖斬月で受け止めながらも意識は別の方へ持っていかれようとしていた。
だから、違う。
気にするな。
目の前の相手に集中しろ!
「やぁ、一護。久しぶりだね!」
汗腺が一気に開いたように鳥肌が体中を駆け巡る。
その声で俺の名を呼ばないでくれ。
「まだ虚化は出来てない、かな? いやぁ、たつきちゃんとか織姫ちゃんが予想外の力を持っててビビってたんだけど、そこは思ったとおりで良かったわぁ」
そんな喋り方じゃなかっただろ?
そんな霊圧じゃなかっただろ?
そんな顔して笑わなかっただろ?
そんな服着てなかっただろ?
そんな髪色じゃなかっただろ?
そんな、そんな……!!
「がっ!?」
「なんだぁ、こいつ? 一気に弱くなったぞ?」
頭が揺さぶられる。
殴られ地に叩きつけられたのだと、少し経ってから分かった。
「まぁ、織姫ちゃんが予想以上に強くなってたからねぇ。ヤミーの右腕飛んでったし。あれはオレも目ン玉が飛び出るかと思った。……その分、一護が帳尻合わせしてんのかな? これぞ師匠の導きですなぁ」
「あ、あれは油断しただけで!?」
「言い訳するな。その腕を誰が治すと思っている」
「グッ!?」
なんだ、これ?
何なんだよ。
ナンナンダヨ
瞬間、俺の中に眠っていたはずのアイツが目を覚ましそうになる。
やめろ。
やめてくれ。
これ以上、那由姉を汚さないでくれ!!
「どぉーもー、遅くなっちゃってスミマセン、黒崎サン♪」
何かを言いながら俺を叩き潰そうとした一撃が紅の盾によって防がれる。
そして、目の前には二人の人物が立っていた。
「今の黒崎サンは情緒不安定のナメクジメンタルですからね。ここは大人しくしといて下さい」
「そうじゃな、とりあえずそこらに転がっておれ」
散々な言われようであるが、意識が逸れたおかげか大分落ち着いた。
「浦原さんと夜一さんも登場っと。良かった、変な方向行かなくて」
「……いやぁ、お久しぶりですねぇ」
「オレとは初対面みたいなもんだけどねー」
「"オレ"、ですか……。貴方が那由他さんの中に眠っていた虚ですか?」
「そそ。那由他にフルボッコにされた可愛そうな奴がオレです」
「では、そんな可愛そうな虚が、なんで今頃になって那由他さんの体を使ってるんっスか?」
「そらおめ、那由他が強制シャットダウンされてっからよ」
「つまり、意識を眠らされてると……。逆に言えば、那由他さんは
「……天才にちょっと情報与えるとこれだよ」
俺はガバッと勢いよく上半身を起こす。
まだ、那由姉は消えて、ない?
「その通りでござんすよ、ホレ」
そう言っておもむろに、
「なっ!?」
そこには、
藍色の瞳、無表情に見える澄んだ表情。仄かに漂う死神の霊圧。
まさしく那由姉だった。
「今の俺は半分を借り受けてる感じかな。まぁ、体の支配権は
「顔半分でだけそんな笑みを浮かべられるというのもホラーというか、器用というか……キショイッスね!」
「それ言わんといて、若干気にしてんだから」
まるで旧知の仲であるかのように会話する二人。
俺には、浦原さんの気持ちが理解出来なかった。
目の前に那由姉がいるんだぞ?
どうして笑って話してられるんだ?
「では、その面は破面であると同時に那由他さんを封じ込める楔でもあるって訳ッスね」
「あんまり考察せんでもろて、ネタバレみたいになるのん」
「面を壊したら那由他さんの自我と
「……やだ、なんかホストに貢いでる気分になっちゃう」
すげぇ、浦原さん。
たった数回の会話で那由姉を救える道筋を暴きやがった!
「お主はじっとしておれ」
「な、夜一さん!? ここでジッとなんてしてられるかよ!?」
「そのセリフは能力を一人前に使いこなせるようになってから言うんじゃな」
俺の焦燥を一刀両断する言葉に思わず詰まる。
この胸に渦巻く衝動を、俺を飲み込みそうな闇を使いこなせなきゃ、俺には那由姉を助ける資格すらないって事かよ!?
「じゃ、帰るとしますかー」
「おや、帰すとお思いで?」
「うん? やだなぁ、何か勘違いしてない?」
呑気に喋るナニカは、ニタァと片方の口端のみを吊り上げるように笑うと、
「君等は、ここでオレを倒しちゃ駄目なんだよ、それがこの世界の決まりなんだ」
ゾクリと背筋を這う悪寒に、この場にいる皆が動けなくなる。
「まさか、虚が"目"を使えるなんて、最悪の展開ッスねぇ……」
浦原さんも夜一さんもピリピリとした霊圧を放つ。
巨漢と色白の男もナニカの横へと移動し、静かに霊圧を放っている。
緊迫した雰囲気の中、楽しそうにしているアイツだけが浮いていた。
「あん?」
と、アイツが虚空を見上げる。
「このタイミングで来るとか……。色々と変わってるなぁ。これも"俺"の影響かね」
すると、懐かしい霊圧を直ぐ側で感じた。
これは、この霊圧は……!!
「ギリギリ間に合ったみたいだな!」
──六番隊副隊長・阿散井恋次。
「十二番隊に感謝しなきゃならないのか、嫌だねぇ」
──十一番隊第五席・綾瀬川弓親。
「あたしは別に良いわよ、こんな軽い頭ならいくらでも下げてやるわ」
──十番隊副隊長・松本乱菊。
「ぶっ倒して連れ帰る! 後のことは後で考えろ!」
──十一番隊第三席・斑目一角。
「これ以上、藍染の野郎の好きにはさせねぇ!」
──十番隊隊長・日番谷冬獅郎。
ナ「俺の出番がオレに奪われている件について…」
オレ「天輪とイチャイチャしてな!」
ナ「それはそれでアリ」
オレ「おい」
※挿絵はゆーぼ様から頂いた支援絵です。
本当にありがとうございます!