ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

4 / 51
たくさんの評価、お気に入り、感想、本当にありがてぇです!
ありがとう、そして、ありがとう!

もっとくれてもええんよ……?(小声)
特に感想。


市丸…だと…!?

 「一緒に愉悦しましょっ!」って言ったらヨン様が今後の計画をあっさりゲロった。

 

 そんな簡単に俺の事信じるの? 

 結構意外。

 いや、別に裏切るつもりとかないけど。

 

 これはあれか、俺の裏切り程度では揺るがない計画が既に動き始めているって事だろう。

 

 崩玉がもう出来てるんだから、これからは流魂街の人々をダイソンしていくのでしょうか。

 まさに鬼畜の所業。

 俺も一枚どころか何枚もカミカミする事になる訳ですが。

 

 

 

 本当に良かったのかなぁ……。

 

 

 

 今更ながらに不安になってきた。

 

 漫画を読んでいた時は「これぞ悪役!」とかキャッキャして喜んでいたけど、いざ本当に悪役側になると良心ががが。

 

 

 なんてビビりまくっていた俺だが、その日の内に東仙さんを紹介された。

 相変わらずのドレッドヘアー。カッコイイです。

 

 

「今後、那由他には要の補佐をしてもらうよ」

「那由他様、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 何故敬語? 

 

 

「藍染様の妹君です。敬意を払うのは当然かと」

 

 やめて。(切実)

 

 

 やめてくれませんでしたぁ……。

 

 

 死神としては要っちの方が先輩なんだから。俺は貴方みたいにお兄様に忠誠を誓った訳でもないから。

 

 

 

 ただ、なんかヨン様が話をしに来た時の違和感を見たら、なんて言うか

 

 

──寂しそうだなって。

 

 

 最終決戦で藍染と戦った一護の言葉もあながち間違ってなかったって事だろうか。

 

 俺とO☆HA☆NA☆SIした後のヨン様とかウッキウキしてるもん。

 妹なめんな、見りゃ分かる。

 

 いつもと変わらぬ微笑だが、なんとなく雰囲気が明るいのだ。黒い方に。

 黒いのに明るいとは、これ如何に。

 

 

 で、何の手伝いかって言えば、やはり流魂街ダイソン計画だった。

 

 

 これどうすっぺ。

 

 原作通りならここで乱菊の魂削って市丸参入フラグが立つ訳だけど。

 

 やっぱヨン様陣営には狐野郎が不可欠だよね。

 SS編の藍染暗殺(笑)事件も彼の舞台だし。

 

 乱菊さんには犠牲になってもらうか。

 

 良心どこいった。

 

 別に死ぬわけでもないし、これは許容範囲内でしょう。メイビー。

 

 

 

 

 

 という訳で、やってきました流魂街。

 

 まずは治安の悪いところから適当にダイソン。

 本当に衣服だけ残して消滅しちまったよ……。

 

 要っちは顔色一つ変えていない。

 俺も変えてない。

 

 無表情先生は今日は元気です。

 

「那由他様は……いえ、なんでもありません」

 

 要っちの俺を見る目が少し変わった。

 なんか絆が生まれた気がする。

 

 別に無感動って訳じゃないので。別に人消しといて何も感じない訳じゃないので。

 

 そんな畏怖しているような雰囲気やめて。ほんと。

 

「次へ行きましょう」

「はっ」

 

 だからやめてよぉ……。

 

 

 

 

 そんな日々をしばらく過ごしていたら、いつの間にか市丸が真央霊術院に入学してた。

 

 

 えっ!? 

 

 

 俺いつ乱菊ソウルを吸い取ったん? 

 マジで気が付かなかったんじゃが。

 

 流魂街に行った時、一回だけ市丸くんには会った事があるけれど、その時はまだ乱菊さん拾ってないって言ってたし……。

 

 あの時は普通に俺の事を怖がってたっぽいから「関係ないとこで会っちゃったかー、変に原作と変わらなきゃ良いなぁ」なんて呑気に考えていたのだが。

 

 まあ、どうせ乱菊ソウルは回収予定だったし、市丸も無事にヨン様劇場の一員となったのだ。

 それで良しとしよう。

 

「市丸ギン言います、よろしゅう頼みます」

 

 ニコニコ、いや、ニヤニヤ? した顔で挨拶された時は何故かヒェッてなった。

 

 ごめん、君のハニーをこれ以上傷つける気はないから。俺は。

 

 

 何十年も霊圧コントロールに命かけてたから一応席官に入っていた俺を、市丸くんは一年ちょいで抜いて五番隊三席になった。

 

 知ってたけどさぁ……。

 これだから天才は……。

 

 

 ちなみに、俺は五番隊の八席です。

 

 

 霊圧を抑えた状態で斬拳走鬼を磨きに磨きまくったら、かなり高いレベルで扱えるようになったためである。

 基本の霊圧は平状態なのだが。

 

 だって始解くらいはしたいじゃん? 

 

 席官にはなれたのに、まだ出来ないんだよ……。

 影で馬鹿にされているかもしれない。

 

 それにヨン様と戦うにせよ、護廷十三隊と戦うにせよ、基礎練度を上げておくに越した事はなかったし。

 結構な時間をかけてわふーしていた。

 

 瞬歩は夜一さんに習ったし、回道は卯ノ花隊長、斬術は銀嶺隊長、鬼道はハッチさんに習えた。

 オールスターかよ。

 

 時々ヨン様も稽古をつけてくれた。

 

 なんか視線に含みがあって怖かった。

 

 そのおかげかそこら辺の死神や虚の霊圧で威圧されてもそよ風だし、鬼道も中位までなら詠唱破棄は余裕。

 ただし、上位の鬼道は試させてすらもらえない。せやろな。

 

 強いのか弱いのかよく分からん。

 いや、弱くはないだろうけど。

 

 大虚以上が相手だと千日手になる感じ。

 お互いに決定力がなくなる。

 

 生存能力だけはピカイチです。

 

 そのため、俺は討伐部隊を率いる役職に放り込まれた。

 あと、死ぬほど書類仕事を振られる。

 

 霊圧を解放さえしなけりゃ普通の体ですからね。

 体力は結構ある方なんです。

 

 

 この俺の在り方は、なんというか平隊士たちの目標となっているらしい。

 

 

 霊圧を死神の強さと同義とみなす文化なのだが、俺がそれを抜きにしても高い技術と練度を身に着けたためだ。

 

 始めは調子乗ってるとか言われて虐められないかヒヤヒヤしていたが、どうやら杞憂に終わったらしい。

 流石はあの藍染副隊長の妹だ、なんて言われている。

 

 知らん内に人気者になっていた。

 

 

 アハハハハ! いや~困ったなぁ! (ドヤァ)

 

 

 時々鋭い目を飛ばしてくる我らがハゲ隊長は目が笑ってないけれど。

 あと、市丸くんも時々笑ってない。

 

 

 他に変わった事と言えば、十年くらい前に鳳橋さんが三番隊隊長に就任。

 最近では曳舟さんは零番隊へ栄転。海燕さんは副隊長へ。

 

 

 つまり、浦原さんが十二番隊隊長になった。

 

 

 マジで魂魄消失事件の秒読み開始時期にきている。

 

 

 まあ、そんな感じだ。

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 ボクは死神になった。

 

 全ては乱菊が泣かんで暮らせる世界にするって話なんやけど、その壁いうか、立ちはだかる人達がえらい人たちやった。

 

 

 ──東仙要。

 

 

 なんや詳しい話は聞かせてくれへんかったんけど、どうも貴族のゴタゴタに巻き込まれたらしい。

 藍染副隊長を主ゆうんは少しおもろかった。

 

 あの人が目指す世界、なんてボクは大して興味あらへん。

 

 そら皆が平和に暮らせるんやったら良い事なんやろな。

 

 

──ただ、その犠牲の中に乱菊が入ってるんやったら話は別や。

 

 

 あの日、ボクは乱菊を見つけた。

 

 最近、人が消えるゆう噂を聞いとったけど、別に自分と関係あらへんと思っとった。

 

 それが変わったのが、あの日やった。

 

 なんとなく拾って、何となく一緒に過ごした日々。

 

 始めは何でこないな事してんのやろ、って不思議に思っとった。

 それでも、乱菊はボクの隣にいてくれた。

 

 横に人がいるって、なんや随分と安心するもんなんやな。

 知らん内に寂しかったんやろか。

 ボクにはよう分からへん。

 

 ただ、暖かかったんや。

 

 自分で体温を調節する事もできへんボクには、

 

 

 ──乱菊が横におったんは、えらい心地よかったんや。

 

 

 そんな彼女の笑顔だけを、ボクは見たかったんやと思う。

 

 人が消える噂を少し調べてみよう、なんて柄にもない事を考えてもうた。

 

 

 

 せやから、あの出会いは必然だったんとちゃうかな。

 

 

 

「……市丸ギン」

 

 

 そん時はごっつ驚いた。

 何でボクなんかの名前を知ってんや。

 

 長い綺麗な茶髪を頭の横に結わえた女の人。

 えらい綺麗やなぁって感心したわ。

 

 ただ、その藍色の大きな瞳には少し意外そうな色が隠れとった。

 

 これまで一人で生きてきたんや。

 ある程度の腹なら読める自信ちゅうもんはあった。

 

 それでも、この人の目が真っ直ぐにボクを射抜いた時には、心臓が止まるんちゃうかと思った。

 

 綺麗やった。

 

 全てを見透かすような、果て無き夜空を詰め込んだような色。

 乱菊は豪華な花みたいやけど、この人は月みたいな静かな美しさがあった。

 

 ボクは固まったように相手を見つめてもうて、一瞬だけ周囲を見渡したその人にも反応できひんかった。

 

 せやけど、次の一言は無視できんかった。

 

 

 

「少女を、拾いましたか?」

 

 

 

 止まっていた心臓が跳ねる。

 

 ボクの事を知ってるんなら、もしかしたら乱菊の事も知ってるかもしれへん。

 

 直感やった。

 

 

 ──きっとこの人が、人が消える事件の犯人や。

 

 

 そないな相手に馬鹿正直に乱菊の事を話す訳あらへん。

 

 相手は死神。

 少し怖がった様を演じつつ、ボクは無言で首だけを横に振る。

 

 

「そうですか」

 

 

 女の表情は変わらへん。

 どうでも良い事だと言わんばかりや。

 

 

 ──どうでも良い? 

 

 

 その瞬間、ボクの頭は今まで経験した事がないような怒りを覚えた。

 

 乱菊はボクが見つけた時は倒れてはった。

 

 つまり、この女は人をなんとも思っとらへんゆう事や。

 

 別にボクかて人に威張れる善良な心を持ってる訳やあらへん。

 

 ただ、この女に乱菊は汚されたんやって、

 

 

 

 それさえ分かれば十分やった。

 

 

 

 

 その後、ボクは真央霊術院に入った。

 普通に入ったんやけど、ボクはえらい優秀やったらしい。

 

 あないな事をしていた女はガキやったボクからしても、そないに“強い”とは思えへんかった。

 

 

 せやけど、入学して情報を集める内に、あん女がとんでもない化け物やって事を知った。

 

 

 

名前は──『藍染那由他』

 

 

 

 今は八席ゆう、まあそれなりの地位におるらしい。

 そんな中で一番際立っていたのが彼女に対する周囲の評価やった。

 

 曰く、高い霊圧を持ちつつも基礎を疎かにせず、様々な業務・任務を要領よくこなす。

 曰く、女性死神協会や他隊舎にて師事を乞う向上心を常に持っている。

 曰く、怖い顔をしておきながら頼まれ事は断わらないお人よし。

 曰く、部下を始めとした周囲の人間に位関係なく平等に接する器の大きい人物。

 

 

 ──恐ろしいと思ったわ。

 

 

 そん人、沢山の人消してんのやで。

 誰も気づいてあらへんのか。

 

 そして、あん女は実力に反して魂魄が弱いらしい。

 

 もしかして、自分の魂魄を強うしたいから他の人の魂魄を奪っとんのやろか。

 せやったら人の評判は滑稽やな。

 

 真逆やん。

 

 ボクはあん女に負けへんように強うならんとあかん。

 

 その結果が『神童』や。

 なんや簡単に手に入った称号やけど、別に大した価値もあらへん。

 

 

 

 入学後しばらくした時、藍染惣右介ゆう副隊長さんがボクに会いにきはった。

 

 どうやらボクを五番隊に迎えたいらしい。

 

 名前を聞いてピンときた。

 こん人は、あの女の関係者や。

 

 

「君はどういった死神になりたい?」

 

 

 藍染副隊長がボクに聞いた言葉や。

 

 決まっとる。

 

 

 

「ボクらを支配しようとしはる奴に負けたないですね」

 

 

 

 あん女の掌でボクが躍らされるんは良い。

 

 でも、乱菊だけはあかん。

 

 

 そんな支配は、許さへん。

 

 

「ふふっ……そうかい」

 

 そん時の藍染副隊長の顔は、一言で言えばえらい悪い顔やった。

 

 あん女の時が止まった凪みたいな静かな瞳より、よっぽど人間らしゅう思った。

 

 

 

 そっから、ボクは藍染副隊長の手駒んなった。

 

 どうやらあの事件は藍染副隊長の指示でやっとったらしい。

 なら、ボクの復讐の矛先は藍染副隊長になるべきや。

 

 そう考えなおそう思った時に、彼はポツリと言ったんや。

 

 

 

「これは、那由他と私の辿る頂の裾野にすぎない」

 

 

 

 ああ、あかんわ。

 復讐の対象が二人に増えただけやん。

 

 藍染八席もそうやけど、藍染副隊長も化け物やった。

 この人ら兄妹らしいし。

 

 何でボクなんかの名前を予め知ってたんか。

 乱菊を拾った事を確認してきたんは何や意味があるからか。

 

 もしかしたら、ボクがこうして虎視眈々と獲物を狙っているのもバレてるのかもしれへん。

 

 藍染八席の考えを読み解く事だけでも大変やのに、あん女が優男になったような人までおる。

 

 ほんま、そないなとこまで似ないでもええんとちゃうかな。

 笑えんわ。

 

 より慎重に。

 より綿密に。

 より狡猾に。

 より強かに。

 

 ボクはいずれ訪れる瞬間をただただジッと待ち続ける事に決めた。

 

 今は藍染副隊長の忠実な部下を演じさせてもらいますわ。

 

 

 

 こないな事せんでも良い方法は、多分あるんやろな。

 

 せやけど、ボクはそないに頭が良うないんや。

 他の人はボクの事を「神童」なんて呼ばはるけど、そないなもんあの二人を見とれば分かる。

 

 何の意味もない称賛や。

 

 あの人らの力は底が知れへん。

 東仙五席にも見せとらん。

 

 いや、力だけやのうて考えそのものが読めへん。

 あの人らがそこまでこだわる『力』ゆうもんがフワッとしすぎなんや。

 

 せやかて、並みの実力者やないって事は分かる。

 

 なら、ボクは機会を伺うまで。

 

 

ボクは蛇や。

 

 肌は冷たい。心は無い。

 

舌先で獲物探して這い回って

 

気に入ったやつを丸呑みにする。

 

そういう生き物や。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも決めたんや。

 

 ボク、死神になる。

 

 死神になって変えたる。

 

 乱菊が

 

泣かんでも済むようにしたる。

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 

 最近、凄い市丸くんに絡まれる。

 

 別に煽られてるとか、そういう雰囲気じゃないんだけど。

 なんかこちらに探りを入れられている感じ。

 

 

 そっか、君はヨン様に復讐したいんだもんね。

 

 

 なら妹である俺から情報を得られないかと考えても不思議ではない。

 

 まだ原作に比べて子供っぽいからか、なんとなく可愛がってしまう。

 オサレに煙に巻く、なんて出来ないが、

 

 

「なんで始解を隠してはるんです? ほんまは出来はるんでしょ?」

「力不足ですから」

 

 対話はできてるんだけど名前を教えてもらえないんです。

 

「藍染副隊長のご兄妹やなんて、兄妹揃ってえらい凄いお家なんですね」

「家はあまり関係ないのでは?」

 

 俺は魂魄がポンコツですしおすし。

 

「藍染八席~。少し稽古に付き合ってくれはりませんかぁ?」

「私などでは力不足でしょう」

 

 お前三席やろ。俺八席。

 ヨン様にでもお願いしろよぉ。マジで。

 

 

 とか、こんな風に俺の周りをちょろちょろしている。

 

 まあ、お兄様よりも御しやすそうというのは分かるが。

 

 周囲には一足飛びに三席になった市丸くんが俺に懐いているように見えるらしい。俺と市丸を微笑ましげな視線で見つめてくる。

 別に俺はこの子のお姉さんでも、ましてやお母さんでもないんじゃが……。

 

 とか思っていたらやってきた。

 

 

 

 

 

「さて、諸君。まずはお疲れ様、とでも言っておこうか」

 

 とある晩。

 お兄様に呼び出されて秘密のサバトを行う。

 

 ここには要っち、市丸くん、そして俺と劇団員がフル出場であった。

 

「これまでは流魂街にいた人々を使って実験を行ってきたが、必要なデータは既に揃った」

 

 てことは? 

 アレですか? 

 

 

「次は死神を対象とした実験を始めようか」

 

 

 魂魄消失事件待ったなし。

 

 

 

 

 まずは平隊員からという事で、よく虚討伐に出る俺にお鉢が回ってきた。

 

 や、生存能力だけが取り柄なんだから、俺の隊から消失者でたら疑われるのでは……? 

 

 

「那由他はいつも通りで構わないよ」

 

 

 あ、察し。

 

 やっぱり俺は隠れ蓑に使われるんですね、知ってた。

 

 じゃあ、なんでわざわざ俺に任せるみたいな言い方したんですかね? 

 

 

「何時も助かっているよ、那由他」

 

 

 何でぇ……? 

 僕何もしてましぇ~ん。

 

 ほんとよ、ほんとなのよ? 

 

 確かに流魂街の時は俺が崩玉(仮)を持ってうろついてたりしたけれど。

 

 そこまでヨン様のお役に立ててないのでは? (使命感)

 

 ハッ!? 

 

 これは……洗脳されている!? 

 

 

 鏡花水月だから仕方ないよね。(諦めの境地)

 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 那由他は私が何か言わずとも己の役割を理解していた。

 

 

『藍染様の仰っていた意味が分かりました。那由他様は──成すべき事を成せる方です』

 

 

 要は言っていた。

 

 彼女が流魂街の人々に向ける霊圧は()()()()()()と。

 

 つまり、憐れんでいたのだ。

 快楽という刹那的なものではない。

 

 反して、彼女の行動には無駄がなかった。

 

 それだけで、彼女の一見すれば能面のような顔が思い浮かぶ。

 

 

 必要だからやる。

 

 

 その強き意思を、要は十分すぎるほどに彼女の霊圧から読み取っていた。

 

 浦原喜助のように弱者の表面を見ている訳ではない。

 資料で見たかつての山本元柳斎重國を彷彿とさせる苛烈さを、その静かな水面の底に落としていた。

 

 

『私は世界への絶望を経験しました。ですから、少ない犠牲の上で多くの人々を導ける。そう割り切っています。しかし……』

 

 

 

 ──那由他様は、もっと大きなものを見据えていらっしゃる。

 

この世の理不尽を、経験せずとも理解しています──

 

 

 

『藍染様と共に在る。その言葉に偽りはないでしょう』

 

 

 那由他を疑っていたわけではない。

 ただ、他者から見てもそう感じさせるだけのモノを彼女は持っていたのだ。

 私の口角は自然と上がる。

 

 

『藍染副隊長も大概ですけど、あんお人もまあどえらい人ですわ』

 

 

 ギンは言う。

 

 

『裏であないな事をぎょうさんしてはる癖に、日ごろは聖人かて思いますもん』

 

 

 弱者に寄り添い、自らを高め、周囲の羨望を集める。

 

 私も行っている事だが、那由他は自らの霊圧を隠してはいない。

 そして、魂魄の脆弱さという本来ならば弱点となる部分で憐憫を誘う事に成功している。

 

 私のような信頼を勝ち取る行動ではなく、周囲に『手を貸したい』と思わせる行動を常にとっていた。

 

 一種のカリスマである。

 私とは違った角度でのアプローチ。

 これで護廷十三隊におけるほぼ全ての人々の誘導が可能になった。

 

 五番隊隊長である平子真子は疑惑を持っているようだが、那由他に対しては疑念よりも親切心の方が強いのだろう。

 

 より扱いやすくなったと言える。

 

 

 これを鏡花水月を使っていない那由他が行っているのだから恐ろしい。

 

 

 この私に感嘆の思いを抱かせるのは流石と言うべきだろうか。

 

 私の願いをすぐさま看破し、そのために最適な行動をとる。

 更に言えば、その行動は昔からの延長線上でしかないのだ。

 

 幼い頃に私の本質を見極めた那由他は、こうなる事が分かっていたのだろう。

 

 だからこそ、あの日の私の遠回しな問いに対しても必要最低限の答えでもって答えた。

 

 

 私の望んでいた言葉をもって。

 

 

 あの子は未だ始解すらしていないのにだ。

 

 恐らく、彼女の斬魄刀がこれ以上霊圧を上げ魂魄に負荷がかかる事を危惧しているのだろう。

 これは今後の研究によって解消されるはずである。

 

 むしろ、虚の力を手に入れた際に、どのように進化するのか非常に興味深い。

 

 

 ──やはりあの子は素晴らしい。

 

 

 ギンの話を持ち掛けてきた時もそうだ。

 

 

『私の周りをうろちょろしていますが、よろしいですか?』

 

 

 私も分かっていた。

 彼が本心から私に恭順している訳ではないという事を。

 

 色々と嗅ぎまわられている事を察したのだろう。

 

 優秀な子だ。

 

 質問という形を取ってはいても「よろしい()ですか」ではなく「よろしいですか」。

 つまり、那由他は私の思考を読んでいた。

 

 

『適当に遊んでおきます』

 

 

 言葉を返さず微笑みを返すだけでこの答えだ。

 彼を懐柔できないだろう事も察していたのだろう。

 その上でこちらから切り捨てる気がない事も。

 

 支配を許さぬと言った彼がどこまで高みについてこられるか。壁と成りうるか否か。

 彼女は“遊び”の中で判断すると言った。

 

 面倒臭そうな雰囲気を出す彼女の頭を少し撫でてあげれば憮然とした顔を返される。

 

 

『お兄様。慢心、環境の違いです』

 

 

 そうだ。

 

 私は神へと至るのだ。

 

 如何に周囲が有象無象ばかりとは言え、注意を要する人物は幾人か存在している。

 

 このようなところで躓く訳にはいかない。

 

 

 恐らく並みの死神では崩玉の力に耐えられないだろう。

 つまり、実験には隊長格ほどの力を持つ者が必要だ。

 

 始めは適当な奴に原因を被ってもらおうと思っていたが……。

 

 

 

 

 

 この際だ。

 

 那由他の助言に従い排除できる者は排除しておこう。

 

 三番隊隊長の鳳橋楼十郎。

 五番隊隊長の平子真子。

 七番隊隊長の愛川羅武

 九番隊隊長の六車拳西。

 

 この辺りは扱いやすそうだ。

 

 古参の隊長格は厄介だが……八番隊の副隊長くらいなら誘導も出来る。

 京楽と浮竹は時灘の事件で関わりを持っていた。

 彼に黒幕を肩代わりしてもらおう。

 

 いや、待て。

 

 

 

 ──崩玉の危険性を訴えていた浦原喜助を黒幕に仕立て上げる。

 

 

 

 これは面白い事になりそうだ。

 

 奴を完全に排除する事は出来ないだろうが、現世に追放する事で動きを阻害する事は出来る。

 

 

 浦原喜助の能力は本物だ。

 

 現世に行っても何かしらの手段を講じるだろう。

 崩玉を持っていき、何かしらの封印を施す。そのあたりだろうか。

 

 ではどこに。

 

 あれは破壊できぬ代物。

 己の監視下におけない場所へ封印するとも思えない。

 現世への追放ならば、重霊地に居を構えるはずだ。

 

 ……義骸を使うか。

 

 ならば、都合の良い死神を確保したいと考える。

 

 

 

 

 こちらが用意してやれば良い。

 

 

 

 それだけで行動の幅は限られてくる。

 

 現世駐在隊士には今後()()()をしておこう。

 

 

 思考が加速する。

 

 現在の実験成果を見る限り、後100年は動く事が出来ない。

 

 それまでに死神以外の手駒も欲しいところだ。

 崩玉との同化までには時間がかかる。

 私が完全な物を作れれば良いが、少なくとも今はまだ可能ではない。

 時間稼ぎが必要だ。

 

 どうせ切り捨てる事になるだろうが──那由他の人望を持ってすれば虚すら手懐けられるかもしれない。

 

 

 まずは那由他の虚化。

 

 

 これで魂魄強度は理論上問題ない。

 より上がるだろう霊圧全てを十全に使えるかはまだ分からないが、少なくとも今よりかは力を振るえるはずだ。

 

 那由他の目が脳裏に浮かぶ。

 

 あの子はどこまでも私を高みへ連れていってくれるらしい。

 

 単に実験を繰り返すだけでなく、今後の事を見据える切っ掛けを与えてくれた。

 些細な言葉一つで、である。

 

 

 私は天に座してみせる。

 

 

 待っていてくれ、那由他。

 

 

 

 

 

 

 

 ──『私と共に在る』と言った妹よ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。